ジゲンの太刀に後退無し 作:他意は無い
クラス対抗戦。年度において最初の大規模なイベント。クラス対抗と書いてあるが、その命運は代表へと預けられるのだ。
優勝者のクラスには、テザートフリーパスが進呈される。
「甘味、ねぇ…………」
姿を変える雲を見ながら、暮人は屋上にて、のんびりとした時間を過ごしていた。
もっとも、今は授業中だ。そんな時間をとるのは間違いであるのだが。
だが、今の彼の頭を占拠するのは甘味の大津波であった。
正直なところ、フリーパスは魅力的だ。食事制限など存在しない彼を縛るのは唯一、金銭面のみだからだ。
その金銭にしたって、学生のお小遣いとして見れば、並みの金額ではない。
これは、彼の家に関することだ。裏家業では首になることが多くとも、彼等を用心棒として雇いたがる者達は多かった。
当然、そんな相手に雇われる際の金額はゼロが最低でも6つは付いているというのがデフォルト。
そして、彼らは依頼完遂後の金に殆んど手をつけない。
まず単純に必要ない。半年以上山に籠ることなどざらにある彼等は、サバイバルで生き残る術を物心つく頃には十全に叩き込まれるからだ。むしろ、叩き込んでいないと、死ぬ。
その貯まった金がぶっちゃけ百年単位のモノなのだ。更に、家を出た者が稼ぎの一部を送り付けるために、貯まる一方。
因みに後者は、勝手に相手がやってくることであり、本家が強要しているわけではない。むしろ、使い道の無い紙束が無造作に部屋に転がっている程だ。
とまあ、この通り金には困っていない。しかし、タダという言葉には魔力が秘められている。
ぶっちゃけ、暮人が出られればそれが早いのかもしれないが、生憎と既にISは返納しており、尚且つもう乗る気もない。
そうなると、代表である一夏を強化するのが最善策であるかもしれない。
だが、正直なところ暮人は指導に向いていないなのだ。
原因は彼の実家の指導方針をそのまま当て嵌めるから。体が出来ていない人間がやると間違いなく再起不能。二度と剣を振れないどころか廃人になる。
小中生活によって、彼は常識のある狂人となったのだ。そんなことすればどうなるか理解している。
戦闘狂では(一応)ないのだ。
無論、血を見せる必要に駈られれば問答無用で流血沙汰を起こすが、それはそれ、仕方がない。
彼は理性ある狂人。理解した上で、あらゆる常識を投げ捨てて結果を出すのだ。
「とりあえず、イチゴパフェは外せない」
うんうんと何度か頷き、ベリーとマスカルポーネクリームのハーモニーを思い浮かべてペロリと舌舐めずり。
因みに、ファミレスのパフェ程度ならば、家でも作ることが可能だ。あれはグラスに材料を重ねているだけであるため。小型のディッシャーがあると尚良し。
ならば自分で作れば良いとも思えるが、生憎と島津暮人には、それが出来ない。
正確に言うと、彼は家事全般が出来ないのだ。
サバイバル技術も、あくまでも生き残る事が目的であって、生活を豊かにする為のモノではない。
そして、基本的に家では生野菜囓っているような連中が彼等なのだ。
最低限肉や卵などは焼けるが、味付けは素材の味、若しくは塩。
小学校に入学するまで、暮人はマトモな料理を食べたことがなかった。
そして、屋敷はゴミ屋敷―――――ではない。そもそもそこまでの物が無いのだ。
洗濯に関しては、胴着を川で洗うぐらいか。
現代というより、最早人間社会で生きていくことすら難しい。
だからこそ、彼等は剣の時間を削って小中へと入学させる。
常識と一般教養は必要だからだ。
まあ、今の彼を見ればそんなものが本当に身に付いているのか不思議に思えることだろうが、気にしちゃいけない。
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剣を振るい、甘味を食べて、授業をサボり、剣を振るう。
そんなローテーションが組まれた暮人の日程。
今日も今日とて、彼はサボり続けていた。
だが、どうやら今回は毛色が違うらしい。
「……………んあ?」
惰眠を貪っていると、滅多に鳴る事の無い端末が着信を告げたのだ。これは、入学後に教師陣に持たされもの。番号は、千冬と真耶、更に楯無とどこぞの天災のみが入っている。因みに最後は、邂逅後にいつの間にか入っていた。
「………………誰だ?」
『暮人君、今どこに居るかしら?』
「どこって………屋上」
『直ぐに、アリーナに来てちょうだい』
「…………………………………………何でだ?」
『今日は、クラス対抗戦よ。襲撃が起きて生徒が閉じ込められてるの。このままだと怪我人が出るわ』
「…………つまり、俺は閉じ込めてるシャッターとかを斬れば良いんだな?」
『話が早くて助かるわ。直ぐにお願い』
「へーい」
通信が切れてボケーッと空を見上げていた暮人は身を起こすとアクビをしながらアリーナのある方向へと足を進める。
そちらは、柵がありその向こう側は、何もない。
「よっと」
暮人は、割りとアッサリと柵を飛び越えるとそのまま何もない空間へと飛び出した。
当然ながら、人間の体で飛ぶことは出来ない。空気抵抗等で落下速度は少し落ちるが些事だ。
彼は、その状態から校舎の出っ張りなどに手足を引っ掛けながら速度を落とし、着地した。
校舎の高さは、20メートルと少しといった所だろうか。
ぶっちゃけ、千尋の谷擬きのような場所もある為にこの程度は問題ない。
そのままのんびりと、周囲の危機など関係がないかのようなマイペース。
「……………あ、刀ねぇじゃん」
アリーナが見えてきた所で、彼はそんな間抜けなことに気付く。
流石に、アサルトライフルの斉射すらも跳ね返すような鉄板を素手でぶち抜ける保証は彼にもない。
あくまでも、暮人は剣士だ。格闘家ではない。タイ捨流等を修めているならば蹴りなども強力なのだが、今は無いものねだりをしても仕方がない。
棒切れでも何でも良いのだ。辺りをキョロキョロと見回す。
「お探しの物は、これですか?」
「なんだ、見てるだけかと思ってたんだが」
「私はこれを君に渡すように言われただけですよ」
現れたのは、壮年の用務員。その手には、似合わない一振りの刀があった。
黒い鞘に収められた三尺刀。
「……………不法侵入?」
「ここは、日本であって日本じゃありませんからねぇ」
「………………まあ、いいや」
用務員から刀を受け取った暮人は、一息に抜き放つ。鞘は捨てた。
「扉の向こうに人は?」
「退避するように楯無君へ伝えていますよ」
「りょーかい」
一つ、息をついて刀を担ぎ上げる。その瞬間に、暮人のスイッチは切り替わった。
膨大な量の殺気が全身から溢れかえり、目の光が消える。
「ふぅ…………………オォォォォォッッッ!!!」
気合い、一閃。分厚い金属扉に食い込んだ刃は一瞬も止まることなく斜めに大きく断ち切られていた。
「セァアアアアアアアッッッ!!!」
更に返す刀で再び掲げると今度は逆袈裟に扉が切り裂かれた。
シェルター並みの扉は、それで終わりだ。ここから更に切り分けられて完全に取り払われる。
「一丁上がりだ。次」
暮人の歩みは、遅かった。アリーナ内部では、悲鳴が響き渡っているというのに、彼は何も感じていないかのようだ。
彼の認識では、ISは宇宙服だ。しかし、装備された兵装の破壊力は理解しているつもり。
車と同じだ。使い方次第で人を簡単に殺すことができる。
騒ぐなとは言わない。だが、泣きわめくのは違うだろう。
高校生であるから、とか。子供である、とか。関係無い。
暮人からすれば、認識が甘いとしか言い様がない。
故に、暮人は急がない。
周囲からの非難も、中傷も意味をなさない。
弱い理由を他人に押し付ける有象無象など羽虫の羽音にすぎないからであった。