ジゲンの太刀に後退無し   作:他意は無い

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拾五

「死者は、ゼロ。負傷者として一夏君や何人かが出ちゃったけど、及第点かしらね」

「で?何で俺は呼ばれたんだ?」

「ちょっとした、愚痴を言いたくなったのよ」

「…………………まあ、甘味が食べられるなら良いさ」

 

 クラス対抗戦襲撃事件の翌日。

 生徒会室には、暮人と楯無の姿があった。

 

「もう少し、早く助けられなかったの?」

「あ?何が?」

「アリーナの件よ。貴方ならもっと早く、全ての扉を壊せたでしょ?」

「そら、な」

「だったら、どうして歩いて壊したの?早ければ被害も――――――」

「?何でそんなことしなきゃならない。俺は、ただ扉を壊してくれとしか言われてねぇよ」

 

 ブスり、とショートケーキにフォークを突き立て切り分けた暮人は、切り取った分を口に運ぶ。

 スポンジ生地と生クリームの競演、更にイチゴの酸味と甘味が淡さって、口の中は幸せ一色である。

 だが、彼の言葉を聞いた楯無は、眉を潜めざるを得ない。

 

「…………助けようって精神は無いのかしら?」

「だから、何で助ける必要があるんだ?」

「それは―――――」

「アンタ等の言ってることで、やってることだろ?ISは兵器で、自分達はその兵器に選ばれた人間だ、てさ」

 

 アンタは違うかもしれねぇが、と続けて暮人は紅茶を啜った。

 

「使い方次第だがよ。あんなことは普通に起こる世界なんだ。シールドを無効化する兵装が開発されても不思議じゃない。確か、織斑の兵装にもそれがあっただろ?」

「それは…………」

「裏の人間なら分かるだろ。この世界に絶対は、無い。どんな物でも事故は起きる。それにアラスカ条約なんぞ在って無いようなもんだろ」

「そんなこと、ないわよ?」

「ダウト。裏側は真っ黒だろ。国の最優先は自国の利益だ。自由の国とか、元鉤十字とかは何かやらかしてるんじゃないか?」

「発言だけ見れば、暮人君ってテロリストみたいよねぇ」

「カカッ!逮捕するか?」

「遠慮しておくわよ。貴方が相手じゃ、被害が大きすぎるもの」

「そうか」

 

 その時、小さく暮人の口が『詰まらねぇ』と動いたのを、楯無は見逃さなかった。

 

 人間ならば、誰しもストレスが溜まる。

 剣の鍛練の時間を削られ、強い相手と死合えない。因みに後者の相手は、基本的に家族だ。

 戦闘狂ではない。しかし、いつまでも凪のような時間を過ごすことは、彼にとっては苦痛だった。

 いい加減、フラストレーションによって仮面が剥がれその下に覆い隠した狂気が這い出しかねない。

 

(けど、殺し合いなんて認められるはずないわよねぇ。暴走、は無さそうだけどこの学園で暮人君クラスの人を生身で相手できるのなんて織斑先生位だし………………)

 

 IS操縦者は、総じて生身の身体能力も高いものが多い。

 その筆頭は、世界最強の肩書きを持つ織斑千冬だろう。

 他にも、国家代表は軍属であることも多く、代表候補生も軍に所属し訓練している事が多いため、総じて一定以上の技量は持ち合わせていた。

 だが、それは前提としてIS戦闘を置いたもの。生身の白兵戦でも力を発揮できるか、と問われれば、否であった。

 むしろ、暮人のように適性が低く、ISが枷となり、生身の方が強いと言う人間の方が珍しい。

 

「戦いたいの?」

「ん?ああ、まあ、な。久々に、死ぬ目には、合いたいかな」

「死ぬ目?貴方がそんな目に逢うの?」

「親父とお袋、爺ぃが一斉に掛かってきたら、そりゃあ、な」

「何やってるのよ、貴方達」

「無制限組手さ。何でもあり、何時でもあり、終わりは全員が脱落するまで」

「……………本当に現代日本なの?」

「その筈だが?」

 

 無差別組手は、彼の語った通り、何でもありだ。

 それこそ、敷地から出なければ負けを認めるまで負けではない。

 更に何でもありというのは、手を組んだり、罠を仕掛けることも是とするということ。

 この家が起こった時より続く、ある意味伝統だ。始まりは、この地に集まった武芸者達のいざこざであったと言われている。

 その結果は、血塗れ。

 普通は、こんな事態が二度と起きないように心掛ける。しかし、このおかしな家はむしろ推奨したのだ。

 結果として、現代にまで続く伝統となっている。そして、一人としてその伝統を止めようとはしなかった。

 最長で一年続き。一人を残して全員死亡等という時代もあった。

 それでも止めない、馬鹿ばかり。修羅道を好き好んで歩むもの達が彼等なのだ。

 

「修羅ってるわぁ……………」

「変な言葉作るなよ」

 

 

 /

 

 

 楯無との雑談から数日。未だに彼の中には、塵芥のようにフラストレーションが積み重なり続けていた。

 勿論、鍛練を激しくすれば少しは緩和される。しかし、物足りないのだ。

 血沸き、肉踊る命のやり取りが遠すぎる。

 

「……………うん?」

 

 一頻り、素振りの丸太を振り回して、全身から蒸気を立ち上らせた暮人が自室の近くまで来ると、首をかしげた。

 

「何してるんすか、山田先生」

「あ、島津君!部屋にいないから、何処に行ったのか心配してましたよ…………?」

「いつも通り、鍛練っすよ。それより、何のようですか」

 

 部屋の前でオロオロしていたのは、真耶であった。

 彼女は、暮人が声をかけると最初に顔を輝かせ、次いで少し寂しそうな顔となった。

 その表情に気づかない暮人ではないが、無視する。相手に合わせて揺らぐという面は、彼にはない。

 

「えっと、今度転入生が来るんです。その一人が、島津君のルームメイトになるから、お知らせに」

「ルームメイト、ねぇ……………何か訳ありみたいっすね」

「え、ええっと……………」

「男と一緒にするんだ。三人目でも見つかりましたかね?」

「……………」

「それで、織斑と同じ部屋にしないってことは、何か訳有りって事でどうでしょう?」

「うぅ…………島津君ってエスパーですか?」

「知ってることを繋いで、考えれば誰だって分かりますよ」

 

 暮人は、天才ではない。その代わり、一度覚えたことは、比較的忘れない記憶力を持っていた。

 更に、情報を繋ぐことにも長けている。まあ、今回に関しては学園の状況などを理解していれば、誰でも行き着ける答えではあったのだが。

 

「それで?ソイツはもう居るんすか?」

「あ、まだですよ。近日中ですね」

「んじゃ、部屋片しときますわ」

 

 殆ど何も弄っていないが、物騒なブツは健在だ。特に刀は、扱いに困る。

 幾つか、真耶との打ち合わせを終えた暮人は部屋に入るとため息をこぼす。

 

「……………お守りは面倒だな」

 

 とりあえず、彼は刀の隠し場所から変えることにした。

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