ジゲンの太刀に後退無し   作:他意は無い

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拾六

「シャルル・デュノア。宜しくね、島津君」

「……………」

 

 目の前で頬笑む金髪の貴公子に、暮人は眉根を寄せた。

 転入生がやって来た今日も、やはりサボった暮人は、自室にて漸く顔合わせと相成ったのだ。

 

「……………悪いが、俺は宜しくしない」

「え?」

「ベッドはそっちを使ってくれ、窓際は俺が使ってるからな。先にシャワー使うぞ」

 

 にべもない。暮人は、荷物を纏めるとさっさとシャワー室へと向かってしまった。

 その背を、シャルルは呆然と見送るしかない。

 教室で話したもう一人の男性操縦者である一夏とは随分と違う。

 取りつく島もない、と言ったところか。

 

「……………気付かれた?」

 

 自分で言って、自分で否定する。

 あり得ないと思う。しかし、それを完全に否定する材料はない。

 実家で得られた情報は、あまりにも少なかったのだ。

 デュノア社は、ラファール・リヴァイブの製造元だ。大企業というのは、そのまま情報収集能力などにも長けている面がある。

 そして、得られたのは学校の話程度。実家に関することは、殆ど何も得られていなかった。

 これは情報部が無能という訳でもなく、暮人の実家が情報統制を敷いている訳でもない。

 単に知っている人間が少ない、というだけだ。

 そして、知っている人間も裏側ばかり。

 更に付け加えるならば、彼等は全員島津の家に恩恵を受けた者達だ。誰が好き好んで、手札を明かすものか。

 ならば敵対組織ならばどうかとも思われる、が彼等も口を開かない。

 九割が殺され、一割は精神的に殺された為にこれも仕方がない。

 島津に弓引けば、大抵こうなる。

 

「やっぱ、足を伸ばして湯船に浸かりたいな……………」

「っ、島津君あがったの?」

「頭と体洗うだけだしな」

 

 寝間着である浴衣に身を包んだ暮人は、シャルルを一瞥することもなく背を向けてベッドに寝転がった。

 

「えっと、島津君?」

「………あー?」

「僕、何かしたかな?」

「何でだ?」

「その………………」

「思い当たる所があるんだろ」

「…………」

 

 見もしない暮人だ。だが、シャルルは何も言えなかった。

 隠していることは事実だ。そして、その全てがバレている様な気がしないでもない。

 

「当ててやろうか?」

「っ!?」

 

 グルグルと回る思考が、いきなりドアップとなった暮人の顔によって引き戻された。

 

「あ、当てるって何を…………」

「シャルル・デュノア。お前は、女だろ?」

 

 最初から直球ストレート。まさかの遊び球無しである。

 

「……………な、何を根拠に―――――」

「一つ、お前の報道が無かった」

 

 顔を真っ赤にして怒るシャルルだったが、暮人は右人指し指を立てると根拠を語り始めた。

 

「織斑や俺が見付かったとき、世界的に報道があったんだ。だったら、三番目でも報道があるだろ」

「それは―――――」

「隠匿は、無駄だろ。むしろ、他国への牽制やらの為に報道して存在を世界に知らしめるはずだ。そうすれば、周りの国に一定の発言権みたいなのもとれるだろ」

「…………」

「二つ、肉体的なもんだ。まず、お前喉仏が殆んど分からんな」

「そ、それは僕のが発達してないだけで………………」

「確かに、年齢差はある。だが、声変わりは大体九歳辺りからだ。高校生にもなれば、ハッキリとしてくるやつも多い。次に手だ。これはホルモンバランスの問題なんだが、女の手は人差し指と薬指が殆んど同じ長さ。対して男の手は、薬指が長いんだ」

 

 お前の手は、どっちも同じだな、と暮人は立てていた指でシャルルの手を示した。

 

「他にも、重心が前にある、とかな。女性モノの靴はヒールがあるから、踵じゃなくて爪先に重心が集まりやすいんだ。矯正はしてるみたいだが、ぎこちないぞ」

「…………………っ、け、けど、僕は入学を―――――」

「気づいた上で無視されてんだろ。織斑先生とかなら気付いてるんじゃないか?」

 

 そもそも、世界が男性操縦者に対して過敏な状況だ。であるならば、急に現れた男性操縦者に対してここまで大人しい反応は無いだろう。

 とすると、考えられるのは、

 

「大方、国が圧を掛けたんだろ。理由は…………織斑か。一次移行でワンオフが発現してて、第3世代。更に男性操縦者で、後ろ楯もある。ハニトラだけじゃなく、情報を抜き取ることも潜入理由になるか」

「……………」

「お粗末が過ぎるな。この学園の奴等がミーハーで助かったな?頭使わねぇから、この程度の事も分からねぇんだ」

 

 アホくさ、と暮人は嘲笑うとジトリとシャルルを見た。

 

「言っておくが、俺はお前に関わる気はない」

「え?」

「正直面倒だ。どうせ、先生方は俺に監視でもやらせたかったんだろうが、俺には興味がないんでな。適当に情報抜き取って、本国にでも、会社にでも送ればいい」

「…………止めないの?」

「なんで?」

「だ、だって僕は、スパイ………なんだよ?」

「んなもん、気づかない方が悪いだろ。ここまでヒントが転がっててなんも考えてないほうが頭おかしい」

「で、でも………!」

「なんだ?俺に良心の呵責でも求めるのか?お生憎様だ。国がどうなろうと、織斑がどうなろうと俺には関係無い」

 

 正直なところ、暮人の印象に残っているクラスメイトなど、箒位だ。戦った一夏もセシリアも名前を出されればぼんやりと頭に顔が浮かぶのみ。大して思い入れも無い。

 もっと言うと、今の暮人は眠いのだ。時刻は十一時前。いつもならば寝ている時間であった。

 所謂、深夜テンション。眠たくなって騒ぐ子供のようなものだ。

 

「だから、適当にやっとけよ。俺に迷惑かけずにな」

 

 言うだけ言うと、彼の体はフラりとベッドへと倒れていった。直ぐにスヤスヤと寝息が聞こえてくる。

 だが、散々に言われたシャルルは堪ったものではない。

 頭の中は、ゴチャゴチャだ。既に敵対というワードが十度は出ており、その全てに却下の判子が押される程度には混乱していた。

 

「……………………………明日にしよう」

 

 そして、彼女は考えるのを止めた。

 

 

 /

 

 

「―――――――んぅ……………?」

 

 翌日、日も昇らない早朝。寝付きの悪かったシャルルは物音に目を覚ました。

 薄ボンヤリと開かれた視界。そこに映ったのは、一体の鬼であった。

 訂正、それは鍛練の為の丸太を肩に担いだ暮人だ。

 ノソノソと部屋を出ていった暮人を見送り、シャルルは大きく息を吐いた。

 昨晩、敵対を選ばなくて良かった、と安堵していた。

 生身で百キロ超えの丸太を軽々担ぐ相手だ。ISを纏っていても誰が戦いたいと思うだろうか。

 絶対防御などの弱点とも言えるかもしれないが、衝撃が貫通してくる事がある。つまり、暮人の鍛練丸太をフルスイングで叩き込まれれば小さくないダメージを機体と搭乗者に与える可能性もあるということ。

 

「……………どうしよう」

 

 彼女の呟きに答えは返ってこない。

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