ジゲンの太刀に後退無し   作:他意は無い

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拾八

「学年別トーナメント?」

「そ。補足すると、タッグトーナメントよ」

「ほーん」

 

 ペラペラと、紙の揺れる音が室内に木霊する。

 

「惹かれない?」

「全くもって惹かれないし、そそられない」

 

 プリントを置いた暮人は、ジト目を楯無へと向けた後、ソファに深く腰掛け、天井を見上げた。

 今日も今日とて、生徒会室だ。

 

「それよりも、俺的にはデュノアが入学できてる理由を知りたいんだが?」

「あら、貴方ってそっちの気があったのねお姉さんビックリよ」

「惚けんな。俺や織斑が入学するときにも、散々嗅ぎ回ったんだろ?まさか、お国が違うからって手を抜いたのか?」

「……………はぁ、話したくないのを分かって言ってるでしょ?というか、分かった上で聞いてるわよね?」

「そりゃ、あんたに配慮する必要とか無いだろ?」

「お姉さん、悲しい」

「泣き落としが効くとでも?」

「思ってないわよ」

 

 楯無はクスクスと笑いながら、一括りの書類束を机に置いた。

 彼女は、暮人と向かい合う際にいつも持っている扇子を使わない。あれは、相手を煙に巻いたり、自身と相手の壁を意識させるためのものだからだ。

 では、暮人とは壁を作っていないのか、と問われれば、否となる。何故なら彼女は暗部だから。踏み込んだようで、踏み込ませず、引いたようで、逃がさない。彼女の底など知ろうとするだけ無駄だ。

 扇子を用いないのは、単純に意味がないからだ。

 誘導もすり替えも、真っ直ぐに聞きたい事へと向かっていく暮人には効果がない。

 というわけで、二回目以降口許を隠すことはなくなっていた。

 

「どうも裏で取引があったみたいよ。デュノアちゃんには、二人の情報を抜き取るためのスパイを強要されたみたい」

「二人?俺のデータもか?」

「織斑君と、セシリアちゃんと戦ったとき以来何のデータも送られてこないからでしょ。学園の内情なんて、お上には関係無いもの」

 

 政府の高官は、いくら女尊男卑の世の中でも男の方が多かった。

 理由は、ハッキリとしない。しかし、どれだけ女性権利団体が声高に叫ぼうとも、選挙の結果は男が多い。これは、政治だけでなく、軍部の上官などにも言えることだ。

 

 ついでに言うと、主要部分には男が多いため、男女が争えば如何にISがあろうともその勝敗は分からないと言える。

 何故なら、兵器として並々ならぬ破壊力を秘めたISも扱うのは、人間であり、人間には総じて弱点があるからだ。

 例として、人質や補給線の破壊など。

 ISの弱点は、その燃費の悪さ。起動にエネルギーを食い、防御にも食い、その容量は決して多くない。

 本来ならば、無限機構を搭載している筈なのだが、そこは束がロックを掛けており誰にも解除できていなかった。

 戦争は、力だけではどうにもならない。その点を世の女性陣は勘違いしている。

 第二回モンド・グロッソが良い例だ。

 優勝は確実と言われていた織斑千冬は、しかし拐われた弟のために棄権し、結果として決勝戦は不戦敗。

 どれだけ強くとも、謀略という名の網に掛かれば万夫不当の英雄すらも擂り潰されるのが落ちなのだ。

 

「…………阿呆だな」

 

 資料に目を通した暮人は、ため息をついてそれを机へと戻した。

 

「気に入らない?」

「気に入る方が、おかしいだろ。頭おかしいんじゃないか?」

「まあ、確かに稚拙よねぇ」

「そもそもやり方が雑すぎるだろ。捨て駒だって大声で言ってるようなもんだぞ」

「けど、まだバレてないのよね?」

「時間の問題だろ。だって、下手くそだ」

 

 彼から見て、シャルルの男装はお粗末だ。所作の類いも、チグハグで何故周りが気付いていないのか理解できない。

 

「まあ、確かにねぇ。けど、一般的な家庭の子なら気付かないんじゃない?それに、学園に入学する子は、男子との関わりが殆んど無いわ」

「つまり、親以外の男と会うことが殆んど無かったってことか?」

「ええ。ついでに、織斑君が気付かないのは彼が鈍いからじゃないかしら?」

「鈍い、ねぇ……………」

「彼って、結構ストレートに好意を向けられてるのに気づかないじゃない」

「あれって態と……じゃないのか」

「……………いつか刺されそうよね」

 

 色恋沙汰に欠片も興味がない暮人でも、周囲が一夏に向ける感情は分かるのだ。

 それに気付かない彼は、朴念仁とか以前の問題では無かろうか。

 

「まあ、彼が刺されるかは時間の問題として。暮人君、トーナメントに出てくれないかしら?」

「お断りだ」

「どうしても?」

「どうしても」

 

 どれだけ交流を結ぼうとも、暮人の意思を動かすことはできない。

 

「じゃあ、出てくれるならお姉さんを好きにしても良いわよ?」

 

 楯無は、妖艶に微笑むと座ったままチラリとスカートの端を捲って見せる。

 

「……………旨」

 

 だが、暮人は一瞥もせずにお茶請けに出されていた、ベリーのタルトに舌鼓を打っていた。

 さすがに、色仕掛けをここまで無為にされると楯無の蟀谷もひきつるというもの。

 彼女は、美人だ。それこそ、道行く人が老若男女問わずに振り返る程度には顔立ちが整っており、抜群のプロポーションを誇っている。

 そんな彼女を袖にする暮人。彼の中では、甘味>>>>>>>>越えられない壁>>>>>>>色慾であった。

 

 ここで少し下世話な話になるが、この色欲の薄さは、家系であったりする。

 彼等の子孫が生まれるときは、基本的に戦った後の高揚からの流れで至る事が多いのだ。

 切った張ったで、ハイになってしまうからだ。

 それがないと、彼等の色欲は欠片もない枯れた存在となる。

 

「ちぇー……つまんないのぉ」

「そういうのは、織斑にやるんだな。布切れなんぞ見たところで何とも思わん」

「どうして?経験あるのかしら?」

「いいや。けど、家の人間男ばっかりじゃないし」

「……………見たことあるの?」

「見せられた。ついでに、見られた」

 

 因みにその時は、鍛練後に川で水浴びしていると同じタイミングでやって来た、修練者の一人が痴女ってきたのだ。

 その際には、グーパンで撃退した。

 

「本当に、法律が仕事しないわね。貴方の家って」

「法律無くても苦労したことねぇし」

「思ってもそういうことは、言わない方が良いわよ?」

「今は、無国籍だから関係無いだろ」

「………………それもそうね」

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