ジゲンの太刀に後退無し   作:他意は無い

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拾九

 強さとは、いったい何なのか。自身の無力さを一度でも体感した者ならば堂々回りのように何度も考える問いだろう。

 

「……………」

「……………」

 

 ここ数日、学園でも名物のようになったその光景。

 

「……………………はぁ………いつまで着いてくるんだよ」

「私もこちらに用があるんだ。気にするな」

「便所にまで着いてきてるだろうが…………!」

 

 暮人が何を言おうとも、後を着いてくるラウラには焼け石に水だ。

 素振りを見られて数日、彼の後ろをカルガモの子供のように着いてくるラウラが学園中で見られていた。

 特に、いつもは傲岸不遜な彼女が、暮人を真似ながら甘味を食べる姿など周囲の癒しとなっている。

 

「…………はぁ」

 

 ここ数日、既に二桁も後半に差し掛かってきたため息。

 そこまで嫌ならば振り切れば良いとも思われるが、広大とはいえIS学園は限りある範囲だ。逃げ回っても何れ捕まり、付いて回られるだけだ。

 ならば学園の外に逃げれば良いのかもしれない。しかし、それはそれでメリットとデメリットがある。

 メリットは、捜索網が敷かれて強い相手と戦える可能性が出る点。デメリットは、旨いものが食べられなくなる点。

 今のところ、彼の内心はどっち付かずだ。いや、遠からず前者に傾きかねない状態ではあるが、今のところはどっち付かず。

 

「島津暮人」

「………あ?」

「貴様は、ISには乗らないのか?」

「何で乗らなきゃならないんだよ」

「二人目とはいえ、男性操縦者だろう。義務は果たすべきだ」

「義務、ねぇ…………」

 

 これは、相手は違えども暮人が何度も答えてきたやり取りであった。

 

「押し付けられたものにまで、義務があるとかおかしいと思うがな」

「だが、貴様は動かした。ならば――――――」

「好きで動かしてねぇよ。むしろ、こっちは迷惑してるんだ」

「迷惑だと?」

「そうさ。IS動かしたせいで、俺の将来はおじゃんだ。そこで義務やら何やら言われても、な?」

 

 どれだけ必要だ、大切だ、と周りから解かれようともそれ事態に本人が納得していなければ馬の耳に念仏というもの。

 

「しかし、島津暮人。お前は、合格者の一部を削ったのだろう?」

「ボーデヴィッヒが、それ言うか?この学園の生徒は緊張感に欠けて、ISをアクセサリーとかと勘違いしてるんだろ?」

「……………何故、知っている?」

「壁に耳あり、障子に目ありだ。敵作る発言も程ほどにしておけよ」

 

 お前が言うな、と言われそうだが、暮人も暮人で裏ではやっかみを受けていた。

 同級生、先輩。女尊男卑の思想に染まった者が少なからず手を出してきたのだ。

 もっとも、千冬すらも無視するこの男。そこらの小娘など歯牙にも掛けない。

 

「全部振り払えるなら、問題ないだろうさ。けどな、不相応のビッグマウスは自分の首を絞めるだけだぞ」

 

 

 /

 

 

 可愛らしいストーカーが、暮人の後ろを付いて回る事になって、更に数日。

 今回は、別件だが暮人はまたしてもため息をつかねばならない事態となっていた。

 その日は、新しく手に入れた知識を活用しようと早めに鍛練を終えて部屋へと戻ってきたのだ。

 

 同室のシャルルとは、部屋を共有する以外の関わりはない。そして、この部屋を訪ねるものなど教師陣以外には皆無であり、招くこともなかった。

 だが、今日は違う。部屋には深刻な雰囲気が漂っており、本来ならば居ない筈の一夏の姿もあったのだ。

 一瞬だけ、暮人も眉を潜めたが直ぐにそういえばスパイであったと思い出し、触れることはしない。

 元より関わる気の無い一件だ。手早く荷物をまとめてシャワーを浴びると、一瞥することもなく自分のスペースへと向かい、時間の空白を利用して刀の手入れを始めた。

 

「――――――なぁ、島津」

 

 だが、その手が刀を抜く前に一夏より声をかけられる。基本的に相手を名前呼びな彼が、暮人を名字で呼ぶのはその蟠り故だろう。

 

「お前、シャルルのこと知ってたのか?」

「スパイって事か?それとも、本当は女で男装して潜入してるって事か?」

「ッ!知ってたなら………!」

「どうする?突きだすか?」

 

 荒れる一夏だが、暮人は自然体を崩さない。それどころか、顔を二人へと向ける事もない。

 

「お前!シャルルの境遇を分かって言ってるのかよ!!」

「だから、スパイだろ」

「それは家の命令で無理矢理――――――」

「あのなぁ、織斑」

 

 熱く語る一夏。しかし、目の前の背中にその言葉は響かない。

 むしろ、めんどくさそうに冷や水をぶっかけてくる。

 

「その程度の話。世の中には腐るほど転がってんだよ」

 

 ガリガリと彼は頭を掻いた。

 

「世間知らずのお前は知らないのかもしれねぇがな。この世の中、子を殺す親も居れば、親を殺す子も居る。金稼ぐために子供に体売らせて、自分は酒飲んでるような親とかも、ザラだ。ニュースでも報道されるだろ?捨て子の報道とかな。あんなの極一部だ。望まない子だからって、ロッカーに捨てたり中絶したり、そんなこともある。お前は、ニュースを、見るたびに熱くなるのか?違うだろ。単にお前は、目の前で不幸話を聞いたから熱くなってるだけだ。喚くしか能がねぇなら、部屋に帰って大人しく、クソして寝てろよ」

 

 長く語った彼は、話は終わったと言わんばかりにベッドから床に降りると刀を包んでいた風呂敷を広げその上で手入れを始める。

 本当ならば、研ぎ直したりしたいところではあるのだが、今はモノが無い。

 鞘より刀を静かに抜き峰側から、懐紙で表面の油を拭い、打ち粉を行って、布を変えて何度か拭う。

 結構手抜きをしてしまったが、慣れていない者が柄より刀身を抜いてしまうと、嵌め直した際に緩んでしまう可能性があるのだ。

 

「―――――島津!!」

 

 三度目の打ち粉拭いが終わったところで、漸く頭が追い付いた一夏が食って掛かってきた。

 

「だったらお前は、シャルルを見捨てろって言うのか!?」

「………騒ぐなよ、鬱陶しい。大体、見捨てるも何も何でそんなことしなきゃならないんだよ。何か?お前、スパイの手伝いでもしろって言うのか?」

「そんなこと言ってねぇだろ!」

「いいや、言ってる。お前はデュノアを助けたいみたいだがな、何の案も無いなら野良犬の遠吠えと変わらねぇんだよ」

「………案なら、ある」

 

 淡々と返してくる暮人に対して、一夏は生徒手帳に書かれた校則を持ち出してきた。

 だが、見せられた側は失笑を溢す。

 

「やっぱり、世間知らずだな、お前」

「んだと……!」

「着眼点が間違ってるだろ。フランスがデュノアを調べなかったはずがない、ってことは国が黙認したってことだ。当然、デュノア本社もそれは分かった上で、デュノアを学園に送り込んだ筈だ。バレれば国から切られる事もわかってる筈なのに、だ」

「…………」

「一方向から見すぎだ。そもそも、何でスパイすることになった?デュノア社の第三世代開発が遅れてるからだ。そこでとった手段が娘の男装。バカじゃないのか?世界が躍起になってる男性操縦者だぞ?遅かれ早かれ、周りにバレて嗅ぎ回られれば一発だ。それでも送り出した。そこまで切羽詰まってたのか、若しくは―――――そこまでしてでも、デュノアをフランスから遠ざけたかったかのどっちかだろ」

 

 頭使え、と暮人は指摘する。

 彼の論は、想像によるもの、と指摘することも可能だ。しかし、絶対にあり得ないと断言も出来ない事だ。

 といっても、この推論は彼がはじめから持っていたモノではない。

 時間の有り余っていた際に、楯無と共に煮詰めたモノであった。

 無論、単にシャルルを切り捨てるためのとも考えられなくもないが、その場合に被るデュノア社の不利益が多すぎるために至った論。裏はとっていないが、悪くない、というのが二人の結論だった。

 まあ、だからといって何かをするわけでもないのだが。

 生徒会長であると同時に、暗部に身を置く楯無とは違い、暮人にとっては相手の事情、その他諸々、興味も関係も無い。

 

「――――と、まあ、この程度すら思い付かないってんなら、手を引け。そもそも、ここら辺は政治家の領分だ。権謀術数の塊みたいな奴等相手に、精神論で吠えたところで無駄だからな」

 

 言いたいことだけ言ってしまい、暮人は欠伸をして、未だに出っぱなしの刀を鞘へと収め、ベッドの下へと転がすと、本人はベッドに上がって布団を被ってしまう。

 一夏も、そしてシャルルも。そんな彼を止める言葉はない。

 頭の中がグチャグチャになっており、整理がついていないのだ。

 

 結局、今回は一夏の火が消され、シャルルのシンデレラ症候群を一瞬満たすのみで収まることとなり、何一つ解決していない事には、引っ掻き回した当人以外気付くことはなかった。

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