ジゲンの太刀に後退無し   作:他意は無い

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 島津暮人という人間は、初日から周囲の視線を一身に集めていた。

 強面とも言えるが、整った顔立ち。そして常に寝ているような態度。

 

「Zzzz……………」

 

 今も頬杖をついたままにのんびりと寝息を立てている。

 休み時間であるため、やることは自由ではあるのだが、自堕落が過ぎる姿とも言える。

 

 彼と同じく男性操縦者である織斑一夏も遠巻きから、彼を観察に留めるしかない。

 最も、彼は幼馴染みとの再会イベントがあったのだが。

 

 そんなこんなで、チャイムが鳴った。当然ながら、寝ている暮人は反応できない。

 入室してきた教師陣。その内千冬は、彼を見咎めた。

 ツカツカと歩み寄ると、その手の出席簿を振り上げ、振り下ろす。

 

ズパンッ!!「…………んあ?」

 

 結構痛々しい音がしたのだが、彼は大したダメージを受けていないらしい。

 まるで揺すられて起こされたかのようなゆっくりとした起き方であり、大きな欠伸をかます。

 

「居眠りも大概にしておけよ」

「うぃー」

 

 反省のはの字も見えない態度。

 だが、全く興味もないようなこの態度も仕方がないとも言える。

 人間誰しも、興味がないモノに精力的に動くことは難しいのだ。

 

 挨拶が終われば、再び頬杖をついて彼は目を閉じる。

 やはり千冬に叩かれるのだが、彼は今度は目覚めなかった。

 結構な強さで叩いているというのに、ノーダメージ。それどころか、眠りからも覚めないなど相当だろう。

 

 この理由は単純に、彼が痛みに馴れていることに原因があった。

 彼の実家は、剣術狂い。それこそ時代錯誤等鼻で嗤うようなそんな家なのだ。

 

 剣に始り、剣に終わる。

 

 そう言われるほどの筋金入り。

 そして、剣の修行は人権を無視したような程に苛烈であり、更に激烈であった。

 まず、確実に全身の骨は三度は折られる。場所によっては二桁など軽く至るほど。

 筋肉や筋が断裂するのは当たり前。その過程で二度と剣どころか手が動かなくなるものすらいるほどだ。

 

 そしてその結果。痛みに対して、鈍感の域を通り越したような彼が出来上がった。

 

 三度叩かれ、三度無視した暮人。

 流石に今回は、千冬が根負けした。ため息をつくと、授業を進めるように副担任の山田真耶へと進言する。

 

 彼女は別に体罰信奉者ではない。だが、どちらかと言うと気が短く、手が出やすいのは確かだ。

 しかし、ここまで無視されるのは初めての経験。対処方法が分からないと感じていた。

 

「……………」

 

 真耶の授業を教室後方で確認していた千冬は、頭のなかで今も惰眠を貪る暮人の情報を確認していた。

 IS学園に入学する者達は、最低限身元が洗われている。

 特に今年は、二人の男性操縦者と一人の天災の妹が入学しているため他年度と比べてより一層念入りに、だ。

 

 得られた彼の情報。剣術一家の嫡男であり、幼少期より剣を振ってきた。

 その実力は高く、今回の一件が無ければこのまま当主の座につくことは確実だった。

 剣術に対する理解のある学校を探し、特待生として入学も決めていた。

 だが、それも適性発覚により頓挫。

 

 そして、今では露骨にモチベーションを落としており、今回は教室に来ているが、何れここにも来なくなるだろうというのが千冬の読みであった。

 

 分からなくもない。努力をしてきた上で、その上で横槍を入れられ踏みにじられたようなものなのだ。

 とはいえ、それは彼の入学の折りに入試成績の最下位とその一つ上の成績であった少女たちも同じような事なのだが。

 

 ままならないものだ、と弟の頭を叩きながらそんなことを思う千冬であった。

 

 

 /

 

 

「―――――――闘ですわ!!」

「………んあ?」

 

 眠りには、波がある。ふとした瞬間に意識が浮かび上がり、そのタイミングで大声を掛けられれば誰でも違和感で目を覚ますだろう。

 例に漏れず、暮人も目を覚ましたようだ。薄ぼんやりと目を開けた。

 

 寝起きでありながら直ぐに覚醒した彼は、教室の空気が険悪であることに気づく。

 原因は、教室後方。金髪の少女にある。

 

「なぁ、どしたんだ?」

「!し、島津くん!?えっと、オルコットさんと織斑君が――――――」

 

 隣の女子に声をかけ経緯について尋ねた暮人は聞き終えると同時にため息をついた。

 

「……………アホくさ」

 

 周りのミーハー具合と貴族のプライド、一夏の愛国心。

 そのどれもが、興味を引かない。

 ドライな反応だが現代の日本人は、自身に影響が無ければこんなものだ。

 再び眠ろうと、目をつぶり、

 

「貴方もですわ!」

 

 掛けられた大声によって飛び立てない。

 

「あ?」

「初日から寝てばかりではありませんか!志が低いのではなくて?」

 

 何故だか矛先が自分へと向けられ、暮人は若干首を捻って後ろを見る。

 

「まあ、所詮は男ということですわね。志が低くて信念もない。なぜ、貴方のような方がこの場にいるのか理解に苦しみますわ」

「………………」

「何か言ったらどうなんです?最も言い返す言葉も――――――」

「お前の髪の毛、ドリルみたいだな」

 

 瞬間、空気が凍った。

 周りは言っちゃったよ、的な雰囲気で暮人と言われた側のセシリア・オルコットを交互にみやる。

 

「な、なななな……………!」

「ついでに言うと、宇宙服で決闘とかバカだな、程度しか思ってねぇさ」

 

 これは、認識の差異だ。

 確かにISは既存の兵器を無力化してしまうほどの性能を持っている。

 しかし、それら機能は宇宙空間における安全性を確保するためのものでしかない。

 

 全方位を目視可能なハイパーセンサーは、遠距離並びに死角を無くし、スペースデブリ等に対応するため。

 シールドエネルギーや絶対防御は、搭乗者の身を守るため。

 兵装の類いは、元々宇宙空間の危険を排除するためだ。

 

 断じて戦争するためでも、決闘するためでもない。

 

「貴方ねぇ……………!」

「なんだ?」

「ISは、兵器です!戦うものではなくて?」

「いいや。そのアプローチが間違ってるんだろ。ISは元々宇宙服だ。そうやって学会に上げられて、誰も見向きもしなかったからこうなってるんじゃねぇか」

 

 意外や意外、彼は中々に調べているらしい。

 博学、というわけでもないがよく回る彼の口に教室中が注目していた。

 膠着状態、そこでチャイムが鳴った。

 

 暮人は立ち上がると、スタスタと廊下へと向かう。

 

「ま、待ちなさい!まだ、話は―――――」

「アンタがそうでも、俺は終わった」

 

 そのまま誰の制止も聞かずに、彼は教室を出ていってしまった。

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