ジゲンの太刀に後退無し 作:他意は無い
デュノア性別判明事件(笑)が起きた翌日、いつもの通り暮人は朝早くから素振りを行っていた。
そんな彼から少し離れた木陰からは二つの影が覗いている。
「「……………」」
金糸と銀糸。大小の差と隠れる位置に違いこそあれども、その目は真っ直ぐに彼の背中へと向けられていた。
つまり、ストーカーが二人に増えたということ。
実害は、無い。というより、二人の目的が違うのだ。
前者は、話を。後者は、その力を。
それぞれが、全く違う理由を彼へと求めていた。
だが、求められた当人は応えない。既に片足は面倒事へと突っ込んでいるというのに、嫌々と抵抗しているためだ。
そもそも、彼には二人に何かを施せる物はないと思っている。
シャルルに対しては、あくまでも推察の域を出ない、言ってしまえば妄言しか吐けず。ラウラに対しても、剣振り回せ位しか言うことがない。
無責任だろう。元々救う気もなく、基礎の無い人間に自身の鍛練を課す、など。
少なくとも、暮人はしない。ヒーロー願望も、師匠願望も彼にはないからだ。
だからこそ、無視する。それ以外ならば反応するが、上記二つに抵触することは徹底的に無視だ。
それで済む、その筈であった。
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「ちょーっと不味いことが分かったわよ、暮人くん」
「不味いこと?」
最早恒例となりつつある、生徒会室でのお茶会。楯無が真面目な口調でそう切り出した。
「これ、見てちょうだい」
テーブルに置かれるのは、数枚のA4プリントをクリップで纏めたものだ。
嫌な予感のした暮人は眉を潜め、しかしながら受け取った。
そのまま中身に目を通した彼は、眉間に寄せたシワを更に深くする。
「……………これ、マジか?」
「私達の想像が、現実になっちゃったわねぇ」
「メンドクサ………」
資料をテーブルへと投げ出した暮人は、ソファに深々と腰掛けて天井を見上げ、大きく息を吐き出した。
「だからって、手を出すのか?」
「表の国際問題なら、無理よ。けど、今回に関しては別ね」
「亡国機業、ね…………裏組織が、何でまた表の会社なんぞを狙うのか」
「正確には、亡国機業の下部組織ね。女性権利団体を後ろ楯にした組織よ」
「それって一部過激派の事だろ?人数はどうあれ、マスコミにも流れてないこの状況で落ち目とはいえ大企業を落とせるもんかね」
「だからこその、シャルロットちゃんでしょ。男親だし、再婚相手も仲は悪くなかったみたいよ」
「手の届かない、IS学園か。切羽詰まりすぎやしないか?」
「それだけ首が絞まってたのよ。多分、これ以上の時間をかければ彼女に実害が出てたわね」
楯無はアッサリと言ってのけるが、お家騒動などには、暮人よりも精通している面がある。
いや、そもそもの前提として暮人の実家はお家騒動に無縁なのだ。
まず、遺産が無い。正も負関係無く、ほぼ零だ。預金通帳等もなく、借金などもしない。土地に関しては、実質管理は彼らを雇う上役が押さえている。
何より、彼等の家族の情というものは限り無く薄かった。
自分の身は、自分で守る。親が守るのは、子が剣を振るえるようになるまでだ。
「家ってのは面倒だな」
「むしろ、貴方の家が育児放棄って言われるのよ。それより、貴方はどうするのかしら?」
「知らぬ存ぜぬ、で良いだろ」
「言うと思ったわ。だから、これを貴方に」
「あん?」
暮人の反応を見越していた楯無。彼女は、一枚の紙をテーブルへと新たに置いた。
受け取った彼は、内容を確認し、首をかしげる。
「正気か?」
「国公認よ」
「馬鹿じゃないのか?得なんて一つも無いだろ」
「あ、国は国でもこっちじゃなくて、あっちからよ」
「何であっちが、ここにコレ持ってくるんだよ」
「いい加減鬱陶しかったんじゃない?ほら、上の方は男女比率でいくと男の方が多いもの」
「……………で、悪どいこともやってるから証拠ついでに潰せ、てことか」
「逆よ。潰すついでに、証拠を集めるの」
「殺って良いのか?」
「そろそろフラストレーションも溜まってるでしょ?」
「…………まあ、いい加減実戦に出たくはある」
ギシリ、と彼の腰かけるソファが軋む。
「それにしても、家の名は広がってるんだな」
「当然よ。言ったでしょ?裏じゃ有名なのよ」
「だからって、なぁ?」
呆れたような口調だが、暮人の目には爛々と光が灯り始めていた。
どれだけ上品な皮を被ろうとも、彼等の本質は人斬りだ。暴力を信奉し、その手に肉を断つ感触を味わいたくてうずうずしているのだ。
「まあ、お上の御墨付きだしな。“パスポート”は出るのか?」
「ええ、勿論よ」
「そいつは、良いや」
軽快に会話する二人。しかし、両者の瞳に光は無い。
只々、ドロドロとした汚泥を煮詰めたかのような暗い暗い瞳がそこにあるのみ。
対暗部用暗部然り、人斬り一族然り。
その背に背負う業の深さだけを見るならば、恐らく学園内でも屈指だ。
その事を知るものは、教師の中でもほんの一握り。無論、生徒は知るはずもない。
知らなくていいことだ。
彼女等が後ろ暗く、それこそ二の足を踏むような闇の世界を知ることなど必要ない。
少なくとも、楯無は妹を案じて遠ざけた。暮人は、常人という皮を被った。
そんなものは、本来ならば一高校生が身に付けるようなモノではない。持つような覚悟ではない。
だが、それが今の世の中だ。きらびやかな表とは、違い常に裏はドロドロとしている。
コインの表と裏は交わることは無いのだ。