ジゲンの太刀に後退無し   作:他意は無い

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ニ拾一

 昨今の犯罪事情というのは、中々に綺麗なモノとなっている。

 例えば、泥棒。空き巣。彼等は、雑多な格好として普通の服ではなく、スーツ等を下見や実行の際の格好として採用している場合があるのだ。

 理由の一つとして、スーツならば昼間から街中を歩き回っても不自然さは然程無く、鞄と人当たりのいい笑みさえ浮かべていれば、営業の人間とでも見られるためだ。

 更に、下見と実行を同時に行うこともできる。今の世の中、夜よりも昼間の方が人は油断しており、楽に侵入できる。

 場合によっては、玄関からの出入りすらも可能。そして狙われるのは、へそくりの類いだ。

 狙われる理由は、偏にそれが家族にも隠している金であるため。

 その手の金は、犯人が捕まるまで行方が分からないので諦めよう。

 

 閑話休題

 

 兎に角、スーツというのは正装であると同時にカモフラージュ効果もあるということだ。

 そして、それは万国共通である。

 

「……………」

 

 フランス某都市。ビル街に埋もれるように建つ横にも縦にも大きな建物があった。

 ここは、基本的にビル街の住人も近寄らない不可侵領域のようになっている。

 理由は単純で、ここが女性権利団体のアジトだからだ。

 彼女等の質が悪い所は、その数と話の聞かなさだ。

 モンペ等と同じように、ヒステリーを発症しており、兎に角話を聞かない。

 そのような相手には、理詰めの言葉がいいとよく言われるが、彼女等の場合は形勢が悪くなると、ISという名の暴力で訴えかけてくるのだ。

 何より、政治関連にもなまじっか手が届くせいで警察に届け出ても揉み消されることが多い。

 その結果泣寝入りどころではなく、国から追い出されたものも少なからず居た。

 だが、彼女達には何の感慨もない。むしろ、自分達に歯向かうのだから当然だ、と考えている節さえあるほどだ。

 そんなもの、砂上の楼閣でしかないというのに。

 

 建物の前には、一人分の人影があった。

 ダークスーツに、黒いネクタイを締めており、更に黒革手袋に包まれた左手には、黒い鍔と柄を持つ機械的な剣の柄を持っていた。

 

「…………よし、行こうか」

 

 目を引くのは、男の顔。そこには、真っ白で目の部分のみ空間の空いた仮面が着いているではないか。

 彼は、真っ直ぐに女権団の本部へと足を進める。

 自動扉を潜り、中へ。

 本部内は、広々としており高級なホテルのロビーを思わせる豪奢な作りであった。

 だが、それを全て台無しにするような香水と化粧水の強烈な臭いが漂っており、彼は自身の内側から競り上がってきた吐き気を飲み下すことに苦心していた。

 幸いと言って良いのか、ここには受付嬢すら居ない。

 だが、入り口正面には受付のようなものがあった。

 彼はそこへと足を運び、中を覗き込む。

 どうやら、余り使われていないらしく、小綺麗ではあったが、隅の方には埃が目立つ。

 そんな状態で、彼は目当てのモノを見付け、手を伸ばす。

 

「内線の………一番、で良いのか?」

 

 据え付けの白い電話の受話器を取って、そのまま内線一番のボタンを押す。

 

『なに?』

 

 耳に押し付けずに、微妙に距離を開けた受話器から女の声が聞こえた。

 因みに、耳に押し付けないのは人間には耳紋と呼ばれる指紋に似たモノがあり、身元特定に繋がる為である。

 

「イマカラ キサマ ヲ コロシ ニ ユク」

 

 片言とボイスチェンジャーの合わせ技で受話器に喋りかけ、相手の返答を聞く間もなく、受話器を切った。

 当然、折り返しが掛かってくるが無視だ。

 何故暗殺ではなく、こんな敵を増やすような事をやったのか。

 答えは単純、詰まらないから。

 仮に仮面を着けていなければ、彼の悪鬼のような狂笑を見ることができたことだろう。

 

 悪夢の始まりだった。

 

 

 /

 

 

 女性権利団体フランス本部。そのトップ、ルミューズ・マフタン。

 彼女は、苛立っていた。

 あと少し、あと少しでデュノア社を手中に収めることが出来た筈だった。

 だが、落ち目の企業であるくせに、相手は愚かにも抵抗し、あまつさえ娘を国外、それも手を出しにくいIS学園へと高跳びさせてしまったのだ。

 これにより、計画は練り直し、現社長を引きずり落として、傀儡を据えるという手段はとれなくなった。

 何故、ここまで落ち目の会社を狙うのかと言えば、周りが気付きにくいからだ。

 波に乗っている会社は、当然世間の目も集まっている。そんな場所で事を起こせば、マスコミなどにも圧力をかける前にスッパ抜かれかねない。

 それに比べて、大企業とはいえ国からも見放されかねない今のデュノア社は社長が変わったとしても、新聞の端に小さく乗る程度だろう。

 

 ついでに、この乗っ取りは政府の一部高官も絡んでいる。

 ISを開発する企業は、ぶっちゃけ軍需工場のようなものだ。作り出す兵装の数々は、その質も相俟って国の軍事力増強へと繋がる。

 これは足掛かりだ。水がジワジワと土壌を浸食するように影響力を広げていき、最後に刈り取る。

 どちらも思惑があるが、その目的は甘い汁を啜る事にある。

 

 そんな日に、内線が鳴り響く。

 

『イマカラ キサマ ヲ コロシ ニ ユク』

 

 受話器の向こうより聞こえたのは、片言の機械音声。

 誰かを問う前に通話は切られ、かけ直しても相手は出ない。

 普通ならば、悪戯電話とでも思うだろう。しかし、今回の着信は“内線”だ。

 ゾワリ、とルミューズはうなじの産毛が逆立つような寒気を覚えた。

 

 電話は何と言った?日本語だが、お前を殺す、と確かに言っていた。

 それが内線で掛かってくる。つまり、既にこの建物に侵入されているということ。

 その事実に気付くと、言い様のない悪寒が彼女を襲う。

 

 本能が叫ぶのだ、直ぐにここから逃げろ、と。

 だが、どういうわけか最上階に設けられた執務室。その座り心地の良い椅子から立ち上がれずにいた。

 手が震える、足がすくむ、腰が抜ける。

 兎に角、立ち上がれない。

 

 不意に執務室の扉が叩かれた。

 特に特筆することもない、平凡な三回のノック。

 答えようと口を開く。しかし、口はカチカチと歯が打ち合うばかりで言葉はでない。

 扉は、家主の返答も聞かずにノブが捻られ、ゆっくりと押し開かれた。

 

「っ!?」

 

 瞬間、濃密な血の臭いが執務室に侵入しルミューズの鼻孔を刺激した。

 

「ヨォ マタセタナ」

 

 片言の機械音声が部屋に木霊する。

 両開きの扉が片方だけ開かれ、姿を見せたのはダークスーツに身を包み、黒い革手袋を着けた男。顔は仮面が覆っており、ルミューズからは見ることが出来ない。

 問題なのは、彼の両手だ。右手には、黒い刀身を持つ一振りの機械チックな見た目をした刀が握られており、左手には赤く液体の滴る毛の塊のようなモノが握られている。

 

「ミヤゲ ダ ウケトレ」

 

 男の左手が振るわれ、ルミューズの目の前にナニかが転がる。

 それは、人の頭部であった。眼鏡を掛けた金髪の女の頭部。

 ルミューズには見覚えがあった。それもその筈、彼女の秘書を務めていた女性だ。

 彼女も計画に荷担しており、千冬とまではいかなくとも、体術に秀でた面があった。

 だが、首を放った男の体には傷どころか、汚れ一つも見受けられない。強いてあげれば、真っ白な仮面に跳ねた血の痕か。

 

「な、何で………………」

「ア?」

「何でこんな…………」

「シゴト ダ」

 

 男は、何のこともないかのように、仰々しく両手を持ち上げると機械音声で語る。

 

「タノマレタ オマエラ ジャマ コロシ リョウショウ」

 

 言いながら、彼が懐から取り出したのは手の平大の一枚のカードだ。

 

「マーダーライセンス ダ」

 

 マーダーライセンス。殺人免許証。裏でしか回らない代物であり、仮に捕まった際にもコレ一枚で無罪釈放だ。

 国家間も自由に行き交うことが出来、その際には専用機が手配される。

 コレが発行されたということは、即ち国がその殺しを認めた事に他ならない。

 

 ルミューズは悟る、自分達は切られたのだと。恐らく何処かから計画が漏れ、その際のスケープゴートにされたのだと理解した。

 だが、怒っても哀しんでも、彼女に何かが出来るわけではない。

 彼女の適性はCランク。代表候補生にすら名も挙がらない、一般女性Aでしかなかった。

 というよりも、そもそもの話女性権利団体でマトモに戦えるものなど一握り居るか居ないかと言った所なのだ。

 彼女等の武器は、数と権力、そして煽動能力であった。

 ここで注目すべきは、その中に武力が入らない点。

 当然だ。彼女たちの頼みの綱はISのみ。それこそ国家代表等でも無ければ、武力など一般人レベル。下手したら下回るかもしれない。

 だからこその権力と数なのだが、それが通用しない圧倒的な暴力にはやはり、弱かった。

 

 何故こうなったのか。ルミューズには分からない。

 ただ一つハッキリしているのは、

 

「クビ ヨコセ」

 

 自分がここで死ぬ、ということだ。

 

 

 /

 

 

 噴水のように血の吹き出す目の前の、死体を見ながら、仮面の男、暮人はため息をついていた。

 せめて、ISとまでは行かずとも特殊部隊擬き位ならば出てくると思っていた。

 しかし、現実は雑魚ばかり。銃を撃ってもマトモに当たらず、近接戦等お話にもならない。

 ミスったか、等と考えながら、暮人は質の良いカーペットの廊下を歩む。

 時折、ズチュリ、と粘性な音が響くが彼の足を止めるほどのモノではない。

 

 まだ、仕事は終わっていないのだから。

 

 

 /

 

 

 女性権利団体のフランス本部が落ちて一時間も経っていない。

 だが、デュノア社に居た女権団のメンバーたちは異変に気付き動きを見せていた。

 連絡がつかなかったからだ。かといって戻るわけではない。

 否、それは正確ではない。

 

 戻れない、という方が正しいか。

 

「何なのよ…………何なのよアンタ!!!」

 

 フランス第2世代ラファール・リヴァイヴを纏う女は叫ぶ。

 彼女の前には死神が立っていた。

 ダークスーツ姿の仮面を着けた死神だ。

 普通の襲撃者ならば、彼女ともう一人だけで十分に対応できる。ISの前に、生身の肉壁を幾ら用意しても鴨撃ち程度にしかならないからだ。

 しかし、目の前の男は違う。

 その証拠として彼女の相棒は、少し後方でISを纏ったまま、袈裟斬りに真っ二つにされた。

 シールドエネルギーも、絶対防御も関係無い。況してや装甲など紙屑扱い。

 彼女達は知るはずもないが、猿叫と呼ばれる圧からの一太刀は如何なる剣豪でも躱せと呼ばれるモノなのだ。

 因みに、彼の持つ剣は何でも斬れるとかそんなものではなく、刀身が欠けても自動的に修復されるというものだ。

 これは、携行性を重視した上での装備。刀のように鞘がないため、スーツ姿でも目立たず持ち運べる。

 もっとも、彼が貸し出されたISを未だに持っていれば量子変換して、どんな武器でも持ち運べるのだが。

 

 まあ、今は目の前の事だ。既にスーツ男は、必殺の蜻蛉をとっている。因みに、彼の好みの構えで行くと、この体勢から切っ先を背中へと落とし込み柄頭が前方斜め上を見るような形になる。

 蜻蛉でも可能なのだが、これは単なる振り下ろしではなく、兜割りを狙うための構えだ。

 その威力は、分厚い鉄板も一太刀で寸断してみせる。

 それを人体に食らわせれば、どうなるか。

 

「―――――あ」

 

 警戒していた筈だ。ハイパーセンサーも、確りと動いていた。

 だが、気付けば剣の間合いに侵入されており、目の前には剣を振り落とした姿の男の姿があった。

 それが、彼女の最期の記憶。

 独特の粘性な音が響き、脳天唐竹割りの真っ二つ。グロい断面を晒しながら、彼を避けるように前へと倒れた。ラファールが格納されないのは、コアのギリギリまで破壊された為だろう。

 契約主は、殺しは認めたが、ISの喪失は認めなかった。そこを配慮しての、仕事も狂人には余裕の事。血に飲まれるそこらの殺人鬼と一緒にしてはいけない。

 

「サァテ シャチョウニ アイニ イコウ」

 

 クスクス、ケタケタ、と彼は嗤う。

 その赤くも黒い足跡は真っ直ぐに目的地へと向かうのであった。

 

 

 /

 

 

『終わったかしら?』

「おお、今さっきな。話もつけた、撃滅終了だ」

『そう―――――そういえば、入金はどうするのかしら?口座、無いわよね?』

「無いな。俺らは、共通財産みたいにそこら辺に放置してるし。必要な分は、適当に持ってくのが俺達だ」

『成る程ね。それじゃあどうする?』

「適当なトランクにでも入れといてくれ。今度帰省するときに持ってく」

『分かったわ。部屋に置いとくけど良いのね?』

「別に盗られても困らねぇし、構わねぇよ」

 

 暫く会話は続き、やがて切れる。

 通話を切った暮人は端末を懐へと収めると、仮面を外して後ろを振り返った。

 

「待たせて悪かったな、社長さん」

 

 ヘラリ、と笑った彼は重厚な執務机に腰掛け剣の切っ先をカーペットの床に突き立て、両手をその柄頭の上に置いていた。

 異常なのは、その刀身から今も乾ききっていない赤い滴が流れ落ちている点。

 

「な、何が目的だ」

「なぁに、大した事じゃないさ。こいつを見てもらおうか」

 

 彼が懐より取り出したのは、一枚のコンパクトディスク。

 

「ま、俺も詳しくは知らない。商人じゃないんでな」

 

 カラカラと笑う彼。

 だが、その姿は常人からして恐怖心を煽るモノでしかない、そんな笑み。

 

「まあ、よく考えてくれや」

 

 その一言が、死刑宣告に聞こえたと、後に社長は語る。

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