ジゲンの太刀に後退無し 作:他意は無い
島津の名前は、裏で有名。その要因は、主に殺戮能力に関してのものだ。
只々、純粋に、異常なほどに、強い。
地上限定だが、生身でISに勝てるほど、人斬りを極めた人種が彼等だからだ。
「はじめまして、島津暮人君」
「…………おう」
場所はフランス。パリに存在する極々一般的なカフェの一席。
向かい合うように座るのは、一組の男女だ。
片やウェーブのかかった豊かな金髪の美女、片や黒髪に目付きの悪い少年。
一仕事終えた暮人であったが、彼は未だにフランスにいる。
一つは、滅多に来れない場所に無料で来れた為。
もう一つは、目の前の彼女が原因だ。
「あら、ご機嫌斜めね」
「抜かせ。仕事中から見てただろうが」
「それなのに、仮面を取ったのかしら?」
「最初から“知ってた”んじゃないのか?」
「ふふっ、どうかしらね」
女は笑うが、その目は欠片も笑ってはいない。
彼女には人としての暖かさと言うべきモノが、感じられない。
普通ならばお近づきになどなりたくもない相手だが、他人への関心の薄い場合は別だろう。
「で?三日も見張って今更接触した理由はなんだ?」
「もう少し会話を楽しまないの?」
「生憎と、俺は会話よりも食い気だ。どうせなら、フランスじゃなくてイタリアに行きたい所なんだがな」
「貴方、学生でしょう?」
「必要な知識を得れれば良いのさ。俺達は、剣を振れればどうでも良い」
そう言い切った暮人。彼も含めて、彼の一家は人殺しの人でなし。
それは、狂気とも言える衝動だ。
「…………良い目よ、島津暮人君。流石は、女性権利団体のフランス本部を一人で潰して、あげくデュノア社に乗り込んで膿を排除しただけはあるわね」
「ご託はいい。いい加減本題に入ってくれないか?」
「本当に、せっかちねぇ。まるであの子みたい」
クスクスと笑う女。だが、瞬きの間にその笑みは消える。
彼女は、妖艶に足を組んだ。たったそれだけの動作で、濃密な色気を感じさせる。
「私達の、“同僚”にならないかしら?」
そう、切り出した。
もしもコレが学園で、切り出したのが教師陣や生徒ならばノータイムで暮人も断った事だろう。
しかし、今回は相手が違う。
「同僚、ね。アンタらが何者か、聞くべきか?」
「名乗らなくても、分かってるんじゃないかしら?」
「いや、今回ばかりはアンタの口から聞いときたいな」
何となくだが、暮人は目の前の女がある意味で自分と似た狂った相手だと感じていた。
「そう。なら、名乗りましょう。私はスコール、スコール・ミューゼル。亡国機業で幹部を務めてるわ」
「てっきり、そっちの計画を邪魔した俺を消しに来たかと思ったんだが?」
「剣一振りでISを無力化する貴方相手に一人で会いに来るわけないでしょ?」
「んじゃ、そこの奴はアンタの連れって訳だ」
特別旨くも不味くもないコーヒーを啜った暮人が示すのは、この席より若干奥にあたる一人の女性。
ロングの髪に、目付きの悪い女性だ。頬杖をついており、反対の手はテーブルの上に置かれ、指で何度も天板を叩いている。
「ええ、そうね。私の恋人なのよ?」
「…………そうか」
珍しくも、暮人の頬がひきつる。
別段、昨今の世の中ならば同性愛も不思議ではない。彼自身も、LGBTに偏見があるわけでもない。
ただ、趣味は悪いな、と思ったり思わなかったり。
「それで?返事を聞かせてくれる?」
「亡国機業、ねぇ………………殺れるのか?」
「場合によりけり、ね。実働部隊に入れば、貴方は前線配置になるでしょ」
「ふーん」
スコールから見ても、目の前の相手は心情を読みづらい。
それは、単純な話、世界的に絶滅危惧種レベルのレアだからだ。
彼女とて、通り雨と言われるような周りへの影響を与えるような存在だ。更に、肉体を機械へと置き換え、常人とは比べ物にならない強靭さを誇っている。妖艶な見た目に騙されて殴り殺される可能性すらあるのだ。
「それじゃあ――――――」
/
欧州への海外旅行を終えて日本に帰国すると、覚える感想としては、湿気が多いことが挙げられるかもしれない。
ついでに、人も多い。人口密度が高く、更に人々が忙しなく歩き回ることから、息苦しさも覚えるだろう。
「隠居か…………ま、するなら海外が良いか」
ISの出現から昨今の世界での共通語は日本語だ。
自由の国等がISの説明書を英語にしろと請求したが、開発者である天災が突っぱねた故の結果だった。
だが、そのお陰で語学に明るくない暮人は、隠居する場合の候補として海外を挙げることが出来ていた。物価の安い東南アジアなどいいかもしれない。
日本に帰ってきた暮人は、そのまま真っ直ぐにIS学園へと向かうことになる。
バックレても良かったのかもしれないが、彼の行く場所など実家位しかない。
ならば観光とも思わなくもないが、生憎と手持ちも殆んど無かった。
九州のくんだりまで行くような額ではなく、ギリギリ学園に戻れる程度。
こんなことならば、もっと持っておけばと後悔するが、此の分フランスで豪遊してきた為に致し方なし。
そんなこんなで帰ってきた暮人だったが、部屋で一息付く間もなく、それどころかスーツを脱ぐ暇すらなく、アリーナへと連れてこられていた。
「………会長さんよぉ、俺は一仕事終えたばかりなんだが?」
「そう怖い顔しないでちょうだい。今回の島津くんの仕事は、もしもの時の備えよ」
「あ?」
「クラス対抗戦の時みたいに、乱入があるかもしれないじゃない。まあ、保険よ」
「アンタが出れば良いだろ」
「あら、お姉さんに戦わせるの?」
「国家代表だろうが」
観客席最上階に通じる通路の暗がりにて、暮人と楯無の二人の姿はあった。
見下ろす先では、今まさに学年別タッグマッチトーナメント一回戦、一夏&シャルル対ラウラ&箒の試合が行われようとしている。
注目の一戦だ。しかし、全員が全員注目している訳ではない。
少なくとも、上二人は注目していなかった。
「久し振りの狩りはどうだったの?」
「まあまあ、だな。大して強くはなかったけども、ストレス発散にはなった」
「そう」
報道規制されているが、フランス女権団本部の潰滅は、世界でも知る人ぞ知るニュースとなっていた。
そして同時に、彼女達を恐れ戦かせる事となる。
フランスで後ろ暗いことが行われていたことは、他の本部も周知の事であったからだ。そんな彼女等が、文字通り全滅。更に相手は、ISすらも歯牙にも掛けず殺し、壊している。
それ即ち、自分達の特権領域を破られているに相違無い。
「ずいぶんと、慌ただしいみたいよ。正体不明の敵だから、かしらね」
「正体不明、ねぇ。仮面一個でここまで変わるか?」
「刀一振りでIS一機潰されるなんて誰も思わないわよ」
良いでしょ、それ。と楯無は暮人が隠し持っている武装を引き合いに出してきた。
彼の振るっていた剣は、ISの技術が流用されている。
刀身は、量子変換であり、刃の再生機能は打鉄の物理シールドの修復機能を当て嵌めたもの。
強度もさることながら、再生するため実質切れ味が落ちることもない。
「…………にしても、暇だな」
「あら、大きな欠伸。お姉さんが膝枕してあげようか?」
「え、別に要らねぇけど?砂利の上で寝ることもあるし」
「貴方の体、どうなってるのかしら」
臥薪嘗胆も真っ青な砂利の布団。チクチク痛いこと請け合いだろう。
だが、その拷問のような場所も理に叶った選択ではあった。
近くには川があり、砂利はどれだけ気を付けても踏めば音が鳴る。
それによって襲撃者感知することが容易になるのだ。
暮人は川原を拠点とすることで『ドキッ!刺客だらけのサバイバル生活~自分以外を全滅させねば終われません!~』という、名称のファンキーさを一ミリも反映していない殺伐家族イベントを乗りきってきた。因みに命名は、彼の母である。
そんな緊張感の欠片もない二人であるが、眼下のアリーナではまあまあの激戦が続いていた。
本人達は至って真面目だ。しかし、ラウラとシャルルが抜きん出ており、タッグマッチということも相俟って残りの二人が目立つ目立つ。
即席のコンビネーションで言えば、一夏とシャルルも悪くないだろう。
だが、見る人が見れば分かる。このコンビネーションはあくまでもシャルルありきだ。
更に言うと、この場で一番善戦しているのは、ただ一人訓練機である箒だろう。
暮人に負けてから、彼女は剣を振るってきた。
二の太刀要らずとはいかないが、その剣技は正に流水の如し。
シャルルの銃撃に対しても剣だけに固執せず、実体シールドを織り混ぜてダメージを削るという堅実な戦法を採っていた。
同じく近接である一夏程の派手さはないが、確かな技術を感じさせる。
学生レベルならば十分見物になる試合。
しかし、それも終わりを告げた。
一瞬の隙をついて、一夏とシャルルがスイッチ、箒は押さえられ不意打ちを受けたラウラの腹部にラファール武装の一つ、盾殺しが炸裂。
パイルバンカーは、言わば杭打ち機だ。その威力は絶対防御を嘲笑うように衝撃を貫通させ、ラウラの体をくの字にへし折る。
それが二発、三発と続き、彼女の心は折れかけた。
だが、そこで思い出す。あの強い背中を。憧れた相手の背中を。
「アアアアアアアアアアッッッ!!!!」
紫電が走り、黒がドロリと溶けていく。
明らかな異常事態。
「行ってくれる?」
「その為に置いてんだろ」
暮人は後ろ手に手を振ると、懐から白い仮面を取り出して顔に取り付けた。
何やら、アリーナでは一夏が騒いでいるが、狂人には関係無い。
観客席の人々は避難誘導に従いながら、それを見た。
黒の上着をはためかせ、掲げられた両手には一振りの黒い日本刀。機械のような見た目だ。
その顔には、表情を一切表に出すことの無い真っ白な面が付けられている。
死神は、真っ直ぐにアリーナへと落ちていく。そして、上段に構えた剣を障壁へと叩きつけていた。
競技用とはいえISの砲撃も防ぐ障壁だ。零落白夜のようにシールドエネルギーを無効化する効果でも無ければ、人力で抜くことなどまず不可能。
その筈であった。
まるで、ガラス細工。障壁の一部が切り開かれ、死神はアリーナへの侵入を成功した。
「サテ アイテ シテヤル」
死神は、真っ直ぐに異形と化したラウラの前へと歩を進め、数メートル前でその足を止めた。
異形、その見た目は、どこか世界最強を思わせる。それに加え、その剣の振りは彼女と同様、更に加えて剣狂いの鋭さを内包していた。
この真似が、未熟者には許せない。
だが、死神にとっては些事だ。真似であろうと何だろうと、強ければ、良い。
それも擬似的とはいえ、世界最強を相手取れるのだ。仮面の下では、チェシャ猫のように口角がつり上がり、その目は瞳孔が開いている。
死神と贋作の戦いが始まろうとしていた。