ジゲンの太刀に後退無し   作:他意は無い

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二拾四

 イベントというイベントが尽く潰れるIS学園。

 当事者たちこそ必死に終結させ死闘のようにも思えるが、第三者からはそうも行かない。

 イベントは潰れるもの。そんな認識が、彼女達には芽生えつつある。

 その芽は、臨海学校にも向けられていた。

 二泊三日の日程であり、初日は自由時間、二日目はIS実習となっている。

 因みに、これが終わると、赤点60の期末試験が待っていたりする。

 

 そんなイベントを控えた週末。多くの生徒は、その日に備えて新品の水着など、買い物に出掛けている者が多い。

 一夏と彼に惚れている面々も、含まれていた。

 

「………釣れねぇ」

 

 そんな暑い日。頭には麦わら帽子を被り、白いシャツに、短パン、サンダル姿の暮人は海の近くで釣糸を垂らしていた。

 リールが付いておらず、所謂のべ竿と呼ばれるもので、扱いが少々難しい。

 もっとも、今回は釣果を得るためのものではなく、単純な暇潰しだ。

 そんなことをする暇があれば、剣を振れ、とも思われそうだが、これも立派な修行のひとつ。

 釣りは、忍耐と集中力、反射神経、洞察力の訓練に向いているのだ。

 まず、釣れるまでマトモに動けない。そして、竿を握る手や、浮きの沈みも見逃すわけにはいかない。

 そして、タイミングを見計らって竿を引かねばのべ竿は釣れない。更に、魚の位置を見極めねば何もない場所に針を打ち込むことになる。

 

 まあ、七面倒な事をペラペラ連ねてはみたものの、一番の理由は精神的な余裕のためだ。

 集中だ何だと、言うが水面をゆらゆらと揺れる浮きを眺めてぼんやりと過ごすと、思いの外早く時間は過ぎていく。

 

「……………む」

 

 右手で持っていた竿がほんの少しだけしなる。

 瞬間、竿は彼の頭上へと振り上げられていた。

 パシャリ、と水面が跳ねて揚がってくるのは銀の影。この季節旬の、鯵である。

 手元へと振り子のようにやって来た獲物を手際よく針から外し、傍らの氷を山ほど入れ、少量の海水を貯めた、かなり大きめのクーラーボックスへとぶちこむ。この際、なるべく魚に素手で振れないことが重要だ。

 顕著なのは、深海魚。彼等は、人肌の熱でも火傷する。

 針に餌を付け直して再び投擲。

 実に穏やかな一日だ。

 

「―――――〆てるが、生で食うのはお勧めしないぞ?」

 

 不意に、暮人はそんなことを呟く。

 この場には、彼以外に人影は見えない。更に、彼自身も顔を前に固定したままであるため何故そんなことを呟いたのか分からない。

 

「へぇー………気付くんだ。凡人の癖に」

「人が確かにそこに“居る”なら分からねぇわけねぇだろ」

 

 ジジッ、と空間にノイズが走り、透明な空間に七色以上の色が出る。

 その波が収まると、現れるのは狂った兎の大天災、篠ノ之束であった。

 

「俺に用事か?」

「まあねぇ……凡人、役に立てよ」

「説明がなきゃ分からねぇな。生憎と、凡人なもんで」

 

 刺の在る口調の束に対して、暮人は余裕な態度を崩さない。

 舐めているとか、そんなことではなく単に興味がないからだ。

 

「ホント、ムカつく」

「一々目くじら立てるなよ、天災。子供の戯れ言位聞き流さなきゃな」

「ムカつく」

 

 彼の口は、皮肉を吐き出すために回り続ける。

 本来ならば何をしでかすか分からない束にこんな態度を取り続けられる者など早々いない。だが、彼女の存在に対して実害が殆ど無く、更にもしもの時に退ける力があるなら話は別だ。

 天災は、人の身で抗えないからこそ、天災だ。ならば、人の身で抗えるものには天災足り得ない。

 

「凡人の癖に生意気」

「お前から見れば、この世の人間全てが凡人だろうが」

「ちが――――」

「違わないさ、天災。あんたが認識する3人、織斑先生の身体能力はスゴいが、少々頭が足りん。篠ノ之は努力してるが、まだ人だ。織斑は………まあ、今後に期待か」

 

 これは、暮人の主観だ。狂人であるが故に、常人か否かを判別できる。

 彼から見れば、大抵の相手は常人足り得た。逆に彼から見ても狂人は、数えるほどにしか居ない。

 例えば、通り雨の女。例えば、彼の家族。

 真の狂人とは、理性と社交性という皮を被り、傍目には常人と何ら変わらないモノなのだ。

 何故なら彼等は、自身が異物であり、バレれば排斥されることを理解しているから。

 故に狂人は、バレないように演技している。

 そこから考えると、束も狂人足り得ないという事になる。

 そもそも彼女は、自分が心許した相手しか認識しないと言われているが、それは単にコミュ障なだけだ。

 なんせその始まりは、周りが理解できない、ではなく、周りが理解してくれない、という部分からきている。

 つまり、最初に周囲に対して諦めたのは彼女の方なのだ。

 その諦めが、他人への棘へと変わり。その棘が周りに刺さることで、更に周囲を遠ざける。謂わば防衛本能にも近い。

 暮人から見れば、彼女は駄々をこねる子供に見えた。

 伸ばされた手を弾き、一人喚いて縮こまった小さな子供。

 

「まあ、なんだ。俺は手を出さねぇよ。のんびりバカンスでも楽しませてもらうさ」

 

 ヘラりと彼は笑うと、釣竿を一息に引き揚げた。

 釣果はまたしても、鯵だ。今回は、青ではなく白の強いタイプである。

 強い日差しを受けて、その体表はキラキラと輝くのであった。

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