ジゲンの太刀に後退無し 作:他意は無い
IS学園の敷地は広大だ。
それこそ、敷地の端など基本的に誰も近寄らないような場所もある。
その一つ、木立の中に暮人の姿はあった。
大きな木の根本で、地面より顔をだした根っこの一部を枕に寝息を立てているのだ。
時刻は昼休みを終えて、五時間目に入ったばかりといったところ。
完全なサボりである。
正直なところ、剣を振るいたい所なのだが、振るえばその音がここら一帯に響く。
何より、ここはIS学園。私有地の森ではないのだ。木を潰すわけにはいかない。
その結果、睡眠と言う暇潰しを行う暮人。そんな彼を監視するものがいた。
彼女は、水色の髪を揺らし口元を扇子で隠すと木に背を預けている。
「………初日からサボるなんて、とんだ不良だわ」
少女は、一度扇子を閉じると、再び開く。そこには『驚愕』と達筆に書かれていた。
そこには、単純な不良としての驚きだけではなく、これ以上彼に近付けない事も含まれていた。
一度、距離を見誤って踏み込みすぎた際に圧を掛けられて以来この距離だ。
悪意に似た感情を持っていたせいだろう。
それは下心。あわよくば、彼の実家とのパイプを作れればと考えていた。
彼の実家は、前述した通り剣術一家。時代錯誤の化け物一家だ。
雲耀という、一種の極致を目指し続け、その過程で過去には死人すら出している。
だが、その実力は確かだ。何せ途中でドロップアウトした者ですら、生半可な軍人を蹂躙するほどに強い。
「でも、接触しなきゃいけないのよねぇ。お上の犬も楽じゃないわ」
少女は、深々とため息をついた。
年若くとも、彼女は対暗部用の暗部の長を務めている。更にロシアの国家代表だ。
彼女こそ、生徒会長を務める更識楯無その人である。
「兎に角、どうしようかしら。悔しいけど、武力じゃ負けてるのよね。となると――――」
「甘いもんでも食わせてくれよ」
「甘いもの……………洋菓子と和菓子はどっちが好きなのかしら」
「意外に可愛いもの食うとかよく言われるぞ」
「そうなの……………………………………あら?」
はて、自分は誰と会話しているのだろうか。
振り向けば片手を挙げた目付きの悪い黒髪の少年。
「別に俺は、邪険にしてる訳じゃない。お茶の御誘いぐらい受けてやるさ」
「…………そう。因みに、何が食べたいのかしら?」
「苺のパンケーキを所望する」
「………………本当に可愛いもの食べるわね」
/
IS学園生徒会。生徒会長、書記、会計の3人が在籍する。
「よく食べるわねぇ……………」
「旨いからな。お代わり」
「こちらをどうぞ」
部屋の中には、甘い匂いが立ち込めている。
楯無が呆れるほどに、暮人は何枚ものイチゴソースとマスカルポーネクリームの乗ったパンケーキを平らげていた。
それらを焼くのは、眼鏡の女生徒。楯無の付人である布仏虚である。
基本的に大抵のことは、そつなくこなす彼女。スイーツ作りの腕も一流に近い。
「ふぅー…………ご馳走さま」
ゲップ、と大きく息を吐いて温くなった紅茶で残りカスを喉奥へと流し込んだ暮人は人心地ついたと言わんばかりに腹を撫でる。
かれこれ二桁は軽く食べただろうか。昼を抜いていることを加味しても相当な量だ。
虚がパンケーキを焼いていたホットプレートや盛り付けた皿などをワゴンに乗せて退出したところで、二人は向かい合った。
「改めて、自己紹介から始めましょうか」
「島津暮人。九州生まれ。趣味剣術」
「早いわよ!?…………………はぁ、更識楯無。学園で生徒会長を務めてるわ」
「へぇー」
「反応薄いわね」
「入学式で演説してたろ」
「あ、そう」
短いやり取りだ。ここで二人は、紅茶に手を出して会話も切れた。
そして、楯無は相手のやりにくさを感じる。
何と言うか、独特なのだ。
バカではない。だが、天才でもない。理路整然とした策士タイプでもなく、言うなれば本能型とでも表するべきか。
もっと言うならば、本能寄りの理性。つまりはハイブリッド。
情報収集は怠らず、その上で事前情報に依存しない。
最も、この楯無の分析は深読みが過ぎるというものなのだが。
単に暮人は、目で見て、耳で聞いて、記憶した事を発しているだけ。
「それじゃあ、単刀直入に言うわね。生徒会に入ってくれないかしら?」
「断る」
「……………入ってくれないかしら?」
「断る」
勧誘は、速攻で断られてしまった。
いや、初めから断られる可能性はあったのだ。実際に、楯無も想定はしていた。
だが、ここまで何の迷いもなく断られると流石に気分が悪い。
「理由を、聞いてもいいかしら?」
「学園では部活に入るのが決まりなんだろ?俺は、入りたいところがあるんでな」
「因みに聞くけど、何部?」
「剣道部。剣を振れる場所が欲しいからな」
暮人としては、巻藁さえあればいい。木刀は実家から定期的に送られてくるだろうし、立ち木打ちに関しては、巻藁で代用する。
「生徒会でも、振れるわよ?」
「生憎と、俺は率いたり指示飛ばしたりする仕事は苦手なんでな」
他の誘えよ、と暮人は笑む。
柔和な笑みにも見えるが、その実、相手の言葉じゃ揺らがないという意思が垣間見える。
「それで?それだけが理由なのか?」
「何を――――」
「態々授業中で人払いした上で俺のところに来たんだ。何か有ったんだろ?」
(本ッ当にやりにくいわね。こっちは、貴方のキャラが掴めないっていうのに)「…………貴方の実家に関係することよ」
「俺ん家?」
「ええ。知らないかしら?裏では貴方の家を出た人は人気なのよ?」
「へぇー」
「聞いたわりには、興味がないのね」
「まあな。剣ってのは、人それぞれなんだ。自分の剣が無い剣士ってのは、二流止まり。家を出たってことは、一流になったか、逃げたかのどっちかだし」
事も無げ。
というのも、彼の家には、秘伝がなかった。
基礎は教える。だが、その先は自分で至らねばならないのだ。
そして、落伍者には何の罰もない。
故に、彼の家に残るのは、本物の剣術バカのみ。
「で?」
「……………私達の飼い主が、親交を復活させてほしいみたいなのよ」
「復活、ねぇ。勝手にそっちが離れたんじゃなかったか?」
「だって、貴方達勝手に動きすぎるんだもの。剣一本で一個師団に挑むなんて無茶無謀よ」
「?俺達には、それしか無いんだから当たり前だろ」
「だからって、作戦も何もかも。それどころか、防弾チョッキの一つも着ないなんておかしいし、隠密性に欠けるわ」
「そりゃ、そっちは暗殺者だがこっちは剣士だ。土俵が違う。それに、俺たちには防御も後退も無いんだ。真っ直ぐ行ってぶった斬る、それだけだ」
脳筋戦法だ。だが、これこそが軍も恐れた気狂い剣法の真骨頂。
「……………じゃあ、協力してくれないのかしら?」
「協力も何も、俺達は適当に動くだけだ。そっちが勝手に依頼して、暴れられる状況でも作ればいいだろ。それに、今回は俺がISを動かしたから、話を持ちかけたんだろ?」
「気付くわよね。ええ、そうよ」
「面と向かってモルモットに成ってくれなんて言われたのは、初めてだったな」
カラカラと笑う彼だが、その話を持ち込んだ政府の人間は笑ってはいられない。
何故なら、その人は精神の均衡を崩して病院送りとなったからだ。
四方八方から殺気を飛ばされて、囲まれればそうなるのも無理はない。
「ホント、厄介だわ、貴方」
「本人の前でそれを言うか?」
「良いじゃない。貴方は気にしないでしよ」
「まあ、な」