ジゲンの太刀に後退無し   作:他意は無い

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 気がつけば、彼は剣を振るっていた。

 朝も昼も夜も。食事と睡眠の時間を除けば、ただひたすらに鍛練の繰り返し。

 最初は、出来上がっていない肉体に配慮していたが、それも一年かからずに終了、後は修羅道だ。

 

 辛くなかったと言えば嘘になる。殺される、と思ったことすらあった。

 

 だが、それ以上に本能が剣を手放さない。遺伝子レベルにまで刻まれた剣術バカの本能が理性も、生存本能すらも叩きのめして剣を振らせ続けたのだ。

 

 手には、血マメが出来ては潰れを繰り返し、酷いときには、ベロリと皮が剥けて血が流れた事もある。

 肩回りや、背筋なども何度も切れては治りを繰り返しており、数ヵ月に渡って痛みが消えなかった事もある。

 

 これはほんの一例だ。他にも、腕の振りすぎで骨が折れたり、爪が割れて剥がれたこともあった。

 

 それでも、振るって振るって、振るい続けて、気づけば彼は次期当主を周囲から望まれるほどとなっていた。

 勿論、やっかみもあった。だが、彼の鍛練を見た者達は揃って口をつぐんだのだ。

 正確には、つぐむしかなかった、と言うべきか。

 それだけ、凄惨な光景がそこにはあった。

 

 

 /

 

 

「――――――んで、これがその時に皮が剥けた痕だな」

「い、痛々しいものをみせるな!私の手まで痛くなるではないか!」

 

 寮へと向かう道を並んで歩く、暮人と箒。

 剣の手合わせを行っていた二人だったが、最後には鍛練の様相で終わりを告げた。

 

 因みに内容は、暮人が剣を振るい反応できれば威力を抑え、出来なければ支障がない程度の威力で叩かれるというもの。

 普通は、逆で反応できれば叩き、出来なければ叩かないだろう。

 しかしそれは、暮人の家から言わせれば生温い。

 

 というのも、正面から、それも剣道の面によって狭まった視界でも見える範囲で攻撃を行うことが大前提であり、それで反応できないというのは単純に注意力と集中力が足りていないということだからだ。

 

 彼の実家では、剣の学習において常に痛みが伴っていた。

 昔から体罰などが信奉されるのは、人間の学習能力において痛みというのが大きな比重を持っているから。

 

 痛いことは、誰しも嫌だ。そして嫌なことは基本的に人間は忘れない。

 更に痛みは、そのまま体の不調に繋がる。

 不調は誰しも嫌であり、そこで体は覚えるのだ。

 つまりは、反応できれば手傷は負わない。その為に視野を広く持とうとする。

 

 まあ、これは第一段階。出来て当然であり、この後は、反応し防御する事、受け流すこと、後の先をとること、等がある。

 最も、暮人はそれらを無視して先の先どころか、後だししても先に攻撃を当てる事が可能な膂力と技量を身に付けるに至ったわけだが。

 

 そんなスパルタな手合わせが終わり、はからずも二人揃って帰ることになったのだ。因みに、暮人は途中で会った山田先生から寮の鍵とその他の説明を受けていた。

 

「島津、剣の振りなのだが――――」

「俺も大分感覚派なんだがなぁ――――」

 

 寮へと向かう道すがら、二人の話題は専ら剣に関する事であった。

 基本は、箒が質問し、暮人が応えるというもの。

 

「だから、そこはギュッでバーンだ」

「成る程、ギュッとバーンか」

「んで、そこはググッとなって、ドンッだな」

「ふむふむ」

 

 ただ、感覚派の会話は要領を得ないにも程がある。擬音のオンパレードであり、身振り手振りもないために、第三者が相当な感覚派でなければ会話の内容を理解することは出来ないだろう。

 

「―――――っと、着いたか」

「む?ああ、もう着いたのか」

 

 いつの間にか、二人は寮の前へとやって来ていた。

 箒にしては珍しく、他人との関わりを楽しいと思っていたのか、無意識の内にその呟きには残念さが混じっていた。

 

 彼女は、天災の妹だ。それ故に、全国津々浦々、様々な場所を盥回しにされてきた。

 そんな状態では、彼女も擦りきれるというもの。

 どうせ直ぐに会えなくなるのだから、と箒は人との繋がりを最小限に生きてきた。

 唯一の心の支えは、初恋の相手と幼少期より振るってきた剣のみ。

 だが、それも中学最後の大会で後者が折れてしまった。

 今でも夢に見る、相手の怯えたような表情。同時に悟った。自分は、憂さ晴らしに剣を振り回していた。暴力を振るっていただけなのだと。

 

 どうしようもなかった。IS学園に入れられてからも、剣を振るってはみたがどうしても雑念が払えなかった。

 そして、今日彼と出会う。

 千冬のような剛剣だが、彼女以上に苛烈な炎のような剣。

 

「…………なぁ、島津」

「あ?何だよ」

「お前は、自分の剣をどう思っているのだ?」

「どうって………………急に何だよ」

「私は―――――」

 

 そこで彼女が語ったのは、全国大会での顛末であった。

 箒の話を最後まで聞いた暮人は頭を掻く。

 

「それで?俺の剣への認識を聞きたいってのか?」

「ああ」

「ふむ…………」

 

 考え込む暮人。そして、右人指し指をたてた。

 

「鉈の重さに、剃刀の切れ味」

 

 次に中指を立てる。

 

「折れず、曲がらず、よく斬れる」

 

 暮人はピースサインを箒へと突き付けた。

 

「刀の謳い文句だ。どっちもその根底にあるのは、人を斬るってことだ」

 

 指を戻して再び人指し指を立てた暮人は、空中に何度もえずいて円を描きながら理を語る。

 

「剣は、凶器で。その剣を扱う剣術は殺人術。活人剣とかもあるが、これは殺人剣ありきの理論だしな」

「…………」

「だから、俺は暴力を肯定する。剣術自体が殺すための技術で、殺人は究極的な暴力じゃねぇか」

「島津は、他人を傷付けるのが怖くはない、のか?」

「全く。というより、俺とお前じゃ前提が違うだろ」

 

 困ったように小首を傾げる箒に対して、暮人はニヒルに笑う。

 

「俺は、俺のために剣を振るう。生憎、他人の思いを背負ったりして重くしなきゃならないほど、俺の剣は軽くないつもりなんでな」

 

 暮人からすれば、誰かを守ったりする感情を理解することは可能だ。しかし、共感は出来ない。

 結局、最後にものを言うのは自分の力。

 何より、彼には自負があった。

 

 自分の剣は、誰よりも重い、という自負だ。

 

「ま、そんなのは個人次第だろうがな」

 

 ヘラリと笑うと、彼は一足先に寮へと入っていった。

 その背を見送った箒は、揺れる。

 自分には、彼処までの自負をもって剣を振るってきただろうか、と。

 

「私の剣は………………」

 

 答えは、まだ出ない。

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