ジゲンの太刀に後退無し 作:他意は無い
IS学園は、その扱う分野からか世界各地から入学してくる。
そんな彼女達の為に食堂には多種多様な料理が出されるようになっていた。
「…………ガツガツ」
右手にスプーンを持ち、左手でピザを切り分け口に運ぶ。
四人がけのテーブル席を一人で占拠し、所狭しと料理を置いた暮人は、片っ端から夕食を平らげている所であった。
彼を遠巻きに眺める者達は、挙ってその健啖家ぶりにヒソヒソと言葉を交わす。
元々、女子校の様相を呈していたのだ。男が浮くのも当たり前というもの。
何より、彼の雰囲気と食べる量は異質すぎた。
大皿のカレーライスに、Lサイズピザ。ボウル山盛りのグリーンサラダに各種フライの盛り合わせ。
明らかに一人で完食するには多すぎる量だろう。
それが、まるで排水溝に流す水のように目減りしていくのは圧巻の一言。
十分後には、完全に料理達は消え去りスッカラカンの皿やボウルだけがその場には残っていた。
だが、これで終わりではない。暮人は席をたつと食器を重ねてカウンターへと返し、再び何やら注文し始めるではないか。
そして、彼が受け取ったモノにざわめきが加速する。
「うん、旨い。やっぱり、甘味は至高だな」
柄の長く、先端が小ぶりなスプーンを扱い、暮人は舌鼓を打つ。
彼が食べているのは、食堂でも有数の大きな大きなイチゴパフェ。その傍らには、ワンホールのイチゴのタルトが鎮座していた。
甘味。それも圧倒的な甘味だ。女子が食べればその後の食事制限で四苦八苦することになるだろう。そして、血糖値がマッハだ。
生徒会室での一件のように、彼は甘味を好んでいる。
健啖家であり、更に甘党。
普通ならばぶくぶく太ってコブタ一直線なのかもしれないが、その摂取カロリーを上回るレベルの消費量を誇る筋肉があるため無問題。
ある意味では、理想的な体だろう。代償として、肉体をぶっ壊されるが。
「――――――ふぅ、ごちそうさま」
なるべく味わいながら、パフェとタルトを食べ終え、お茶を飲み干す。
恐らくこの一度で、成人男性が摂取するカロリー数日分を彼は食い終わった事になるだろう。
その後、楊枝を咥えた暮人は食器を片して食堂を出た。
彼の足は、真っ直ぐに自室へと向かう。寮の部屋割りは基本的に二人で一部屋なのだが、彼は一人部屋であった。
単純に、ハニトラが効果がないと判断された事と、彼の実家より送られてくる物騒な品々による怪我人を出さないためだ。
「ん?」
実家では基本的にかぎを使わない彼は、ドアノブを捻って、開かないことに首をかしげた。
教師陣の考えは兎も角として、彼は盗られて困るものなど特にないと思っている。
唯一挙げるならば、今彼の尻ポケットに入っている財布ぐらい。スマホなどに関しては、元々持ち合わせてはいなかった。
元より鍵など閉める気が無いために、鍵は部屋の中だ。となると、閉め出された形となる。
扉を壊すことも考えたが、剣以外は比較的マトモである彼はその後を考え、寮監の部屋へと向かうべく踵を返した。
「意外。問答無用で壊しちゃうかと思ったんだけど」
暮人が扉の前から去って少し経った頃、扉が開くと中からひょっこり顔を出す楯無。
今回の一件は彼女の悪巫山戯によるもの。
仮に扉を破ってくれば、そのままからかいながら、鍵を閉めることをそれとなく促すつもりであった。
だが、結果としては極々普通の人間と同じ反応をして、アッサリと寮監室へと向かう。
チグハグな印象を与える。
生徒会室で己を翻弄した姿。剣道場で見せた剣士としての姿。食堂で見せた健啖家としての姿。
特に二番目は苛烈であった。
だが、それも箒との立ち合いまで。彼女と剣を交えると、その覇気は質を変えて炎は水へと変わっていた。
「面白いわねぇ」
楯無は、笑みを浮かべ部屋を出ると鍵を閉め、ドアノブへと引っ掛けその場を去っていく。
/
朝。未だに、朝日も昇らない時間帯。グラウンドの端では、風を切る音が響いていた。
「4996…………4997…………4998…………」
モウモウと上半身より蒸気を立ち上らせ、黒の袴に着物をはだけさせた姿の暮人がそこにいた。
彼の手には、身の丈以上の丸太に鋼の持ち手を付けたような武骨な代物。
これは、暮人専用の素振り用の棒。彼の実家では、個人それぞれに専用の素振り棒が存在していた。
例えば、父ならば小振りな木刀、母ならば物干し竿とも呼べるほどに長いモノ。
その他にも、形状は様々。中には、異国の剣を象った物もあった。
そして、暮人が振るう物は、間違いなく歴代でも最重量の代物。そもそも、並みの人間では持ち上げることすら不可能だ。
況してや、それを打ち込みの要領と速度で振るっているのだから、化け物さが滲み出る。
「――――5000…………1…………2…………」
5000回の素振りを終え、今度は右手と左手の位置を入れ換えて、踏み込みの足を変えながら素振りを行う。
合計一万回の踏込み素振り。
「凄まじいな」
「……………5000……何か用か?」
素振り棒を地面に突き立て、暮人は振り返る。
そこに居たのは、白ジャージ姿の織斑千冬。
胸の下で腕を組んだ彼女は、ジッと彼の握っていた素振り棒を見ていた。
彼女も世界最強を冠する存在だ。特にその馬力はかなりのモノ。
ではあるが、目の前の少年には負けているだろうと感じていた。
「いや、流石は島津の家だと思ってな」
「……………?」
「一度だけだが、お前の実家で学んだ剣士と剣を交えたことがある。最も、途中で逃げ出したらしいがな」
「へぇー」
IS学園に籍を置く者からすれば垂涎の状態なのだが、暮人は気の無い返事。
彼からすれば、ISでの世界最強など宇宙服で喧嘩している様にしか思えない。
確かに派手だ。世界的にも大々的に放映されるISバトルは手に汗握るモノだろう。
しかし、暮人のみならず、彼の家系は基本的にその手の事には興味が薄い。
彼等にとって信奉すべきは己の肉体、そして修めた技術。
実戦では、どんな手を使うことも認めるが、己は使わない。
「お前は、次期当主、だったな」
「アンタの弟のせいで頓挫してるがな」
毒のある返答。だが、千冬にも分からなくはないこと。
自身の親友が噛んでいる可能性も高く。そして、繋がりが無いであろう暮人は完全なトバっちり。
「……………」
「カッ!そんな顔すんなよ。別にアンタを責めてる訳じゃない。ただ、毒の一つでも吐かなきゃやってられないって話だ」
「…………だが、授業を受けるつもりはない。違うか?」
「さあ、な」
言葉を濁した暮人は、素振り棒を肩に担ぐと後ろ手に手を振ってその場を離れた。
その鍛え抜かれた背中を見送りながら、千冬はため息をつく。
彼女が思うのは、自身の弟について。
一週間。いや、正確には残り6日だが、自分に頼ってくる素振りもない。
正直な話、認識が甘い。それどころかお粗末と言う他無い。
相手は、高飛車であり傲慢さも見え隠れするが代表候補生なのだ。おこぼれや、賄賂で成れるものではない。
仮に慢心状態で相手をされて、漸く勝ち筋が見えると言うレベル。
出来ない事を、出来ないと言うことは恥ずかしいことではない。むしろ、そのまま何もせずに出来ないままの方がよっぽど恥ずかしい。
一夏はそこをはき違えた。
家族を頼ることは間違いではない。いや、むしろプロフェッショナルが居るのだから頼るべきだろう。
「ままならんな」
彼女の呟きは、校庭に融けて消えていった。
今更の補足ですが、このお話のアンチ・ヘイトタグは主人公の言動的にそうなりやすいと判断してのモノです
ですので、過度なアンチ等を求められる方はご理解くださいませ