ジゲンの太刀に後退無し   作:他意は無い

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 時は流れて、今日はクラス代表決定戦。アリーナには、クラスメイトのみならず多くの生徒が集まっていた。

 

「で、やっぱり貴方は行かないのね」

「あ?」

 

 ブン、ブン、と何度も何度も丸太を振るう暮人に、楯無は呆れたような表情だ。

 本当ならば、彼もクラス代表の候補に挙がっていた可能性もあった。

 しかし、セシリアとの一件で周りが飲まれ、一夏も巻き込む間も無く彼は教室を出た為にこの話は机上の空論を出ない。

 

(それにしても、スゴい力よねぇ)

 

 目の前で百キロは超えているかもしれない丸太が何度も振るわれるのを見るのは、中々の迫力がある。

 楯無は、どちらかと言うとスピード寄りのバランス型。合気を基にしている。

 対する暮人はパワー型。一撃必殺こそが至上であり、その為にすべてを磨いている。

 

 さて、散々暮人をパワー型パワー型と言ってきたものの、剣術で重要なのは間の取り方だ。

 近すぎれば威力が出ず、遠すぎれば当たらない。

 更に言えば、刀は単に振り回すだけでは相手を断つことができない代物だ。

 刃筋を立て、真っ直ぐな軌道で、踏み込みと振りの動きを一致させる。更にそこから、相手の呼吸を読み、間を測り、外すことが肝要。

 

「ねぇ、島津君」

「なんッ、だッ?」

「貴方ってISには、乗らないの?」

「興ッ、味ッ、ないッ、なッ」

「けど、データとりはしなきゃいけないわよ?織斑君は、専用機を渡されてるし。貴方にも国から打鉄が支給されるしね」

 

 打鉄。第二世代機と呼ばれるモノであり、日本が開発した機体だ。

 防御寄りのバランス型であり、他の機体に比べて若干小型。装備は、アサルトライフル、近接ブレードが主であり、更に両肩に再生する実体盾が1つずつ装備されている。

 

 ただ、現行の代表候補生や国家代表等は基本的に第三世代機に乗っているためどうしても機体性能差があることは否めない。

 勿論、機体性能差だけで全ての勝敗が決する訳ではない。乗り手の実力も反映されて、初めて勝敗は決まるのだから。

 というより、初心者に癖の強い第三世代機を充てることがそもそも間違いだろう。

 自転車に乗れない人間に、何の説明も無く曲乗りしろと強要している様なものだ。

 間違いなく、失敗する。

 

 閑話休題

 

「島津君は、国が嫌いなのかしら?」

「おう」

 

 ISの話題には、食いつかないと判断したのか楯無は話題転換も兼ねて、気になることを問うた。ノータイムで返事が返ってくる。

 

「どうして?」

「どうしてもこうしても…………いきなりやって来て、モルモットに成れって言われたんだぞ?普通、嫌いになるだろ」

 

 元々、暮人には愛国心は無い。基本的に国への感情は、どうでも良い、であった。

 つまりは、±0であったのだ。しかしそれも、操縦者の一件で-へと振れた。

 更に言うと、今の彼は日本の預かりだが、国籍は剥奪されて無国籍状態でもある。

 これは、対外的な措置のためだ。一つの国で縛ってしまえば、それはそのまま各国からの不平不満となってその国へとのし掛かってくる。

 上層部にはそれに対応できる度胸も力もなかった。

 故に、交渉して己の国に引き込める、というポーズのために国籍を剥奪したのだ。

 そこに暮人の感情は一切挟まれていない。国という単位に、個人という重りは何の意味もなさないのだ。

 

「俺はただ、剣が振れればそれで良い」

 

 暮人は、丸太を担ぐと夕暮れの空を見上げた。

 

「結果も、意味も、周りも、人も、国も、世界も必要ない。俺は、俺達は、剣が振れればそれで良いんだ」

「………………強いわねぇ」

「それは………どうだろうな」

 

 

 /

 

 

 翌日、クラスで重大発表が行われている頃、暮人の姿は屋上にあった。

 最早教室にも行く気が無いのか、ベンチに横になってぼんやりと空を見上げる。雲がないため、太陽の光が目に少し痛いが、動く気にはならないようだ。

 穏やかな一日。鍛練の時間と実戦の時間が減っていることは不満に思えるが、もとより一人の時間を比較的好む彼にとっては、この穏やかな時間も嫌いではなかった。

 

「………………くぁ………」

 

 一つ、大きな欠伸をして目を閉じる。瞼の上から光を感じるがそれを無視して大きく息を吸って、ユックリと吐き出した。

 徐々に呼吸を落ち着かせていき、意識も徐々に溶けていくようにイメージする。

 

 だが、不意に嗅覚が甘い匂いを嗅ぎ取り、瞼を差していた光が遮られて影になる。

 

「うーん…………体はスゴいけど、凡人だよねぇ?」

「……………人の面見て凡人か?酷い言い草だこって」

 

 目を開けると、そこには整った顔立ちだが目の下に隈のある、メカうさみみの女性が居た。

 

「この束さんに掛かればどんな奴も凡人だからねぇ。仕方ないよねぇ」

 

 女性は、暮人が起きるとクルリと回りながら距離をとった。

 

「束……………ああ、篠ノ之束か。ISの生みの親」

「呼び捨てすんなよ、ボンクラ」

「あんた、博士号取ってないだろ」

 

 凄む束だったが、身を起こし立ち上がった暮人は柳に風と受け流している。

 その態度が、彼女は気に入らないようだ。

 

「ちょっと黙ろうか?」

 

 スッと、それこそ大抵の実力者では気づけない踏み込みから、彼女の細指が暮人の首を狙う。

 だが、空を切った。狙われた彼が、後退して躱していたからだ。

 

 束の内側で疑問符が上がる。

 彼女は自称、細胞レベルでバグっている。その身体能力は千冬と同格か、下手すれば凌駕しているかもしれない。

 故に、言っては何だがかなり強い。

 

 そんな彼女が、ただ避けるだけの暮人を追いきれない。勿論、発明品なども使っていないため全力とは言えないが、彼とて刀どころか反撃もしないため、ドッコイだろう。

 それだけではない。追い込むように束は動いているのだが、いつのまにか円を描くようにグルグルと屋上を回ることになっている。この間に、植えられている花壇などに踏み込むなどもない。

 

「……………チッ」

 

 このままでは埒が開かないと、束は手を止め立ち止まった。

 暮人も同じく、一定の距離で立ち止まる。

 

「アンタ、大分読みやすいな」

「は?何言ってんの」

「頭良いのに、思考がガキだって言ってるのさ」

 

 見下す相手にここまで言われて、束の視界が赤に染まる。そこで暮人は手を前に出した。

 

「ほら、カッとなった。成長しきれてない子供の癇癪と一緒じゃねぇか。そんなんだから、宇宙服で戦う変な世界になるんだ」

「……………」

 

 宇宙服で戦う、というところで視界が元に戻る。そして、束の内側に現れるのは何だこいつは、という疑問だ。

 完全にペースを握られていることは、この際目を瞑る。

 

「調べたからな。ISは一回世に出てる。けど、認められなかった。だから、派手なことをしようって事だったんだろ?」

「…………」

「けどさ、だったら何でミサイルなんか使うんだよ。宇宙に行って、全世界中継でもすれば良かったじゃねぇか」

 

 暮人の疑問。というよりも、これは凡人と天才の視点の違いから来ることだ。

 

 一を聞いて、十を知る。という言葉がある。これは天才を指したモノだ。

 つまり、天才は一端を知るだけでその全貌を理解できるということ。

 対して、凡人は一を聞いて、辛うじて二の触りを知る程度だ。

 つまり、凡人は絶えず一を聞いて一を知り、積み重ねていかねばならないということ。

 

 十年前、白騎士事件で世界はISの戦闘能力という一端を知った。しかし、悲しいことに世界は天才の集まりではない。割合的には凡人が多いのだ。

 結果として、世界は戦闘能力と女性しか扱えないという面ばかりを見て、他には気付くことはなかった。

 更に、発信者である束がそれ以上の一を示さなかった為に、彼らには積み重ねるべき正しい一が見当たらず、ただ知っている一の上に不純物という泥を掛けるに留まっていた。

 

「なあ、篠ノ之束。世界は、存外バカ何だぜ?一から十とは言わないけど、半分は教えてやらねぇと真っ直ぐ進めないバカばかりなんだ。基礎も何もない所に、アンタはビルを突き刺した。けどよ、アンタは原始人にビルをやって意味があると思うのか?精々が住み処になるだけで、会社にはならないだろ?ガキみたいに癇癪起こして逃げ回るのも結構だが、もう少し色々と教えてやるべきだったんじゃないか?」

「…………」

 

 一瞬だけ、口を開いた束だったが言葉は出ない。

 何故ならそれは、束自身が切り捨ててきたモノだから。

 分かっていた筈だ。理解していた筈だ。何せ彼女が常日頃から言ってきた事ではないか。

 

 自分は天才であると。世界は理解できないバカばかりであると。

 そんなバカに、天才の考えを理解させ正しく使ってほしかったならば、一から十まで噛み砕いた説明をし、懇切丁寧に教えるべきではなかったか。

 それでも良い、と。少しでも分かってくれて、嬉しい、と理解を示すべきではなかったか。

 

 少なくとも、理解されないから派手にやって認知してもらう、という行いは癇癪を起こした子供と何ら変わり無い。

 

「なあ、天才。アンタが我を通したかったなら、凡人の視点に降りるか。若しくは――――世界滅ぼすぐらいしなきゃならなかったんじゃないか?」

 

 風が大きく吹き抜けた。

 これが、剣狂いと天災の初邂逅。

 

 それは決して穏やかなものではなかった。

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