僕らのヒーローアカデミア ~ミラージュたちを添えて~   作:名無しの百号

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 走る、走る、走る。

 捕まったら何をされるか解らない。

 後悔した。

 こんな場所まで来るんじゃなかった。

 まるで戦争でも起きたかのような爆心地。

 そこにいた。

 多少残った前世の記憶、その中にも無いような異様な男。

 怖気が走り、走馬燈が見え、そして――死を覚悟した。

 言い様のない悪意。

 ボロボロに見えたがしかし、その身体から感じる恐怖は底が知れない。

 思う。

 ――“人”は、ここまで逸脱出来るのか?

 本能で思う。

 「ああ」は成りたくない。

 あの言葉が脳裏から離れない。


 ――キミの個性をくれないかい?


 逃げられたのは、俺の運が良くて、ヤツが死に掛けだったからだろう。

 酷くボロボロだった。

 それでも俺は、怖くて――全力で攻撃した。

 四年も前の話だが、俺は今でも覚えている。

 本格的に鍛え始めたのは、多分アレが切っ掛けだ。

 きっと、ヤツは死んでない。

 備えなければ。


特訓、特訓、更なる特訓

 

 キミたちはヒーローになれる。

 

 綺羅星のように輝くNO.1ヒーローからの言葉に、緑谷は泣き崩れた。

 爆豪だって憧れの人からの言葉だ。芯に響いただろうさ。

 まあ、本音を言えば俺だってちと感じ入った。

 

「まあ、そうは言ってもそこの緑谷――いや、出久少年、キミは身体を鍛えるだけで無個性のまま雄英に挑むつもりかい?」

「……え?」

 

 唐突。

 オールマイトがそんな事を言った。

 

「何です? そのマッスルコントロールでも伝授しようって事ですか?」

「いやいや蓮羅少年。そうじゃないさ! ただ、本当に無個性のまま行けるような温い場所じゃあないからね、あそこは」

 

 遠い目をするオールマイト。

 そう言えば、学生時代のこの人の逸話はまるで無いんだよなぁ。

 なんか理由でもあんのかね?

 

「でも仕方ないでしょう。緑谷にこれから個性が発現するワケじゃないんだし……」

「そうだね。でも、()()()()としたら?」

 

 それって……

 

「無個性に個性をやろうってか」

 

 爆豪が呆気に取られた顔をした。

 気持ちは解る。

 個性の発言は四歳から六歳。例外は無い筈だ。

 

「私の個性は――」

 

 そして、俺たちはオールマイトの個性の正体を知った。

 

 『ワン・フォー・オール』。

 

 個性を譲渡する個性。

 先人の鍛えた身体能力を受け継ぎ、更に次代に繋げていく個性。

 その後継者に選ばれたのが、緑谷だった。

 本当なら、緑谷だけに伝えるつもりだったんだろうけども、しかしオールマイトは俺と爆豪にも秘密を打ち明けてくれた。

 ……だが、緑谷は少し考えて断ろうとした――らしい。

 爆豪が後で言っていたが、俺らの方が相応しいと卑屈な考えを持っていたんだそうだ。

 だから爆豪は、無言で緑谷を蹴ってその辞退の言葉を遮った。

 本当なら、『自分が』って言いたかったんだろうに。

 悔しさと、若干の納得が俺には感じられた。それでも緑谷を推す程度には、コイツを買ってるんだろうな。

 その蹴りに何かを感じた緑谷は、顔を上げてオールマイトの提案を受け入れた。

 そして今ここに、次代の継承者・緑谷出久が誕生した。

 本来ならそこで「ハイ、おしまい」ってな事になるんだろうが、やっぱそこはエンターテイナー。格が違った。

 故に、俺と爆豪は――オールマイトの弟子になった。

 緑谷の育成もそうだが、俺らも育ててみたい、とそう思ったんだそうだ。

 強欲だが、しかしこの人にとってはそうするのが当然という様子だった。

 最高のヒーローに鍛えて貰える。

 値千金とは正にこの事だろう。

 爆豪はかなりテンションが上がってたしな。

 で、翌日に俺と爆豪は個性の詳細をオールマイトに説明した。

 俺の方の詳細を聞いてオールマイトは『チートって言葉がこんなにも実感出来た事は無い』と苦笑していたな。

 まさか理不尽の権化(オールマイト)にそう言われるとは思いもしなかったが。

 

 

 

 

 そして更に翌日。

 多古場海浜公園に俺らは集められた。

 朝六時に。

 

「さて、キミたちに集まって貰ったのは他でもない。トレーニングメニューを考えて来たよ!」

 

 欠伸を隠し切れない俺。

 眼をキラキラさせてる緑谷。

 眼をギラギラさせてる爆豪。

 

 まあ、ガチ勢二人は興奮しっぱなしだけども。

 

「で、ここですか」

「うん。昨日キミたちと別れてネットで調べたけど、ここって不法投棄が罷り通ってるんだって?」

「ええ、海流の影響で漂着物がやってくるんですけど、それに託つけて不法投棄をする業者が」

「……まあ、お陰でここらで遊ぶガキはいなくなったがな」

「そこで、だ!」

 

 オールマイトが自分よりも大きい冷蔵庫に手を置きながら言った。

 

「ここら一帯の海岸線を甦らせる! 無論、個性無しで三人でだ!」

 

 腕力のみで冷蔵庫をへしゃげさせ、その向こうに水平線と昇る朝日が見えるようになった。

 インパクトの強い演出だが、言われている事は余りに無茶だ。

 個性の使用不可。

 将来の為に身体を鍛えていた俺や爆豪はともかく、鍛え始めたばかりの緑谷には地獄の特訓だろう。

 流石NO.1ヒーロー。

 特訓一つ取っても規格外じゃねぇか。

 

「こ、この量を三人で……」

 

 緑谷が戦慄する。

 まあ、どう考えても無理そうだよな。

 だが、

 

「オールマイト」

「なんだい、蓮羅少年」

「傷や体力の回復は、個性使ってもいいですか?」

「……出来るの?」

「まあ」

「うーん……最初は使ってみていいよ。それを見て今後の訓練も調整するから」

「ありがとうございます」

 

 しかし爆豪がポツリと不満を漏らした。

 

「チッ。地味な訓練だ」

 

 それにオールマイトが反応する。

 

「おいおい勝己少年、忘れてないか? ヒーローってのは本来奉仕活動が原則。最近のヒーロー(わかいの)からしたら地味だなんだと言われるけども、そこはブレちゃあいかんのよ!!」

 

 御尤も。

 そういった意味ではこの中で一番ヒーローの気質を持ってるのは緑谷だろうな。

 俺や爆豪はどこか現世利益を優先する部分があるからな。

 

「まあいいや。兎に角始めようぜ。オールマイト考案の特訓なんだ。ファンからしたら垂涎モノだろ?」

「「っ!?」」

 

 漸くその事に気付いたのか、張り切って緑谷と爆豪はゴミの山に躍りかかった。

 遅れて俺も慎重にゴミを選択して運んでいく。

 さて、どのくらいでここのゴミを処分出来るかね?

 

 

 

 

 

 ★☆★

 

 

 

 

(あっれ――――?)

 

 オールマイトは、自分の考案した訓練日程が大幅に狂った事を理解した。

 少なくもここ数日は、余りゴミは減らないと思っていたのだ。

 幾ら鍛えていようとも中学生。

 しかし、沙門蓮羅の存在が特訓を()()()()()()()()()()()()()()()

 彼の個性『ミラージュ』。

 自分の中にある疑似的な世界から『ミラージュ』と言う存在を召喚する、という規格外のそれはまさしく多種多様。

 小型の――本人が言う所のSサイズを数体召喚したのだが、その小さなミラージュたちによる回復のお陰でゴミの山はゆっくりと小さくなっていった。

 勿論全体から見れば微々たるものではあるが、しかし確かに減少スピードは上がっている。

 更に彼らを活気づけるのは小さい狐と妖精のようなマスコットたちを筆頭とした応援だ。

 他者からの応援。

 それは自分のパフォーマンスを向上させる一因となる。

 オールマイト、いや八木自身もそれは知っていた。

 世間の、人々の応援があったからこそ、自分は『平和の象徴(オールマイト)』として頑張っていけたのだ。

 誰からの声援もない者が走り続けるのは可能ではあるだろうが、心が摩耗していくだろう。

 そうなれば初志は歪み、あるいは壊れていく。

 そういう人間を、彼は何度も見てきた。或いは、対峙してきた。

 そういった人々を、闇に引き摺り込む――巨悪も知っていた。

 話を戻そう。

 彼の中より召喚されたミラージュたち、その応援ないし煽りによっていつも以上のパフォーマンスを発揮する出久と勝己。

 しかしそれ以上に、普段通りの力を発揮する蓮羅こそが余りに規格外だった。

 筋肉の付きは甘く、まだまだ絞る余地はある。しかし、それ以上に動きがしなやかだった。

 実戦を想定した肉体。それが見て取れた。

 或いは、そうしなければならない理由があるとか?

 

(って、いかんいかん! それよりもこれからどうしよう!? このペースだと走り込みや組み手を入れても半年掛からずにここのゴミが無くなるぞ!)

 

 しかもそれでも出久の器は未完成のままだ。

 二人との合同訓練は、確かにモチベーションとパフォーマンスの向上に繋がるだろう。

 しかし二人に比べて緑谷の経験不足は余りに深刻だ。このままでは、出久の完成度は二人に大きく劣ってしまうのは明白。

 それこそ付きっ切りで訓練をするべきなのだろうが、それで他の弟子たちを蔑ろにする事になっては本末転倒だ。

 

(どうする? ……()()か?)

 

 脳裏に浮かんだのは、嘗て雄英高校生時代に文字通り吐く程自分を痛めつけた担任と、仲違いしてしまった元相棒(サイドキック)

 育成能力という点に置いては自分よりも上だと確信が持てる二人。

 しかし……

 

(どちらもダメだ! 先生の方は昔気質過ぎて、絶対死にそうな訓練をさせるだろうし! ナイトアイはナイトアイで出久少年への継承に反対している! これ幸いにと出久少年を不適格だと判断するだろう!!)

 

 弟子である以上、名前で呼ぶと決めた。

 頑ななまでに姓呼びに拘っていた自分が、それ程までに入れ込んでいるのだ。

 正直、三人共雄英に合格して欲しい。

 その為には、二人の指導の為に恩師と相棒には来て貰った方が良い。

 

「……済まない少年たち。ちょっとオジさん、電話しなきゃいけない事が出来たんだ」

 

 そう断りを入れると、

 

「あ、はい。大丈夫ですよ」

「仕事の関係ですか? どうぞ。それとオールマイトはオジさんじゃないです」

「さっさと行って戻ってこい!」

 

「「頑張れ(です)ー」」

 

 マスコットたちからも謎の応援を貰い、八木は少し離れて電話を取った。

 まずは、師である老人へ。

 数回のコール音。

 願い空しく師と連絡は取れてしまった。

 

『――おう、俊典か?』

「……ご無沙汰しております、先生」

『まったくだ。お前、俺に連絡を全く寄越さねぇじゃねぇか』

「あ、いえ。何分色々と忙しいものでして……連絡を入れなかったのは申し訳なく……」

『ああ、もういい。それで? 何の用事で連絡してきた? 後継者でも見つけたのか?』

「――相変わらず、ご慧眼で。その通りです」

『……ほう』

 

 それから八木は、師にこれまでの出来事を語った。

 

『……成程な。同じ無個性を後継者に……』

「はい。彼を見た時に、昔の自分を思い出してしまいまして」

『珍しく感傷に浸ったか?』

「――はい」

 

 揶揄い交じりではあるものの、その声音は穏やかだった。

 

『で? その小僧、どれくらい身体は出来上がってるんだ?』

「――い、いえ、それがまだ全然」

『なに?』

 

 背筋が粟立つ。

 声色の変化に、冷や汗が止まらない。

 あ、コレ、ガチでヤバいヤツだ。

 

「で、ですが、彼を見ればその将来性は確かなモノかと……」

『ほぉう。将来性、ねえ?』

 

 沈黙。

 それが数分過ぎ、師――グラントリノは言った。

 

『良いだろう。今は暇だからな、見に来てやろう。場所はどこだ?』

 

 Shit!!

 失言だった。

 あれでは見に来て下さいと言ってるようなものだ。

 

「い、いえ……先生のお手を煩わせるにはまだ彼は早いような……」

『いいから教えろ』

「――はい」

 

 条件反射。

 何度も吐かされた師の威圧的な声。

 最早抵抗する気すら奪われた。

 

 

 

「……よし」

 

 気を取り直して、今度は元相棒に電話をする。

 

『オールマイト?』

 

 ワンコールが終わるよりも早く、元相棒サー・ナイトアイが出た。

 

「や、やあ。ナイトアイ」

『気が変わったのか?』

 

 間髪入れずにそう言われる。

 昨日散々に言い合いをしたが、それでもこれだ。

 

「……申し訳ないが、私が後継者を変える事は無い。それに……」

『解っている。貴方が頑固なのはサイドキックになった時から、な。しかしそれでも私は反対するぞ』

「なら、キミも見に来ればいい」

『……も?』

「グラントリノ先生が来るんだ。他にも弟子を見ているし……あ」

『他に弟子と言ったか!?』

 

 こっちも地雷だった。

 

『昨日も言ったが、気は確かか!? ただでさえ後継者の育成で掛かり切りだろうに、他に弟子だと! それでは育成も儘ならんだろう!!』

「い、いや。とても優秀な子たちでね。既に雄英に合格出来るくらいの腕はあるんだよ」

『それでもだ! その二人にかまけて後継者の育成が疎かになっては本末転倒だろう!!』

 

 ああ、まただ。

 

「だ、だからキミ自身が見に来ればいいんだよ。色々と忙しいだろうけど、ちょっと見に来る位は出来ないかい?」

『……良いだろう。だがもし、その後継者に光るモノが無ければ――私は、通形ミリオを後継者に推薦する』

 

 雄英二年生。

 彼の元でインターンをしている少年だと聞いている。

 確かに優秀で、そして努力家らしい。

 しかしそれでも。

 

「何度でも言うよ、ナイトアイ。私は、彼を――「緑谷出久」を後継者に、そして弟子として「爆豪勝己」と「沙門蓮羅」を選んだんだ。いくらキミでも譲れないものがある」

『これ以上は平行線だな。……良いだろう、私も直に会って見極めよう。失礼する』

 

 通話が切れる。

 あの様子だと、一週間後くらいにはやって来そうだ。

 

「さぁて……どうしよっかなぁ」

 

 

 

 

 

 ★☆★

 

 

 

 

 

 ゴミ掃除を始めて三日。

 俺たちはオールマイト考案のトレーニングに精を出していた。

 食生活から睡眠時間まで細かく書かれてあり、正直凄いキツい。

 しかし爆豪も緑谷もそのトレーニングメニューを遵守、していなかった。

 それ以上にトレーニングを重ねていやがったのだ。

 オーバーワーク。

 憧れに追い付く為に、努力しまくったのだ。

 俺のミラージュがいなければ、身体を壊していたかもしれねぇな。

 ……ミストドラゴンがいてくれてマジ助かったわ。

 さて、放課後となり俺たちは一度家に帰って海浜公園へと急ぐ。

 オールマイトが来なくても、俺らはゴミの分別や運搬の為に海浜公園に少ない時間であっても集まるようになっていた。

 

「お。オールマイトだ」

「あれ? 他に人影がいるね?」

「……オールマイト、ガリガリの状態だな」

 

 俺たちが近寄ると、その中の小柄な老人が反応した。

 

「おお、来たか! 有精卵共!!」

「……どれが、緑谷出久だ?」

 

 眼鏡を嵌めたスーツの男が、その鋭い視線を俺たちに向ける。

 そして、オールマイトは手を合わせてこちらに謝ってきた。

 

 ……どういう事だ?

 

 そしてこの二人により、俺たちの訓練は地獄の様相を呈していく。

 

 

 

 

 マジで俺のミラージュなかったら再起不能になってたかもしれねぇんだからな!

 

 

 

 




 運命は巡る。

 人の縁は繋がっていく。

 未来は紡がれていく。

 出逢う筈の無かった出逢い。

 早過ぎる出逢い。

 その結果、少年たちは地獄に落とされる。

 寝ても覚めても訓練訓練。

 思う、師は優しかったのだと。

 甘かったのだと。

 突如現れた師の師と師の相棒、彼らは鬼のような訓練を課してくる。

 その結果、確かに強くはなれただろう。

 望んだ高校へ入学できるだろう。

 こうありたいと願う将来の道へ、きっと繋がっているのだろう。

 ……そう思わなければやってられない。



 次回、『泣いて、笑って、吐いて』


 スパルタ。
 そんな言葉じゃ生温い。
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