僕らのヒーローアカデミア ~ミラージュたちを添えて~   作:名無しの百号

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 最初にあったのは憧憬だ。

 だから鍛えた。

 死に物狂いで。

 個性と肉体と精神を。

 結果。

 憧れた男の相棒という、最高の栄誉すら手に入れた。

 そして、彼と仇敵との死闘。

 彼はヒーローとして死に掛けとなった。

 次代を探さなければならない。

 彼が死なぬように。

 そして、雄英よりやってきた少年。

 見つけたと思った。

 彼こそ後継に相応しいと。

 しかし彼は自分で後継を見出した。

 そして、今日。

 その後継たちと対面している。




泣いて、笑って、吐いて

 

「論外だ!!」

 

 俺と爆豪に指差された緑谷をつぶさに観察し、その七三眼鏡なサラリーマン風の男は叫んだ。心底からの絶叫だった。

 そのままその眼鏡さんはオールマイトに食って掛かるではないか。

 

「百歩譲ってそこの長身の青年ならまだ良い!! 反対側の少年も及第点だ! だが、この少年は「無い」だろう!!」

 

 ド直球の否定。

 その言葉に緑谷が硬直する。

 

「見た所、肉体は並かそれ以下っ。目線から感じられる自信の無さだって相当だ! そしてそれ以前に……優し過ぎる!! ()()()()()()()()()()()()()()()()()()っ!!」

 

 その言葉は、緑谷を慮ってのものだった。

 初めて会ったガキの適正を明確に把握するその直感は凄まじい。

 そして、その観察眼に内心俺は舌を巻いた。

 実際俺も思っていたしな。

 緑谷に平和の象徴の後継者が務まるのか、って。

 

「……解っている。一目見た時からね。でも、彼で良い……いや、彼が良いんだ」

「どうして!?」

 

 静かな様子のオールマイト。

 ちっとばっかし押され気味だが、最後の一線は間違えないようにしているのが感じられた。よっぽど負い目があんのだろうか。

 ヒートアップするその眼鏡さんだが、それをもう一人の客人である小柄な爺さんに窘められた。

 

「止めとけナイトアイ。どうしたってこの頑固モンが撤回する筈はねぇだろ」

「しかしグラントリノ!」

「それに、俺が今日ここに来たのは、後継者に難癖付けに来たんじゃねぇんだよ」

「では、何を……」

「コイツへの説教に決まっとろうが!!」

「あいたー!?」

 

 手に持っていた杖が見えない速度で振るわれ、オールマイトの脛を強かに打ち据えた。

 片手に持っているのは、俺らへのトレーニングメニューのようだ。

 

「トレーニングが温過ぎる! ヒーロー科の受験は一年無いんだぞ!? ズブの素人を鍛えるのがお前じゃ、余計に余裕が無いのは明白だろうがっ!!」

 

 蹲ったオールマイトの背中に振り下ろされる杖。

 悲鳴を上げて謝罪を続けるオールマイトは、どこにもNO.1ヒーローの威厳なんて無かった。

 多分オールマイト、四十を超えてる筈なんだが……その師匠ならプラス二十歳くらいと考えて、六十歳以上か?

 それでこれか。……と、言うよりも『温過ぎる』?

 

「……見えたか?」

「……ううん」

「……あのジジイ、化け物か何かか?」

 

 隣で二人がそんな話をしているが、それよりもさっきの発言が気になるのは俺だけなのかね。

 この爺さんが、オールマイトの師匠的な何かだと理解する事は出来たが、一応確認として緑谷が訊ねる。

 

「あ、あのー……ところでお二人は一体……?」

「ん。ああ、そういや自己紹介しとらんかったな」

 

 ほら、説明。とオールマイトを小突く。

 

「あっと――まずは、こちらの年配の方は、ヒーローであるグラントリノ。雄英時代の私の担任で、私の師匠でもある先代「ワン・フォー・オール」継承者の盟友だったお人だ」

「宜しくな」

「で、こっちが私の相棒だったヒーローで、名をサー・ナイトアイ。サイドキック時代は良く苦労を掛けたもんで……」

「サー・ナイトアイだ。正直、今でも貴様の継承には疑問と不満しかない」

 

 取り付く島もない、とはこの事だ。

 

「……それでも」

 

 お。

 

「それでも、僕は選んで貰ったんです」

 

 緑谷が言う。

 幼馴染である爆豪でさえもドン引きする程に強い意志。

 頑固で意固地、そして――不退転。

 

「オールマイトが、かっちゃんが、沙門くんが――僕を、僕が良いって言ってくれたんです。その期待を、裏切れない。裏切りたくないんです」

 

 意志一つ。

 他は何一つ持ち合わせていない緑谷。

 しかし、唯一持っているそれが眼の奥を炯々と燃やし、気弱な雰囲気を一変させる。

 眼に涙を浮かべ、しかし笑みを浮かべてナイトアイを見返した。

 

「……ふん」

 

 それを見て、ナイトアイは息を一つ吐いた。

 

「少々気が乗らないが……そこの」

「俺ですか? 沙門蓮羅と言います」

「では沙門。疲労回復系の技を持つモンスターを召喚出来るそうだな?」

「ええ」

「出しておけ」

 

 そう言って、緑谷の首根っこを引っ掴んだ。

 言われる儘に一応出せるだけの回復技が使えるミラージュを召喚する。

 取り合えずL以下で。

 それを確認すると、ゴミ山へと歩を進めるナイトアイ。緑谷をずるずると引き摺りながら。

 

「わ、わわわ……!?」

「これから貴様には、オールマイトの考案したトレーニングを三倍のスピードで消化して貰う」

「三倍!? ちょ、待ってナイトアイ。結構それ出久少年のギリギリを攻めたヤツだよ!?」

 

 その言葉に驚いたのは緑谷よりもオールマイトだった。

 しかしナイトアイは、

 

「大丈夫だ。オールマイト、コイツはやり遂げる」

 

 その鋭い眼と、眼鏡を光らせて――

 

「いや、やり遂げさせる」

 

 断言しおった。

 ……緑谷、明日の朝日は拝めんだろうな。

 絶望に顔を染めた緑谷を見送る。

 せめて骨だけは拾ってやるからな

 

「ほらほら何をチンタラしてやがる?」

 

 ん?

 いつの間にか、ヒーロースーツに着替えたグラントリノが俺らを呼ぶ。

 どうやらなし崩し的に俺らもオールマイトの師匠から教導を受ける事になったようだ。……オールマイトが手を合わせてたのは、これの事か。

 

「グラントリノ、何をするつもりで?」

「決まっとるだろう。実戦だ」

「実戦? ジジイとか?」

 

 瞬間、爆豪が咄嗟に身を引く。

 その鼻先を、グラントリノの短い脚が通り抜けた。

 いや、頬に擦過傷……掠ったか。

 スゲェな。

 

「……っ!?」

「ジジイだと思って舐めとったら痛い目を見るぞ」

 

 何か言い返すよりも先に爆豪は吹っ飛ばされた。あの爆豪に何もさせないとは……老人だからって舐めたらいかんな。

 

「……二人掛かりでも?」

「いいぞ」

 

 その言葉を皮切りに、俺は両腕に籠手を出現させる。

 久し振りの全力だ。

 Lサイズのミラージュを召喚しようとして、しかしそれよりも早く懐へ入られる。

 マジ速い。

 

「どうやらお前、かなりレアな個性持ってるそうじゃねぇか」

「――ぐっ」

 

 蹴りを籠手で防ぐ。

 衝撃はかなりのものだ。

 だが、更に踏み込まれて拳が鳩尾に叩き込まれる。

 

「――ぐはっ!?」

「召喚系は集中が必要だから、一瞬以上のタメがいる。その隙を突ければ、召喚は阻止出来る」

 

 更に追い打ちに顎への蹴り。

 ほんと、このちっこい身体のどっからそんなパワーが出んのかね。

 その蹴りを左で防いで、右で迎撃する。

 しかしそれはあっさりと躱された。

 

「――疾っ!」

「ほう、肉弾戦と来たか。距離を詰められたのなら殴り合うしかねぇもんなぁ!」

 

 だが、それだけじゃない。

 伊達に中一の時に殴り合った仲じゃないんだ。

 そろそろ来るぞ。

 ウチのボンバーマンは過激だからな。

 

「沙門ばっかに気を取られんなよクソジジイ!」

「ちゃんとお前も見とるわ」

 

 爆破しようとした爆豪を振り向き様にカウンター。

 逆の頬に拳が叩き込まれる。

 その隙を突いて俺が蹴りを入れようとするも、回避される。

 どうやら足裏から空気を噴射して飛んでいるらしい。

 空中戦こそ真骨頂ってか。

 

「そっちの……爆豪っつったか。お前もここまで距離を詰めれば強い爆破は使えんだろう。どちらもとことん超近接戦に不向きな個性だな」

 

 そう。

 俺も爆豪も、最大威力を使おうとする場合は一定の距離が必要になる。

 確かに爆豪は近接戦を得意とするが、しかし爆破には距離が必要だ。

 そう言った意味では緑谷が『ワン・フォー・オール』を取得すれば、コンビネーションの幅が広まるかも、と内心俺は期待していた。

 緑谷が前衛で、爆豪が遊撃、そして俺が中衛。

 遠距離は俺のミラージュたちに任せれば全局面に対応できる。

 そんな事を考えていたのは確かだ。

 だが、だからと言って近接戦を疎かにしたつもりはない。

 

「生憎と、四年前から格闘戦は磨いてますよ! ()()()()()()()()()()()()()()()()()()嫌と言うほどね!!」

 

「「――――っ!?」」

 

 俺の言葉を聞いて、オールマイトとグラントリノは驚愕の表情を浮かべた。

 その隙を突こうと俺と爆豪は仕掛けるが――あっという間に鎮圧されてしまう。

 つーか何されたか全然解らん。

 やっぱ強いなオールマイトの先生は。

 

「お前……四年前、どこでヤツに遭った?」

 

 砂浜に転がされ砂塗れになった俺を、グラントリノが険しい顔で見下ろす。

 ……なんだこの空気?

 

「えっと……当時は確か、空を飛べるミラージュを召喚したんですよ。初めて。で、どっかまで飛んで、散策してたんですわ」

「そこで、個性を奪われそうになったってか」

「ええ。かなり瀕死な様子だったんですけど……動けるようになったかと思ったら、いきなり『個性を寄越せ』なんて言いやがる。一目で悪党と解りましたよ」

「それで……どうしたんだい?」

 

「怖かったんでぶっ飛ばしときました」

 

 今でも思い出せる。

 当時呼べる最大レベルのミラージュを召喚し、その攻撃を受けてピンボールの玉のように無様に跳ね回るヤツの姿を。

 いくらぶっ飛ばそうとも恐怖は拭えず、俺は無我夢中で逃げ帰った。

 それから、尋常じゃない嫌悪と恐怖を払拭するかのように俺は身体を鍛えた。

 過剰なまでの筋肉を搭載し、それ以上に関節の稼働が滑らかになるように柔軟にも力を入れた。『グリモワル』へ赴いてミラージュたちと戦って戦闘経験も積み重ねた。

 俺は心のどこかであの野郎が襲い掛かってくるかもしれない、と考えているからだ。

 

「……俊典、予定が変わったぞ」

「……はい」

 

 雰囲気が、一段階いや二段階くらいは重くなった。

 

「蓮羅少年。キミは、その怪人が生きていると思っているのかい?」

 

 オールマイトの問いに、俺は頷く。

 

「生きてる……でしょうね。少なくとも俺はそう思います」

 

 あの生命力だ。

 多分怪我はしただろうけども、死んではいない。

 ほぼ直感でしかないけど、間違ってはいないだろうな。

 

「……死体の確認をしなかったのが仇になったか」

「申し訳ありません……まさか仕留め損なうとは」

「腹に穴開いてたお前に無理をさせたんだ。あれ以上の事は出来なかった」

 

 グラントリノとオールマイトはそう言いながら何やら深刻そうな様子だ。

 まさかあの怪人、ガチの危険人物か?

 

「危険人物も何も、超常黎明期から日本を裏で支配してきた超が付く悪党さ」

 

 

 

 

 ★☆★

 

 

 

 

 俺が要らん事を言ったせいで余計にヒートアップしたトレーニングにより、俺たち三人は胃の中の内容物を全て砂浜へと放流する事となった。具体的に言えば吐いた。

 しかしゲロを吐いてもシゴキは終わらない。

 忌々しい事に、俺が召喚したミラージュたちによって疲労が回復されるからだ。……調子に乗って回復出来ますよ、とか言うんじゃなかった。

 しかし回復出来るのは肉体のみで、精神的な疲労は蓄積されていく。

 そして、それが限界となるとーー人は引っくり返って気絶するのだと解った。

 まず始めに緑谷が、続いて俺と爆豪が。

 薄れ行く意識の中でグラントリノのトレーニング終了の声を聞きながら、俺たち意識を失った。

 多分、これがずっと続くんだと思う。……冗談じゃねぇ。

 早目に馴れねぇと昼の授業すら儘ならんぞ。

 

 だから、こっからは俺の自主練だ。

俺は爆豪のようなセンスも無ければ、緑谷のような分析力も無い。

 寝れば訪れる事が出来る『グリモワル』でミラージュたち相手に戦闘経験を重ねる事だけだ。

 それなのに――

 

「わ、ここはどこだろう?」

「オイ沙門、説明しろや」

 

 なんでお前らココにいんだよ!?

 しかもプリメロ(※デフォルメされた小人)状態!?

 

「お前ら、なんで……!?」

「あ? そんなの俺らが知りてぇぞ。ここはどこだ?」

「沙門くん、ここだと巨人みたいに大きくなるんだねぇ」

「逆だ、逆。お前らの方が縮んでるんだよ」

「「は?」」

 

 俺は近くの川の水面を覗かせる。

 二人の眼には、ちんちくりんになった自分の姿が見えた事だろう。

 

「なんだこりゃあ!?」

「えっ、凄い!」

 

 驚愕の余り眼が飛び出そうな爆豪と、興奮しっぱなしの緑谷。

 無個性なだけに、超常現象を体験出来ると嬉しくなるようだ。

 まあ、ほぼ二頭身の身体なんてそうそうお目にかかるもんでもない。

 

「まぁまぁそんなに驚いてたら疲れるぞ」

「テメェはこんなチンケな身体になった事が無いからそう――!?」

「なってるー!?」

 

 二人に合わせる為に俺もプリメロ化してみたんだが、すっごい驚かれた。

 

「こっちだと俺はどっちの姿にもなれるんだよ。初めはこっちのプリメロ状態にしかなれなかったけどな」

「じゃあ僕たちも……」

「それは解らん。人がこっちに来れる条件なんて知らんもの」

「ああ?」

「昔、親と一緒に寝てた頃、二人をこっちに連れて来た事は無いんだよ俺は」

 

 そう言うと考察魔の緑谷が動き出す。

 

「そっか。なら多分条件が違うんだ。気絶した状況から考えて、多分「接触」がこっちに来る条件の一つ。それとは別のトリガーがきっとある……例えば、()()()()()()()()()()()()()、とか」

「成程。……そういや、俺の手、どうなってたっけ?」

 

 気絶した時の状況を思い返す。俺の上に緑谷と爆豪が投げ出されたような……

 

「アァ? ……そういや、コイツの手、籠手になってたな」

「それだよ」

 

 間髪入れずに緑谷が導き出す。

 

「沙門くん。召喚する時は籠手が発現していないといけないんだよね?」

「ああ、初めはな。普通の状態で召喚するようになるのは時間が掛かったな」

「……なら、籠手があった状態での召喚こそが本来の使い方。多分その籠手が、この世界への鍵でもあるんだ」

 

 言われてみれば確かに、籠手があった方が召喚はスムーズに行える。

 ガキの頃は籠手が無いと召喚すら出来なかったもんだ。

 

「……気絶した時に俺の個性は解除される筈だが?」

「うん、だから……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が絶対条件なんだと思う」

「その時俺に触れていたから緑谷と爆豪はこっちにやって来たって事か?」

「多分……」

 

 成程。

 そう考えれば色々と辻褄が合う。

 

「どうでもいいわそんなん。だからここがどこなのか説明しろや」

 

 爆豪の話は尤もだ。

 

「……ここは、『グリモワル』。ミラージュたちが暮らす、俺の中の世界だ」

 

 頭上を、《フェニックス》や《ヴァルファーレ》、《レッドドラゴン》といった空を飛べるミラージュたちが飛んでいく。

 どうやら誰が一番速いか、今日もヤリ合っているみたいだな。

 

「基本的に俺は寝るとこの世界にやってくるんだ。勿論向こうで何か起きれば、強制的に戻る事になるがな」

 

 俺の個性が成長する時にこの世界もアップデートされるらしく、その時は普通に夢を見れる。

 もしくは、俺が『グリモワル』に行くつもりがない時。

 

「強ぇヤツとかいんのか?」

「おう。お前が手も足も出なかったアイツもいるぞ?」

「会わせろや」

 

 手を爆破させ、そう言われる。

 まあ、そう言うだろうと思って『呼んで』はいたり。

 ここは俺の中だからか、どこにでも声を飛ばせるんでな。

 

「もう来てる」

「――っ!?」

 

 振り返る爆豪。

 そこには、ヒロイックな印象のミラージュが立っていた。まあ、ヒーローとは言ってもダークヒーロー的なそれだが。

 名を、《ヴァンパイアオリジン》。

 原初の吸血鬼と名付けられたそのミラージュは、人型の中でも屈指のカッコ良さを誇る。

 実力で言えば中堅より上くらいだが。

 

「んじゃあ、やるか」

「おう」

 

 爆豪とオリジンが向き合う。

 

「オリジン、爆豪と一戦してくれ」

 

 頷かれる。

 オリジンは腕組みを止めて軽く前傾姿勢になった。

 マントのような翼を広げ、油断なく相手を見る眼は赤く光っている。

 戦闘モード、最初から全開だな。

 

「成程なァ。ただの中坊でしかねぇ沙門に、あんな戦闘センスがどうしてあんのか疑問だったが――これで納得出来たよ」

「そういう事。俺ァお前みたいなセンスはねぇし、緑谷みたいな分析は出来ない。なら、数をこなすしかねぇんだわ」

「……それが一番凄いと思うんだけど」

 

 緑谷にそう突っ込まれる。

 

「いやいや、流石に一週間丸々は無理だわ。精々五日くらいしかやってねぇよ」

「いやそれ充分スゴいよ!?」

 

 そう緑谷と話していると、いつの間にやらオリジンと爆豪はぶつかっていた。

 爆破と打撃音が響く。

 

「ああそうだ爆豪」

 

 言っておかないといけない事があった。

 

「ここじゃあ死ぬような大怪我したら強制的に戻るからな」

「おお!」

 

 ……おおって。

 

「それとオリジン、『使う』なよ?」

「何をだ!?」

「間髪入れずにお前が反応するなよ。……魔法だ」

「使えるんだ!?」

「覚えさせた」

 

 まあ、流石に『ガ』系は使えないけども、それでも幾つかはこのオリジンにも使える。

 得意なのは雷撃系だ。自前で覚えるヤツもあるしな。

 

「構わねぇ。使わせろ!」

「おい、爆豪そういう事は……まず目の前の相手に勝ってからにしろや」

「……チッ。なら勝てたら魔法解禁しろよ!」

「おう、勝てたらなー」

 

 まあ、爆豪はあれでいいだろう。

 次は緑谷だ。

 

「緑谷、ココに来れたのは偶然だ。でも、その条件を見つけたのはお前だ。……いや、感謝してるわマジで」

「そんな」

「で、だ。ココじゃあ怪我しても「痛い」だけで、現実の身体に影響はない。だが、『勝負勘』や『動き』くらいは持って帰れる。……サー・ナイトアイ。かなりハードみたいじゃねぇか」

「……現実では肉体を強化して、こっちでは精神面を強化する――ってこと?」

「正解」

 

 ここに来た以上手ぶらで帰すのは、宿主である俺の沽券に関わる。

 だから、まずはウチのアタッカー連中に扱いて貰おう。

 

「まずは炎だ」

 

 その言葉で、俺の隣に炎の竜巻が生まれる。

 

「名を、イフリート」

 

 渦を裂いて、人型の獣が現れる。

 腕輪を嵌めたその腕は太く、大きい。

 つーかサイズ自体デカい。

 そんな獣が俺に気さくに話し掛ける。

 

「なんだ蓮羅、ダチを連れてくるとはどういった心境の変化だァ?」

 

 ちなみにこう見えてミラージュは大体がお人好しだ。

 

「まあ、緑谷が条件見つけてくれたからな。なあイフリート、状況は理解しているんだろ?」

「応よ。俺らを蓮羅から引き剥がそうとしたあのボケナスを倒す為に鍛えてるんだろう?」

「……まあ、それだけ解ってれば十分か。じゃあ任せた」

「任された。さあ、緑谷、勝負だ勝負! ココなら勝っても負けても財産だ! 個性があるなしなんて気にすんな! いっちょやろうぜ喧嘩をよォ!」

 

 多分、勢いに呑まれて緑谷は戦うだろうな。

 イフリートのヤツ、手加減するかな?

 ……しないだろうなぁ。

 

「シヴァ、ラムゥ」

「はいはい」

「……仕方ないのう」

 

 出現した二体のミラージュに頼む。

 

「やり過ぎるようなら折檻してくれ」

 

 まあ、死んでも戻るだけだ。

 頑張れ、緑谷。

 




 ヒーロー三人による新体制。

 たった三日で様変わりした訓練は、厳しさを加速度的に上げていく。

 緑谷出久は泣いた。

 爆豪勝己は笑った。

 沙門蓮羅は吐いた。

 三人共が、泣いて、笑って、吐いてを繰り返す。

 そして、彼らは眠った後も訓練を続けていた。

 師たちに教わった事を反芻し、ミラージュたちを相手に実践していく。

 しかし、少年たちがのたうち回る訓練の裏で、大人たちは苦悩する。

 彼らは知ってしまった。

 『ヤツ』が生きている事を。

 仇は、まだ健在だという事を。

 ならばその手が弟子たちに迫らないとどうして言える?

 今はまだ勝てなくても良い。

 だが、生き残らせる為にも鍛えなければ。

 故に厳しさは底抜けだ。



 ――そして一年が過ぎる。



 まずは、最初の試練。

 目指すは、雄英高校ヒーロー科。





 次回、『成果、効果、結果』


 

 時は来た。

 そして、彼らが来た。
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