僕らのヒーローアカデミア ~ミラージュたちを添えて~   作:名無しの百号

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 スゲェな十代!

 オールマイトはそう言った。

 鍛え始めて三ヶ月。

 ナイトアイの宣言通り、少年は器を完成させた。

 予定よりも早い完成。

 グラントリノの指導、ナイトアイのトレーニングメニューの見直し、そして友人の個性による時間短縮。

 全てが噛み合い、実を結んだ。

 無個性だった少年は、オールマイトより『個性』を受け取った。

 そして残り半年。

 それらは全て余白。

 故に、緩む事無く訓練は熾烈を極めた。

 そしてそれは、試験二日前まで続いた。




成果、効果、結果

 『グリモワル』の砂浜では、二人が戦いを繰り広げている。

 爆豪と緑谷だ。

 共にプリメロ状態。

 しかし、緑谷は全身から放電のようなモノを発現し、纏っている。

 オールマイトの個性『ワン・フォー・オール』を発動すると、緑谷の場合はそうなるらしい。

 つまり。

 継承は行われた。

 今は、緑谷が『ワン・フォー・オール』の継承者だ。

 オールマイト、グラントリノ、サー・ナイトアイの三人体制となり当初の予定よりも早く、緑谷は最低限必要な肉体を作り上げる事が出来たからだ。具体的に言えば半年くらいで。

 勿論オールマイトの個性をフルで使えば、手足はグシャリとなってしまう。

 故に、調整が出来るまで『ワン・フォー・オール』を発動しての戦闘は禁止された。

 現実で個性を発動させただけで緑谷の手足は少なくないダメージを負いそうになったからだ。

 グラントリノやナイトアイが止めなかったら、多分ロクでもない事になったろうな。

 骨折や筋肉の断裂等は起きなかったが、しかし力を受け止め切れていないのは明白。

 だからその日の内に緑谷を『グリモワル』へと連れていき100パーセントを試させた。と、言うよりも緑谷が率先してやりやがった。

 結果は見事に自爆。

 両手はひしゃげ、踏み込んだ脚もその反動で折れた。原型留めてたのが奇跡だ。根本から吹っ飛んでいないのが不思議なくらいだったな、アレ。

 で、貯め込んでたポーションというRPGでお馴染みの怪我や体力を回復させる薬を使って回復させたんだが……オタク魂に火が付いた緑谷が許容限界を調べ始めやがった。

 まあ、アイツのレベルが低いのが幸いして、普通のポーションで完全回復出来たのはありがたかったな。なにせこのポーション、ミラージュたちと戦闘する事で初めて出現する『グリモワル』産のアイテムだ。数十本確保していたが、すぐにストックは切れるだろうと予測して俺はポーションを搔き集める事にした。

 幸いポーション系はよく落ちる。

 戦闘の数をこなせば、だが。

 まあ、俺の経験値になるんだから戦闘は望む所ではあった。

 

 で、そうなってくると爆豪も参加させろと言ってきた。

 

 まあ、ヴァンパイアオリジンに連敗中だもんな。

 なんとか魔法ナシでの戦闘では勝てたのに、魔法アリになったら負け続けてるようだし。

 それにここだと大抵の怪我だってポーションや回復技使えるヤツがいればすぐに治せるからな。

 強くなる為に自分の限界を突破したい緑谷や爆豪にとっては秘密基地も同然だ。

 ……まあ、唐突に強くなった緑谷や各段にレベルアップした爆豪を怪しんだ師匠方が俺に詰問し、お三方もココに来るようになったんだけどな。

 さて、そうなってくると毎回俺に触れて寝なきゃならんという事実。ずっと一緒に寝るのは流石に無理があった。

 だから色々と検証を重ね、判明した。

 籠手だけが、『グリモワル』への鍵じゃなかった。

 俺が個性で作成した『ガーデンジェム』もまた『グリモワル』へ行く為の鍵だったのである。

 『ガーデンジェム』とは、俺がグリモワルで出逢ったミラージュを結晶化した物だ。ただし、ミラージュの意識は基本的に『グリモワル』に存在する。

 ガーデンジェムは言うなれば扉や窓でしかない。

 俺の籠手で掴み、召喚する相手を呼ぶ事で、「そこ」を通って現世に現れる事が出来る。

 勿論俺の力量次第でその扉の大きさは変わる。

 昔はMサイズを出すだけでもキツかった。

 しかし今ではMサイズを出す事に辛さは感じない。何体でも召喚出来る。

 メガサイズのミラージュだって一体だけならなんとか召喚出来るようにもなった。

 複数のメガサイズを召喚出来るようになるのが今の俺の目標だ。

 さて、さっき俺は師匠方もまた『グリモワル』へと来れるようになった、と述べた。

 つまり――

 

「オラ緑谷! さっきから動きが単調だ! もっと脚使え脚!!」

「は、はい!」

「爆豪の方は少々後の先を狙い過ぎている。速攻も意識しろ!」

「解ってんだよオラァ!」

 

 こうなる。

 で、俺はと言うと――

 

「さて、蓮羅少年。もうちょっと格闘戦、煮詰めよっか?」

 

 オールマイトとの戦闘訓練。

 所謂組み手だ。

 基本的に格闘術はネットや本仕込みなのが俺や緑谷だ。

 近くに格闘技の道場なんて無いからな。

 役に立ちそうな技を試行錯誤して自分の技に落とし込む。

 試行錯誤し過ぎて全く別物になる事もあるにはあるけどな。

 で、それをオールマイトを初め、グラントリノ、サー・ナイトアイに全力で試せるというこの状況。

 多分他のガチ勢に知られたら(嫉妬で)死ぬな、俺。

 とは言うモノの、現状のオールマイトは絶賛プリメロ状態。

 かなり背が低く、リーチも短い。

 しかし身体の動きは現実と遜色無く動ける。寧ろ現実の怪我すら向こうに置いてくるからな。

 怪我の影響を受けない以上、完全無欠のオールマイトが目の前に立っているという事だ。

 どんな姿だろうともオールマイトはオールマイトでしかない。

 つまり――。

 

「うん、イイね。すっごくイイ! でも――真っ正面からはちょっと無策過ぎない?」

 

 こうなる。

 腕を極められ、地面に押し倒されるという紛れもない敗北。

 つーか大人と子供以上の背丈の差があるにも関わらずコレかよ。

 つまりオールマイトは、現実でもこのサイズ差だろうとヤれるという事。

 

「……参った」

 

 いや、何度やっても勝ち筋見えんなコレ。

 これで衰えているってマジバケモンだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて! それじゃここに訓練の終了を宣言するよ!!」

 

 プリメロ状態のまま俺たちは正座で三人からの総評を聞いた後、オールマイトがそう締め括った。

 

「まあ正直、先生やナイトアイがいなかったらオジさん、マジで訓練の修正し切れずに終わってた可能性もあるから! 二人には感謝しかないよ!」

「そう思うなら、私の進言も聞き入れて貰いたいものだが……既に「渡した」以上、どうしようもないか」

「俊典、お前そう言うトコ、ホントに悪い癖だからな! 結果オーライで済まそうとすんな!」

 

 そして俺たちは、この十ヶ月の訓練の中で、オールマイトの本名が『八木(やぎ)俊典(としのり)』であると知る事になった。

 まあ、それだけなんだが『オールマイトガチ勢』の二人にとってはかなりレアな情報だったらしく、めっちゃ興奮してたけどな。

 

「……取り合えず、試験日は明後日。明日一日は休養日とする。……正直、まだまだ鍛える部分はあるし、足りないモノは余りに多い。だが、貴様らはオールマイトに目を掛けられ、私やグラントリノからも教導を受けた」

 

 尤も、私は仕事の都合でこちら側での指導が多かったが。

 そう言って眼を逸らすナイトアイ。

 しょうがない部分もあると思うがなぁ。

 この中で職業ヒーローとして仕事をしているのはナイトアイだけなんだし。

 オールマイトは怪我のせい、グラントリノは歳の為、どっちもヒーロー活動はそんなにやってない、と聞いている。

 

「解るか?」

 

 ナイトアイの眼鏡が光る。

 

「貴様らは託され、鍛えられた。明後日の試験、もし無様な姿を晒すようであれば――」

 

 ごくり、と俺ら三人の喉が鳴る。

 

「私の()()()()()を思う存分味わわせてやろう」

 

 ……つまり、今までのは、俺らに合わせた内容だった、と?

 こりゃあ洒落にならんな。

 マジ怖ぇ。

 

「……では、グラントリノ。何かお言葉があれば」

「おう」

 

 グラントリノが進み出る。

 この十ヶ月、一人少なくとも月に十回以上はこの人にぶっ飛ばされたっけ。オールマイトにも。

 オールマイトがガチで恐れる理由がなんとなく解る。

 この人、限界の更に一歩先を無理矢理引き出すのが巧いんだ。人が無意識に『ここまでで良いだろう』と考える一線を突き飛ばすように越えさせる。

 そしてその反動で吐く、と。

 

「まあ、なんだ。少なくとも俺らはそこらの有精卵以下の小僧共には負けない程度には鍛えてやった。……だが忘れるな。『ヤツ』の存在を」

 

 超人社会の裏に潜む『巨悪』。

 オールマイトの師でありグラントリノの盟友である七代目を殺し、五年前にオールマイトの腹に穴を開けた人物。

 個性を奪い、与えるという個性の持ち主。

 そして――オールマイトにやられ、その後もしぶとく生きていて、俺が追い打ちをかけたピンボール野郎。

 名を『オール・フォー・ワン』。

 俺のトラウマ。

 

「きっとどこかで『ヤツ』は観てる。雄英で全力を出せば、恐らく『ヤツ』の眼に止まるだろう。……だから、必ず「今」より強くなれ!」

 

 そしてオールマイトが、前に出る。

 

「正直、キミたちには私の負債を押し付ける事になるかもしれない。……ここでしか全力が出せない私は、いつか現実では無力になる」

 

 胸に手を当て、どこか済まなそうに。

 それに反論しようとする緑谷と爆豪。

 しかしそれよりも先に、

 

「だが私は何の心配もしていない! 主義主張、正義の在り方は違えども、私たちの弟子が、きっと次の時代を護ってくれると信じているからだ!」

 

 そう言った。

 言ってくれた。

 

 ……まだ俺も弟子だと言うのか。言ってくれるのか。

 ヒーロー目指してない俺にも。

 

「だからさ、魅せ付けてきて来てくれ! 『キミらが来た』って!!」

 

 返事は、言う迄もなかった。

 

 

 

 

 

 

 ★☆★

 

 

 

 

 

 

 以上解散、との言葉でオールマイトたちは帰っていった。

 そして、俺は集まっていたミラージュたちを前に、言う。

 

「……今度こそ、仕留めるぞ」

 

 誰を、とは言わない。

 ミラージュたちは皆が頷いている。

 俺は私立探偵兼何でも屋を目指す事は止めない。

 だが、それでもヒーローに憧れた自分がいた事は事実だ。

 故に、これは無邪気で幼かった自分への餞別。

 きっと、いるんだ。

 闇に潜み、息を殺し、誰かに怯えている人が。

 

 

 太陽(ヒーロー)だけじゃ、どうしようもなく救われない人が。

 

 

 そんな人を俺は救けられるような大人になりたい。

 だから俺は、ヒーロー免許を持った私立探偵となる。

 だがその為には、『オール・フォー・ワン』は邪魔だ。

 排除しなければ、俺の未来に暗い影が差す。

 あんなネコババピンボールに俺の個性を渡すなど言語道断だ。

 だからこそ、

 

「緑谷、爆豪」

「アァ?」

「沙門くん?」

 

 伝えておく。

 

「俺は雄英でトップは目指せない。出来る出来ないじゃなく、目指せないってのは、解るよな」

 

 『オール・フォー・ワン』に目を付けられるからだ。

 

「それは……まぁ」

「ケッ。ぶっ倒せるくらいになるまで鍛えりゃいいだろ」

「それ、在学中に全盛期のオールマイトを余裕でぶっ倒せるようになれ、って言ってるようなもんだろ」

「「……」」

 

 そう言うと、二人は口を噤むしかなかった。

 

「俺だって、昔はもっと普通に夢を見たさ。でも俺は、無邪気にヒーローは目指せない」

 

 憧れなんて大層なものじゃなかった。

 特定のヒーローを好きになった事も無かった。

 ただ、誰かを救う為に頑張るオールマイトを見て、「ちょっとやってみようかな」って思うくらいだった。

 

「別にな、それが悔しいワケじゃないんだ」

 

 転生という二度目の人生。

 優しい母と、穏やかな父の許に産まれ、普通の人なら羨むような個性と体格だって与えられた。

 しかし、公の場で使えない。今はまだ。

 多分使えるのは、籠手の力と普通の動物に見えるミラージュくらいだ。

 

 

 あの怪人を攻撃した時に、俺の真っ当なヒーローとしての道は断たれた。

 

 

 だがその事を悔やんではいない。

 逃げるだけじゃ追い付かれていた。

 立ち向かう必要があった。

 少なくとも、俺の為に。

 

「ただ、な。……残念でな。出来るなら、お前らと真っ当に競い合いたかったよ……」

 

 『グリモワル』は、外の時間と同時に天候が変わる。

 外が雨なら雨が降り、夏なら暑くなり、外が月夜なら月が出る。

 そして今日は、泣きたくなるような大きく丸い満月だった。

 

「……なんか、悪いな。しんみりさせちまって」

 

 沈黙。

 ただ風が頬を撫でる静かな夜に、しかし緑谷は口を開き、言ってくれた。

 それを聞いて、俺は少しだけ笑った。

 

「解った。なら、その時は頼まぁ」

 

 そうして、俺たちも『グリモワル』を後にした。

 

 

 

 

 

 

 ★☆★

 

 

 

 

 

 

 試験当日。

 実技試験の場。

 出現する敵ロボットの撃破数にてポイントを奪い合うのが今回のルールだと雄英教師であり、ボイスヒーロー兼ラジオパーソナリティーである『プレゼント・マイク』から説明を受けた。

 その会場にて折寺中学の三人は別会場へと分けられる事となる。

 同じ出身中学同士でチームアップさせない為だ。

 出久と勝己は別々の試験会場で、しかし同じ行動を取った。

 

 高い建物へ登っての情報収集である。

 

 しかし次の行動は本人たちの性格が現れた。

 勝己は、目についたロボットを相手に攻撃を仕掛けた。

 出久は、他の受験生が苦戦しているロボットへ攻撃を仕掛けた。

 

 ポイントは勝己が優勢。

 出久は、誰かを救ける事を優先した。

 

 それでもオールマイトを始めとしたヒーローに鍛えられてきたのだ。

 自分に襲い掛かってくるロボットは、拳と蹴りで粉砕していく。

 

 ――二人の内心には、蓮羅のあの顔が浮かんでいた。

 

 諦めた、少し残念そうな顔。

 大事な想いだったのだろう。

 本人は新しい目標の為に頑張っているが、それでも彼らの内心は、少し荒れていた。

 

 解っていた。

 

 本当ならば、一番強いのは蓮羅だ。

 『グリモワル』で出逢った様々なミラージュたち。

 あの対応力は凄まじい。

 特にLサイズ以上の連中は、正しく規格外の力の持ち主ばかりだった。

 そんなミラージュたちを蓮羅は使えない。

 少なくとも、『例の男』がいる現状では。

 

(別にアイツの境遇に同情しようってんじゃねぇ)

 

(でも、おかしいよ……! なんで)

 

 

((なんで彼/アイツが身を隠さなきゃならない……!?))

 

 

 勝己は中一の頃、面と向かって己をカッコ悪いヤツと言ってくれた蓮羅を一目置いていたが、しかし疎んでいた。

 だから教師の目を盗んで喧嘩をし、結果として殴り倒された。

 出久は中一の頃、一緒に帰る時に『ヒーローに成りたい』という夢を話し、応援して貰った。

 二年からは別のクラスになったせいでまた卑屈になってしまったが、蓮羅の言葉は己の拠り所の一つになっていた。

 そして中学三年の今、彼の抱えている事情を知った。

 納得出来ない鬱憤。

 それが認められなくて、あの時に出久は叫んだ。

 

 ――きっと、僕が力になる。救けられた僕が、今度はキミを救けるから!!

 

 爆豪とて、粋がっていた己の過ちに気付かせてくれた蓮羅には恩があった。

 もう一度、諦めていた出久との関係を多少は真っ当な物にもしてくれた。

 だから出久と考えは同じだった。

 

 そんな時だ。

 

 プレゼント・マイクが言っていた0ポイントの敵ロボットが現れたのは。

 

 勝己は見た。この鬱憤を八つ当たれるような丁度良いデカブツを。

 出久は見た。巨大な敵ロボットの足元で瓦礫に埋もれた少女を。

 

 駆け出した。

 

 勝つ為に。

 救ける為に。

 

 

「「おぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお――――っ!!」」

 

 

 奇しくも同じような絶叫を上げ、同じように右腕を振り被る。

 そして、爆破と衝撃が――0Pヴィランを吹っ飛ばした。

 

 

 勝己はそのまま吠え、自分の存在をアピールした。

 同級生に。これを見ている教師たちに。

 

 俺はここだ、と。

 

 叫んだのだ。

 

 

 

 

 しかし出久は違う。

 100パーセントの反動を受けて右腕は損壊。骨はグシャグシャに折れている。骨が皮膚を突き破っていないのは奇跡に思えた。

 何度やっても馴れない激痛。

 止めどなく涙が溢れる。……しかし、まだ動ける。

 こうなると解っていた。

 絶対使用するなと言われていた100パーセントを使ったのである。

 これは後で蓮羅に怒られるだろう。

 なんだかんだであの男は身内に甘く、優しいのだから。

 取り敢えず時間までまだあるのなら、着地して次の敵ロボを探そう。

 

 そんな事を思っていた時だ。

 

 誰かの柔らかい手が、頬に触れた。と言うよりもビンタされた。

 

「え……?」

 

 着地する為に体勢を整えようとしていた出久は驚いた。

 そこには、ロボットの残骸に乗って浮遊する少女が。

 

 試験の前に出逢った女の子。

 

 緊張して躓いた自分を助けてくれた少女。

 その後二人に揶揄われたりもしたが、恩のある娘だ。

 そんな彼女が個性を使って自分を救けてくれた。

 

「……あ、ありがとう」

「……どう、いたし……まして。うぷ」

 

 手を合わせる事で解除し、出久とその女子はゆっくりと地面へと降り立った。

 そして――そこからは彼女本人の尊厳を護る為に割愛する。

 相手は女の子、なんでも克明にするべきじゃない。

 

 

 

 

 

 こうして、試験は終了した。

 

 適度に敵ロボットを倒し、他の受験生を救ける事を優先した出久。

 ただ眼にした全ての敵ロボットを誰よりも早く排除した勝己。

 

 そして――蓮羅は。

 

 

 

 

 

 ★☆★

 

 

 

 

 

「実技総合成績、出ました」

 

 雄英高校のとある一室。

 そこで雄英の教師たちが受験生の総評をしていた。

 

「総合で一位はこの子か。爆豪は……(ヴィラン)ポイントは80、それと」

救助(レスキュー)ポイントは60で、合計140ポイントですね」

「個性の都合上尻上がりで強くなってる。スタミナやタフさも文句なしだ」

 

 積極的且つ迅速な敵ロボットの排除。これだけでも十分過ぎるくらいだ。

 そして、最後に出てきた0ポイントのロボットを倒した事で他受験生を救ったと見做されたのだ。

 結果、爆豪は一般受験者トップの成績で実技試験を通過した。

 

「反対にこの緑谷くんは、周囲の人を気遣って敵ポイントは30と平均的ですが……救出ポイントは85と好成績です」

「うん、特に困ってる受験生への援護は良いわ。視野が広いのね」

「こっちも合計ポイントは100超えかぁ。今年は豊作だな」

「右腕を捨てて麗日(うららか)って女の子を救けたもんなぁ。思わず『YEAH!』って叫んだしな俺!」

「うるせぇぞ……本人も理解して腕を捨てたみたいだな」

「全力で殴ればどうなるのか理解していて尚、腕を捨てた、と?」

「彼の個性は増強系だろう? 自己治癒能力も向上出来るのか?」

「いえ、多分……こっちの、沙門くんの回復能力に頼むつもりだったかと」

 

 スクリーンに表示される沙門蓮羅の詳細。

 出身校は、緑谷出久と同じ折寺中学とあった。

 あの緑谷という少年、無策に見えてどうにかリカバリーする手段は持ち合わせていたらしい。

 自分に出来ない部分を友人に補って貰うのは別に悪い事ではないのだから。

 ただし、今が試験ではないならの話だが。

 内心、ある教師はそう考えた。

 だがそれでも、己が身を挺して誰かを救わんとする、そういう馬鹿は嫌いじゃなかった。

 

「召喚系かぁ。かなりレアだな」

「ガタイも良い。タッパも凄ぇ。能力もある……でも、印象に残ってねぇな」

「ポイントは、敵が30で、救助が44。……十分合格圏内ですけど」

「なぁんか、引っ掛かるな」

 

 長年ヒーローとして修羅場を潜ってきた者特有の勘が働く。

 

「……コイツ、余力を残して行動してるな」

「あん? どういう事だよ?」

「解れよ。不測の事態に備えてんのか、それとも余裕か……なるべく目立たないようにやってるんだよ」

 

 救助も攻撃も。

 

「んー? そういや……必ず誰かの攻撃の陰に隠れてとか、さりげなく服を引っ張って避けさせたりとかでのポイントだったか」

 

 この沙門という受験生、大柄な体格ながら地味な印象しか残っていない。恐らく同じ試験会場にいた他の受験生でも意識の端にはあっても注視していないだろう。

 故に気付いた者だけがその点を評価し、結果74ポイント。

 

「それに召喚系なのにそれを使っていない。……何か理由でもあるのか?」

「いや使ってるだろ、あの狐と妖精のマスコットがお前には見えてねぇのか?」

「回復要員と賑やかししか出してねぇだろ」

 

 あの二匹だけとは考え難い。

 そう、一人の教師は言う。

 

(鋭いな、相澤くん……)

 

 オールマイトは観覧のみで、試験終了までは口出しをするつもりが無かった。

 これは校長先生にも断りを入れていた。

 今の自分には、公平に生徒を評価出来るとは思えないからだ。

 しかし来年度の四月からはそうもいかないだろう。

 なんとかしなければ。

 

「うーん……このご時世にメディア映えを極力減らそうとするなんて……まるで相澤くんね」

「褒めてるんですか、ミッドナイトさん」

「勿論」

 

 そして、画面が切り替わる。

 沙門が敵ロボを殴り壊す場面だ。

 動画が再生され、

 

「ちょっと止めて下さい」

 

 先程の教師が制止する。

 

「オイオイどうしたよイレイザー」

「コイツ、やっぱ個性を抑えてんな」

「マジでか」

「ああ。ここ、何かを咄嗟に出そうとしている。だけどキャンセルして無理矢理殴ってるな」

「そう言われれば、確かに……」

(マジかよ相澤くん……!?)

 

 師匠である自分なら理由も解るが、前情報無しの彼が気付ける事に正直戦慄した。

 やはり、教育という点では自分はここにいる誰よりも新米だ。

 しかしここで横槍が別の教師から入る。

 

「でもよ、制限してるって言えば推薦の轟だってそうだったろーが」

「まあ、そうなんだがな……沙門の方は何かを警戒しているようにも見える」

「そうかぁ?」

「合理的じゃねぇが、ゴリ押せる以上は何も言わねぇ。随分熱心に身体を練り上げていやがるしな」

 

 若干の含みはあるが、それでも弟子が褒められると嬉しくなる。

 弟子の成長は、師である自分にとっても喜びだ。

 

「ところでオールマイトさん」

「なんだい?」

 

 しかし、

 

「緑谷と爆豪、それに沙門。何か思う所があるんじゃないですか?」

「……っ!?」

 

 気付いていたのか。

 どうする?

 ここで「いやあ、実は三人共、私の弟子なんでねぇ!」等と言えればどんなに楽か。

 

「それよりも沙門と切島は同率三位。これでは合格者が繰り下げになってしまいます」

「仕方ねぇだろ? 定員は決まってるんだ」

「そうだね。一クラス十八人。プラス推薦で二人の合計二十人が原則だ。つまり合格者は三十六人。……でも私は、もう一つ枠を儲けたい」

 

 この中で最も小柄な影がそう言う。

 

「つまり今年の1年A組、B組は二十一人体制で行く、と?」

 

 頷く。

 

「これはオフレコにして欲しいんだけどね。さっき話に出ていた爆豪くんと緑谷くん、それに沙門くんは、オールマイト先生の弟子とも呼べる存在なのさ」

 

『『『――――っ!?』』』

 

 しかし次の発言には全員が驚いた。

 

「こっ、校長先生? それは内密にして頂くお話の筈では――――!?」

 

 慌てるオールマイトの姿に俄然信憑性が増す。

 

「オールマイトさん、弟子を育ててたんですか」

 

 そう問われて、しかし師や相棒とカバーストーリーを考えていた事を思い出し、咳払いをして気持ちを落ち着かせた。

 

「……まあ、そうだね。去年の、ヘドロのヴィランが暴れていた事件があったけど、覚えている人はいるかな?」

「ええ、この沙門と爆豪、緑谷が関わった事件ですよね? ……ああ、そういう事ですか」

「大体は発表の通りだけど……三人のお互いを助け合う姿に光るモノを感じてね。ちょっと知り合いと一緒に訓練を手伝ったのさ」

 

 その言葉に一人の教師が驚いた声を上げる。

 

「オールマイトさん、現場で動かなかったんスか!? 珍しい」

「いや、動くより先に、彼ら二人が蓮羅少年を引っ張り出していたからね。その後くらいに後輩たちが来たから、正直私の出番は無かったよ」

 

 事実、オールマイトはあの場で足手纏いの何者でもなかった。

 それに内心忸怩たる思いが無いとは言えない。

 しかしそればかりを考えても仕方ない。

 もう過ぎた事なのだ。

 過去よりもこれからに眼を向けなければ。

 

「話を戻そう。……知っての通り、私の身体は既にボロボロだ。多少は蓮羅少年の()()()()()のお陰で回復出来たとは言え、それでも本調子には程遠い」

「平和の象徴の復活……ってワケにはいかないんですね」

「……そうだね。今の活動時間は約五時間。あの子たちがいれば更に持続させられるけど……って、そっちはいいんだ。今は重要な事じゃないしね」

 

 慌てて軌道修正を図る。

 ここで調子に乗ってこの路線の話を続けていてもどうしようもない。

 

「……だから今回の審査、『自分は参加しない』って言ってたんですね。目を掛けてる弟子がいるから」

「まあ、ね。初めて出来た弟子たちだよ? 私だって人だ。贔屓してしまう部分はあるからね」

 

 ちょっとバツが悪そうな顔で視線を逸らすオールマイト。

 この人にも、そういう部分があるのか、と皆が新鮮な気持ちになった。

 

「と、まあ、こういった理由で彼らは試験を受ける前から合格水準にあったワケさ」

 

 確かにそれが本当なら、オールマイトやその知人に鍛えられた以上、中学生離れした力を持っていてもおかしくはない。

 しかし、

 

「あのー、それがどうして枠を二席増やす話に繋がるんでしょうか?」

 

 オールマイトの弟子の話と小柄な教師――校長の発言が結び付かない教師がそう訊ねた。

 

「そうだね。まずは順を追って話そう。ヴィランとの遭遇後、沙門蓮羅くん、爆豪勝己くん、そして緑谷出久くんは、オールマイトとその知人によって多古場海浜公園の不法投棄ゴミを全て撤去しながら鍛えられたそうだよ」

「おー、あの新聞に載ってたヤツっスね。まさかオールマイトさんが主導したとは……」

「いやいや。私も知人も殆ど手は出してないよ。蓮羅少年のミラージュさえ直接は手伝ってないからね」

「直接、は?」

「彼らは疲労や怪我の回復役だよ。その効力はリカバリーガールと患者(わたし)もお墨付きでね」

 

 流石に失った臓器の復元は難しいようだったが。

 何て事のないように言われた言葉に、しかし空気は一瞬で重くなる。

 オールマイトが、あるヴィランとの戦闘で胃を失っているという事実を雄英の教師で知らぬ者はいないのだから。

 

「それでも疲労や怪我の回復は魅力的だ。しかもそんな能力を持っているのがオールマイトの弟子の一人。……ヴィランにとっては良い標的になると思わないかい?」

 

 昨今、回復系の個性を持つ者は少ない。

 リカバリーガールが未だに治療の最前線にいるのも、自分と同等かそれ以上の個性を持った人間がいないからだ。

 ……もしくは、いても裏社会や人の波に紛れているか。

 

「他二人も同様なのさ。安定した高威力を出せる爆破と最大出力では自分すら壊す超パワー。こんな三人がオールマイトの弟子だと知られたら――ヴィランはどうするだろうね?」

「俺がヴィランで、この情報を知っているなら……まあ、狙いますわな」

「人質としても価値は十分、オールマイトの情報を聞き出して弱点を狙ってもいい。……思い付く悪事なんて山程あるぞ」

 

 教師たちが、三人の価値に改めて戦慄する。

 一人奪われるだけで、それがどんな影響を及ぼすのか知れたものではない。

 

「でも、だからと言って三人を試験を受ける前に合格とするワケにもいかない。なにせ三十六枠という狭き門を奪い合って全国から生徒が鎬を削っているんだからね。いち教育者としても、依怙贔屓は生徒の為にならないのさ」

 

 校長の発言は尤もだ。

 恐らく、彼ら三人の内誰か一人でも合格圏から外れていれば、この話は秘匿されていただろう。

 しかし、そうはならなかった。

 

「しかし、それと枠を増やす関係性は?」

「うん、無いよ」

 

『『『…………』』』

 

 ここまで引っ張っておいてそれかい。

 皆がそう思ったが、しかし校長は頷き、何かの資料を持ってくる。どうやらはぐらかすつもりらしい。

 まあ、意味無く秘匿するような校長ではないのだ。

 そう思えるだけの実績が、彼にはあるのだから。

 

「これは、今考えているクラス分けだよ。叩き台だけど、これを基本として――限界が未知数な生徒をA組に。実力が高水準で纏まっている生徒をB組で分けたいのさ」

 

 一般入学者三十八名、そして推薦入学者四名を加えた四十二名のクラス表のようだ。

 

「……成程、轟や沙門、緑谷は確かにその分類だとA組ですね。……八百万も万能だが、穴は確かにあります」

「骨抜にしても塩崎にしても堅実な部分があるようですし、そういった意味ではB組でしょうね」

 

 誰もが意見を言い合う。

 その光景を見て、小柄な校長――個性が発現したネズミ、根津校長は人知れず息を吐いた。

 

 まだ、言えない。

 

 あの『オール・フォー・ワン』が生き延びており、オールマイトや沙門蓮羅を狙っているかもしれない、などとは。

 

 正直、嘘であって欲しかった。

 だがオールマイトやグラントリノ、サー・ナイトアイとの協議の結果、事実だと思って行動する事になった。

 後で担任となる教師には伝えておかなければならないだろう。

 だからこそ、次代のヒーローはより多く育てなければならない。

 二人の増員はその為だ。

 本当はあと一クラス増設したかったのだが、国との折衝が難航し、上手く折り合いがつかなった。

 

 嘘を吐けば綻びが生まれる。

 

 だから喋る事は出来ない。

 皆を信頼していないワケじゃない。

 それでも、情報の拡散は最小限に止めなければ。

 

 だが、だからと言って護りに入るつもりはない。

 

 我が高校の校訓は『Plus Ultra(更に 向こうへ)』。

 

 苦難逆境障害試練。

 ならばこそ、それら総てを乗り越えていけるヒーローを育てるのだ。

 




 雄英からの合格通知。

 投影されたオールマイト。

 下された合否。

 そして――春。



 三人は合格し、同じ校門を潜った。



 しかし、試練はその日より始まる。

 最下位の生徒は除籍。

 入学初日に退学の危機。

 焦る出久。

 昂る勝己。

 唸る蓮羅。

 誰も彼もが生き残りに躍起になる中、少年少女たちは担任の正体を知る事になる。



 次回、『最初の壁、見据える先、なりたい未来』



 級友。
 期間限定の運命共同体。
 それで終わるかどうかは自分たち次第。



※祝・ワールドオブファイナルファンタジーマキシマ 発売決定
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