僕らのヒーローアカデミア ~ミラージュたちを添えて~   作:名無しの百号

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 これは、遠くない未来の話。


 ――貴様にとってヒーローとは何だ?


 沙門蓮羅は問われた。

 血染めの男。

 オールマイトの信奉者。

 彼という存在に感銘を受けて、しかし道を違えヴィランとなった者。

 言葉は無力と断じ、命を消す事で世界を変えようとした男。

 そんな男に、気負いもせずに答えたそれは。

 その男をして、怒髪天を突くものだった。

 故に男は断言する。

 この小僧はヒーローではない。紛い物ですら非ず。

 粛正せねばならない。

 故に、そうした。

 しかしそれでも、彼は斃れない。

 血染めの男の前に立ちはだかる。

 その姿、正しく鉄壁。

 異形なる従者を従え、巨腕を振りかざし、背に倒れる級友を護る。

 その姿が、嘗て画面の向こうで見た、()()()に見えて尚――



戦闘、訓練、遊戯

 波乱マシマシの体力測定を終えた僕たち1年A組総勢二十一名は、その後教室へと戻った。

 なんだかんだでやっぱり疲れは皆隠せない様子だ。八百万さんとかは普通にしていたけど、相澤先生の目を見て『本気かも?』って思った僕や沙門くんたちは特に疲れた。

 教室で、今後のカリキュラムとかが書かれてある書類に目を通し、その日は終了となった。

 他のB組とか普通科やサポート科、経営科はきちんと入学式に参加していたみたいだけど、やっぱり出なくて良かったのかな?

 後で何か言われないといいけど、相澤先生。

 

「おーい、緑谷」

「あ、沙門くん」

 

 沙門くんが僕を呼び止める。タマやセラフィも呼び出したままで、肩や頭に乗ってる。

 

「今日はどうする?」

「うん、このまま帰ろうかなって。まだ初日だし、普通に授業を受けてからトレーニングの調整しないと」

「まあ、そりゃそうか。初日から根を詰めてもしょうがねぇもんな。……だ、そうだぞ爆豪」

 

 後ろを振り返りながら沙門くんが言う。

 あ、かっちゃんだ。

 

「チッ。だとしても早目にトレーニングメニュー組むからな」

「うん。でも、ハードワークは沙門くんがいない時はダメだからね」

「解っとるわ、ンな事」

「無茶すんな、とは言わんけどな。せめて取り返しの付く無茶をしてくれ。去年のアレって、監督役がいたから出来た無茶だって事を忘れんなよ?」

 

 頷く。

 そりゃそうだ。

 オールマイトやサー・ナイトアイは色々と都合が付かない日もあったけど、グラントリノだけはほぼ毎日、僕らの監督役として付き合ってくれたのだ。

 でもそれは、殆どヒーローとしての活動をしていなかったとも言える。

 だからこそ僕らは、あの人に頭が上がらなくなった。かっちゃんでさえも。

 個性を使った訓練には監督者が必要で、その資格の一つがヒーロー免許なのだ。

 どうにもグラントリノの滞在費はオールマイトが工面していたようだけど、それでも本拠地が違うヒーローが十ヶ月付きっ切りで指導してくれたのは、多分これ以上ない贅沢だ。

 そして、夜になれば沙門くんの『グリモワル』での訓練。

 ここでの戦闘のお陰で、初動で止まる僕の悪い癖は無くなった。

 様々なミラージュやかっちゃん、沙門くんそしてオールマイトたちを相手にした戦闘訓練を続けていれば、ビビって動けなくなる悪癖だって改善する。と言うか、改善しない方がおかしい。

 戦闘時の躊躇いは、救けられる人の命を危険に晒す行為だと、ナイトアイからも口酸っぱく言われたしね。

 

「おーい!」

 

 僕らの後ろからまた声が掛かる。

 麗日さんや飯田くん、切島くんだ。

 どうやら追いかけてきたらしい。

 

「どうしたの?」

 

 僕がそう尋ねると、麗日さんが駅まで一緒に行かないか、と聞いてきた。

 女子と一緒に下校なんて僕には無縁だと思っていたからか、なんか凄いドキドキする。

 男子とはかっちゃん沙門くんがいたから初めてってワケじゃないけど、それでもちょっと嬉しい。

 

「そうそう。なんか三人共仲が良いけど、どんな関係なのかな?」

 

 話の流れでそう麗日さんに訊かれた。改めて言語化すると、悩む。

 かっちゃんは小さい頃からの幼馴染だけど、沙門くんは中学からの付き合いだ。

 ちょっとややこしいので、少し考えて『今の関係』を答える事にした。

 

「うーん……同じ中学でさ、同じ師匠たちに訓練された仲、かな?」

「……まあ、キツかった」

「吐かなかった日の方が少なかったっけ……」

「お前らどんだけスパルタで訓練しとったんだ?」

 

 切島くんからそうツッコミを入れられる。

 まあ、僕らが遠くを揃って見詰めていればそうなるよね。

 

「……しかし、緑谷くんや沙門くんが同門だというのは納得出来るが、爆豪くんもそうだとは思わなかったな」

「アァん!?」

「メンチ切んな馬鹿野郎!」

 

 かっちゃんが下から覗き込むように飯田くんを睨む。そしてそれを窘める沙門くん。

 ……結構僕、かっちゃんの爆破を利用した空中移動とか参考にしているんだけどなぁ。

 やっぱり言動かな?

 

「そうか? 俺ァ納得したぜ。なんつーか、身体の動かし方が三人共似てる気がしたからな。勿論爆豪が一番キレあっけど」

「カッ、当然だ」

「まあな。俺は二人に比べて取れる手が多い分、習熟に差が出るのは寧ろ当然だろうさ。俺と同レベルである方が怠慢だって」

 

 確かに体術と言う点においてはかっちゃんが一番で僕が二番、沙門くんは一番背が高くて筋肉があるけど三番目だ。

 でもグラントリノやナイトアイに言わせればドングリの背比べ程度の差でしかない――そうだ。

 実際、三人での模擬戦の戦績は似たり寄ったりだし。

 

「でも良いよね、同じ中学の友達が一緒で」

「おう、ダチが一緒とか熱いじゃねぇか!」

「ダチじゃねぇ! ライバルだ!!」

「お、おぉ……そうなのか」

 

 かっちゃんの剣幕に、切島くんと麗日さんは若干ヒき気味だ。

 そこから話題は体力テストへと移る。

 

「しかし相澤先生には驚かされた。俺は『これが雄英。これが最高峰か!』と思ってしまったよ」

「あ、それ俺も思った。でもよ、本気だったのか? 今更だけどよ」

「アホか。ありゃガチの眼だった。……死ぬ気でやったからなんとかなっただけだろ」

「まあ、俺らが将来相手すんのは犯罪者だしな。遊び感覚だと怪我するし、下手すりゃ死ぬ。ヒーローの殉職率、他の職業に比べたら結構高いの知ってるだろ?」

「……あ、そやね。何年か前にヒーローの夫婦が亡くなっとるってニュースもあったくらいやし」

「水を操る個性の『ウォーターホース』だね。殺害したヴィラン、まだ逃走中で捕まってないそうだよ」

「……二年前だったな。ぜってぇコソコソと逃げ回ってんだろうぜ」

「男らしくねぇな!」

 

 そんな会話を僕らは駅で別れるまで続けた。

 何気ないような日常的な会話。

 去年の全部を特訓に費やした僕としては、これだけでも泣けるくらい嬉しい。

 

 

 

 

 

 

 そして、深夜。

 僕は手に沙門くんから手渡された『ガーデンジェム』を握り締めて眠る。

 そうする事で、僕は沙門くんの世界『グリモワル』へと行くことが出来るのだ。

 

「お、来たな緑谷」

 

 僕より先に来ていた沙門くんは、身体をほぐす為に柔軟体操を念入りにやっていたようだ。

 僕は沙門くんに近付く。

 その向こうでかっちゃんが戦っているのが見えた。

 相変わらず《ヴァンパイアオリジン》との戦闘。

 最近少しずつ勝てるようになったみたいだけど、黒星の方が多いって聞いてる。

 あ、今回は負けたみたいだ。

 雷魔法〈サンダー〉を受けて、身体が痺れたところに回し蹴り。オリジンの蹴りはかっちゃんの顎を正確に捉えた。

 かっちゃんは後ろ倒れる事で衝撃を緩和しようとしたみたいだけど、ちょっと遅かったみたいだ。気絶している。

 

「タマ、爆豪の気付け任せた」

「はいなのです」

 

 即座にタマによる回復が施される。

 ダメージを回復させられ、かっちゃんの頬をセラフィが絶妙な力加減でペチペチと叩く。

 そうしたら、かっちゃんは爆発するかのように飛び起きる。そして叫んだ。

 

「もう一回だ!」

「待て待て。緑谷来てんぞ。休憩だ休憩」

「……チッ」

 

 背筋を使って飛び起きて、開口一番にそう吠えるかっちゃんだけど、沙門くんと僕の姿を確認すると舌打ちを一つしてからどっかりと腰を下ろした。

 別れる時に相談したい事があるって伝えていたんだけど、忘れてなかったみたいだ。

 

「それで? 話ってのは何だデク」

「あ、うん。今度さ、A組の皆も『グリモワル』に呼べないかなって」

「まだ早ぇだろ」

 

 呆れた様子でかっちゃんは言う。

 

「別に来させんなっつってんじゃねぇ。連中の性格や考えをある程度知らねぇと、オールマイトたちの件は話せねぇ」

「あ、そうか。そうだった」

 

 確かにかっちゃんの言う通りだ。

 ここにはオールマイトやグラントリノ、サー・ナイトアイも時々やってくる。

 となると、僕らがオールマイトを始めとしたプロヒーローの弟子だって事も話さなきゃいけない。

 でも、となると……

 

「飯田くんや切島くん、それに麗日さんは?」

「今日一緒に下校した三人か」

「……あいつらな」

 

 腕を組んで考え込む二人。

 あの三人なら信頼出来ると思うんだけど……

 

「問題ねぇとは思うが……」

「もう少し様子を見ときてぇな。『グリモワル』関連は慎重に進めたい」

 

 確かにそうだ。

 ここは、沙門くんの精神世界でもある。

 言うなれば僕たちはそこに間借りさせて貰ってるのが実情だ。

 

「緑谷の観察眼を疑うわけじゃねぇが、どういう人間なのかもちっと俺自身が知りてぇな」

 

 沙門くんの言葉も頷ける。

 しかし同じ相手ばかりだとクセが付いてしまうとグラントリノも言っていた。

 確かにミラージュは二百種類以上いるけども、だからと言って人型は少ない。

 対人戦闘訓練という点から鑑みれば、麗日さん、飯田くん、切島くんの三人の参加は、お互いにメリットがある。

 生まれ持った才能やセンスで補える部分はあるけど、結局は積み上げた場数と経験こそが強さの礎になるのだから。

 

「んじゃあ、そういう事でいくぞ。……もういいか?」

「おう」

「ンじゃあやんぞオリジン!」

 

 手を爆破させて、かっちゃんはオリジンに吠える。

 その目線の先を見ると、オリジンは静かに立っていた。

 どうやら律義に待ってくれていたようだ。

 まあ、もう一回ってかっちゃん言ってたしね。

 こうして、かっちゃんはまた増えた黒星を白星で塗り替えすべく突撃していく。

 僕はどうしようかなぁ。

 

「緑谷」

「どうしたの?」

「今日は俺と組手しないか?」

「左門くんと?」

「ああ」

「……うん、いいよ。10パーセントが限界って相澤先生にも言っちゃったし。反動がどれくらいか僕も知りたいからね」

「こっちも新しい技が出来てな。いっちょ試したかったのよ」

「そうなんだ。……よし、やろう!」

 

 こうしていつものように僕らはこの『グリモワル』で経験を積んでいく。現実ではやり難いような無茶だって出来る。そうならないリカバリー方法だって話し合える。

 そして、これが『財産』なのだと心の底から理解するのはそう遠くなかった。

 

 

 

 

 ★☆★

 

 

 

 

 

 午前中の座学を終えて昼休み。

 雄英高校の学食は賑わっていた。

 それもその筈だ。

 プロのクックヒーロー:ランチラッシュが食堂を切り盛りしているのだから。

 一流の料理を安価な値段で頂けるのだ。

 沙門くんなんか料理を食べる度にその味に戦慄してるくらいだしね。

 この前も『これ、この値段出したら普通に原価割れするだろ』って震えてたっけ。

 中一の頃に聞いたけど、沙門くんは料理やお菓子作りが趣味らしい。

 ミラージュたちにせがまれる事が多いから作るようになったんだって。

 現に今日も、

 

「おいしーですー!」

「いやー、ホント今日は私たちで良かったですよ。明日はトンベリたちの番だから食い溜めしとかないと」

「お前ら安くて美味いからって限度があるからな? 財布には上限があるって理解しろよ!?」

 

 召喚していたタマとセラフィが結構な量を食べていて、それに怒鳴っている。

 まあ、周囲の皆は笑顔でご飯を食べるタマとセラフィにほっこりしてる人が大多数だ。

 同情的な視線を向けるのは少数だった。

 

 

 

 

 

 所変わってA組教室。

 午後の授業が始まる。

 今日は、待ちに待ったオールマイトの授業だ。

 今か今かと待っていると、

 

「わーたーしーがー!」

 

 聞き慣れた、でも心揺さぶるような声が廊下から響く。

 

「普通にドアから来た――――っ!!」

 

 オールマイトだ。

 銀時代(シルバーエイジ)戦闘服(コスチューム)を着込んだオールマイトが、意気揚々と教室に入ってきた。

 オールマイトファンの僕としては鳥肌モノだ。

 多分、かっちゃんも結構喜んでると思う。

 お菓子のオマケに入ってたヒーローカード、オールマイト関連のヤツをフルコンプしたのは僕だけじゃないのだから。

 そして、他の皆も興奮している様子が伺える。

 でも、生で見ればそれだけでオールマイトの画風の違いと迫力が感じられるのだから、寧ろそれは当然と言えた。

 そんなオールマイトが教えてくれるのは、ヒーロー基礎学。

 単位数も多く、ヒーローに必須な項目を習う授業だ。

 そして今日は――『戦闘訓練』。

 入学前に学校に提出していた『個性届』と『要望書』を基に作成された戦闘服(コスチューム)を着てのそれ。

 オールマイトの操作で左の壁が動き、数字の入った鞄が入った棚が展開される。あの中に皆のコスチュームがあるんだろうな。

 まあ、僕の場合はちょっと違うけども。

 

「さあ、着替えたら順次グラウンドγに集まってくれ」

『『『はーい!!』』』

 

 促され、皆は嬉々として鞄を持って教室を後にする。

 

「形から入るってのは大切な事だぜ少年少女」

 

 そんな僕らに、オールマイトはいつも以上の笑みを見せながら告げる。

 

「自覚するんだ!」

 

 まるで鼓舞するかのように。

 

 

 

「今日から自分は、ヒーローなのだとっ!!」

 

 

 

 ずらりと並んだ僕らを前にして放たれたその言葉は、痛いくらいに僕らの心に火を着けた。

 

「恰好良いぜぇ! それじゃあ始めようか有精卵共!!」

 

 こうして、戦闘訓練が始まった。

 

 

 

 ★☆★

 

 

 

 

 

 この授業を前に、オールマイト(やぎとしのり)は嫌に緊張していた。

 生まれて初めての授業。

 疎遠であったサー・ナイトアイともなし崩し的に交流が再開され、師とも密に連絡を取れるようになった昨今、人目を気にせずに授業内容の充実を図ることが出来るようになったとは言え、それでも初めての授業というのは不安だった。

 年若い少年少女の未来を導く。

 これはかなりの重要案件だ。それこそ、下手なヴィランなんかよりも難物と言えた。

 その中に愛弟子が三人、これだけでも気が休まるという物だ。

 少なくとも、自分にとってはそうだった。

 

「さて、皆も気になっている戦闘訓練の内容だが……」

 

 お手製のノートを広げ、ページを捲る。

 師や相棒からの改善点を纏めた自分の為の教科書だ。

 カンペではみみっちく見えるし、それならいっそ厚いノートに色々と書いていけば自分の為にもなる。

 

「今日は」

「あ、すいませんオールマイト」

「What?」

「ちょっと時間貰ってもいいっスか?」

 

 額に青筋を浮かべた蓮羅と勝己がそう言った。

 視線の先には、出久。

 市販のジャンプスーツに、市販のプロテクターで構築された戦闘服。

 仮面の代わりのフードが自分(オールマイト)を模しているのがお茶目だと思っているが、どうやら二人は違う印象を抱いたようだ。

 

「あー、手短にね」

「「うぃっす」」

 

 のっしのっしと二人が出久の方へ向かう。

 訝し気な周囲を他所に、二人の前蹴りが出久に炸裂する。

 

(((何故――――っ!?)))

 

 困惑、混乱するクラスメートを後目に二人は容赦のないストンピングを開始する。

 

「お前は何を考えとんのじゃアホ緑谷!!」

「市販の服でヒーロー活動やるとか舐めとんのか人生を!?」

「痛たたたたたたたた! ちょ、やめ、本気!? 授業始まる前に怪我人出るよこれ!?」

「安心しろ、幾らでも治してやらぁ!」

「その前にその舐めた根性叩き直してやろうって親切心だ、存分に味わえやクソデク!!」

「いやでもこれお母さんが用意してくれた……」

「それで死んだら本末転倒だろうが! もうちょい考えろ間抜けぇ!!」

「例えおばさんがこのスーツをくれたにしても、デザイン事務所に送れば良かっただろうが! その形のまんま戦闘服に出来たかも知れねぇだろ!!」

 

 余りの出久の見通しの甘さにマジ切れの二人。

 どう考えてもその服では個性の攻撃には耐えきれない。

 そんな事を失念していたライバルの阿呆さ加減がどうにも我慢が出来なかったようだ。

 

 

 

 

 嵐のようなストンピングを受け、地面に突っ伏す出久。

 二人は、フンっと鼻を鳴らすと足を退ける。

 そして蓮羅がミラージュを召喚する。

 霧の竜である《ミストドラゴン》とお馴染みの《タマ》だ。

 ミストドラゴンの頭にタマが飛び乗ると、二匹は力を合わせて魔法を放つ。

 緑色の光の粒と白い霧が出久を包む。

 それらが晴れると、あっさりと出久は立ち上がった。

 痛そうな様子は見受けられない。

 

「もう酷いよ二人とも……」

「自業自得だろ阿呆」

「戦闘服の意味、もっぺん調べて出直してこい」

 

 そんな三人のいつもの様子にオールマイトは口を押えて笑いをかみ殺す。

 このコント、『グリモワル』でよく見かけるものだ。

 

「さて、気を取り直して戦闘訓練を始めようか!」

 

 しかし話の腰を折るように装甲のようなヒーロースーツを纏った飯田天哉が挙手をして問いかける。

 

「先生。ここは入試の時の会場ですが、市街地での戦闘なのでしょうか!?」

「いいやもう二歩踏み込む! 屋内での対人戦闘訓練さ!」

 

 オールマイトは過去の経験や統計から、屋内での凶悪ヴィランの発生率が高いのだと告げる。

 監禁、軟禁、裏商売。

 弟子たちには既に伝えているが、真に賢しい敵は屋内(やみ)に潜んでいるものだ。

 とは言え、実践的な対人訓練。

 基礎訓練無しでの実践に不安を覚える生徒もいたが、その基礎を知る為にも各自の戦闘スタイルを知らなければならない。

 要するにこの戦闘訓練で得られたデータを基に、個人個人に見合った訓練を構築するのが目的なのである。

 そして、急増のチームでの連携を調べるという意味で、クジ引きをさせた結果――こうなった。

 

 A:緑谷・麗日

 B:轟・障子

 C:峰田・八百万

 D:爆豪・飯田

 E:芦戸・青山

 F:砂藤・口田

 G:上鳴・耳郎

 H:常闇・蛙吹

 I:尾白・葉隠・沙門

 J:切島・瀬呂

 

 その結果を見たオールマイトは思う。

 

(良かった……! 三人が分かれたぞ!!)

 

 グッと内心でガッツポーズする。

 贔屓目無しに鑑みても、出久たちの能力は抜きん出ている。

 恐らく比肩するのは推薦枠である轟と八百万の二人くらいだろう。

 もし仮に三人が同じ組に纏まってしまえば、どちら側であろうとも相手に何もさせずに終わらせるかもしれない。

 『グリモワル』で戦闘訓練をいち早く積み上げている為、三人はお互いのクセをよく解っている。そこから自分たちなりの連携も練り上げているのだ。

 まだまだ甘く粗削りだが、自分や師が有用と認め、辛口のナイトアイでさえ三人の連携は合理的と太鼓判を押すほどだ。

 

「さて、これで十組のチームが出来上がった! 内一組が三人だけども、ミッションの概要を説明するぞ!」

 

 お手製のノートの開いているページを見て、前日に必死こいて考えた設定に不備が無いか確認する。

 頷き、

 

「まあ、かなりざっくりとした設定だけどね――ヴィランはアジトに核爆弾を秘匿しており、通報を受けたヒーローがその核の無力化、ないしヴィランの確保する、というのが今回のミッションだ」

 

 設定がかなりアメリカンだが、しかしこういった事件も無いワケじゃないのだ。

 事実、オールマイトも何度かアメリカ、日本問わずにこの手の事件に遭遇した事がある。

 

「確保の条件はどのようなものでしょうか?」

 

 露出度の比較的高いレオタードタイプの戦闘服を着た八百万百がそう訊いてくる。

 

「この確保用のテープを相手の身体に巻きつけるのさ! 核の無力化は、核に手が触れた場合に達成したものとするぞ!!」

 

 ヴィラン側は五分間のセッティング時間があり、ヒーロー側はビルの見取り図と先程伝えた確保用テープのみで突入。そして仲間同士で連絡し合う小型無線機。

 制限時間は十五分。

 かなりヴィラン側に有利なシチュエーションだ。

 

「それじゃあ最初の対戦相手を決めるぞ! ――コイツらだ!!」

 

 出したボールに書かれてある文字は、敵:Dにヒーロー:A。

 

(Shit……っ! よりにもよってこの二人かよ!?)

 

 互いに意識し合う二人だ。

 これが訓練という事を忘れて激しくやり合わないか心配だ。

 

「……あー、伝え忘れていたが、大規模なビルの損壊を招くような攻撃は禁止だ。特にヴィラン側のチームは大幅減点になると思っておいてくれ」

「あ、そっか。そうだよな。自分のアジトを滅茶苦茶にする筈がねぇもんな」

「もしバトってる音が外に聞こえてたら、更にヒーローがやって来る可能性も出てくるもんな」

「いやね、そういった拠点を犠牲にしてでもヒーローを倒すってヴィランもいないワケじゃないんだよ。でも今回は、アジトを護ろうとするヴィランの思考を考えて欲しい」

 

 そう言われ、考え込む飯田。

 しかし爆豪は、

 

「オイ行くぞメガネ!」

「爆豪くん、だから俺は飯田だと何度言えば……!」

 

 ビルの中へと入っていく。

 それを見届けて、

 

「じゃあ、我々も移動しよっか!」

『『『はーい』』』

 

 出久と麗日をその場に残して地下のモニタールームへと向かうのであった。

 

 

 

 

 

 ★☆★

 

 

 

 

 爆豪は考える。

 

(……デクの『OFA』は10パーセントが現状の最大値。無理が出来ても12とか13とかだろうな)

 

 つまり、オールマイトの十分の一のパワーが出せると言う事だ。

 

(俺を真似しての空中移動もサマになってきてやがる。下手に長引かせると厄介になるな)

 

 長期戦になれば、自分も危険だ。

 施設破壊は大幅減点だと言われた。自分はスロースターターで個性の都合上、汗を掻けばそれだけで爆破の威力は増す。

 爆破の範囲をきちんと把握しなければ失格になるかもしれない。

 

「おい、メガネ。お前、足が速くなる個性だよな?」

「あ、ああ。そうだが……」

(……チッ。偵察向きだが、デクがそれを読めねぇ筈がねぇ。裏をかかれりゃ一瞬で不利だ)

「どうするつもりだ?」

「……浮かす丸顔の限界値が解らねぇ。デクのパワー強化だって真正面からぶつかりゃお陀仏だ」

「そう、だな。……いっそ俺が攪乱目的で二人を追い掛け回そうか?」

「いや、それだと目が慣れたデクに潰される危険性がある」

「成程……そう言えば、麗日くんだが」

「なんだ?」

「入試の時、0Pのロボットの腕を浮かせていたな。その後で具合が悪そうにしていたが」

(……あのデカいロボの腕? ……一、二トンくらいは浮かせられると仮定しとくか)

 

 しかしそれ程であろうとも、機動力という点では緑谷の方が上だろう。

 浮かせられる方はそれほど鍛えているようには見えなかった。

 少なくともヒーローを目指す為に死に物狂いで鍛えた自分たちには及ばないだろう。

 つまり、警戒するは緑谷ただ一人。

 

「……俺が一階で待ち伏せする」

「なに?」

「デクをビルから叩き出して、そんで丸顔を狙う」

「……分断作戦か」

 

 爆豪の頭の回転の良さに飯田は内心で舌を巻いた。粗野な印象はそのままだが、クレバーな一面がある事に気付いたのだ。

 

「つっても、デクだって動くだろうからな。叩き出して「はい、それまで」じゃ済まねぇ」

「そうだな」

「で、だ。メガネ。お前、そうなったら核ん所離れてデクを足止めしろ」

「……核の防衛が皆無になるが、その前に迎撃すれば良いということか。だが、足止めだけでいいのか?」

「丸顔はデクより弱ぇ。これは客観的な事実だ。なら、俺が追い込んで爆破させりゃ気絶すんだろ」

「そうして、二対一で緑谷くんを迎え撃つ――か。些か卑怯な気もするが」

「こっちはヴィラン側だぜ? ヒーローの嫌がる事を考えるのが定石だ」

「……成程」

 

 納得する飯田を横目で見ながら爆豪は内心で思う。

 

(……まあ、それは向こうにも当て嵌まる事ではあるんだけどな)

 

 そして、五分が経過する。

 ブザーが鳴り、試験開始が通達された。

 

 

 

 

 

 しかし、

 

「来ねぇ……まさか!?」

「爆豪くん上だ! 緑谷くんが麗日くんを背負って屋上へ――!!」

 

 序盤はヒーロー側が裏をかき優勢。

 飯田が異変を感じ下を確認しようと窓のある部屋へ向かい、緑谷が麗日を背負って屋上へと駆け上がって行くのが見えた。

 遭遇したのにも関わらず窓から突入しなかったのは、飯田と目が合ったからだ。

 その部屋には核は無かった。故に、窓を蹴破って確保する前に飯田が逃げると判断した二人は、態勢を整える為に屋上に上がったのである。

 これによりお互いの当初の作戦は崩壊。

 爆豪は、即座に外に出て爆破を利用して飛び、屋上へと向かう。

 

「おい、メガネ!」

『爆豪くんは緑谷くんを頼む! 麗日くんの相手は俺がする!!』

 

 無線で短く計画変更を告げられる。

 舌打ちしつつも了承する。

 だが、

 

「デクっ!!」

「ここは通さないぞ、かっちゃん!!」

 

 それは向こうの想定通り。

 屋上に一人残った緑谷は、爆豪を待ち構えていた。

 爆破の個性持ち相手に遮蔽物の無い屋上での戦闘は悪手ではある。

 しかし相手は緑谷出久。

 手の内はほぼ知られている。しかし逆もまた然り。

 緑谷の全身に緑色の雷光が迸り、個性が励起している事が伺える。

 初手の対応を間違えれば、それだけでゲームオーバーとなるだろう。

 だがそれでも。

 

 緑谷も爆豪も、その口には笑み浮かべていた。

 

 

 

 ★☆★

 

 

 

 全身ダイナマイトのような戦闘服の爆豪とジャンプスーツにプロテクターの緑谷。

 二人の戦闘は画面からでも解る程に派手だった。

 手榴弾を模した籠手と、市販のグローブに包まれた拳が交差する。

 殴る度に爆破される。

 既に緑谷の服はボロボロだ。

 しかし、それでも身体を迸る雷光が消えることは無い。

 大振りの右を左手で押さえ、身体を反転。爆豪の腕を抱えてそのまま武器のように爆豪を振り下ろした。

 強化された膂力によるそれは、背中から屋上の床に激突し、その箇所を陥没させる。

 その衝撃で、爆豪が呼吸困難に陥った。

 ……それだけで済むタフネスさは称賛されて然るべきだろう。

 だがそこで終わらない。

 緑谷は、更に追い打ちとして倒れた爆豪に踵を落とす。

 容赦の無い追撃。受ければ失神は免れないだろう。

 しかしそれを爆豪は回避する。

 左右の掌を時間差で爆破させての上昇と回転による緊急回避だ。

 そして、その回転を利用した蹴りが放たれる。

 目線は緑谷のこめかみ。

 だが、緑谷はその蹴りをスウェーバックで避ける。その伸びた態勢の緑谷に――爆破。

 爆炎と煙で視界が塞がれる。

 その瞬間に、二人は距離を取った。

 

『『『…………』』』

 

 そんな攻防を見て、クラスメートたちはその容赦の無さに引いたようだ。

 

「……相変わらず緑谷は巧いなぁ」

 

 爆豪の爆破が起きた瞬間に攻め、爆破されるまで防御に徹する。

 その攻撃と防御の意識の切り替えが早い。

 一方爆豪はガン攻め。

 攻めて攻めて、相手の出方を見極め――攻める。

 センスが突出しているコイツだから出来る方法だ。まあ、とは言っても防御も考えているようだが。

 大きい爆破はお互いの視界を塞ぐので、距離を取る為に使っている。

 で、距離が空くという事は――助走が出来るという事。

 

「来るぞ」

「なにがだ?」

「爆豪の十八番だ」

 

 左右の爆破によって加速。錐揉み回転する自分。そこに身体の捻りを加えての右の大振り。その極地。

 

 

 

「名を、榴弾砲(ハウザー)着弾(インパクト)

 

 

 

 轟音。

 地下にすら響くような大規模攻撃。

 ……アイツ、オールマイトの話、忘れてねぇだろうな?

 

「うぉおお……爆豪アイツ、もう必殺技出来てんのかよ」

「凄いな……」

「ですが、アレでは緑谷さんは……」

「いや? 寧ろこっからだぞ」

 

 立ち昇る爆炎の中、服が形を成していない緑谷が現れる。

 歯を食い縛り――笑顔で。

 勿論、迎え撃つ爆豪も笑顔だ。

 

「アイツ、オールマイトのガチ勢でな――」

 

 んで、来る日も来る日もオールマイトの技を研究して自分なりの戦闘スタイルに落とし込んだ技だ。

 

「技の名を、出久式(デクスタイル)・D‐SMASH」

 

 通称・劣化版DETROIT(デトロイト)‐SMASH。

 インパクトの瞬間に、上限以上に強化した拳で相手を殴る技だ。要するに爆豪のハウザーインパクトとコンセプトは同じだったりする。

 当初はそのまま普通にオールマイトの技を丸パクリしていた緑谷だったけど、爆豪からの痛烈な『丸パクリはダサい』の一言で色々と考え、この前漸く決定したのがこれだ。

 

 正式な名前は、緑谷出久式格闘術(デクスタイル・アーツ)

 

 徒手空拳で戦う緑谷は、その一挙手一投足が技そのものだ。

 だがそこはオールマイトガチ勢。

 ここぞという時に叫ぶ技名には、アイツの想いが籠っている。

 だから、食らえば――重い。

 だがそれは、爆豪も同じ。

 腹を殴られる瞬間にカウンター。

 爆破され、威力は減衰する。

 

「おいおい殺す気かよ二人共!?」

 

 切島がそう言うのも無理はない。

 だが、

 

「そうか?」

 

 俺はそうは思わない。

 あの二人はこの程度じゃ相手が死なない、潰れないって解っている。

 付き合いの浅い俺だって解るからな。

 

「……二人共、笑ってるわね」

 

 ケロ、と蛙を模した戦闘服の蛙吹が呟く。

 

「そうだな。まあ、この程度の戦闘訓練なんざ去年さんざっぱらやってんだ。……ただ」

 

 あの二人、コンビ戦だって事忘れてねぇだろうな。

 別の画面を見れば、飯田が麗日を牽制して近付かせないようにしている。

 物が無い部屋だと麗日は個性が使えない。いや、飯田に触れる事が出来れば個性は使えるだろうけど、飯田の脚に追い付ける筈もない。

 こりゃあ、爆豪と飯田の勝ちか?

 

「……あ、ムッシュ爆豪が」

 

 度重なる爆破で、遂に屋上の床に穴が開いた。

 攻撃を避けた為に爆破を受けた足場が無くなったのだ。

 緑谷がそのまま下の階に落ちる――と思ったが、違った。爆豪が緑谷を掴んで位置を反転。爆破を利用し自分が階下へ。そして緑谷は屋上に取り残された。

 多分、これでどこに核があるのか判断が付いたな。

 緑谷の拳が、真下に放たれる。

 崩壊する屋上。

 そして、その真下には――核。

 爆豪と飯田は、麗日を囲んでいる。

 故に――真上からの強襲。それに対応するには半歩遅い。

 気を取られた隙に麗日が走る、浮く。

 止めようとする二人の前に緑谷が立ち塞がる。

 そして――麗日が、核に触れた。

 オールマイトが告げる。

 

「ヒーローチーム、WIIIIIIINっ!!」

 

 こうして、最初の戦闘訓練は幕を閉じた。

 ボロッボロの緑谷と爆豪。

 物陰で吐いてる麗日。

 無傷な飯田。

 そんな四人を見て、クラスの奴らは何とも言えない顔をしている。

 ここまで容赦なく攻撃するとは思ってなかったのかもな。

 

 

 

 そして、戻ってきた四人への講評が始まる。

 

 

 

 




 戦い、勝った者負けた者。

 どちらにも光る部分があり、その熱は伝播する。

 次戦は、IチームとBチーム。

 尾白、葉隠と共に沙門蓮羅が挑むは拒絶の氷。

 その意味を知るのは未だであろうとも、双眸に瞬くは拒絶と憎悪。

 誰かへの底知れぬ怨み辛みが彼を灼く。

 故に、この相対に意味は無い。

 今この瞬間、眼前の相手を見れぬ者に勝利は微笑まない。

 轟焦凍、最初の敗北。

 そして――再起への第一歩。




 次回、『Iチーム、Bチーム、激突』



 遠い日の記憶。
 嘗ての憧憬――その欠片が今、萌芽する。
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