僕らのヒーローアカデミア ~ミラージュたちを添えて~ 作:名無しの百号
頂点を目指し、努力し、挫折した男。
埋めようもない差を前に絶望し、しかし諦めきれない男は、次世代に託した。
託すだけなら――
過剰なまでの鍛錬。虐待としか思えないそれは、母子を苛む。
ストレス、恐怖、憎悪。
そのどれもが彼らを蝕む。
そして遂に――歪な家庭は崩壊する。
切っ掛けは少年の無造作な一言。
ただ、震える母を元気づけようと近付いた。
それだけで、母は――限界を迎えた。
浴びせられる熱湯。
少年の絶叫。
狂乱する母。
激怒する
この日、この家族は決定的に間違った。
故に少年もまた、囚われた。
今もまだ、その呪いは解けない。
オールマイトに率いられて地下へとやってきた四人。
どこか戦々恐々とした空気の中、
「くっそー……マジしくった。あそこで爆破の調整ミスらなけりゃあ……」
「まあ、あれで動揺したかっちゃんを見たから、核の当たりを付けられたんだけどね」
「あークッソ!」
全くの通常運転で出久と勝己は戻ってきた。どうやら歩きながらお互いの行動を話し合っていたようだ。
しかし麗日はヘロヘロで、飯田は意気消沈している。
「お前ら普段通り過ぎるぞ!」
そんな二人の様子にジャケットにズボンの出で立ちの上鳴がツッコミを入れる。普段着でも通せそうなロック系の服装で、戦闘服っぽい部分は耳の通信機くらいだろうか。
「だから言ったろ? 俺も緑谷も爆豪も、さんざんっぱらああいった殴り合いを去年やってきたからな。今更だ今更」
着やすく洋服のように改造した和服と袴に軽装の鎧といった戦闘服を着た蓮羅が事もなげにそう言うと、出久と勝己も頷く。
「まあ、もっと高威力のハウザー受けた事もあるし」
「もっとエゲツねえ威力の拳や蹴りだって受けた事あるぞ」
それ以前に、と二人が口を揃える。
「「そこの『歩く理不尽』に比べたらまだ温い」」
そう言った。
視線の先には、蓮羅がいた。
「まあ、手数は多いけど、それでもお前ら俺に勝つ時もあるだろ」
「殆ど辛勝だって」
「負けるつもりでやった事は一度もねぇけどよ、それでも手下の数や組み合わせがえげつねぇだろ」
そんな話をしていると、オールマイトが手を叩いて意識を向けさせる。
「話をするのも良いけど、そろそろ講評と行こうか!」
そう言うと、四人を前に立たせて、一回目の講評が始まった。
「さて、今回のベストが誰なのかを言う前に、戦闘の流れをおさらいするぞ! まず序盤は、か――爆豪少年がプランを練り、一階と五階にチームを分けた。しかし、緑谷少年と麗日少女は外部、つまり壁を登って屋上からの侵入を試みた。それを察知した飯田少年は爆豪少年に通達。即座に二人を追った爆豪少年とそれを阻む緑谷少年が屋上で会敵。麗日少女は飯田少年を発見するも、膠着状態。派手に屋上で戦ったせいで床が崩壊し、爆豪少年は飯田少年のフォローと緑谷少年の妨害を行ったワケだ。しかし緑谷少年は床を殴って更に瓦礫の雨を降らせ、更に自分が壁になる事で麗日少女の核への到達をアシストしたワケだね。各々良い点と悪い点があるけども、じゃあベストな行動をしたのは誰だと思う?」
手を挙げたは八百万だ。
「はい」
「じゃあ八百万少女」
「飯田さんではないかと」
「ほほう、それはまたどうしてだい?」
「偏に、緑谷さんと爆豪さんは主導で動きましたけれども、屋上での派手な戦闘行動が減点対象。麗日さんは訓練中に笑うなどの中だるみがありました。しかし飯田さんは咄嗟に計画の変更を考えられる柔軟さがあり、麗日さんの個性の対策も十全に備えておられた様子でしたので」
更に続こうとするのをオールマイトが慌てて止める。
「ま、まあ飯田少年も初動が固かったという部分は改善点だけどね! ……(思ってたより言われたな。流石推薦合格者)」
そんな講評を受け、飯田は感極まった様子だった。
「そんじゃあ気を取り直して次に行くぞ!」
そしてクジの結果、敵サイドがIチーム、ヒーローサイドがBチームに決定した。
★☆★
「さて」
俺が口火を切る。
「ぶっちゃけ、相手がどんな個性持ちなのか解らん」
「ぶっちゃけたね!」
「あはは……」
透明人間の葉隠が笑う。
尾白の方は苦笑だろうか。
「取り敢えずさ、お互いの個性について説明いるか?」
「葉隠は透明人間、尾白はその尻尾だな」
「解りやすいよね! なら沙門くんは?」
「俺は……召喚系だな。で、この籠手が召喚媒体」
両腕の紋様が光り、籠手が出現する。
「色々呼び出せるが、サイズによって同時召喚には制限がある。一番多く出せるのがSサイズ、次がMで、その次がL。……もっと上のメガサイズってのもあるが、呼べるのは一体だけで他は呼べなくなる」
「成程、じゃああのタマたちは?」
「あいつらはSサイズだな。あの大きさなら同時に六体くらいは出せる」
「おお! それは凄い!!」
「で、だ。今回の拠点防衛にお誂え向きな連中がいてな……」
機械のようなミラージュだ。まあ原作では違うんだが、今はミラージュでいいだろ。
Sサイズの《サーチャー》系を六機召喚。内訳は赤いレンズの《サーチャー》が三体、青いレンズの《アイズ》が二体、そして、紫のレンズの《デスサーチ》が一体。
「なんだ? ドローン?」
「まあ、似たようなモンだ」
そんなのよりももっと高性能だけどな。
しかしそんな俺の発言に、サーチャーたちは憤慨と遺憾の警告音を発する。
意味合いとしては、『一緒にすんな』――だ。
「悪かったって。すまんすまん」
そんな俺を見て、
「いいなぁ」
「なに? 葉隠さん、ああいうのが好きなんだ」
「うん、可愛いのは好きだよ!」
「あーそう言えば、沙門のタマやセラフィも可愛がってたっけ」
気を取り直して。
「んじゃ、まずは――『ヘンシンカ』っと」
サーチャーの一機に、手を振れてLサイズの《まどうアーマー》へとヘンシンカさせる。
二足歩行型で二爪の腕を持ったミラージュだ。
「うわーロボだー!」
「俺たちでも乗れるサイズのロボか」
んでもって、サーチャーとまどうアーマーを同期させて。
「よし、これでサーチャーたちのデータが、まどうアーマーに送られるようになった」
「おお!」
「で、どうする?」
「そうだな……葉隠、乗ってみるか?」
「いいの!?」
「おう。んでもって……召喚・《タマ》《セラフィ》」
「はいなのですー」
「はいはーい可愛いセラフィちゃんですよー」
体力測定の時に二匹の『ヘンシンカ』は見せているしな。
いい感じに見せ札になるだろうさ。
「で、尾白なんだが……」
「俺はどうする?」
「引き込んでの各個撃破だな。数ってのは十分に強みだ」
「轟か障子の片方をサーチャーたちで足止めしつつ、残った方を核の前まで誘導して捕縛、か」
「何か他に案はあるか?」
「いや、それで行こう」
★☆★
「四階から三人共、動いていないな……足跡が聞こえない」
「下がってろ、危ねぇから。……何企んでようが」
右手に霜が下りる。
「俺には関係ない」
★☆★
地下のモニターには、轟が右手を使った結果が映し出された。
「うおおおおおおおおおっ!? ビルが氷で覆われた!?」
「……仲間を巻き込まず、核兵器にもダメージを与えず尚且つ、敵も弱体化」
「最強じゃねぇか!!」
しかし、
「どうかな?」
緑谷が。
「……悪い手じゃねぇが」
爆豪が。
唸る。
「デク、あの場合、野郎なら誰を使うと思う?」
「……女子とよく話してるタマやセラフィは鉄板だと思う。あの二匹は召喚しているとして……多分、機械系のミラージュかな?」
「となると……《イフリート》や《フェニックス》は出さねぇだろうな」
「うん。これは推測だけど、沙門くんの性格なら……派手な見せ札を使って、その隙を突くと思う」
「なら見せ札はあのチビ共だな」
「それと《まどうアーマー》もだね。葉隠さんが乗っているけど、彼女が透明人間だから轟くんには解らないだろうし」
「確かあのデカブツ……」
「うん、炎のレーザーが撃てた。施設は壊しちゃうけど、それでもアレで氷結は溶ける」
更に緑谷は、
「沙門くんを止めたいのなら、首下まで氷結させなきゃ」
そんなとんでもない事を言う。
爆豪もそれに同意する。
「だな。俺なら意識が無くなるのを確認するまで警戒するわ」
そんな容赦の無い二人に麗日が、
「ね、ねぇ二人とも……そんなに沙門くんって強いん?」
「強い、と言うよりも……」
「手数が多い、だな」
モニターの向こうで、脚を凍結させられた沙門たちの前に左半身を氷を模した戦闘服を着た轟が現れる。
何か沙門と喋っているようだが、緑谷たちには聞こえていない。監督役であるオールマイトだけが、その会話を聴いていた。
『……動いてもいいけど、足の皮が捲れたら満足に戦えねぇぞ』
『安心しろ。そうなったら俺がソッコで治してやらぁ』
『……それでも、俺の方が速いと思うぞ』
『…………まあ、な』
『同意するのか!?』
(上手い手だ。沙門少年、尾白少年)
オールマイトは、二人の会話を聞いていた。
だから、今この瞬間、危険なのは轟だと解っていた。
『なあ轟?』
『何だ?』
『俺らの後ろ、核の前にデカいロボがいるだろ?』
『ああ。お前のモンスターだろ?』
『警戒しないでいいのか?』
『どういう――!?』
『いっくよーまどうアーマー! レーザー発射ーっ!!』
炎の熱線がレンズ部分から発射される。
咄嗟に轟は氷で防御するものの、それは意味なく削られていく。
氷壁が如何に堅かろうとも、熱には弱いのだから。
『ついでだ、タマ、セラフィ』
『はいです! 〈狐火〉!』
『〈エアロ〉ですよーっ!』
二匹の魔法が合わさり、即席の熱風が四階の一角を染め上げる。
その部分の氷結は呆気なく溶けていく。
ならば、後は。
『沙門っ!』
『悪いな。勝てると思ったかもしれねぇけどよ』
歯を剥き出して笑顔で告げる。
『
二人の蹴りと拳が、轟の意識を刈り取った。
「巧ぇな! 炎を風で煽って威力を増加させたのか!!」
「これでは轟くんの氷結は意味を為さない。野外ならば話は別かもしれないが……」
「甘ぇ。外ならもっと高威力の炎と風を出せば良いんだぞ。なるべく施設に損害を与えんように沙門が手加減してるだけだ」
「……葉隠さんの攻撃に轟くんが動揺したのを見計らって、尾白くんとの同時攻撃。三対一の強みを活かしてるね」
「普通なら先の轟さんの氷結で身動きが取れませんわ。でも、沙門さんにはそれを覆す手札があった。タマさんやセラフィさんも安易に進化させずに脇役に徹させた上での勝利。如何に遮蔽物があっても炎を使う、という点が減点対象になりそうですが……」
「あ、こうなると沙門くんたちは時間切れまで待てば良えんやね」
「恐らく、小型無線機で障子はこの状況を察しているな」
「となると……どうなるんだ?」
「向かうしかねぇだろ。どう考えても悪手だって解った上で」
「しかも、沙門ちゃんのミラージュたちが待ち構えるビルの中を、轟ちゃんの氷結に足を取られないように注意しながら進むのね」
「そっか。緑くんみたく外の壁を登れないならビルの中を進むしかないもんね」
だからこそ、沙門は最低限の熱風しか出さなかったのだ。
やろうと思えばビル全体を燃やす事も出来たが、それでは尾白や葉隠にも被害が及ぶのが目に見えていた。特に裸の葉隠だ。鍛えているとは言っても十五歳の少女。そんな乙女の柔肌に火傷を負わせるのはどうしても抵抗があったのだろう。
如何にまどうアーマーと『ノセノセ』した状態であるとは言っても、ビルを丸焼きにするような火力にはどうしようもないのだから。
程なくして障子は、各階を巡回していたサーチャーたちの電撃によって鎮圧。
敵チームの勝利で幕は下りた。
★☆★
「よしよし! 誰も大きな怪我をしなくて良かった! 初めてにしちゃあ上出来だぜ!!」
オールマイトは満足そうにそう締め括った。
皆、真摯に受け止め、真面目に授業を取り組んでいたのだ。
特に愛弟子三人がクラスメートと各々独自に交流する姿には、師匠としては感動すら覚えた。
「相澤先生とは違ってこんな真っ当な授業で良いのかしら……?」
「勿論だとも! 相澤くんが言っていただろう? 自由な校風である以上、真っ当な授業も私たちの自由なのさ!」
こうして、授業は終わった。
思い思いに喋りながら教室に戻る生徒たちを見送りながら、オールマイトは思う。
沙門のあの口上。
(俺がいる――か)
つい先日、『グリモワル』で聞いた彼の血にまつわる因縁。
独自に考え付いた口上なのだろうが……恐らく、聞く者が聞けば、理解するだろう。
あの男を知るのならば。あの言葉を知っているのなら。
(まだ職場体験やインターンは先とは言え、キミはいつか外でヒーロー活動をするんだ。気を付けるんだぞ、蓮羅少年)
受ける印象は真逆だ。
怖気を走らせるヤツの言葉と、弟子である少年の熱い口上。
類似点はあっても共通点にはそうそう辿り着けないだろう。
だが、もしかしたら――気付かれる可能性がある。
そう思わせるだけの事を、『あの男』はやらかしているのだから。
★☆★
「……(負けた)」
帰りの道中、轟焦凍は戦闘訓練での出来事を思い返していた。
「……(氷結が、破られた)」
熱線と熱風。
あれらの相乗効果であのワンフロアのみではあるが、それでも氷結が即座に水へと変わるような温度になったのだ。
それに動揺した隙を突かれ、尾白の蹴りと沙門の拳が自分を貫いた。
訓練後の講評では、自分がベストな動きをした――と評価されたが、それでも負けは負けだ。
沙門もまたムキになっていたと反省していたが、つまり自分と沙門の差はその程度であっさりと開くようなものでしかない。
「……(連続で氷結を出してれば勝てたか? ……いや、それでも最後は熱で氷が溶かされちまう)」
だが、勝てない相手じゃなかった。
しかしあの男と、父と呼ぶしかない忌まわしい男と同じ――炎。
自分の境遇を鑑みれば、動揺するのが当然だ。
しかしそれは障子たちには関係ない。
ならばこの敗北は、自分の責任だ。
沙門たちだって、氷結を解除する為に最も効果的な攻撃を選択したに過ぎない。
「……(障子の索敵能力があれば、あのロボに葉隠が乗ってるのは解ったんじゃねぇのか?)」
それが解っていれば、再度氷結を放てたのではないか?
「……(体力測定でデカい狐と人間サイズのセイレーンっぽいのにあの二匹がなれるのは解ってた。そっちの印象が強過ぎて沙門たちへの警戒が疎かになってた)」
ならば敗因は、パートナーへの信頼不足もあるのではないだろうか。
「……周りに仲間がいても、戦えるようになる必要がある、か」
氷結をただ放つだけでは勝てない相手がいる。
考える必要がある。
「……そういや、風」
思い出す。
微かな記憶。
「……推薦の時、なんかそんなヤツがいたような……?」
因縁は、彼を追い掛ける。
過去が彼の肩を掴むのは、少し先。
――オールマイト、雄英高校の教師に!
そんなセンセーショナルな見出しが紙面を彩るのは当然だった。
ならばこそ、マスコミはそれ以上の餌を求めて現場に出向く。
その中に、悪意はいた。
誰も気付かず。
誰も気にせず。
その小さな、しかし底なしの悪意は集団を突き動かす。
真に賢しい敵、その言葉の意味を少年たちは知る事になる。
故に、少年はその悪意に反応する。
備えなければならない。
次回、『狂乱するマスコミ、闇に潜む悪意、波乱に満ちた始まり』
死者の手の仮面の奥。
眼窩に潜むのは、無邪気な悪意。