僕らのヒーローアカデミア ~ミラージュたちを添えて~ 作:名無しの百号
母同士が従姉妹であるというだけの関係。
しかし、それでも長く交流を続ける理由はあった。
少女と少女の母、そして自分の母の個性が似通っていたからだ。
だからよく彼女は少年の家へとやって来ていた。
四月生まれだからか、事ある毎にお姉さん振り、振り回す少女の事を少年は若干苦手だった。
だからだろうか、少女がヒーロー科に受かったと聞いても、同じ高校だとは思わなかったのは。
事実、西の有名なヒーロー育成校が彼女の地元からしたら近いのだから。
だから、そうだと勝手に思い込んでいた。
結果として、彼は今――廊下を全力で走っている。
嫉妬に駆られたクラスメートから逃げる為に。
オールマイトが教師やってるのが世間にバレた。
マスコミが連日雄英の正門や裏門、職員通用口とかに陣取り始めた。
んで、その人混みのせいで俺ら雄英生徒は絶賛通行止めの憂き目にあった。
あの中を進むのはちょっと勇気がいるな。特に俺はヘドロん事件の件で被害者として小さく顔が乗ってるしな。さっさと入っていった爆豪の面が割れた以上、俺に気付く人間が少なからずいるかもしれない。……仮にいないにしても、メディアに顔出しするのはちょっと嫌だ。
後で正体隠しの仮面みたいなの申請出しとくか。
「……」
ケータイを取り出して相澤先生に電話する。
こうなったら即座に担任に助けを求めるのが合理的ってもんだ。
「ども、おはようさんです相澤先生」
『はいおはよう。どうした?』
「ウチの高校って、いつから門の前にピラニア放流してましたっけ?」
『……あー成程。入れそうか?』
「無理矢理入っていいなら出来ますけど、流石に駄目でしょそれ」
『だな。ちょっと待ってろ。他の生徒たちにも無理に押し入ろうとするなと伝えとけ』
「うぃっす」
ハンドサインでちょっと待つように周囲の生徒指示を出す。で、それを見た生徒が別の生徒へ。
そういった対策をしている間に正門に雄英の教師であるプロが数名到着。中には相澤先生もいた。
マスコミを物理的に脇にどかして俺らが入れるようにしてくれた。
「さっさと入れ。予鈴はもう鳴ってるぞ」
「「「はーい」」」
相澤先生に促され、立ち往生していた俺たちは校門を抜けて教室へと急ぐ。……ついでにSNSへ『雄英高校の生徒だけど、マスコミが邪魔して学校に入れなかった。授業に遅れそうでマジ焦った』と証拠写真付きで投稿。どうせこの手の連中は、ヒーローや警察から怒鳴られても直ぐにやらかすだろうし、スポンサーや上司を動かすのが手っ取り早い。他の生徒、特に経営科の連中は更にえげつない。録音や動画のデータを投稿しているのだから。しかも編集無しの撮って出し。加工されていない生の映像がネットで拡散されていく。
経営科のマネジメント能力の高さが伺えた。
ジャーナリズムってのがどういうモンなのか知る由もねぇが、ここにいるのは殆どが会社員だろう。上の指示には従うしかない筈だ。
で、背後から悲鳴と言うか大声が。
振り返ると鉄のバリケードが門を閉ざしているのが見えた。
「流石雄英、ハイテクだなぁ」
「学生証とかで識別してるから、間違っても忘れるなよ」
「成程」
教室に着くと同時に、チャイムが鳴った。
「おはよう。昨日の戦闘訓練のV見せて貰った」
HRの時間、相澤先生はいつもの小汚い恰好と無精髭の姿で現れた。
ヒーローの戦闘服を着ていても、あれじゃ外でヒーローって認識されるかどうか。
「沙門、爆豪、緑谷」
名前を呼ばれる。
「三人共、火力や判断力は申し分ないが……咄嗟の状況になるとムキになって想定以上の力を出すのが散見された。屋内戦では過剰な攻撃は足場の崩壊を招くぞ。まあ、身に染みて解っただろうがな」
しかしそこで俺に視線が集中する。
「特に沙門、お前もかなりリスキーな行動を取ったもんだよ。炎を風で煽り、しかも一定方向から吹かす事で相手のみに攻撃を加える。自分たちの拘束は余波の熱で溶かす。防衛すべき核を遮蔽物で火から隠したのは良いポイントだが……」
「いやいや初手であそこまでされたら使うしかないでしょ。悪手なのは解ってますけど。まどうアーマーだってあそこに配置したのは葉隠の指示ですよ」
事実、轟の氷結は凄まじかった。
もし同じようなシチュエーションがあるなら、俺は空を飛べるミラージュで氷結を回避する。つーかそれ以前に核のある前でドンパチする時点で阿呆だわな。
今にして思えば、俺や尾白は核のある部屋の前で待ち構えるべきだった。
まあ、そうしなかったのは……緑谷の壁登りを見てしまったからだけどな。
あれを見たせいで窓の外を必要以上に警戒しちまった。
あと、俺も知らん内に熱くなっていたようで、色々手を隠すつもりがかなり尾白と葉隠には喋ってしまった。事実、喋ってないのは籠手の技とミラージュの組み合わせくらいだ。
しかし幸い二人は他の生徒には喋ってない様子。
本人の同意無しで個性の話はしないとか、人間が出来てるよ二人共。
「まあいい。気を取り直して皆には決めて欲しい事がある」
その言葉で、クラスに緊張が走った。
しかし、
「学級委員長だ」
『『『学校っぽいのきたぁあああああああああああっ!?』』』
クラス内は一気にヒートアップ。
ほぼ全員が委員長になりたいと手を上げた。まあ、普通の高校なら押し付けるようなモンだわな。
だがここヒーロー科では、集団を纏めなきゃならんトップヒーローの基礎を鍛えられる重要な役職となる。そうである以上、手を上げない理由は無い。
上げてないのは、俺と轟くらいか。
「静粛にしたまえ!」
そんな中。
飯田が大声を上げる。
「他を牽引する責任重大な役職だぞ! 「なりたい」だけでやっていいワケがない!!」
ごもっとも。
「周囲からの信頼のない者には任せられない聖務だ。民主主義に則るのならば、真のリーダーを決めるのならば……これは投票で決めるべき議案……っ!!」
成程。
正しいな飯田。
だが、
「お前のその手は何だ?」
「聳え立ってんじゃねーか!!」
右手が誰よりもピ――――ンと立ててやがる。
「何故発案した!? そんなにやりたいのにっ!?」
この短い間に信頼関係もクソもないだろう、と蛙吹が言うが飯田は、
「だからこそ! この短い期間で信頼されるような人間こそがリーダーに相応しい、そうは思いませんか先生!?」
「時間内に決まるなら何でも良いよ」
「あーちょっと良いか?」
そこに俺が手を上げる。
「ちと、皆。クラスを見渡してくれ」
見渡すクラスメート。
「……この二十一人を纏め切れる、そう確信が持てるか?」
殆どが無言になった。
しかし飯田と八百万、それに爆豪は自信があるような顔をしていた。
「んじゃ、投票すんぞ」
結果。
「僕五票――っ!?」
「四票、ですか……」
「俺は一票、か。……解っていた。流石は聖職……っ!」
「一体何がしたいんだよお前は」
驚愕する緑谷。
不満そうな八百万。
打ちひしがれる飯田。
それにツッコむ砂藤。
「デクに人気で負けるとは……!」
「まあ、お前に入れるより解るだろ」
震える爆豪。
煽る瀬呂。
「何人かは自分に入れたみてぇだな。……峰田とか」
「だろうな。この短い間でも十分過ぎるくらいヤツの思惑は明白だ」
近くにいた常闇とそんな会話を交わす。
女子のスカート膝上30センチとか発言するような性欲の権化だ。
お堅いヤツに入れるくらいなら自分に入れるだろうな。……いや、あそこまで自分に正直な馬鹿は初めて見たわ。
しかし結果は結果。
委員長は緑谷、副委員長は八百万が務める事になった。
……震えてる緑谷に出来るかね?
★☆★
午前の授業が終わり、僕――いや、俺たちは食堂へとやってきた。
先に来ていた沙門くんや砂藤くんたちの横が丁度空いていたので料理を持って座る。
しかし、委員長……やりたかったなぁ。
「……」
「沈んどるね飯田くん、やっぱりやりたかったんと違う? 眼鏡やし」
「……!?」
「いや、さっきも言ったが「やりたいから」では済まされない。他者を導く重要な責任ある仕事だ。だからこそ僕は緑谷くんに票を入れたんだ」
「お前かい」
「ほんとに何がしたいんだよお前」
沙門くんたちにそう言われはしたが、俺の中では矛盾は無いのだが。
食事と共に緑谷くんたちと会話を続けていると麗日くんが、
「ひょっとして飯田くんって……坊っちゃん?」
そう言われるのが嫌で一人称を変えていたのだが……バレてしまっては仕方ない!
「皆は、ターボヒーロー:『インゲニウム』を知っているかい?」
「勿論だよ! 東京に拠点があり、サイドキックを六十五人も雇っている超人気ヒーローじゃないか!!」
「まあ、名前くらいはな」
「俺も」
「私も知ってるけど、もしかして……」
「そうさ。彼は俺の兄だ」
「ええーっ!?」
「あからさまだけど凄いや!」
驚いてくれる緑谷くんと麗日くん。
沙門くんたちも眼を見開いているな。
「ウチは代々ヒーローの家系で、俺は次男だ。規律を重んじ、人々を導く兄を俺は尊敬している。だからこそ、兄のようなヒーローになりたいと雄英の門を叩いた」
「はー……まさかヒーローの親族が同じクラスにいるとはなぁ」
「兄貴に憧れてヒーロー目指してるのか……なれるといいな、そんなヒーローに」
「ああ! 勿論なるとも!」
その次の瞬間ーー警報が鳴った。
『セキュリティ3が突破されました。生徒の皆さんは速やかに屋外へ避難して下さい』
その言葉を聞くや否や、諸先輩方は即座に動いた。
いや、動いてしまった。
集団心理が悪い方向へ働き、パニックになってしまっている。
(くそ……! これでは原因が解らない! 下手に動けば人波に呑まれるぞ……どうする!?)
ふと、動こうとする緑谷くんの首根っこを引っ掴んでいる沙門くんの姿が目に入った。
(――――っ!! そうか!)
思い出すのは入試のワンシーン。
緑谷くんが、高い場所から全体を俯瞰して見て行動していたように!
「麗日くん! 俺を浮かせて欲しい! そして砂藤くんは俺を上へ投げてくれ!!」
「う、うん!!」
麗日くんの個性で俺の重力を消してもらい、
「何かよく解らんが任せとけ!」
砂藤くんの強化された膂力によって天井にぶつからない程度に投げられる俺。
(あれは……報道陣!? どうして!? 沙門くんの話では身分証やIDが無ければ入ることは出来ない筈……っ! いや、考えるのは後だ天哉! まずはこの事態をどう収拾するか……っ)
先生たちはマスコミの対応に追われている。
パニックになっている以上、普通に声を上げてもインパクトに欠けてしまう。
考えろ! 緑谷くんなら、兄さんならどうする――――?
高速で脳が回転し、身体は流れるように動いた。
僕は咄嗟にズボンの裾をまくり、ふくらはぎにあるエンジンの排気筒を露出させる。
即座に個性を発動し、僕は勢い良く切りもみ回転しながら出口の上へと着地ーーいや、激突した。
発言は、端的で且つ明確に。
「皆さん、大丈――夫っ!!」
僕の身体を張った説得で、なんとか落ち着きを取り戻した級友・諸先輩方は落ち着いて行動を再開した。
なんとかなって本当に良かった。
後で聞いた話だが、報道陣も到着した警察に連行されたらしい。行き過ぎた報道は害にしかならないと自覚するのを求めるばかりだ。
その甲斐あってか、僕は――委員長に相応しいと緑谷くんから推薦された。
咄嗟に動いた事で皆が認めてくれたのである。
感謝しかない。
不肖、1年A組委員長・飯田天哉、頑張ります!!
★☆★
「……」
「お前ら、どう思う?」
「……なんつーか、嫌な感じだな」
「……物を壊す個性? いや、劣化させてるのかな?」
「ヴィランだと思うか?」
「多分。マスコミに紛れて個性を使ったんだと思う」
「宣戦布告、とも取れるな」
「……誰に対してのだ?」
「そりゃあ……一人しかいねぇだろ」
「オールマイト……だね」
「新聞の一面にデカデカと載ってたからなぁ」
「ただの物盗りの可能性は?」
「九割ねぇだろ。多分先生たち、その可能性も考えて調査してるとは思うが……」
「……仮に盗んだとして、何を盗んだのかな?」
「解らん。だが……仮定だけどもオールマイトに関する何かじゃねぇか?」
「……何にせよ、警戒はしとくぞ」
「おう」
「うん」
★☆★
「先生、あの“子供”が雄英高校から帰って来たそうだ」
「……」
「先生?」
「ああ、なんだい?」
「どうした? 最近は嫌に上の空じゃないか」
「……そう、だね。最近、予感がしてね。虫の知らせとでも言うのかな?」
「予感?」
「ああ。散々放蕩していた子供がやっと帰って来る、みたいな感覚が、ね」
「子供がいたのか?」
「まあね。殆ど殺されたけど」
「……(誰に、とは訊かん方が良いじゃろうな)」
「うーん……しかし、どの子かなぁ? あの子かな? それとも、あの子かな?」
「楽しそうだな、先生」
「そうだね。弔の育成とオールマイトへの復讐だけが、余生の楽しみだと思っていたけど、もしかしたらそれだけじゃなくなるかもしれない」
「じゃが、その子孫が先生と全く違う思想だったらどうする? 例えば、ヒーローになろうとしていたら」
「んー、別に気にはならないかな?」
「何故?」
「だって、僕の血筋だぜ? 魔王になる素質は十二分に秘めてるさ。それにさ、どんな思想でも……染め上げてしまえばいいんだからね」
「成程、愚問だったな」
「なんにせよ、まずは目先の事からやっていこう。弔が手に入れた資料を元に計画を建てなきゃ」
「うむ。……それで、どうするつもりだ?」
「オールマイトと生徒が孤立するタイミングを狙って襲撃を掛けようかな、と思っているよ。何より脳無の稼働実験も兼ねているからね」
「ふむ。しかし先生、オールマイトは本当に弱体化しとるのか? 一応スペック上ではオールマイトを凌駕しておるが、不安は拭えんぞ」
「さて、それを確認する為にも弔が考えた雄英襲撃は有用だ。……手負いのヒーローは恐ろしい。僕だってそう思う。オールマイトが
「勝てると思うか?」
「無理に勝とうとしなくて良いんだよ。最終的に勝てば良いのさ。その為に弔がいるんだ」
「あの子供がか?」
「ああ、ことオールマイトに関して、あの子は最高の相性を秘めている。レベル差があっても、通用する最高の毒を、ね」
「その毒は、オールマイトに効くのか?」
「寧ろ弱点とも言えるね。知ればそれだけでヤツは苦悶と絶望の顔を浮かべるだろうさ。……その顔をこの眼で見れないのが本当に残念だ」
「……本当に、恐ろしい人だよ。先生は」
★☆★
翌日。
昨日まで沢山いたマスコミはいなくなっていた。
テレビでも雄英に無断で入った取材班へのコメントは辛辣な物が多かった。オールマイトの画が欲しかったのは解るけども警察沙汰になる馬鹿がいるか、と辛口のコメンテーターなんかは怒ってたっけ。
そして昼休み。
午前の授業を恙なく終えて、昨日と同じように学食でご飯を食べている時に。
沙門くんに近付いてくる女子生徒がいたんだ。
「久し振りね蓮羅」
笑みを浮かべた長い銀髪の少女。
それを受けて沙門くんは普通に、
「ああ、愛か。……愛!?」
二度見して驚いていた。
「驚いた?」
「いや、驚いたも何も……」
クスクスと上品に笑う女子に対して沙門くんは狼狽し、
「お前、ヒーロー科に受かったって言ってただろ。なんでココに……」
「あら? まさか貴方、自分たちだけがヒーロー科の生徒だなんて思っていないでしょうね」
「まさか、お前……」
「そう。私、1年B組の生徒なの」
「……マジか」
顔を方手で覆って項垂れる沙門君。
「父ちゃんや母ちゃんは?」
「勿論知ってるわ。こっちで住むマンション捜してくれたのって叔母様と叔父様よ」
「……知らんのは俺だけかい」
「だって入学式でビックリさせようと思ったら、A組は不参加だって言われるし」
「道理で最近父ちゃんたちがニヤニヤしとるワケだ」
どうやら知り合いのようだけど凄く気安い感じだ。
恋人かな?
「ねぇねぇ沙門くん」
麗日さんが興味深そうに尋ねた。
「その人どなた? 恋人?」
「違う」
ノータイムで否定する。
「あら悲しい」
「阿呆。……えーっと、コイツは
「どうも、再従姉弟の風嵌愛です。もうすぐ十六になります」
「あ、そうなんや」
「沙門くんの再従姉弟か……宜しく頼む、僕は飯田天哉だ」
「あっ、私は麗日お茶子です。宜しくね!」
「……ぼ、僕は緑谷出久です」
近くにいたA組の皆が思い思いに自己紹介をする。
「ん、召喚・《セイレーン》」
それを他所に沙門くんは何故かミラージュを召喚する。
「きゅい~」
「あら、セイレーン。お久し振りね」
セラフィが進化したラ・セラフィと似たミラージュが風嵌さんに抱き着く。
「なんで召喚?」
「そのセイレーン、俺よりも愛のヤツに懐いててな」
召喚しないと拗ねるんだよ。
沙門くんがそう言いながら食事を再開する。
「あ、そうだ。ねぇ蓮羅」
セイレーンの頭を撫でながら風嵌さんは、
「今度、お家に行ってもいい?」
『『『――っ!?』』』
周囲の視線が集中する。
これ結構な爆弾発言だぞ。峰田くんなんか血の涙を流してるし。
「あん? いや好きに来ればいいだろ」
「そうは言うけど、一応家の人に聞かないと」
「お前泊まる気だろ」
「当たり前でしょう?」
「当たり前じゃねぇわ」
なんだろう。
凄くドキドキする。まるで恋人同士の会話を聞いてるみたいだ。
「あのー……」
「なに麗日さん?」
「なんか、恋人じゃなくても家族みたいやね」
「あー」
沙門くんは納得した様子で、
「母親同士が従姉妹でな、その関係でよく泊まりに来てたんだよ。母親と一緒に」
「それと個性が似通ってたから、制御の仕方とかも聞きに来てたのよ。うちのお母さん感覚派だったから、叔母様には助けられたわ……」
「ウチの母ちゃん、性格は兎も角個性の使い方を人に伝えるのは上手くてなぁ」
「そうなんやねー」
そんな話をしていると、遠くから風嵌さんを呼ぶ女子が現れた。
「おーい愛ー」
「あ、一佳」
「なにしてるのさ」
「再従弟がいたから、挨拶」
「あー、そこの人が噂の」
「噂って……」
「こんな美人な再従姉がいるんだ。ちょっとくらい噂になってても当然じゃないかな」
「……よく解った。かなり噂になってるんだな」
「ウチのクラスでは、ね」
「安心しろ。今日からは俺のクラスでもだ」
「あ、私は
「沙門蓮羅だ」
僕たちも挨拶を返していると、拳藤さんは思い出したかのように訊いてきた。
「あ、そう言えば聞きたかったんだけど……愛と一緒にお風呂入った事があるって、ほんと?」
「愛! テメェこの野郎っ!?」
「ちょっと怒らないでよ、事実でしょ」
「ンな小学生ん時の話を今蒸し返す必要がどこにある!?」
殺気が僕にも感じられた。
発生源は、峰田くんや上鳴くん、瀬呂くんたちだ。
それを察知した沙門くんは一気に昼食(僕と同じカツ丼。しかも大盛り)を掻き込むと、
「ちょっと身の危険を感じるからここでお暇させて貰うわ。セイレーン」
「きゅ」
呼ばれてセイレーンは皆に手を振って送還された。
「あ、そろそろ時間だもんね」
「それもあるんだがな……ここで逃げねぇと俺の命が危ねぇ」
そう言い残し、ダッシュする。
「待ちやがれ沙門っ!!」
「テメェこの野郎! あんな可愛い子と泊まり泊まられの関係だと!? 歯ぁ食い縛りやがれ!!」
「この恋愛ブルジョアが!! 授業前だろうか関係あるか! ギタギタにしてやらぁ!!」
うるせぇ知るか!
そう言い捨てて沙門くんは逃げ、峰田くんたちは追い掛けだした。
僕たちもそろそろ行かないと、戦闘服に着替えないといけないしね。……まあ僕はコスチュームがボロボロで体操服での参加になるんだけどね。
悪意が来た。
敵意が来た。
殺意が来た。
人を救う術を学ぶ為の箱庭は、ヴィランによって脱出不可能な檻へと変わる。
逃げろ。
死ぬな。
そして――走れ。
教師はそう告げる。
しかし逃げ惑う事も出来ず、敵意に立ち向かわざるを得ない二十一人。
その中で、吠える漢が三匹。
今、悪意へと拳を握る。
次回、『救助訓練、授業崩壊、敵軍襲撃』
有象無象の悪意。
まだ未熟な正義。
それらは総て、巨悪の為の養分でしかない。