不慣れなところもあると思いますが、よろしくお願いしますm(__)m
風邪を引いた。
――車が、落ちた。
頭ががんがんする。典型的な風邪だな。
――誰か、助けて。
「真実はいつも――」
「コナンくん、危ないよ!」
「まぁた、がきんちょは――」
(あたしの声?)
幾つもの場面が連なる。
(ちょ、キャパが――)
頭を押さえたあたしの前に選択肢が現れた。
このまま、ひとり分だけの記憶を取るか、或いは――
(あたし、は――)
「園子、もう風邪大丈夫なの?
「うん、へーきへーき」
いつものようににへら、と笑ってみせる。
「もう、一週間も経つんだからいい加減、へーきだって」
(ほんとは全然違うけど)
夕刻の商店街。
いつも通りの光景。
(って、あたし『鈴木園子』なんですかっ!?)
と混乱している『自分』と、いつも通りのノリで蘭達と歩いている『自分』がいる。
(まさかの分裂っ!?)
いやまあ、いきなし『鈴木園子』になってそれまでの記憶ナイです、状態よりははるかにマシだけど。
(ここってかの『コナン』の世界だよね)
確か、『鈴木園子』は、主人公である工藤新一、そしてヒロインである毛利蘭と幼なじみであり、大概事件に巻き込まれてはキャーキャー言っているキャラだったはず。
救済として与えられた京極さんも、やれ空手の試合だ、武者修行だで、なかなか日本へ帰ってこない。
(ちょっとあたしの扱い、ひどくない?)
まあ、ヒロインの蘭ちゃんが、新一くんになかなか会えないから、仕方ないのかもしれないけど。
「今日、ポアロに行かない?」
「ごめーん、まだヤボ用で無理なの」
ごめん、と両手を合わせて謝る。
(まだ『記憶』があやふやなのと、……マジに授業、ついていけぬ)
記憶処理担当者がいたら、マジ訴えてやりたい。
(授業内容が、ほとんど真っ白、ってどうゆうことよ)
替わりに『コナン』の事件簿やら、『向こう側』の記憶が入ってきたから、ラッキーなのかな?
(まあ事件簿っていったって、多分、過去のものなんだろうけど)
まずは学校の授業から。そして――
いつも『コナン』を見て思っていたこと。
(もう少し、べんきょーしろよ。園子)
幾らお姉さんが後を継ぐとはいっても、結局何をしても『鈴木財閥』の名は付いてくるのだ。
それと、もう一つ。
(コナンくんといい、あんた達蘭ちゃんに頼りすぎ)
幾ら空手が強いとはいっても、蘭ちゃんだって高校生でしかも女子。
(ふむ。やはり少しは護身術も学ばないとな)
あたしの中の『園子』の部分が「やだー、面倒くさい」って言ってくるけど、無視。
「じゃ、また明日ね~~」
軽く断ってあたしはひとり、帰路についた。
(えっと、確かこっちが近道)
お嬢様なんだから車で送り迎えなんじゃないのか、って?うん、普通はそうだよね。
でも園子ってば、蘭ちゃん達と一緒に帰りたい一心で断っていたみたい。
で、もちろん、あたしもそこは習います。
帝丹高校はお嬢様校ではないのだよ。
そうして、やっぱりというかこちらに気付かれないようにボディーガードは付いているみたい。
(らしい、というのはこの間、笠井(執事だっけ?)がそんな風なことを言っていたから)
だけど、園子はこれまでの行いが祟ってか、その陰のボディーガードはダントツに少ないらしい。
(やっぱりもう少し、スキルあげないとな)
就職(うん、絶対一族の仕事だよね)するにしても、結婚(京極真さんかな、ってまだ会ったことないんだよね)するにしても、今のままだとお荷物になってしまう。
そんなことを考えながら、公園を通り抜けようとしたとき、
「安室さん」
なんと、公安で探偵さんで、黒のなんちゃら組織潜入中のバーボンこと安室さんを発見!
(う、あんまり会いたくなかったんだけどなあ。だってこの人の洞察力、半端ないんだもの)
ちなみに蘭のお父さん毛利小五郎名(?)探偵の弟子で、その探偵事務所の下の『ポアロ』っていう喫茶店でイケメン店員としても有名。
(今日、『ポアロ』パスしたのに何でいるのよ)
「園子さん、ひとり何て珍しいね」
(うわあ、これが噂のイケメンスマイル!!……うん、営業用の笑顔だね)
ダテに社会人してません、って。
(っと今はあたし、高校生か)
「安室さんこそ、今日は『ポアロ』お休みなんですか?蘭達、行っちゃいましたよ」
「ああ。ちょっと探偵の方で仕事が入ってね」
「そうですかあ。何か大変そうですね。あたしはこないだの風邪からこっち、親が早く帰れ、って煩くて」
(うん、習い事とかって園子のキャラじゃないから、これでOK)
えへへ、と笑ってそれじゃ、と踵を返す。
「またね、園子さん」
「今度、『ポアロ』行きますね」
と、本来なら話はそこで終わるハズだった。
あたしの前方から駆けてきたメガネのお兄さんが駆け抜け様に『降谷さん』と彼を呼ばなければ。
今、公園にいるのは、あたしとメガネのお兄さんを除けばひとりだけ。
一瞬、ぴきっ、と何かが凍ったような音が聞こえた気がした。
(ふり返るの、恐い)
自然と早足になり、駆け足になった瞬間、がし、と肩に重みがかかった。
「……園子さん、悪いけれどちょっと付き合って貰えるかな」
(ひいいっ!青すじ立てての笑みってやめて!夢に出そう、ってあたし、帰れる、よね?)
「さて、どう話したものかな」
現在、安室さんの車にいます。白いスポーツカーだあ、カッコいいって、この雰囲気いや~~
固い表情の安室さん、助手席に座ったはいいけど、息すらできそうにないあたし。後部座席では、さっきのメガネのお兄さんが爼の上のコイみたいな顔してるし。
あんまり息苦しいので、断って窓少し開けて貰いました。
(もういいや、思い切って言っちゃえっ!)
だんだん時間がなくなってきたのも、事実。
(習い事に遅れたくないし、遅れるなら遅れるで、どうやって説明したらいいのよ)
ふう、とあたしは息を吐いた。
「あの、あたし、黙ってますから帰して貰えません?」
安室さんがおや、という表情をしたようにみえた。
「聞かないのかい?」
(どこまで話すべきか。少しは牽制しといた方がいいのかな)
ままよ、とあたしは心の内で気合いを入れた。
「聞かなくても大体分かります。……潜入捜査でしょう?」
「なに」
「おい!」
はあ、とあたしはわざとらしく溜め息をついた。
「後ろのメガネのお兄さん、公安でしょう?片方の肩、下がってますよ。ホルスター着けてますね。隠しても無駄です。この日本で銃を所持できるのは、任務遂行中の警察官だと思いましたけど」
百歩譲って◯暴系と考えても、お兄さんからはそんな感じしないですし。
「話を戻しますが、偽名を使う、ということは『おとり』か『潜入』。日本でのおとり捜査は認められていなかったハズ。で、残るのは潜入捜査。これだと麻薬取締官も当てはまりそうですが、この近辺にそういった大規模な組織、団体が来ているという情報はなかったので却下して。残るは公安。そのお兄さんは……キャリアではなさそうですし、ここ都内ですから、警視庁の公安ですね」
キャリアを知っているのか、と聞かれたので一応答えておく。
「大雑把にですけど、確か国家公務員試験に受かってくるのが、キャリアで彼らは『特別扱い』だから、最初の階級が『警部補』でしたっけ?それもすぐに『警部』になって。叩き上げの方が巡査から始めて、定年間際に『警部補』や『警部』になるのと比べると随分な違いですよね」
(おーい、ちゃんと答えているのに重い沈黙はヤメテ)
「で、公安に入るのは警察学校の成績上位……」
「もういい」
ハンドルに両腕と顎を預けたままの安室さんが遮った。
「何なんだ、一体君は……」
「その前に、後ろのメガネのお兄さんにちゃんと言っておいて下さい。外では『安室さん』と呼べ、と。それでなくても、安室さん、目立つんですからね」
それじゃあ、とドアを開けようとすると、
「まだ、話は済んでいない」
「ですから言いません、って。安室さんが本当は『降谷さん』で、『警察庁』の公安だなんて」
「「……」」
(あれ?また空気、凍った?)
「なん、だと?」
(痛い!掴まれた肩、めっちゃイタイんですけど!)
「ふ、降谷さん相手は一般人ですっ!手加減を!」
「これが一般人だと!?こんな洞察力を持った一般人がどこにいるんだ!?言え!どこの組織だ?いつから掏り代わった!?」
(ぐはっ!そう来ましたか。……あながち外れてもいないんだけどな)
例の風邪であたしはひどい高熱を出し三日三晩、寝込んだらしい。
その時の後遺症か何か知らないが、『鈴木園子』としての記憶が虫食い状態になり、熱が引いてからは、物事を遠くから客観的に見ているような、不可思議な感覚を味わっている。
そのせいか、以前より洞察力が深くなった気がする。
息も絶え絶えに、そう説明するとようやく手が離れた。
「――そうか。すまなかった」
「いえ」
だけど、この話には続きがある。その『虫食い』となった記憶の隙間を縫うように、全く有り得ない記憶が入り込んだのだ。
あるひとりの女性の一生分の記憶。
それだけなら良かったかもしれない。
彼女がいた世界には『コナン』の物語があり、蘭も安室さんもメガネのお兄さん(風見さん、だっけ?)もその中の登場人物です、なんて――
(口がさけても、言えない)
「では聞いてもいいかな?どうして僕が『警察庁』の公安だと?」
「それは」
と、あたしは後ろをちら、と振り返った。
「さっきのメガネのお兄さんが『降谷さん』と呼びましたよね。あの響きは明らかに自分より上の立場、上司への態度です。で、それだけなら同じ警視庁の上司かな、と思うんですけど、何かさっからひどく脅えているような、気遣い方が凄いというか。それらを加味してしてもう一度、あの呼びかけを頭の中で再生したら、自分より遥か高みにいる人への尊敬の念も入っているような――」
「もういいです。やめて下さい」
(……年上の人に敬語使われちゃった)
「確かに凄いな」
「安室さん?」
少し立ち直った感じの安室さん(メガネのお兄さんはまだ無理みたい。えと、何かごめん)が、あたしと目を合わせた。
「今の君の姿を見たら、以前の『鈴木園子』を知る者なら確実に驚くだろう。まさに別人。君もそれは本意ではないはずだ。どうだろう。ここは痛み分けとして互いに――」
「安室さん」
あたしは少しムッとして遮った。
「なんだい?」
「どうして公安の人はそういう言い方しかできないんですか?何かあったんですか?あったのなら素直に『手を貸して』と言えばいいじゃないですか」
すると『安室さん』は少し賢しげな笑みを浮かべた。
「君に手伝って貰いたいことがある」
「データ漏れ、ですか」
ここ最近、企業間の談合(いや、やっちゃダメでしょ)や、新製品の開発進捗など、絶対に漏れてはならない内容が漏洩する事件が頻発しているという。
「それって公安のお仕事でしたっけ?」
「その中の一件がややこしくてね」
(ん?これって)
「もしかして公安に圧力かけてる人がいるんですか?
「「……」」
(だからその沈黙、ヤメてってば!)
「伏見産業の開発データが、ライバルの筧産業へ流れたらしい。それを追っていたら、伏見産業会長の孫娘の歌穂嬢が少し怪しいと感じたんだが」
そこから先に行けなかったらしい。
何といっても相手はお嬢様。しかも、被害にあった側の、だ。
「伏見産業は昭和中期に興した比較的新しい企業だが、今の会長がやり手でね。なかなか手堅い運営をしているようだ」
(そう言えば、うちも取り引きあったような……)
「この会長の伏見光昭氏が警視庁の上の方に太いパイプを持っていてね」
「公安の出番ですか」
(あ、あれ?)
ふ、と記憶が蘇る。
「あたし、歌穂さんと会ったことあるわ」
「ほんとか!?」
「パーティの時だけど。大人しそうなご令嬢だったと思ったけれど」
(その時何か話したよなあ。そっか)
スマホを取り出して、あちゃーと言いたいのを堪えて折り返す。
(やっば。着信ハンパないわ)
相手が出るや否や一気に捲し立てる。
「笠井、ごめんごめん。ちょっと急用。うん、先生には悪いけれど、時間ずらして貰って。それで急なんだけど、伏見さんとこの歌穂さん覚えてる?渡したいものがあるから、ちょっとアポとっといて。うん、分かった。説明は後で」
(これで、よし)
話を終えるとなぜかまた安室さん達が固まっていた。
「そういう訳なのでもう帰ってもいいですよね?」
「ごめんなさい。せっかく来て下さったのに」
目の前の歌穂さんは今にも倒れそうな顔色だった。
「ううん、こちらこそごめんなさい。昨日まで学校、お休みしていたのでしょう?」
伏見歌穂さんはまだ中学二年生。
(あたしより年下なのにこのお嬢様っぷりって……)
どこをどう取っても『上品』という言葉が出てくる彼女には、『深窓の令嬢』という表現がぴったりだ。
「それでね、これ前に頼まれていたキッドの生写真」
次郎吉おじさまが怪盗キッドに何度も挑戦する関係で、あたしはよくご令嬢方からこういうものを頼まれたりする。
『園子』もキッドファンで『キッド様~~』とか言ってたけど、
(でも確か、キッドって蘭にセクハラしてたよね)
記憶が確かなら、工藤くんだと思わせておいて蘭に抱きつかせて――
(……次、会ったらコロす)
「園子さん?」
「いえ、何でも」
とりあえず、笑ってごまかした(危ないあぶない)。
「園子さん、お気遣いは嬉しいのですが、これは受け取れませんわ」
「はい?」
(どうして?前はあんなに――)
何かよく見ると、疲労、というより憔悴しているように感じる。
「歌穂さん、一体何があったの?」
すると歌穂さんはわずかの間、目を伏せたが、思いきったように、控えていたメイド達を下がらせた。
「……園子さん、あの、」
とぎれとぎれになりながら話してくれた内容は、あたしにとっては有り得ないモノだった。
「何か、分かったか?まあ、すぐには無理だろうから――」
「結論から言うと、データ漏れは歌穂さん経由で、それをさせた――」
(あっぶな、◯◯野郎とか言うとこだった)
「どうした?
「何でもないです」
ざっと説明すると、隣で舌打ちが聞こえた。
「最近の子供はどうなっているんだ」
(まあ、気持ちは分かるけど)
歌穂さんは、最近できた恋人に『いつでもきみと一緒にいたいから、写真を送ってほしい』と言われ、ひとたび送ると、『もっときみがよく写っているものがほしい』等と言われ、送っているうちにだんだん露出の多いものになっていったのだそうだ。
(送ってしまったという写真データを見せて貰ったときは、絶句したわ)
あたしは遠い目をしながら、続きを話した。
「それで困ったことに、その先があるんですが」
「まだあるのか」
その『恋人』とのメールのやり取りとか、見せて貰うと、なーんか手慣れてる感が凄いので、ちょっと鈴木家の情報網使って探りを入れてみたら、出るわ出るわ。
「これ、今回の被害に遭った人達のリストです」
どうやら他のデータ漏れも、このパターンらしい。
「いつの間に……」
唖然としながらも受け取ろうとした安室さんの目の前で、あたしはリストを引っ込めた。
「園子さん?」
「交換条件があります」
「ほう?」
(こわっ!こっちモードの安室さん、やっぱ怖い!!)
「これを渡す代わりに歌穂さんの分のデータは消して下さい」
「……彼女の分だけでいいのか?」
心底、不思議そうな問いかけに、
「あたしが話を聞いたのは歌穂さんだけですし」
心情的にはそうしたいところだけど、慈善事業をするつもりはない。
(それにせっかくの証拠、全部潰しちゃったら後で困るんじゃないかな)
そう続けると安室さんは少し呆れたような顔をした。
「何だか、きみが高校生だということを忘れそうになるよ」
(すみません。もと社会人です)
歌穂さんの件は了承して貰えたけど、別の問題を残した気がする。
で、犯人グループも捕まって、一件落着のハズなのだけれど。
「どーして、あたしを呼んだんですか?」
なぜか再び安室さんの車の中です。解せぬ。
「そんなに畏まらなくても。今回の件でお礼をしたいと思ってね」
どこか行きたいところはないか、と聞かれ、
「……仙台」
「え?」
「だから仙台。かの伊達政宗公が作ったという城下町です」
(ふーんだ。どうせ、どこかのカフェとか想像してたんでしょうけど、そうはいきませんよ。こんなイケメンさんと入ったら、周りからの視線だけで死ねるわ)
「まあ無理ですよね。安室さん、忙しそうだし」
それじゃ、と降りようとしたら、がし、と腕を掴まれた。
(へ?)
「行くよ。さすがに今日は無理だけどね」
(あのー、あたし『仙台』って言ったのは、単に原作の『コナン』では事件起きてないから、安全に観光できるかな、って思っただけ、って話せる雰囲気じゃないですね)
「都合がつき次第、連絡する」
(うわあ、とても断れない雰囲気)
「それじゃ、また」
後ろから聞こえた『送って行くよ』の声を無理して、さっと降りたあたしは臆病者でしょうか。
その後、あたしはこの時の言葉を死ぬほど後悔することになる。
『コナン』の世界ではとーほく、あんまり出てこないですね(T-T)
だから、書いてみようかな、と(^^;
あくまで、予定(汗)