鈴木園子はゼロの夢を見るか   作:ルナ子

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お嬢様と『執行人』②

「青子をどこにやった!!」

 

あまりと言えばあまりの台詞に、

 

 

(……Why?)

 

一瞬、日本人を放棄してしまった。

(何!?今、何て言ったの!?)

「黒羽くん、落ち着いて」

紅子さんが黒羽くんの腕に手をかけ、あたしの肩から放してくれた。

(びっくりした)

「園子さんはさっき私のところに来たばかりよ。話を聞いた限りだと、青子さんとは知り合ってもいないようだけれど」

何があったの?

紅子さんがそう問いかけると、黒羽くんは少し落ち着いたようだった。

「ついさっき、メールが来たんだよ。『青子は預かった』って。鈴木園子って奴の名前で。それで青子の携帯、掛けてもつながんねーし」

「黒羽くんにしては随分と早計ね」

「だってよ、青子が……」

あたしはそのやり取りを見ながら、イヤな予感に襲われていた。

(これって――)

その時、まるでタイミングを見計らったように、着信音が響いた。

「もしも……、テメーかっ!!」

青子をどこへやった!!とがなり立てる黒羽くんを見ながら、あたしはその予感が当たってしまったのを知った。

(そんな――彼がダメだったら、他に誰が……)

「おい。あんたと代われ、って」

不承不承、といった体で黒羽くんが渡したスマホを受け取る。

「代わりました。鈴木園子です」

――キャハハハハッ!!久しぶりだね~~っ!!

やはり、電話の向こうにいたのは、あたしが今、一番話したくない相手だった。

――ちょっと忠告しておこうと思ってね~~!!ダメだよ。今回、『そこ』は領域外なんだから。

いつもみたいに『コラボ』じゃないんだからねっ!!

黒羽くんがスピーカーモードにして渡したので、会話は全て筒抜けになっている。

コラボ?と誰かが呟いたのが、聞こえた。

あたしは急いで話を繋いだ。

「分かったわ。彼には『キッド』には頼らないから。青子さんを帰してあげて」

『キッド』の下りで黒羽くんが、ぎくりとしたみたいだったけど、そこまで構っていられなかった。

『原作』や『転生』のことがバレるより、こちらの伝手で『キッド』の正体を知った、と思わせる方が何倍もマシだったから。

――あれぇ?随分、物分かりがいいんだねぇ。

「このまま、彼には何も言わずに帰るわ。それでいいんでしょう?」

――いいよー。じゃあ、君が帰ったら、あの女の子は送ってあげるね。

「ええ。それじゃ」

あたしは通話を終え、黒羽くんにスマホを返した。

「紅子さん、ありがとうございました。でも、この件はこちらで何とかしますから」

ドアの方へ行きかけると、紅子さんが、

「待ちなさい。あなた、黒羽くんの力を借りずに、本当にいいの?」

「何とか、します」

ドアノブに手を掛けたとき、ふいに紅子さんが言った。

「原点に還りなさい」

(え、)

思わず振り返ると、

「今、私に言えるのはこれだけよ」

 

あたしは会釈してそこを離れた。

 

 

 

 

(原点、かあ)

帰り道、あたしは殊更ゆっくりと歩を進めていた。

(コナンくんがダウンしてて、『キッド』もダメ、って。じゃあ、誰があのボール、蹴るのよ!!)

ラストシーン、軌道を変えて墜ちてくる『はくちょう』のカプセルに花火ボールをぶつけて、何とか逸らして――

(うん、何かこう思い出すだけでも、どうしたらいいのか、分からない)

ボールを空中で蹴り上げることもそうだが、そこへ辿り着くまでの行程も凄いのだ。

何せ、落下してくるカプセルを追いかけながらなので、まさに時間との勝負。

これまでのカーチェイスが安全運転に思える位のエグさで、R-X7を操る安室さん。

『いやこれ、もう事故でしょっ!?車、落ちてるっ!?ジコだよっ!!』と叫びたくなる位で、もしこれが実写だったら、スタントマンしてくれるヒト、いないと思う、マジで。

(あの車の助手席乗れるの、コナンくん位だわ)

そこまで考えてあたしは、気が付いた。

(えと、ってことは安室さんとも連携しないといけないんじゃない!?)

映画では、コナンくんが公安の『降谷さん』の協力を取り付けて、証人も出して、犯人説得して、コードを聞き出し……。

他にも阿笠博士のドローンとか、少年探偵団の協力――。

細々としたことを思い返してあたしの歩みは更に遅くなった。

(えと、これ全部、あたしがやるの!?)

涙目になりかけたとき、スマホが震えた。

(ん?笠井から?)

メールを見ると、毛利探偵が送検されたことと、弁護人と担当検事が決まったとあった。

(橘境子、日下部誠。ついにきたわね)

橘境子は『ケー弁』――事務所を持たず、ケータイで仕事を受ける弁護人なので、例え負ける案件であっても仕事が欲しかったとか言うが、これは嘘だ。

(NAZU不正アクセス事件に関連して、ゲーム会社に侵入して捕まった容疑者さんのことが好きだったんだよね。橘さん)

彼が、公安の取り調べの後、自殺したのを恨んで復讐の機会を狙っていた、と。

そのため、今回の裁判では彼女はアテにならない。

何故なら、公安はこの裁判を『勝たせたい』のだから。

(自分で立件しといて、よくやるわ)

そのシーン、観たとき『はあっ!?』って言いたくなったわ。

 

 

(橘さんかあ)

そういう立場になったらしょうがないのかもしれないけど、あたしはあんまり好きになれそうにない。

幾ら好きな人が自殺に追い込まれたからって、他人を巻き添えにする、っていうのがちょっと……。

(あたしが彼女の立場だったら、それはしたくないな)

自分が苦しいからって、赤の他人を巻き込むだなんて。

きれい事、と言われてもそこは譲れなかった。

(英里さんの事務所、行かなくて正解だったわ)

もし、うっかり顔会わせたら、何か言ってしまいそうで怖かった。

ちなみに『園子』に倣って『おじさま』『おばさま』と呼んでるけれど、前世のあたしは結構年が――。

毛利探偵の年齢知って『嘘!そんなに若かったの!?』って驚いたもの。

 

スマホの画面をニラみながら、あたしは、はあ、と息を吐いた。

(とにかく、思い出せる限り、書き出してみた方が早いかも)

何とか、考えを纏めたとき、またスマホが振動した。

(あ、電話)

「はい。もしも……え?」

 

 

翌日。

あたしは早朝に『ポアロ』へ向かった。

「……おはようございます」

「園子さん、おはようございます」

もちろん、店内に他に人はいない。

あたしは手早く鞄からメモ用紙を取り出した。

(メールとかでも良かったんだけど……何か、電子機器は却って怖い気がして)

「取り敢えず、今言えるのはそれだけです」

メモを受け取りながら、サッと目を通した安室さんは、

「……IoTテロか。何てことだ」

あたしは踵を返しながら、

「それより、どうして――」

毛利のおじさまを被疑者に仕立てたんですか。

そう聞こうとしたとき、

「おはようございます!あら、園子ちゃん!」

「おはようございます。梓さん」

梓さんはあたしと安室さんを見比べながら、

「あら、もしかしてお邪魔でした?」

「違います!もう!失礼します」

「やだ、怒らないで園子ちゃん。あら?そのイヤーカーフ?かわいいわね。それに私服?」

「あ、今日はちょっと用があって」

「へえ。何か、パーティー?それとも……」

「違いますから!それじゃあ、また」

「はーい、いってらっしゃい!」

(どうしてもそっちの方向に持って行きたいのかな。梓さん。……女性ってどうしてこう――)

歩道に出ながら、ふっ、と息を吐く。

(そう言えば、前世であたし、こんなふうにレンアイ話とかしたことなかったなあ)

ピアノで食べて行くには、物凄い時間が取られる。

それこそ、ピアニストなんて目指した日には、起床時間のほとんどを練習に当てなくてはならない位。

(そこまでして音大入ったのに……ピアノ講師がせいぜいって)

 

情けなすぎて、涙もでない。

 

しばらく歩くと見慣れた車が横付けされたので、さりげなく車内へ入った。

「首尾は?」

「上々です。ですがお嬢様、よろしいのですか?」

「いいのよ」

あたしはそう答えながらスマホを操作し、必要と思われる打ち合わせを幾つかこなした。

さっき安室さんに渡したメモには、IoTテロのことは書いたが、無人探査機『はくちょう』が軌道を変えて墜ちてくることも、犯人の動機も、ドローンや花火ボールのことも書いてなかった。

なぜなら今回はできる限り、原作沿いにしたかったから。

(そうしないと、何が起こるか――)

空中分解する白いスポーツカーの映像が頭をよぎり、あたしは首を振った。

 

(そんなことはさせない)

 

 

 

早朝であることを侘びながら、博士の家を訪れ、相変わらず臥せったままだというコナンくんに見舞いの品を言付け、博士から残りの発明品を受け取った。

「超特急じゃからの。悪いが成功率は七十パーセントじゃぞ」

「それで充分です。ありがとうございます」

そのまま立ち去ろうとしたあたしに、学校へ行っているハズの哀ちゃんが話し掛けてきた。

「ねえ」

「はい?」

「……あなた、何者?」

「は?」

「工藤くんのことを見抜いたことといい、そのほとんど予知めいた洞察力。一体あなた何者なの?」

(ええっと。ここは誤魔化すしかないな)

『転生者』なんて絶対に言えない。

あたしは、ふふっ、と笑ってみせてから、

「鈴木園子、ただの『お嬢様』よ」

じゃあね、と車へ戻る。

 

 

(さて、と。安室さんにこのイヤーカーフも印象付けられたし。これで必要なものは大体揃ったわね)

「やってちょうだい」

意識を切り替えたあたしは、とある場所へと車を向かわせた。

 

 

 

その翌日――。

 

 

あたしは、警視庁近くの公園にいた。

休憩所のベンチに座り、持参した文庫本を開く。

タイトルは『秘密の花園』。

昨日、鈴木家の図書室で見つけ、懐かしいと思って持って来てしまった。

(たまにはこういうのもいいかな)

と、寛いでいる場合ではない。

あたしはイヤーカーフ盗聴器のスイッチを入れた。

 

――我々公安部の捜査の結果、爆破現場の不正アクセスに『Nor』が使われていたことが分かりました。

途端に風見さんの声が聞こえてくる。

(ごめんなさい。風見さん)

昨日、あたしは哀ちゃんと元太くん達に頼んで、風見さんに盗聴器を付けて貰ったのだ。

(これ、本当はコナンくんがやるんだけどね)

さすがに哀ちゃんに、『やりたいゲームソフトが入ってるから、パソコン返して~』と、風見さんの上着の袖にすがりついて盗聴器を、というのは頼み辛かったし……哀ちゃんのキャラじゃないよね。

 

――ノーア?

 

とにかく、探偵団の皆のお陰でこうして捜査会議の内容を聞けるのだ。

(今度、何かおご……まだ大事なシゴト、あるけどね)

コントロールを失った『はくちょう』に爆薬を積んだドローンをぶつけて修正する、というね。

(哀ちゃんにはその辺りの件、話しておいたけど)

 

 

――IPアドレスを暗号化し、複数のパソコンを経由することで、辿れなくするブラウザソフトです。

――ノーアの匿名性は解除できないのか?

――できません。ただ、ノーアのブラウザに構成ミスやバグがあれば、ユーザーを特定できる可能性があるそうです。逆に言えば犯人のノーアブラウザにこちらから脆弱性を作れば、追える可能性があります。現在、公安部でサーバーを辿り、ユーザーが特定できる可能性を探っています。

――ノーアだか何だか知らんが、毛利君にそんなこと、できるかね。

――ノーアは素人でも簡単に追えます。

 

 

 

――招集がかかりました。一時、退席します。

 

 

 

あたしは先ほどから、1ページも進んでいない文庫本を強く握りしめた。

(そろそろね)

 

「捜査会議の盗聴ですか?」

振り返ると、思ったとおりの人物がいた。

「親友のためなら、本当に一生懸命になるんですね、園子さん」

「……安室、さん」

「何故、と聞いても?貴女ならこんなことをする必要はないと思うが?」

(それは――この話の主人公である『コナン』が出てこないため)

バタフライ・エフェクトの可能性も捨てきれないため、できる限り『原作通り』の展開を残しておきたかった。

言い淀んでいると、近くの植え込みから音がした。

「構わない。出てこい」

そこから出て来たのは、訝しげな表情をした風見さん。

「なぜ、私を呼んだんです?降谷さん」

この後の場面を知っているので、あたしは思わず顔を背けた。

(安室さんが風見さんの腕を掴んで捻り上げて、ここで盗聴器が見付かるんだけど、映画で観ると、何か迫力が凄くて)

だって安室さん、親の仇ですか、って位なんだもの。

 

「これでよく公安が務まるな」

「……すみません」

顔を戻すと、安室さんが盗聴器を指で押し潰すところだった。

(って握力どんだけですかっ!?あたし、壊すのにハンマー、必要だったのに!?)

 

「一体……誰が」

お互い呆気に取られているうちに、安室さん退場。

慌てて追いかけても、とっくに安室さんの姿はなくて。

橋の上で風見さんと対峙する。

「盗聴器は君が?」

信じられない、という風見さん。

(うん、そうですよね。この間まで協力関係だったのに)

「すみません。蘭のことがあって……気になってしまって」

怒られるかと思ったけど、意外な返答があった。

「そうか。そうだな。友人の親があんなことになれば、仕方ないか」

どこか自嘲気味な台詞に同調したように、雨音が聞こえてきた。

橋に寄りかかり、波紋が広がる川面に顔を向けたまま、風見さんが口を開いた。

「君の知っている彼は……人殺しだ」

「え、」

「去年、拘置所で取り調べ相手を自殺に追い込んだ」

ここは『自殺って』か、沈黙を返すべき場面。

だけどあたしは、

「違います!」

「……え?」

しまった、と思ったけれど、もう止められなかった。

「あの人はそんなことしません!もし、そう見えるのなら、何か理由があったはずです!」

叫び終えたあたしは頭を抱えたくなった。

(……やっちゃた)

原作に沿うはずだったのたけど、あまりにも風見さんが信じているみたいだったから、つい。

(風見さんって一番の部下だよね。それなのに、これはキツイんじゃないかな)

「君は何を言って」

(ここまできたら半ばヤケです)

まだ信じられない様子の風見さんに、食い付くように、

「教えて下さい。それってどういう事件だったんですか!」

とそこでやっとあたしは我に返った。

「すみません。勝手なこと言って」

失礼します、とその場を去ろうとしたとき、

「待ってくれ」

「……は、い?」

 

 

 

何故かあたしはとある小部屋にいた。

「これが、その事件の資料だ」

風見さんが持ってきてくれた書類は『ゲーム会社不法侵入、及び窃盗事件』それに付随する形で『NAZU不正アクセス事件』。

あたしは甘えついでに今回の事件の資料もお願いしてしまった。

そこまでして何だけど。

 

 

――警視庁の、絶対に一般人がいてはいけない部署。

「あの――」

「持ち出しは厳禁。ここで読んでくれ。何か?」

「あたし、ここに居てはいけないのでは?」

「……君なら、その伝手を使ってすぐにでも用意できるのだろう?だが、それではこちらの面目が丸潰れだからな」

(そういうことですか)

つい最近まであまり自覚はなかったが、確かに鈴木財閥の力は凄い。

(主人公不在のラストシーンに向けて、ほとんどダメ元で準備させた案件がどんどんクリアされていく、って一体どうなっているのよ)

思わず白目になりかけたのは、いい経験。

 

 

 

(やっぱり担当検事と弁護人はあの人と――)

サクッ、と確認して、今回の事件の書類に目を通す。

(うん。犯人のミス、発見)

発火物がIoT圧力ポットとはまだ分かっていない。

なのに、何故――

 

 

(発火物の電化製品の一部が、証拠品に入っているんですかね?日下部さん?)

 

 

 

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