鈴木園子はゼロの夢を見るか   作:ルナ子

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幾つか伏線回収しましたm(_ _)m

ですが、まだ回収してないものもありますm(_ _)m

今回、スコッチ視点となります。

遅くなりまして誠に申し訳ありませんm(_ _)m






スコッチの困惑

――もとからおかしいとは思っていた。

 

 

何故、俺とゼロ、ふたりがほとんど同時期に潜入なんだ?

この国に本拠地を置くというシンジゲート、通称『黒の組織』。

メンバーのほとんどが黒い衣装に身を包み、違法とされることは何でもやっているという、とんでもないシロモノの癖に、決定的な証拠は何も掴ませない。

違うな。誰かが握り潰しているだけだ。

 

 

俺がただのNOCどころか、『公安』所属だとバレたのがいい証拠だ。

だが、このことをストレートに言う訳にはいかない。

もちろん、『戻る』訳にも行かなかった。

このタイミングで戻ってみろ。

十中八九、消される。

 

だから、俺は。

『奴らに俺が公安だとバレた。逃げ場はもう、あの世しかないようだ』

思わせ振りになって済まないな、ゼロ。

でも、お前なら。

なぜ俺が公安所属だとバレたのか、察してくれるだろう。

 

 

――くっそ!ここは日本だぞ!!すぐに発砲なんてするなよな!!

 

ゼロにはあんなメールを打ったものの、俺だってこのまま野垂れ死ぬつもりはない。

何とか追っ手を撒いて、どこかへ潜伏……。

 

一般人を巻き込まないようにしたのが仇になったな。

 

 

廃ビルの屋上。

何でこんなとこに来たんだ、俺。

これじゃあ逃げ場が。

「スコッチ……」

(げっ、ライッ!!)

つい最近までの『仕事仲間』の登場に俺は血の気が引くのを感じた。

(ヤバいな。あいつ相手だと余計逃げ場が……)

人の気配は他にはない。

 

(俺は、何を守りたかった?)

離れて暮らす兄、引き取ってくれた新しい家族。

そして友人――。

俺がここで悪あがきして捕まりでもしたら、その尋問――恐らく拷……はきっとゼロが担当させられるだろう。

(それはさせられないな)

ライ相手に逃げるのはほぼ不可能。ならば。

 

「さすがだな。スコッチ――投げ飛ばされるフリをして、俺の拳銃を抜き取るとは」

銃口を前に軽く両腕を上げるライ。

(全然、油断できないな)

コイツの実力はゼロと互角。

「拳銃は……お前を撃つために抜いたんじゃない」

(すまん、……ゼロ)

「こうする、……ためだ!!」

心臓に――本当は胸ポケットに収まるスマホ――に銃口を押し当てる。

「――!?」

「無理だ」

(なんっ!?)

「リボルバーのシリンダーを掴まれたら……トリガーを引くのは、不可能だよ」

(くっ!つーか、コイツ、ずっと離れたとこにいたよな。何て身体能力だよ!!)

ゼロすまん、とがっくりしていると、

「俺はFBIから潜入している赤井秀一……」

耳を疑う言葉が入って来た。

 

「俺の話を聞け」

 

互いの一瞬の気の弛み。

 

「「――!!」」

 

まるでそのタイミングを狙っていたかのように、階段を忙しなく上がってくる足音。

 

――まずい!!

 

(この場面、のんびりしてたら、赤井もヤバくないかっ!?)

 

とっさに俺は引き金に掛けた指に力を込め――

 

 

「――……?」

 

ふんわりと、何かが目の前を通りすぎた。

 

錯覚かもしれない。

この時期にしては珍しくぬるい風だった。

「――スコッチ!!!!」

 

俺は懐かしい声を聞いたような気がした。

 

 

『どんなことがあっても、自殺はだめだよ。ゼロ』

 

 

 

いつからだろう。

対等だと思っていた幼なじみが『越えられない壁』となっていたのは。

濃い肌色、薄い色素の髪、青い瞳。

どうみても日本人離れした外見で、子供のころ仲間外れにされていたのを、俺は『大勢対ひとり、なんてヒキョウだぞ!!』と割って入っていつの間にか、友達に、なっていた。

そのころはまだ良かったんだ。

同じモノを見て、同じ教室で学んで、ちょっとした悪戯もケンカもして――

 

中学に上がって少し位してからか、周囲が変わって行った。

詳しく言うと、女子達の反応が。

誰かひとりが、『降谷くんって好きな人いるの?』と聞いてきた。

その辺りから、おかしくなって行った。

それまでは様子を窺っていたのか、それとも俺が近くにいたためか。

ゼロにこういう意味では近付かなかった女子達が、一気に積極的になった。

登下校はもちろん、委員会はどこに、席替えは――。

 

 

受験の際、『どーして近くに男子校がないんだ!』と本気で悔しがっていたな、あいつ。

そして、『将を射んとすれば』のつもりか、俺にまで矛先が向いた。

いや、あのさ。

正直、かわいい子に告白されたら、嬉しいよ。

いつも側に居るあいつより、地味めな俺を選んでくれたんだ。

って舞い上がっていたのは、始めのうちだけ。

『今の、降谷くんから?』

『降谷くんも暇してるんじゃない?どうせなら三人で――』

はあっ!?

俺に告白したんだよね?

 

 

カラクリが分かって陰で泣いたのは、ゼロには秘密。

ってか、マジかよ……。

始めはショックだったけれど、それが二回、三回と続くと――さすがに慣れたな。

 

そうだよな。

 

容姿端麗、頭脳明晰、スポーツ万能――どこの少女マンガから出てきやがった!!っていうのが目の前にいるんだから。

ゲットしたいのは分かるけど、俺を巻き込まないで欲しい。

その頃の俺は死んだ目をしていたらしい。

後で事情を知ったゼロが怒り狂ってくれなかったら、ゼロとの友情も危うかったかもしれなかった。

『何で言わなかったんだ!!俺はお前の親友じゃないのかっ!?』

一発パンチも貰った後(いや何で殴った?)、めちゃくちゃ怒られた。

その後、なぜか泣かれて、え、となったら、

『……ヒロに何てことしてるんだ、あいつら』

え!?まさかそれ、殺気じゃないよなっ!?

これはヤバい!!と、別にお前のせいじゃないし、俺だってこの位で友達やめようなんて思ってないし、とか何とかめちゃくちゃ宥めて。

そういやあの後、ゼロ狙いの『なんちゃって彼女』は一切来なくなったけど、何かしたのかな、あいつ。

ゼロにはああ言ったけど、実はマジ凹んでた。

本音を言うと、これを限りに離れようかとも思ってたんだ。

だけど、『俺達は親友だよな』と泣きそうな顔で言われると――。

 

……絆されてんじゃねーよ、過去の俺。

 

 

そんなことがあった上での高校生活は比較的穏やかだった。

ゼロの希望した男子校は無理だったけれど、ある程度偏差値のあるところで、なるたけ女子が少なそうなトコを受験した。

「もちろん、ヒロも行くよな」

「お、おう」

行くけど、行くよ、だけど『はい』か『Yes』しか答えがないような問いかけを、その笑みで言うのはやめろ。周りが引いてたぞ。

入学したての頃はまだゼロに注目が集まっていたが、自己紹介で『自分は女子に告白されても答えることは一切ないし、贈り物も受け取らない』と言い切ってしまい、クラス中が引いた。

(あちゃー、おま、そこで言うのかよ)

仕方ないのでフォローすることにした。

「あー。諸伏景光だ。えっとこいつとは小学からのともだ「親友」分かった、親友な。なんだが中学んときに――」

ダイジェスト版で『なんちゃって彼女』を説明し、プレゼントがだめな理由もきっちり説明する。

バレンタインの手作りチョコに、作った当人の物と思われる髪の毛や爪がこれでもか、と入っていた、と。

「何だ、それ」

「きっつー!」

「俺なら、逃げる……」

あー、今度は男子が引いたな。

「という訳なんで、俺もコイツも絶賛女性不信中なんで。しばらくそういう話題は振らないでくれると有り難いな」

そう続けると、クラス中が頷き……えっと、あんた先生だろ。何でそんなに力強く頷くんだよ!?

 

 

ゼロには後で、何であんなことまで話した!?って怒られたが、最初にお前があんなふうに言うからだろ、と言っておいた。

あの態度じゃ、友達もできないじゃないか。

そろそろ友人は俺だけでいい、ってのから卒業しろよ。

と言ってやったら黙った。

 

こうして俺が捨て身の暴露(男子共からはすっげえ憐れみの視線、貰っちまったけどな)をしたことで、直接的にも間接的にもゼロにそうゆう意味で近付く女子はだいぶ減った。

 

 

「……都合で転校してきた岩崎奈津美です。よろしく」

だから、半端な時期に来た転校生のことも始めのうち、そんなに気にならなかった。

目立たない容姿の彼女は言葉少なで、始めのうちこそ転校生ということで注目を集めていたが、一週間もするとクラスに埋もれて行った。

まあ地方から来たし、人見知りも激しいのかな、とかそれ位の認識しか持っていなかったんだ。

 

それからしばらくして、ゼロが付き合い悪くなるまでは。

思わず問い詰めると、

『仕方ないな。お前だけ、特別だからな』

と、何故かどや顔で連れて行かれた第二音楽室。

洩れ聞こえてきた『音』に俺は耳を疑った。

は!?確かここのピアノってかなり前から調律もされていないから、音階だってガタガタだろっ!?それが何で――。

聞こえてきたのはベートーベンの『月光』。

俺は、そんなにピアノには詳しいほうじゃない。

それでもこの弾き手がかなりの腕前だとは分かる。

うわ、そこ、音が外れ……って、和音作って乗り切った!?

(何だよ、これ)

一体、どんな奴が弾いているんだ?

そうっとドアを引くゼロに続いて第二音楽室へ滑り込む。

――へ!?

窓を背にしている演奏者は間にピアノがあるせいで、俺達のことには気がついていないようだった。

例の、目立たない転校生がそこにいた。

鍵盤の上をまさに縦横無尽、という体で流れる指先。

紡ぎ出される音は、――って何か、プロのレベルじゃないかっ!?

一心不乱にピアノを空を見据える(まさか、暗譜してんのか!?)ように弾くその姿は、とても俺達と同じ年とは思えなくて。

 

 

 

最後の一音が余韻を含ませながら、消えた後俺はつい大きめの拍手をしてしまった。

「すごいな、岩崎!もしかしてプロ……」

「おい、ヒロッ!!」

慌てたようにゼロに腕を掴まれ、改めて自己紹介してみると、岩崎は俺達にとっては稀有な存在だと分かった。

何しろ、いい意味で俺やゼロに関心がない。

というか、ピアノが一番らしかった。

俺達に『彼女いるの?』とか『一緒に帰らない?』とかいった言葉が掛けられたことは一度もなく――。

 

……それとも、もしかしてそーゆーフリか?

 

中学時代、さんざんな目に遭ってきたため、ついそう疑ってしまうが、それはすぐに晴れることになる。

 

 

それから暫くして彼女のピアノを聴いた武田先生(もちろん音楽教師だ)が『凄いわね、岩崎さん!プロになるの?』と話を持ってきてその流れで、岩崎が調律までできることが分かり、『それなら道具だけでもあるから、やって……』と言い掛けた時だった。

「やります!やらせて下さい!!」

物凄い勢いで食い付いてきた。

 

その後、調律の施されたピアノ演奏につられるように、こっそり見学する者が増えてしまった。

「まさか、こうなるとはな」

武田先生を焚き付けたゼロは残念そうだった。

――ん?まさか、こいつ?

「ゼロ?まさかお前?」

「や、違うからな!」

……耳まで赤いんですけど。

(ふーん、そっか、へぇ)

前にも言ったとおり、ゼロはその外見のせいで前から苦労が絶えなかった。

いい加減、神様も気がついてくれていいだろ、と思っていた。

大抵の女子はゼロの前に出ると、凄く気を遣う。

または、自分はとてもおしとやかな女性ですよアピールが入る。

けど、岩崎はそのどちらでもなかった。

最初の頃こそ、びっくりしたような顔をされて距離を取っているようだったが、俺達がピアノの演奏の邪魔をしないと分かると気にしなくなったようだ。

というか、ピアノの前にいる岩崎は殆ど弾きっ放しで、ゼロや俺に話しかけようとはしなかった。

これが他の女子なら、ピアノなんかそっちのけで話し出すか、弾きながらでもこちらをちらちら窺ったりする。

それらが岩崎にはなかった。

彼女にとってはピアノが弾ける、ということが最重要事項のようだった。

何故そんなにピアノに、と聞いてみたことがあった。すると、

「……ここでしか、ピアノ弾けないし」

「「は!?」」

いやいやいや!!その腕前でここでしか弾いてない、ってどういうことだっ!?

思わず問い詰めると、岩崎は言いにくそうに、

「ウチの母親、ピアノがすっごい嫌いだから。それもアレルギーレベルで」

「「はあっ!?」」

なんだそりゃ、とこの時の話は終わり(というか岩崎がゴーインに話を変えてしまったので)、だけど後になって分かったことだが、事はそんな生易しいものではなかった。

一度、岩崎はピアノのことで母親と言い争いをしたことがあったらしい。

こんなにピアノが好きなのにどうして習わせてくれないのか、と。

そう怒鳴った瞬間、目の前で母親が倒れてしまったのだそうだ。

救急車で搬送され、事なきを得たものの、狭心症と診断され、過分にストレスを与える発言は避けるように、と言われてしまったらしい。

だからピアノ関連の話は母親の前ではしないし、当然、ピアニストになる気もない、という。

 

「……何だよ、それ」

「ゼロ」

それに卒業したら地元の大学に行かなくてはならないし、と何でもないことのように言う岩崎に、

「それでいいのか、本当に」

珍しくゼロが突っかかっていた。

「……親を犠牲にしてまで、夢、叶えようとは思わないから」

その達観しているような雰囲気に、岩崎の中ではとっくに答えが出ていたのだと分かった。

「だが」

「いいの。今はこうして弾けるんだし」

そう言った岩崎にだから俺はつい、聞いてしまった。

「あのさ、そんだけ親に反対されてて、何でそのレベル?」

実際、聞けば聞くほど、岩崎のピアノのレベルは高いと分かる。

本当になんでプロになれないんだ、って位だ。

だけど、それにはそれなりの練習が必要な訳で。

「親戚のお姉さんが家にあるピアノ弾かせてくれたり、あとは――」

こっそりとしていた練習法を聞いた俺は呆気に取られてしまった。

厚紙に書いた鍵盤叩いてた、って……。

「勿論、音は出ないけど、案外いい練習だよ」

「……岩崎」

「何?」

「今すぐお前の母親に会わせろ」

「は?」

 

 

俺が何とかする、と意気込んだゼロを止めるの、大変だったなあ。

 

その後、岩崎は実家へ戻り、地元の大学へ進学した。

 

 

『どんなことがあっても、自殺はだめだよ。ゼロ』

 

 

てっきり呼び出されるのはゼロだと思っていたのに、まさかの俺。

 

そして、言われたのは、告白にしてはどこかおかしな台詞。

 

どういうことだ?

岩崎はこんな冗談を言うような奴じゃなかったはずだ。

しかも、俺のことを『ゼロ』って。

問い返そうとしたとき、ゼロがこちらへ駆けてくるのが見えた。

『これ、答えは三つあるから』

「「はあ!?」」

何だそりゃ、と追いかけようとしたが、岩崎は見事に逃げ切り、そしてその一つ目の解答は――。

 

 

警視庁公安部。

配属された俺の頭に、卒業式の岩崎の台詞が甦った。

『公安』はかつてチヨダ、と呼ばれており、今は――『ゼロ』。

「……まさか、な」

予知能力者でもあるまいし、とその時は一蹴してしまった。

もちろん、ゼロにも話さなかった。

 

 

そして、今――

 

「…まさか、スコッチ、聞いているのかっ!?」

ゼロとライ――諸星大――に詰め寄られたが、そんなことに構っていられなかった。

『二つ目』と『三つ目』の解答が、目の前に転がっていたのだから。

「おいゼロッ!!分かった!!わかったんだよっ!!」

「はあっ!?ちょっ、スコッチ何言って――」

「ほう。やはり君達は同じ――」

「だからっ!!あいつが言った言葉!!あの時の『ゼロ』はゼロ、お前のことじゃなくて、こう――」

「スコッチッ!!」

「あんってことで、胸を二回叩いたのはNOC!!で、その叩いた箇所は、さっき俺が撃ち抜こうとした――」

「なん、だと……」

超低音でゼロが呟いた。

あ、これ、ヤバいやつ。

「ほぅ~~、ということは、その人物はそういった能力者なのか、ぜひともFBIに――」

「何言ってるんですかっ!!彼女は絶対に……FBI?」

 

 

うん、あの時位、カオスと呼ぶのがぴったりな状況はなかったな。

 

その後、俺は身を潜めることになり、ゼロには負担をかけてしまった。

そして、岩崎が言っていた、日本とイギリスの作家のあいの子みたいな名前の子供には出会っちゃいなかったが、もう黙ってなんかいられない。

俺達は地方――東北のとある都市――にある岩崎の実家へ向かい――。

 

 

『……岩崎が、死んだ……』

 

 

衝撃の事実を知らされることになる。

 

 

トンネルの崩落事故。

殆ど生き埋め状態で死因は窒息死。

間の悪いことにその時、ちょうど大型台風が襲来し、あちこちで大きな被害が起きていたのと、国道が地滑りで塞がれ、重機を導入できず。

 

二年前――社会人になったばかりの岩崎の遺影は、記憶と殆ど変わらなかった。

こんなことになるなら習わせればよかった、と後悔しているらしい母親はかなり憔悴した様子で、さすがにゼロも言葉が掛けられなかったようだった。

その後、少しだけ入らせて貰った(衣類など男性に見られて困る類のモノは処分してある、とのことだったので)彼女の私室で、とんでもないものを見つけることになるんだが。

 

 

その時は、礼を言いたかった相手がもうこの世にはいない、ということに動揺していて、それどころではなかった。

 

 

身を隠して数年。

 

ようやく俺がNOCだとバレた原因を突き止め、地方からそろそろ戻ろうかという頃。

 

 

「はあ!?彼女を見付けた!?」

地方のとあるアパートの一室で俺は大声を上げてしまった。

(こいつ、大丈夫か!?)

岩崎は、もういない。

幽霊にでも遭ったとでもいうのか。

「冗談だろ。彼女はもう――」

――知っているさ。俺達も確認したんだから。

あの後、俺達は知った。

車内に閉じ込められた後も、決して諦めなかった彼女のことを。

ドアが開けられないと分かると、救助が来ても分かるようにとキーを握りしめ、車の壁を何回、いや何十、もっと多く叩き、やがて、それは重機より先に到着した救助隊にも聞こえたそうだ。

だが、そこは人力だけで、どうとなるものでもなく。

最後の方はモールス信号のように間遠になっていたという。

 

そして、最後に車内に付けられていた傷のことを知った俺は思わず瞠目し、ゼロは……無言だった。

最期の最期、岩崎は、何を思ったのか。

 

車内に丸い形の傷が幾つも遺されていたという。

 

だけど、その傷が『丸』ではないことは、俺達は分かっていた。

ただの『丸』なら始点は真下から始まる。だが、彼女が遺したそれは始点は、真上から始まっていた。

 

 

つまり――『0』(ゼロ)

 

 

ああ、やっぱり、と思った。

何でこんなにタイミングが悪いんだろうな。

その後、俺は裏切り者を炙り出すために地方へ飛ばされ、ひとり残されたゼロは――。

 

仕事の鬼になった。

 

これ程、傍にいてやれないのがキツいとは思わなかった。

ただ、唯一の救いというか、やるべきことがあったから、俺もゼロも乗り越えたといってもいいのかもしれない。

 

それでも、それ以降、俺の方から彼女の話をふることはなくなり、そしてゼロも――。

 

 

 

「だったらそんな世迷い言は――」

――彼女は『あの事件』を知っていたんだ。

「何!?」

 

あの事件――彼女が地方からわざわざ俺達のいる高校へ編入することになった理由。

公安へ入り、資料を当たってみた際、思わず目を疑った事件。

 

というか、よくあんなことがあって、普通に学校生活送れたよな。

ある種トラウマともなりかねない、彼女が在籍していた女子高で起きた事件は封印され、地元紙にさえ、詳しい経緯は載らなかったはずだ。

(その事件を知っていただと?)

「――……まさか」

『彼女』とおぼしき人物は、どう計算しても年齢が合わない。

(現在、高校二年生って。彼女がいつ亡くなったと思ってるんだ!?)

否定しようとした俺に更なる追い討ちがかかる。

――あの曲も彼女は弾ける。

(なん、……)

――途中で止めてしまったが、『あの曲』ならそれで充分だろう。

彼女はクラシックも弾いていたが、ときどき、オリジナルと思われる曲を弾いていた。

それはたかだか十代の少女が作り出したとは思えないほどで、作曲家としての才能もあるのでは、と思わせるには充分だった。

――彼女を説き伏せて、俺達も覚えたよな。

「ああ」

――彼女が『鈴木園子』にピアノを教えていたのか。

呟かれた言葉に、俺は思わず答えた。

「それはないだろう。彼女の家庭環境からして――」

――ああ。彼女が音楽の道へ進むことはあり得ない。

一瞬、ほんの一瞬だが、あの崩落事故に遭ったのは本当は別人で、岩崎はこっそり家出でもしていて、と俺は全くあり得ないことを言ってしまったが、そこはゼロも同じだったようだ。

音楽教師でも何でもいい。何か『音楽』に関わる仕事に岩崎が就けていたら。

 

「やっぱ、俺もそろそろ戻るかな」

そう呟いた俺の声は届いていなかったらしい。

「おい、聞いてるか?」

――ああ。大丈夫だ。

ん?この声音。大分上の空だな、こいつ。

「怪しいな。今日で何徹だよ?」

――まだ、三徹――。

……『まだ』って言ったよな、こいつ。ってことは、これから四徹、五徹するつもりか!?

「……俺も行く」

――は?

「俺もそっち行って確かめる」

――ちょっと待てっ!!お前、今――。

ああ。まだ言ってなかったか。

多分、報告が上がっていないんだろうな。

「少しは手伝わせろよ」

俺の本気具合が分かったのか、少しの沈黙の後、

――ちょうど、鈴木園子のガード役が欲しいところだった。

 

「任せとけ!」

 

 

そうして顔を会わせた『鈴木園子』は――

 

 

「それって幼なじみじゃないの?」

彼女が顔を見せるという喫茶店へバイトとして雇われた俺は、

(ん?)

俺とゼロとの関係性の話題になった途端、もの言いたげにこちらをちらちらと窺う鈴木園子。

(何だ?)

一瞬、目が合ったが、それはすぐに逸らされた。

(これはもしかすると――)

俺とゼロのことを知っている!?

あの視線はまったくの他人に送るものとは思えなかった。

思考を巡らせていると、来店を知らせるベルが鳴った。

 

 

「彼女は新しくウチの班に入ってきた、岩崎刑事ですよ」

「岩崎みづえです。よろしく」

「安室透です。よろしくお願いします」

「今日からこちらで働くことになりました皆川桂一です。よろしく」

無難な挨拶を交わしながらも、内心は――。

(ゼロッ!!お前!!何やってんだよ~~!!)

彼女――岩崎みづえ――は本当は捜査一課の所属ではない。

公安(地方だが)の人間だ。

この名字で分かるとおり、彼女の親戚だ。

(だからって、ここにぶち込むか、普通!?)

使えるモノは何でも使え、ってことかよ。

 

だが、そんなこちらの思惑をよそに、鈴木園子の岩崎刑事への応対は第三者へ対するそれで。

(これは、外れか)

 

そう思っていたが、それはいい意味で裏切られることになる。

 

「じゃあ、ルフナ、お願いします」

数ある茶葉の中から、鈴木園子が選んだのは『彼女』が好きだったもの。

この時ほど、気を張って紅茶を淹れたことはない。

「ありがとうございます」

ひと口飲んで、

「とても美味しいです」

笑みと共に告げられた言葉は、こちらが初出勤と聞いて気を遣ってくれたようだった。

(岩崎、なのか)

これだけではまだ判断できないな、と思っていると、

「まさかと思うけど、皆川さんにクラ替えしたのかい?」

(……最近の子はませてるな)

というか、俺もゼロもアラサーなんだが。

幾らなんでも高校生に手を出すつもりはない。

「そーなの?」

「ちょっ、ガキンちょまで!そんな訳ないでしょっ!美形がいたら誰だって観賞したくなるじゃない!!」

(ええーっと、これ本当に岩崎か?)

何だか、岩崎というより、事前に聞いていた『鈴木園子』嬢に近い気がするんだが。

「そーいえば、工藤くん家、おそうじ手伝ったの、いつだったっけ?もうそろそろ……」

(あ、これマズイやつ)

家人のいない工藤邸には、現在、非常に怪しげな大学院生が居候しているらしい。

この大学院生、恐らく奴だろう。

ゼロの――

と、そこでうっかりゼロの方を見てしまった俺は、ソッコーで気配を消した。

(……すっげ、怒ってらっしゃる)

 

岩崎の訃報を聞いた奴は、『残念だったな。せっかくのいい人材が』等、ことごとくゼロの神経を逆撫でするような言葉を吐いてくれ、名前を出すだけでもかなりヤバイことになるんだが。

(ってゆーか、何であんなに空気読まないんだ)

 

顔の表情だけは見事な営業スマイルで、お冷やを注ぎに行くゼロをそっと見送った。

 

 

(キジも鳴かずば撃たれまい)

 

 

その後、〈エッジ・オブ・オーシャン〉で起きたテロでは、信じられないレベルの先見の明、というか、殆ど予知能力レベルの活躍をしてみせ。

 

(……あの曲は)

 

建設中のビルの最上階。

アルファロメオを軽く撫でながら口ずさんでいたその曲は――。

 

 

「何だ?その曲?」

「聞いたことないな」

そう聞いた俺達に、どこか満足げな笑みで返ってきたのは、

 

「「はあっ!?ルパン三世のテーマ!?」」

 

「岩崎!!ルパン三世は犯罪者だ!!何でそんなやつのテーマなんか……」

「まさか、作ったのか?」

俺達を呆れさせたその曲は、とても素人が作ったとは思えない出来で――

 

 

何でそれを今、『鈴木園子』が口ずさんでるんだ!?

 

彼女は沢山の曲を作っていたが、それはどれ一つとして形になることはなかった。

恐らく、母親に配慮したのだろう。

これほど才能があったのに、彼女はそのことに頓着していないように見えた。

ゼロに詰め寄られても彼女はどこか悟ったように、

「いいの。たぶん、こうなるようになっていたんだろうね」

十代にしてはいやに老成した雰囲気だった。

その時感じた違和感を突き止める前に、岩崎は消えた。

 

よくよく注意して見ると、『鈴木園子』と岩崎の共通項が浮かび上がってきた。

何気ない仕草、口ぐせ、ちょっとした雰囲気――忘れかけていた学生時代を思い起こさせるには充分なもので。

 

(本当に、岩崎なのか)

 

 

ゼロは今、半分ほど謹慎状態だ。

やはり、地方の公安から岩崎の親戚を引っ張って(だから、どうやったんだよ!……聞くの、こえー)、『鈴木園子』と関わりの深い、捜査一課の目暮班に捩じ込んだのが、効いたらしい。

潜入捜査は続けているが、それ以外(特に『鈴木園子』関連)は、手出しできない状況におかれている。

俺は、ガード役なのでそのまま続投、ということだが、ゼロへの情報提供は禁じられてしまった。

(何をもって確信したかは知らないけどさ、ちょっとやりすぎだろ)

 

 

そしてここまで来て、俺には疑問が残っていた。

 

 

(『鈴木園子』の人称は『あたし』だが、岩崎は『私』だよな)

 

 

一体、キミは何者なんだ?

 

 

 

 

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