鈴木園子はゼロの夢を見るか   作:ルナ子

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こっぱみじんの……

「園子、京極さんが帰って来るって本当?」

「もちよ、もち! 昨日の夜、電話きてね、明日にはこっち着くって!」

「へえ、良かったじゃん」

蘭と世良さん(もう『ちゃん』づけでは呼べないなあ)、この二人はあたしの変化を受け入れてくれた。

さすがに自分でも変わりすぎかも、と思うことが結構あったので、思い切ってカラオケBOX誘って、大体のところを告白しました。

以前とは物の見方が変わったこと、記憶が『虫食い』になっていること、それに加えて将来も蘭達と友達でいたいから、『勉強時間』を増やしてしまったので、あまり一緒にいられないこと。

さすがに『コナン』のことは話せなかったけど、伝えたいと思ったことは話せたと思う。

「園子ってば」

蘭には呆れられてしまったけど。

「確かに最近、雰囲気変わったな、とは思っていたけど」

それくらいで友達止めたりしないよ。

異口同音にふたりに言われて思わず泣きそうになってしまった。

(くぅ、『コナン』の女の子はいい子ばっかりだわ)

と、ケーキを口に運んだところであたしは固まった。

「園子君、どうしたのさ?」

「え、と。……真さん、今のあたし見たら、何て言うかな、って」

「大丈夫だよ、園子!

「そうそう、考えすぎ。ポジティブに行こうよ、なっ!

(世良さん、背中叩くのやめて。痛いって。マジに)

「元気ですね」

コーヒーのおかわりはいかがですか。

涼しげな声できましたよ、イケメン店員さんが。

「あ、お願いします」

「あたしも」

「そう言えば園子君は今日も紅茶?前はコーヒー、多かったよな?」

「ん、何だか味覚も変わったみたいで。紅茶の方が落ち着くんだよね」

(あり?何か沈黙落ちちゃった。マズったかな)

「そういうこともあるみたいですよ」

(おおっ!さすがイケメン店員!会話スキルも高いわ!)

「そうなんですか」

「確か、その人は頭を打ったとかで、変わったそうですよ」

でも、とハイスペックな安室さんは続けた。

「それくらいで心変わりされるほど、園子さんの恋人は冷たい方では、ないでしょう?

(来ました!本日のイケメンスマイル!うん、営業用ですね。ありがとうございます)

「そうだよ、園子」

「安室さんも言ってるんだし、大丈夫だよ」

そう言われてあたしは、えへへ、と笑ってみせた。

(うん。ここは笑顔)

「ありがと。あれ、そー言えば、がきんちょは?」

ここ最近、かの著名な『江戸川コナン』くんとあまり顔を合わせていないのだ。

(何か疑われてるみたいだから、早く誤解解きたいんだけどなあ)

「ああ、コナンくんだったら今日は博士の家に泊まるって」

「え、そうなの?」

「うん、博士が新しいゲーム作ったからって」

蘭ちゃんはそう言うけど、何かこれってメッチャ怪しいパターン。

中身があの『工藤新一』くんでゲームはないでしょ。

(これは新しい発明か……)

「そうなんだあ。あ、ゴメン、今日は早く帰るんだった」

時計を見て慌てて気づいたかのようにゴメン、と断って席を立つ。

会計は安室さんだった。

いつものように割り勘(こーゆーので、おごるのはダメなんだって。ちぇ)で払っていると、安室さんがぽつり、とひと言。

「案外、大根ですね」

「ほっといて下さい」

(くっ、さっきの会話から見抜かれた。今度、演技の授業も入れよう)

『ポアロ』を出ると同時にスマホを取り出す。

 

 

「やっほー、コナンくん!」

「いっ、……園子姉ちゃん」

(テンション低っ!まあ、分かってたけどさ)

「やあ、園子くん」

「今晩は」

「いきなり来てゴメンね、あ、これ、○屋のようかんです。よければどうぞ」

「おおっ!いやこりゃあ、スマンのう」

「……博士、今日のおやつは終わってるわよ」

(相変わらずの冷静な突っ込みですね。灰原さん)

喜色満面な博士をジト目で見ていた哀ちゃんに、ハイ、と小さな包みを手渡した。

「フ○エブランドのキーホルダー。哀ちゃんにどうかな、って」

精一杯の『園子スマイル』に哀ちゃんは無反応――どころか、

「どういうつもり?」

(あれ?『モノでつっちゃえ作戦』まさかの不発?)

「どしたの?園子姉ちゃん、急に来たと思ったらこんなの出して」

「こんなの、とは失礼じゃそ、し……コナンくん」

(博士には効いてるみたいね。しゃあ)

「じゃーん、そんなコナンくんにはコレでどうだ!」

とあたしは『緋色の研究』の洋書を出してみせた。

「え、これって……」

「さすがに初版本じゃないけどね。その複製よ。とはいってもほとんど初版本と同じ作りだけどね」

あっという間に目を輝かせたシャーロキアンの手にほら、と渡して、

「ハイ、チーズ!」

「……へ、チーズ?」

パシャ、と写真ゲット!」

「園子姉ちゃん……?」

「やっぱり、ね」

「何が、やっぱりなの?」

一気に場の空気が変わった。

警戒心もあらわな哀ちゃんにあたしは笑みを返した。

「別に敵になろうって訳じゃないから、安心してね。っと、コナンくん、あなた、『工藤新一』くんでしょう?

「いや、な、何、言ってんだよ、園子姉ちゃん」

(動揺しすぎだよ。これでよく今まで気付かれなかったなあ)

あたしはたった今撮った写真が出ている画面を皆に見えるようにスマホを掲げた。

「ねえ、人の歯って生え代わり、あったよね?」

ことさら、ゆっくり言ってみる。

「この歯並び、どこかで見たような気がしたんだよね。で、調べたら、ウチのアルバムにあった『工藤新一』くんの歯並びとどんぴしゃでさ」

確か乳歯って小学校高学年までには生え代わっちゃうんだよね?

何で子供のコナンくんと、高校生の『工藤新一』くんの歯並びがぴったり合うんだろうね。

そう続けると、

「そりゃあ、そういう偶然もあるじゃろ」

「そうだよね、博士」

ハハハ、と些かわざとらしい笑い声が響くなか、

「あ、そう。それじゃあ採りましょうか、指紋」

「「え!?」」

ぴき、と二名ほど凍らせて、ゆっくりとコナンくんの小さな手のひらを覗く。

「ウチにも『工藤新一』くんの指紋あるしね。そっちを照合してもいいのよ」

「いや、だから」

「その、じゃな」

じたばたする男性陣をぴしゃり、と黙らせたのは哀ちゃんだった。

「もういいんじゃないの?だいたい『歯並び』なんて予想していなかったし」

それで要求は何?

と聞かれ、あたしは思わず、

「博士に発明して欲しいものがあるのっ!」

(あ、でも無理だろうなあ)

そう思いつつも、これまでの経緯をざっと(もちろん『コナン』の世界は除く)説明する。

「それで、できれば元の『園子』のようになれる薬をちょちょいのちょいと」

「無理に決まってんだろ」

「無理ね」

「博士ぇ~~」

外野は放っておいて博士に泣きついてみたが、博士はううむ、と唸ってしまった。

「園子くんには悪いがさすがにそれは無理じゃろうて」

「そんなあ」

あたしは、ううっ、と泣く振りをしながらテーブルの上のようかんの包みに手を伸ばした。

「それじゃあこれは持って帰ります」

「待つんじゃ!」

あたしは、ちら、と博士を見た。

「それじゃあ、他のモノを何か作って貰えます?

「他、とは何じゃね?

(よし、言質取った!)

「じゃあじゃあ、探偵団の子供達が持っている通信バッチとか、小型発信器とか、あとは……」

言いつのるあたしを、コナンくんがジト目で見た。

「オメー、それが目的か」

えへへ、とあたしは笑ってみせた。

「それもあるけど、……何かあたし、例の『風邪』からさ、考え方とか物の見方とか大分変わっちゃったみたいなんだよね」

だから、

「もしもの場合はフォロー、よろしくね」

そう続けると何とも言えない沈黙が降りた。

 

帰り際、コナンくんがぼそ、と呟いた。

「オメー、やっぱ園子だよ」

(それって誉め言葉!?ねえ、ホメ言葉だよね!?)

 

 

 

そうやって思いつく限りの『根回し』を終え、あたしは現在、空港にいます。

「ちょ、園子、何隠れてるの?

「だって……」

(やっぱり、少し怖い)

原作では園子にベタ惚れの京極さん。

(確か、きっかけは蘭の試合を真剣に応援している園子の姿を見て、そこから、みたいだけど)

「ほら、しゃんとして」

(う、相変わらずの勢い。だから世良さん、叩くのヤメテって)

「大丈夫だよ、みんな付いてるしね、園子姉ちゃん」

「ありがと、コナンくん」

(……口調とは裏腹に目が冷めてるよ、きみ)

「大丈夫ですよ!」

「今日の園子おねーさん、とっても素敵!」

「うな重、売ってないのか?」

(元太くん、相変わらずの平常運転)

「何で、オメーらまでいるんだよ」

「いいじゃないですか!べ、別に期間限定の仮面ヤイバースタンプを押そう、何て思ってないですから!

「歩美はそんなこと思ってないもん!園子おねーさん、とってもキレイだよ」

「ありがと、歩美ちゃん」

些か棒読みになりながらも何とか答える。すると横で会話を聞いていたらしい世良さんがあたしの服に視線を走らせ、

「それにしても今日はシックだね。いつもと雰囲気違うけど、魅力的だよ」

「ありがと、世良さん。ちょっとがんばってみたんだ」

今日の服はノースリーブのワンピースにかちっとしたスーツの上着を合わせた、まあ定番と言えば定番だけど、何度も合わせてきたから、ちょっと大人っぽい上品さが出ていると思う。

髪は毛先を軽くウェーブさせて、柔らかい印象にした。

そうすると、服から滲み出る大人っぽさと髪のフェミニンな印象とでいい感じになると思ったんだ。

ここまでするのに凄い時間かかった。

(だって『園子』の服って布地少ないのばっかなんだもの)

ちなみに京極さんの好みは昔ながらの大和撫子。

肌見せNGか、って位、園子を注意していたので、気を回してみたのだ。

(気に入ってくれるといいな)

「あ、そろそろじゃない?

(うわあ、落ち着け心臓)

何といっても『あたし』が京極さんに会うのはこれが初めて。

緊張するな、という方が無理だよ。

人の流れを追って追って……。

「園子、来たよ!

「こら、隠れない」

「往生際、悪いぞ」

(何か、マジ、ニゲタインデスケド)

半端なく緊張しているあたしにも、その姿は見えた。

誰よりも真っ直ぐで、確かな足どりでこちらへ来るその姿が。

「ほら、気づいたみたいだよ」

「えい!」

「え、わっ!」

誰かに押されて(蘭?世良さん?後でパフェ奢ってよね)あたしは二、三歩前へ飛び出した。

その勢いのまま、京極さんの方へ歩き出す。

(うわあ、凄い満面の笑み。この人すっごく園子のこと好きなんだあ。……ここで俯瞰してどうすんのよっ!)

何て声をかけようか、と思いながら近づくにつれ、なぜかその笑みがかき消えていった。

(……え?)

互いに一歩分置いて立ち止まる。

(さっきまでの笑みは?)

訝しく思いながらも『おかえりなさい』と言いかけたあたしに固い声が掛けられた。

 

「あなたは誰ですか?

 

 

(……ハ、イ?)

 

 

 

一体何が起こった!?

 

(あんな京極さん、始めて見た)

もう『真さん』なんて呼べない。

「誰って……」

私ですけど。

それくらいしか言えなかった。

案外、自分冷静だなと思ったけど、そうでもなかったみたい。

そう返した後、くるりと回れ右をしてその場を後にしてしまったのだから。

蘭達が何か叫んでいたような気がしたけれど、何も耳に残らなかった。

 

(何これ。まさかのどんでん返し)

一番有り得ないと思っていた人物からのカウンターにあたしのライフは0になった。

ばふん、とベットに突っ伏し、回らない頭で対策を考えてみる。

(今のところ、あたしが『別人』と言っているのは彼ひとりだけだし、蘭達には既に話してあるからそこは大丈夫)

あまりの展開に動揺して、蘭達をすっかり無視してしまった。

(あたし、よくひとりでここまで帰って来られたよなあ)

恐ろしいことに、帰って来るまでの記憶がまったくなかった。

(明日、蘭達には謝らないとなあ)

 

それより京極さん、一体あたしのどこを見て訝しんだのだろう。

 

やはり、愛の力は偉大だな、と半ば恐れと半ば憧れを感じながらあたしは眠りについた。

 

 

 

翌日、『ポアロ』にて――

 

「大丈夫よ、園子、京極さんには話しておいたからね!

「園子君、どうだい?いっそのこと、他に目を向けてみるというのも?

正反対の台詞だけれど、ふたりがふたり共、あたしを心配してくれているのがよく分かった。

「ありがと、蘭、世良さん。ふたり共、大好きだよ」

「「……」」

(あれ?何か外した?)

「やだぁ、園子かわいい!

(ちょ、なぜにいきなりのハグッ!?うれしいけど、苦しっ!!)

「へぇ、こういう園子君も何だか新鮮だな」

(世良さん!のん気にしてないで、たすけてぇっ!!)

蘭の発作(?)が収まるのを待って何とか逃れたあたしは、ほっと息を吐いた。

「もぉっ!苦しいってば!!それより、京極さんに話したって?

「あのね、本当は園子から話した方がいいと思ったんだけど、園子ってばすぐに帰っちゃったじゃない?気持ちは分かるけど。何か、京極さん、言った後で『しまった』って顔してたみたいだから、少し話しておいたから」

その『少し』が例のカラオケBOXでの話だと気づいたあたしは、顔面蒼白になっていると思う。

「……話したの?」

「大丈夫?園子!?顔、真っ青だよ!?」

「そんなに心配しなくても、話したのは少しだけだから、今度ゆっくりふたりで話しなよ」

ふたりがかりで宥められたけど、落ち着いてなどいられなかった。

(どうしよう。京極さんにこれ以上怪しまれたら。でも言わないときっと余計おかしくなる)

「うん。分かった。ありがとね、あ」

昨日、先帰っちゃってゴメンね。

ちゃんと謝っておくのも忘れない。

(何か、今更、かな)

「「……」」

(へ!?何!?)

「もぉ~~っ、園子ってばぁ!!」

(ええっ、まさかのハグッ!?今のどこにその要素がっ!?)

「園子君って天然だったっけ?」

「ふぇっ!?」

(何ですか、それは!?)

頭の中がクエスチョンマークで一杯になっていると、隣のテーブルを拭いていた安室さんが話に入ってきた。

「女の子の方が成長が著しいと聞きますが、やはりそうですか」

半分からかいのニュアンスがあるような台詞に、真っ先に反応したのは世良さんだった。

「それ、受け取り方によってはセ○ハラに聞こえますよ」

顔は笑っているから、本気じゃないよね、世良さん。

「もうっ、安室さんってば!何言ってんですか!

なぜかカウンターにいた梓さんまで口を挟んできた。

(はて?そんなに食いつくような台詞だったっけ?)

ふと見ると、蘭の顔も少し赤い。

「まさか。安室さんに限ってそうゆう意味では……園子?」

(ここは正直に言った方が被害は少ない、よね?)

「えと、ごめん。ちょっと分からない」

「「「「……」」」」

「園子っ!?」

「ボディーガード、居るよなっ!マジ、京極さんひとりじゃ足りなくなるんじゃないかっ!?」

「知らない人について行っちゃ、ダメですよ!」

「今日、迎えの人は?いないなら送っていくよ」

 

(えっと、皆さん同時に言われると、何言ってんのかサッパリなんですけど)

 




『仙台』が遠い(T-T)

予定では仙台着いてるハズなのに(汗)

この先行ってる下書きですら、まだ仙台着いてませんm(__)m(おーい)

何とかここから、挽回せねば(^^;



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