テラーストーリー・オブ・ナイト 作:バルバロッサ・バグラチオン
果たして彼ら3人の運命は如何に。
勝手口から侵入した慎ら3人。
中は異常な程寒く感じられ、とてつもない雰囲気を放っていた。
懐中電灯に晒し出された台所は、荒れ果てていた。
板は明らかに腐り、食器は散乱し天井はボロボロになっており足元にはガラスの破片が広がっていた。
「雰囲気ありますなあ。僕は色々と廃墟巡りしてますが、今回は一味違う。」
一己は好奇心丸出しで言う。
だが慎は違った。重苦しい雰囲気に押されてしまい、今すぐに帰りたい気持ちに支配されていた。
そうとは知らず他の二人は明らかに留まる気配がしない。
「さあ、まだまだ続くぞ。」
周は台所の先にある居間に向かう。台所と同じく居間も酷い有り様だった。畳は腐敗して強烈な臭いを放ち、壁はボロボロである。
居間を調べた後、廊下に出たら3人に異変が起きた。
耳鳴りが生じたのである。
「一体、何だあ?耳鳴りがして痛い。慎、一己、お前らは大丈夫?」
「周君、僕もだよ。慎、そっちは?」
「俺もだ。」
後ろを振り向いた周の顔は凍りつく。何かと恐怖に囚われる慎の横を「それ」が通りすぎた。
それは、小さな女の子であり慎らの腰程しかない女の子が、口を開け悲鳴を上げながら、絶叫を上げる周と一己の横を駆け抜けていく。
「うわわわわぁぁぁっ!」
さすがに今まで余裕綽々だった周と一己は、ここから逃げたい一心になり、居間に戻ろうとする。
そこには、1人の女が立っていた。
年齢は30代くらいだろうか。紺色のロングスカートと白のセーター服を着てピンク色のエプロンを身につけてたいた。
肌色の青白さが不気味さを醸し出していた。いや、それ以上に女の眼球が無かったのが更に恐怖度がます。
落ち窪んだ眼窩には何かが蠢いてた。
女が口を開けたと思いきや、「あううううぅぅ」とおぞましい声で叫ぶ。
3人はもうパニック状態になり、踵を返し冷静な判断が出来ぬまま、階段を上がり二階に向かう。
もう全員泣き出していた。
二階に上がった後は、部屋に鍵をかけた。窓にも板が打ち付けられていたが、ドアから避ける様にして窓に張り付く様に凝り固まっていた。
どのくらい時間が経ったのであろうか。
「おい、何だよあれら。ヤベェ。」
先ほどと比べて落ち着いた周であったが、未だに怯えてるのが伺える。
「とにかく、ただの幽霊ではない様ではない。ただならぬ雰囲気は放っていました。」
一己もガクガク震えながら泣き続ける。
「ようし、こうなったら窓を割って飛び降りるしかない!」
「バカを言え、ケガしたらどうするんだ!」
周の提案に慎が反論した、その時ガチャガチャとドアのノブが激しい動きをした。
「助けて、助けて、助けて、助けて」
女の子の声が響き渡る。
だが、再び恐怖に支配された3人はどうする事もできなく、狂いそうになっていた。
だが、慎は冷静さを取り戻し、ある事が浮かんできた。
(この、女の子は助けを求めているのでは…?)
慎は自然とドアに向かい、制止しようとする周と一己の声を無視して遂にドアのロックを解除した。
バンとドアが大きく開き、女の子が飛び出し慎へと来る。だが、触れる事無く通り過ぎていく。
悲鳴を上げ続ける周と一己の前を横切り、近くにある襖へと入っていった。
「一体、何が?」
慎が呆然としてると、今度は大きな足音を立て女性がやって来た。よく見ると右手に大きな出刃包丁を持っている。
3人とも声を出せずに震えていたが、女性もまた慎の身体をすり抜けて部屋に入っていった。
どうやら女性には3人を気にしてない様に、部屋を見渡した後、ふーっふーっと息を荒げる。
そう、女の子を探してるのだ。
やがて、襖の方に顔を向けると、その場に行き一気に開けた。
「いややぁぁぁつ!お母さん、許して!」
女の子が泣き叫ぶ。女の子の髪を掴み引き摺りだし、女性は馬乗りになり、出刃包丁を振り下ろす。
3人は何もする事が出来ないまま、眺めていた。
グシャッと音がして、女の子が絶叫する。女性が出刃包丁を振り下ろす度に痙攣していたが、やがてビクリともしなくなった。
「あははっ、お前が産まれてこなけりゃ、あの人はあの女狐の元に走らなかったんだよ」
女性が狂気に満ちた笑いを放つ。
3人は恐怖を通り越して、脱け殻の有り様だった。
「ははっ、邪魔者は消しちゃった。」
女性はぶつぶつ呟くと一階へと降りていった。
「もう、嫌だ。助けて」
周は泣きながらうろたえる。慎も一己も一緒に泣いていた。
目の前で起きた出来事にショックを受けていた。
3人が思うには、女の子はこの家で惨殺されたのだ。
慎は怖いという気持ちより、悲しい感情が湧き上がっていた。
無惨な姿になった女の子に触れようとしても、全く触れられず感じられるのは畳の感触である。
「何で、俺らは被害受けないんだ?」
「あ、あれだ。僕が君らにお守り渡したのが影響してるんだ。」
周の問いに一己が答える。
「お前ら、このまま帰るのは違う気がする。」
慎が言った。
横たわる女の子を見て、3人は同情しはじめる。
「この子はまだ成仏してないよ、恐らく。」
「してないのは間違いない。さっきみたいな事を繰り返してる。自殺した幽霊は、死んだ後も何度も自殺するし。いわば自縛霊なんだ。」
「成仏させたいんだが、どうすりゃいい?」
「分からん。とりあえずお経でも唱えてばいいんじゃね?」
3人とも南無阿弥陀仏しか知らない。しかし、女の子を救いたい気持ちで必死に唱え続けた。
真剣に願った。どうにか成仏してほしいと。
そして唱えた後、目を開けると女の子の姿は忽然と消えていた。
だが、ぽつんと髪飾りが畳の上にあった。
「成仏したんですかね。」
一己が問いかけた時、慎は髪飾りをポケットの中に入れた。
「さあな、これは持ち出していく。このままにしておくのも可哀想だ。」
「知り合いの住職に供養しよう。」
周は、辛辣な表情で話かける。
3人は手を合わせ、最初に入ってきた勝手口へと戻る。
外はもう朝だ。
またもや女性の幽霊に襲われる事はなく、無事に廃屋を脱出した。
ようやく、町の中に戻ってきた安心感が湧き起こり、今までの事が幻の様だ。
しかし、慎のポケットにはあの髪飾りがあった。
その後、3人とも周の知り合いである住職に出会い慎が供養してくれと髪飾りを渡すと、住職は驚いた。
「君たち、命拾いしたね。お守り見せてごらん。」
慎らがお守りを見て驚愕した。何と真っ黒になっていたのだ。
住職は慎らをお祓いした後、髪飾りを供養した。
「あの、女の子は成仏したのでしょうか?」
慎の問いに住職は答えた。
「さあ、どうでしょう。しかし、死を悼む気持ち、その思いは霊を救うのです。」
その数十年後、再び3人は集い地元の居酒屋で盛り上がっていた。
「今の俺だったら、守ってあげられたのになあ。」
消防士になり、たくさんの住民から信頼される存在となった周が言う。
「おいおい、何言ってんですか。」
警察官となり、最近強盗犯を捕まえた事により表彰された一己がぼやく。
「まあ、あの時は精一杯だったからな。」
九州で有数の進学校を卒業した後、難関大学の医学部に進学し全国で有名になる程の評判の良い医者になった慎が結論を出す。
消防士、警察官、医師。彼らは人を助ける仕事に就いたのだ。
ようやく、書き終えました。
これからも不定期投稿ですが、宜しくです。