テラーストーリー・オブ・ナイト 作:バルバロッサ・バグラチオン
何気に令和初の投稿です。
沼田と戸坂。二人の青年を乗せた車は揺らしながら人気のいない悪路を進んでいく。
既に日は暮れ、曇天の空が覆っている。今にでも雨が降りそうな雰囲気だ。
「おい、戸坂。本当にこのルートで大丈夫だよな?」
「おそらく、な。」
「おいおい、お前がこっちで行けば安心って言ったからだろうが。」
「余裕、余裕。」
助手席に座った沼田はいら立ち始め、戸坂をギッと睨む。相変わらず能天気のまま戸坂は運転してる。
(早く、遠い所に逃げないと。警察の連中から逃れる為に。)
焦りの気持ちも生じる沼田。
そう、そのはず。彼ら二人組は凶悪強盗犯だったのだ。
沼田一成、戸坂和博。この二人は手当たり次第に他人の家に狙っては根こそぎ金品の物などを強奪していた。
今回は資産家の老夫婦の邸宅を標的に定め、侵入に成功した後は金庫を開けて現金を盗ったり、宝石類など金になりそうなのを回収していた。
そして、いよいよ撤収と思いきや運悪く老夫婦に遭遇してしまった。
だが、彼らには情がない。ロープで縛り上げたあと、所持していた金属バットで容赦なく殴打した。
「た、助けてくれ・・・。今週の日曜は遠くから来た孫らと遊ぶ予定なんじゃ・・。通帳差し出すから命だけは・・。」
必死に懇願して許しを乞う老夫婦。だが決して沼田と戸坂の心に届くわけではなく、攻撃を緩めようとしない。
「知るか、そんなの!俺らに関係の無いことだろが! 顔を見られたにはお前らを殺すしかないんだよ。」
とどめの一撃を差す二人。老夫婦の息の根を止めた止めた事を確認した後は素早く現金と金品類をトランクに詰め込み、邸宅を後にした。
悪路を進み、車体は大きく揺れる。沼田は不安げに景色を見る。苛立ちが加速し、おまけに気分も悪くなった。
運転している戸坂に今にも怒りをぶつけたい。確実に迷っている。
「ありゃりゃ、すまん沼田。迷っちまった。」
戸坂は一言放った後、停車した。今更かと睨む沼田をよそに辺りを見渡す。
「何だよ、この辺は。」
「どうだろうなあ。まあ、街の外れなのは間違いない。」
「そんなの、分かる!警察に捕まったら俺達ムショ入りなんだぞ!ふざけんな!」
あまりの能天気さの戸坂に沼田の怒りは最高潮だ。
「ちょっと誰かいないか見てくるわ。」
ドアを開けた戸坂は、探索を始めた。数分後、「ちょっと向こうに明かりが見える。お前もついてくるか?」
おいおい大丈夫かと不安な気持ちを抱きながら、沼田も降りた。
戸坂の後を追って小道を進んで行くと、前方に集落らしきものが姿を現した。
「すいません。」
戸坂がとある家のインターホンを鳴らすと、「はーい、財前ですが。」と若い女性の声が聞こえてドアを開けて顔を出してきた
如何にも上品らしさを備えた美人であった。
「はい、ご用件は何でしょうか?」
「いや、俺達ドライブしてる最中迷いちゃいまして・・。申し訳ございません。」
何食わぬ顔でヘラヘラする戸坂に対して、女性はにこやかな笑みで対応する。
「あらら、道に迷いちゃいましたか。それは大変な事ですね。」
「で、どうすれば、この辺から抜け出せるのか…」
戸坂が聞いてる最中に、ポツポツと雨が降り始めた。
雨か。ツイてねえなあ。早く戻って警察から逃れたい。沼田は焦る。
「あら、雨が激しくなってきましたね。お二人とも雨宿りしてください。とりあえず上がってくださいな。」
女性はドアを大きく開けて迎え入れてくれた。広々とした家の中は居心地がいい。
リビングルームで三人は話をしている。
「申し遅れました。私は財前弘美と申しまして主人と共に農家をしております…。」
本性をひた隠しにして、沼田と戸坂が談笑していると二階からこちらに降りてくる音がして二人の男の子が向かってきた。見た目は可愛らしく、小学生に見える。
戸坂は呑気に「とても可愛いお子さんです。」と弘美に愛想を振る舞う。
そんな事をよそに沼田は物思いにふけっていると、片方の男の子に服の裾を引っ張られた。
「お兄ちゃん達、どこから来たん?」
「ああ、俺達は道に迷って・・。」
「
「は?」
子供の発言に首を傾げる。赤眼様?
「しっ!何言ってるの!お客さん達に変な事を言わない!諒太!」
先程のにこやかな笑みとは打って変わって鬼の様な形相になった弘美は怒鳴り散らす。
その事にシンとなる諒太。
「あっ、そこまでしなくても。自分らはそこまで気にしてないので。」
なだめる戸坂。
「すいません。気分を悪くさせる事をしてしまいまして。」
頭を下げる弘美。そして「恭太、諒太。二階に戻りなさい。」
ササッと去る様に双子は二階へと戻っていった。
それからしばらくして、道を聞いた戸坂と沼田は一息ついた。これでいち早く警察の手から逃れられるという安心感が広がる。
「じゃあ、ありがとうございました。俺らは戻りますんで。」
礼を言って二人が立ち上がると、弘美は引き止める。
「待ってください。もう夜遅くなりましたし、ほら雨が酷くなってきました。お二人さん、疲れていそうですし、ここで一泊なされてはなりませんか?」
「えっ?」
「実はというと、部屋が一つ余っております。」
正直、帰りたくてしょうがない沼田。
「本当ですか?ありがとうございます! もう俺は長時間運転してて疲れていまして。」
食いつく様に喜ぶ戸坂。
おいおい、コイツ何考えてんだ?俺らの正体バレちまったらどうすんだよ。ほどなくして沼田は断る理由を考えるのを止めた。
夕飯をご馳走する弘美のおもてなしに飛びついて嬉しそうな態度を取る戸坂に呆れる沼田である。
「お前、何考えてんだ?俺らの正体バレたんだらどうすんだ?」
「えっ、いいじゃん。俺、長時間の運転でヘトヘトだったんだから。しかも向こうから言ってきてくれたし。」
「というか、俺は早く帰りたかったんだ。車はあそこにほっといたままだろ?」
夕飯までにと用意された部屋にて、沼田と戸坂は話をしている。
「それにしても、この家は広いなあ。」
「確かにな。」
「とりあえず、この部屋物色してみない? 何か金目の物があるかもしれないし。」
二人は手当たり次第、部屋中を物色していく。
戸棚と引出しを遠慮なく開けたりしていく。すると、戸坂が押し入れから何かを取り出してきた。
一冊のノートだった。異様な雰囲気に眉をひそめる沼田。
「何か書かれてる?」
「誰かが書いてる様だ。」
ノートにはこう書かれていた。
『一人旅をしてる最中に迷ってしまい、ここに来てしまった。この住民達は優しくて、温かい人ばかりだ。
だが、何かの秘密を抱えている様で怪しい。
みんな親身になって食べ物を提供してたり、しばらくここにいてもいいよと気遣ってくれる。だがニヤニヤと笑って企んでいる様に見える。
時には昼でも夜でも誰かのうめき声が聞こえる。怖くて確かめる術がない。
昨日、住民の一人が死んだ。私も見てしまったが、あれは殺されたに違いない。警察呼ぼうとしたら、住民らは一斉に睨みつけて「いいえ結構です。」と声を揃えた。妙だ。誰一人悲しむ者がいない。何しろ赤眼様に盾突く事をしたのから罰が当たったのだと。
皆、死体を埋めた後いつもの優しい人々に戻った。だが、もうここにいるのは嫌だ。
そして今日見てしまった。私は赤眼様という存在を。住民らが口封じの為かオノやらナタを持っている。
あれは何だったのか。人間では無いのは間違いない。
助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて』
ノートの最後のページには絵が描かれていた。黒いローブ姿に振り乱した髪。爪が異様に長く、顔の部分に札が貼ってあり、眼の部分が赤く描かれていた。
「何だ、これ?さすがにネタだろ。」
戸坂は面白そうにノートを読んでるが、その反面沼田は恐怖に慄いている。
「戸坂、このノートに書かれてる事はまさか・・。」
「冗談言うなよ。どうせフィクションなんだから。それより、腹減った。お前にあげる。」
ノートを渡され沼田はジッと見つめている。
しばらくして弘美が「主人が帰ってきた事やし、夕飯にしましょう。」と声をかけてきた。
喜んでいる戸坂について、沼田は絵が描かれたページを切り取って自分のポケットにしまった。
リビングのテーブルには豪勢な料理が並んでいて、既に数十人が集まっていた。
「主人も含めて近所の方々がお二人を歓迎をして、仲良くしたいと言ってます。一緒に楽しく夕飯を食べましょう。」
弘美が微笑ましい笑みを浮かべながら頭を下げる。
「いえいえ、どういたしまして。こんなに素晴らしい歓迎ありがとうございます。」
戸坂は満面の笑みで弘美とお喋りをしているが、一方で沼田は居心地の悪さをかんじていた。
それは、先程リビングに来た時の住民の自分達に向けられた視線がじっとりとしていたからだ。
まるで罠にかかった事を喜んでいる様な空気を感じてしまった。
むしろ自分達が強盗犯だとバレるより何らかの餌食にされそうな恐怖が勝る。
だが、戸坂はその事には気づいてはないようだが。
「ところでお二人方。夕飯にしましょう。」
こうして食事会が始まった。
戸坂は弘美とその夫である倫太郎と仲良く談話している。一方で沼田は住民らと適当に話をしている。
沼田は思った。コイツら普通じゃない。まるで異質な笑顔と纏わりつくような視線が注がれ、気持ち悪さが湧き上がっていく。
こうして時間は過ぎ食事会を終え、沼田は戸坂は部屋に戻った。戸坂はグッスリと眠っている一方で沼田は中々寝付けなかった。
ノートを眺めながら思った。あのイラストで描かれた化け物と住民らは深い関わり合いがあるには間違いない。絶対に自分らを何か利用していると。
「もう帰るぞ!」と言い放ち戸坂を無理矢理起こす。
「何だよ一体?急に。」
「あいつらおかしい!変な空気感じなかった?」
「落ち着けって。まだ疲れが取れてないだろ、お前。休ませてくれよ。」
「俺はここから出る。」
「おいおい、、マジか。」
「嫌な予感がするぜ!とりあえず脱出だ!」
逃げ出すと決意した後、財前家の人達は皆寝たのか家は静まり返っている。
「逃げるぞ、戸坂。」
「はいはい、分かりました。」
寝ぼけまなこであくびをしている戸坂。物音立てずに家から出た後はひたすら元の道に戻ろうと走り出す。
しばらくしてふと後ろの方を振り向くと、暗闇の中にゆらゆらと動く十数個の明かり。
「え、まさか?」
「連中だ。あいつら寝てたはずなのに。」
更に焦りが加速する。警察よりも、あの住民らに捕まった方が遥かに怖い。
と、その時先頭に立っていた戸坂がいきなり止まった。
「おい、どうした?」
焦燥感に駆られた沼田をよそに、無視したかみたいに目が虚ろになる戸坂。
「この野郎、車のカギ寄越せ。俺が運転してやるから。」
戸坂のジャケットのポケットを探ろうとした時、いきなり振り払われる。
「おい、何すんだ。」
怒鳴り散らす沼田。前方の方に何かがいた。
スーッと移動すしてくる。徐々に姿があらわになる。黒いローブ、ボサボサに振り乱した髪型、鋭利な爪、そして顔中に貼られた御札と、その隙間から発せられる赤い眼光。
そう、あのイラストの通り。
動転してるのと恐怖のあまり動く事ができない。
その異形の存在に操られる様に歩いて近づき始める戸坂。
至近距離になった途端、存在は戸坂の胸辺りを爪で突き刺した。ブッと血を吐いた後はカクカクと動き、次第に動かなくなった。
その後は、沼田に気付いたのか死体を放り投げる。
白目になり、青白くなった戸坂の体。
やはり沼田の予想通りだった。
この集落は異形の存在である魔女の力で繁栄していたいのだ。だが、その力を蓄えるには生贄が必要だったのだ。
そう、自分らみたいな部外者を対象に。
「あ・・・。」
ガクガクと震えが止まらない。恐ろしいモノを見てしまった。この赤眼様という魔女が目の前にいて、次は自分が生贄になる。警察に捕まるどころじゃない。
バーンと乾いた銃声が聞こえる。左足に激痛が走る。撃たれたのだ。もう逃げる術は無い。
「君達には悪いけど、赤眼様の生贄にはなってもらうよ。」
背後を見ると、溢れた光と人の中に猟銃を持ってニンマリとした笑みを浮かべて倫太郎がいる。
「お兄ちゃんら、赤眼様に捧げてくれてありがとうね。」
恭太と諒太がはしゃぎながら喜ぶ。
思いっきり髪を摑まれる沼田。魔女は赤眼を焼き付けながらニヤッと笑った。
月明かりの下、断末魔が響き渡るのだった。
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