テラーストーリー・オブ・ナイト   作:バルバロッサ・バグラチオン

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どうも、お久しぶりです。まあ不定期投稿なのはしょうがないです。
今回は不安な所がありますが、宜しければどうぞ。


第九話 呪い武者と過ごす夜

和泉俊一郎は東京から故郷の東北地方のへと車を走らせていた。

高校卒業から東京の大学に進学してから地元の志那備久(しなびく)村に帰省できて、胸を躍らせていた。

だが、数十年ぶりとあって記憶を薄れているのもあってやたらと時間がかかってしまった。

 

(もう、疲れてきたな。しばらく休もうっと)

 

長時間運転を続けてきたとあって休みたい気持ちになった。しばらくして国道沿いに休憩所があったのでそこで停車する。

そこには一台の車が停まっていて、近くにある自販機で一人の若者が缶コーヒーを飲んでいた。

その男を見て、俊一郎は見覚えを感じた。

 

(あっ、春木の兄ちゃんだ……)

 

春木玲。俊一郎と同じく志那備久村に住んでいた。2歳年上の近所のお兄ちゃん的な存在であった。

だが、玲ら春木一家は村の連中から村八分の扱いを受けて差別されていた。俊一郎も両親から「春木家に近づくな!」と厳しく忠告してきた。

それでも、俊一郎はバカバカしいと思い両親や村民の目を盗んで青木家へ転がり込んでは、玲と仲良くTVゲームをしたりして遊んでいた。

 

だが、ふとした事がキッカケで玲と遊んでいた事が周囲にバレてしまい、両親から手厳しく叱責されてしまった。

それ以来、家族らの厳しい監視も相まって玲と遊ぶ機会は失われた。

その後、玲の両親が交通事故で死んだのを機に、村民達から追い払われる様に玲は志那備久からどこかへと去るのだった。

 

「ああ、玲兄ちゃん。俺だよ、覚えている?一緒に遊んでいた俊一郎だよ。」

 

数十年ぶりの再会に嬉しい気持ちが沸きあがる。

 

「あ、誰かと思えば俊一郎か。久しぶりだな。どうした?」

 

「いやあ、高校卒業して以来、全然村に帰省してなからからさ、親に顔を見せようかなと思って。道順覚えてなかったから、かなり時間かかった。ところで春木の兄ちゃんはどうしてここに?」

 

「両親の墓参りに。あの村の連中に会うかと思ったが無事に会わずにすんで良かったよ。」

 

未だに玲は村人らに対する怒りが収まらない様だ。すると、

 

「お前の身に嫌な事が起こる予感がする。もし何かあったら俺の所に連絡してこい。」

 

玲は俊一郎に自分の携帯番号を書いたメモと清めの塩を渡す。

 

「ああ、ありがとう。気遣ってくれて。じゃあ、俺は村へ帰るから。」

 

再会の喜びを噛みしめ、玲と別れ俊一郎は目的地へと来るを走らせるのだった。

 

 

 

そろそろ村の入り口に近づくと思いきや、夜中とあって辺りが暗くなってきた。おまけに眠気が襲ってくる。

段々と雨足が強まった事もあり、一旦停車して睡眠を取り明日に運転しようと決める。

実家に連絡をする俊一郎。

 

「もしもし、母さん。もうすぐ村に着くけど、もう疲れて眠いし明るくなるまで寝とくわ。」

 

「それはしょうがないけど…。言っとくけど、何でもいいから窓が外から見えないようにしておきなさい。」

 

何でだと疑問に思いながらも、渋々窓の隙間に洋服を挟み目隠しをする。

前部座席を倒して、アイマスクを付けて眠りに付く。

 

どのくらい時間が経ったのだろう。ざぁざぁと雨音に混じって、ガシャガシャと何かが歩いている音がする。

 

(こんな山の中で…?一体何だ?)

 

と思いなが思いながら耳を澄ますと、それは車の周りを円を描くように動いている。

 

(動物かな?)

 

アイマスクを外す。うっかりフロントガラスに洋服で隠すのを忘れてしまったが、もう遅い。

次の瞬間、雷鳴が響き稲妻の光に照らされた”それ”を見て、恐怖感が走る。

 

甲冑姿をした男が睨みつけている。カッと見開かれて血走った目。その眼光からは明らかに殺意と憎悪から感じられた。

男は鞘から刀を抜き取ると、思いきりフロントガラスに向けて斬りかざす。

 

(この野郎!何しやがる!せっかくボーナスはたいて買った新車を傷つけやがって!)

 

割れたフロントガラスの破片が飛び散りながらも、持ち前の運動神経の良さで攻撃をかわし、運よくキーを入れてエンジンを起動させバックで急発進する。

 

「待てー!! 逃がさんぞ貴様!」

 

男が走ってるのをミラー越しに確認しながら、猛スピードで必死に村に向かう。

 

(何なんだよ、アイツ。明らかに俺を殺そうとしてた)

 

どのくらいは走ったのか。雨が止み夜明けが近づいてきた。

ようやく、村に着く。安心感が起きてホッとする。

 

実家にたどり着き、隣の空き地が駐車場に車を停めた。

歩いて家に向かおうとすると、「あら、俊ちゃん。どうしたの?」と地元の唯一の幼馴染の女性である長瀬舞が声をかけてきた。

彼女は地元の男性と結婚して、4歳になる息子を抱きかかえていた。

 

「俊ちゃん、どうしたの? 車酷い事になってるけど?」

 

怪訝そうな顔をして尋ねてくる。

そこで俊一郎が今までの事を話すと、より一層顔が青ざめていき、

 

「もう近づかないで… 呪われそうだから。」

 

わが子を強く抱きしめ、そそさくとその場を去っていった。

自らの体験により、深刻な実態になってると実感してしまい、不安な気持ちで実家に足を運ぶ。

 

玄関に着いた際、父である順太郎が真剣な眼差しで、

 

「お前、大丈夫だったか?何かあった様だが?まさか…」

 

と聞いてきたので、俊一郎はまた体験した事を話すと驚いた様子で、

 

「これは大変な事だ。忠光様に狙われている!」と声を荒げた。

 

忠光様。俊一郎は忘れていた記憶が蘇ってきた。そう、この村に伝わる恐ろしい伝承を。

 

 

 

時は戦国の世。武将椿忠光は敵将との合戦に敗れてしまい、数十人の家来と共にこの地に生き延びてきた。

村民達に事情を話して、どうにか忠光らは農民として匿われ生き延びる事が出来た。

ところが時が過ぎていく内に、村が敵将の支配下に置かれつつあり、このままでは自分らの身が危ないのではないかと思い村民らと企んで、ある事を決行した。

 

秋の夜長の日、忠光は村民らに招かれ、家来と共に宴を楽しんでいた。

忠光が、酒を大量に呑んで酔っていた時に、作戦は決行された。

 

「ぐはっ、貴様ら何を!」

 

村民、家来らによって体中を槍で突き刺され、血反吐を吐く。

 

「許して下され!俺達が生き残るにはこうするしか!」

 

家来の一人が刀を振りかざし、首を刎ねようとすると忠光は断末魔の叫びを上げて言った。

 

「貴様ら絶対許さんぞ!関わった者全て末代まで呪ってやる!」

 

こうして忠光の首を敵将に捧げた家来と村民らは何気にいつもの暮らしを送っていた。

だが、異変が起きた。

忠光殺害に携わった者たちが、毎日一人ずつ首なし死体として発見されたのだ。

 

これは忠光の祟りだと村中が恐れ、椿神社を建て祀られる事となった。

だが、巷ではこういう噂が流れている。

 

忠光の怨念は収まり切れず、夜な夜な村の辺りを彷徨い、その姿を見た者は確実に首を斬り落とされるのだと。

 

 

 

車の状態を見て、俊一郎は順太郎に押し入れに入れと命令され、入って待機する事となった。

しばらくして、舞を含めた数人の村民が順太郎ら両親と話し合ってした。

 

俊一郎は聞き耳を建てていると、

 

「まあ、忠光様に会ってはもう仕方のない事じゃ。俊一郎には悪いが生贄になって犠牲になってもらう。そうしないと村中に祟りが起こるかもしれんからの。」

 

順太郎の発言に俊一郎は恐怖よりも、裏切られ捨てられたという悲しさで涙を流す。

 

その後、全員が帰った後に俊一郎は二階にある自分の部屋にいた。

 

「取り敢えず、今日は一切家から出るな。念のためにお前の車の中に身代わりの人形を入れておいた。それで助かるかもしれん。」

 

と順太郎から忠告を受ける。

 

窓にカギをかけ、カーテンを閉め景色をシャットダウンする。家の中の電気を全て消す。これも命令された事だ。

 

 

しばらくして、外から車の音がするのでこっそりと覗くとおそらく両親が乗った車が反対側に向かって走っていた。

 

(自分らだけ逃げやがってこの野郎。)

息子を見捨てで逃げていく両親に怒りが湧いてくる。

付近の住民もどこかに逃げたらしく、何一つ人がいる気配がしない。

 

ただ静寂で不気味な空気が漂う。

 

そうして孤独に時間を過ごしてると、ガラガラと玄関を開ける音が聞こえてきた。

 

(誰かが助けに来たのかな?)

 

俊一郎は僅かな希望を託すが、次の瞬間打ち砕かれる。

 

「奴は・・・、どこだ!」

 

間違いない。あの忠光の声だ。

ガシャッ…ガシャッ…と音を立てながら、台所・居間といった1階を探索してる。

 

密かに音を立てずに俊一郎は自分の部屋のクローゼットの中に隠れる。

その後、二階に上がる足音が段々と大きくなり、近づいてくるのが分かる。

 

ギィーと部屋のドアを開けて忠光が入ってきた。

 

(イチかバチか…)

 

俊一郎はある賭けをした。

 

「そこかっ!」

 

忠光がクローゼットを開けて刀を振りかざそうとした隙に、俊一郎は予め持っていた懐中電灯の光を忠光の顔に向けた後、玲から貰った清めの塩を思いっきり掛ける。

 

「ぐわわっ! 貴様、何を!」

 

忠光が刀を落とし、もがき苦しんでいる間に素早く二階から降りて、全速力で家から脱出する。

 

とにかく、この村から逃げたい。と自分の車に着いたものの、逃げてる最中にキーを落としてしまい焦る気持ちが生じる。

 

(クソッ! せっかく忠光から逃れたのにこのままでは首を斬り落とされる。)

 

焦燥感が生じる俊一郎。すると、一台の車が接近してきた。

 

「俊一郎!早く乗るんだ。」

 

玲だった。俊一郎は後部座席に飛び乗る。

 

アクセル全開で村から脱出する。

 

遠くから「待てーー!」と忠光の恨めしそうな声が届く。

 

さっさとこの忌まわしき村から出たい。俊一郎はそう思ってた。

 

「玲兄ちゃん。助かったよ。おかげで首斬られずに済んだ。」

 

「何かお前の身に危ない事が起きるって予感がしたんだ。虫の知らせってヤツかな。」

 

助かったという安堵感でいっぱいの俊一郎に玲はある事を告げる。

 

「どうして俺らの家族が村の連中に村八分にされてたか分かる?」

 

「さあ?」

 

質問に詰まる俊一郎。

 

「それはな、()()()()()()()()椿()()()()()()()()()()。お前だけだよ、優しく接してくれたのは。」

 

ただそれだけの理由で… 両親を含めた住民達に怒りが湧いてきた。

 

 

遠く離れた、とある駅にて降ろされた俊一郎。別れ際に玲は物悲しそうな顔でこう言った。

 

「二度とこの地には戻らん事だ。あの連中どもは一切信用するな。俺は他用があるから、ここでお別れだ。」

 

 

東京の自宅にようやく着いたと思いきや、順太郎から着信が来る!

 

「お前、勝手に逃げてんだ! このままだと忠光様に祟られるじゃないか! まさか春木のガキに…」

 

速攻で電話を切り、その後着信拒否をする。もうお前らは親じゃねえと。二度と関わるかと俊一郎は心に誓うのだった。

 

その後、バレない様に密かに転居をして、休日を過ごしてテレビを見てると、あるニュースが流れてきた。

集中豪雨の影響による土砂崩れにより志那備久村が被災を受け、多数の死傷者が出たという内容だった。

だが、俊一郎にとっては最早どうでもいい事だった。

 

 

 

 

 

 




ちょっと小ネタとしまして、
志那備久→首無しのアナグラム、春木の苗字は椿→木春→春木というアナグラム
といったちょっと凝った作りにしました。

これからはハードルを上げていくので、期待に応えられるか分かりませんが、また次回。

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