書き溜めできませんでした、いろいろあったので許して
二日に一回投稿に戻ります
閑話も一旦取り下げ
数学の教師がTS明けにようやく学校に戻って来て、俺が落書きしていたプリントが提出するものだと衝撃の事実を明かした午前も通り過ぎ、やっとのことで放課後である。
当然ながらプリントは見つからず、きっちりと叱られ別のプリントを渡された――まあ問題もまともに解いてなかったけれども。
「鬼が出るか蛇が出るか」
何はともあれ、行動しないと何もしないと始まらない。
いや行動しなくても物事は進むのだろうけど、それは悪い方向にだろう。
土日を除けば久しぶりの曇り空である。晴れてはないけれどもこれ幸いと、しばらく使えなかったグラウンドを運動部が伸び伸びと使っていた。
それを横目に一人、俺はグラウンド脇から体育館裏へとぼとぼと向かっていた。
一応の彼女である鈴木はもちろん、いくら仲良くたって和泉を連れて行けるはずもない。そこら辺のデリカシーは俺でもちゃんと持っている。
まあ和泉が告白される時、大概自分もいる気がするけど。
あれは何なのだろうか? 俺は和泉の付属品と見られてるのか、それともそこら辺の石ころと見られているのか。
別に誰それが和泉に告白したとか周りにおおっぴらにいう気はないけれども、俺にバレてもいいという彼女たちの気持ちはわからない。
まあ、和泉のことを好きになる気持ちもわかる。俺が女の子だったら多分イチコロだろう。
俺は男だけど。
何か引っかかるものを感じて足を止めると、丁度足元にサッカーボールがコロコロと転がってきた。
すいません、と遠くから呼びかける女の子に対してそれを蹴り返す。
「ありがとー!」
そう言いながらぶんぶんと手を振る彼女に向かって手を振り返しながら、俺は先を目指す。
何を考えていたんだったか、そう和泉の話だ。
朝。一時的に持ち直したかと思えた和泉の機嫌は、昼を越えると再び急降下した。
クラスのみんなにアンケートを取れば、いつもニコニコとほんわか優しい系に見えると誰もが答えるだろう。
けれども長い付き合いからの自分が考えるに、ニコニコと笑顔を浮かべてるときは笑顔の仮面をつけてる時だ。
要するに違う感情を隠したい時だということ。
鈴木と昼飯を食べるようになってから委員長と食べているようだけども、何かあったのだろうか? 委員長ならそうヘマはしないと思うけど、まあ完璧な人はいないのだから。
それとなく探りを入れても『何もなかった』という。
何もなかったというのならば、何もなかったのだ。
不承不承納得しながら後ろから発せられる僕、不機嫌ですオーラを受け流しながら迎えた放課後であった。
まあ、そういう日もあるだろう。
不機嫌な理由を尋ね、何もないといったものを深堀するのは不毛だと自分はちゃんと理解していた。
むしろ何もないといってくれるのは慈悲である。
なぜか今頃部活の勧誘をしてるのを横目に通り過ぎていく。二年生のこの時期になって部活に入る気はさらさらなかった。
和泉は最近になってから部活について調べてるようだけど、何を考えているのかさっぱりわからない。
体育館の入り口から気合の入った声が聞こえている。
今日のところはそこに用はないので通り過ぎ、体育館の裏に入ろうとして俺は立ち止まった。
体育館の壁から響く声に紛れて分かりづらいけども、何やら話して込んでいる声があることに気づいたから。
バレないようにそっと覗き込む。
自分が覗き込んでいる角から遠くないところで、一瞬だけ女子生徒が他の女子生徒に告白してるのが見えた。
すぐに顔を引っ込めて、来た道をくるりと引き返す。
行くことを諦めたわけではなく、一時的な回避である。流石にあの場にすいませんお邪魔しますと、横切っていくほど厚顔無恥では無かった。
体育館の裏は確かに人が来ることはほとんど少ないけれども、逆に考えれば誰かを呼び出して一対一で話すならここほど適した場所はない。なんというべきか、例えるなら植木鉢の下に集まる虫的な。
流石に喩えとして下手すぎるだろと首を振る。
まあ人がいない場所、見つからない場所というのは、それはそれで需要があるということだ。そう考えると話をつけた保健室は人が居ない所なのだけども、使う為の条件が多すぎる。
俺が告白するとしたらどうするんだろうか。手紙を書く、メッセージを送る、呼び出して告白をする、直接告白しに行く。何はともあれ、告白する相手を想定しないと創造もなかなか捻らない。
取り敢えず鈴木を当てはめてみても、どのバリエーションでも最終的にパンチされる予想がついた。あれは多分告白するシチュエーションとか、好感度とかに関係なくパンチしてくるたちだ。
全く参考にならない。まあしばらく告白する機会はないだろう。
そろそろ終わっただろうと道を引き返すと、丁度先ほど見えた女子生徒達が仲良く手を繋いで出てくる所だった。
初々しく二人とも顔を赤らめて、全く羨ましいことで。思わずひとつため息をついた。
何はともあれ、場所は空いたのだ。
周りを見渡し他に人が居ないことを確認し入っていった。
人は他にいない、一度一番奥まで行っても居なかった。
まだ来てないと判断し、真ん中ほどに引き返して扉に背を付けて座り込む。
眠気覚ましに飴玉でも欲しいところだったが、あいにく持ち合わせていない、さっき引き返したところで缶コーヒーでも買うべきだったか。
まあすぐに来るだろうと一つでかい欠伸をする。ただの悪戯だったら、その時はその時だ。
校舎側から来るのなら俺が入ってきた方から、グラウンドの方からわざわざ遠回りして来たならば奥から来る。まあ普通に考えれば校舎側から来るだろう。
名称不明の誰かを待ちながら、こんな無駄なことを考えていなければ思考がこぼれ落ちそうだった。
果たしてだれが来るのだろうか、俺の知っている誰かだろうか? 誰だろうと付き合ってくださいという話なら、自分はNOとしか言えないのだけれども。
ゴドーを待ちながら。
どう話が転がっていくのかは神のみぞ知る。
● ● ●
足音が聞こえた気がした。
気のせいかと思いきや、こつんと石を蹴飛ばす音がした。
退屈で眠りかけていたところだったと思う、危ないところで意識を引き戻せた。
慌ててぶんぶんと頭を振り、誰が来たかを確認する。
同じクラスメイト、というか相手は女子ではなく男だった。こんなとこで遭遇したのが気まずいのか、彼は何も言わずにただ佇んでいる。
たぶん彼もラブレターをもらって来たのだろうと当たりをつける。結構長い時間待った気がするが俺の待ち人もこないし、場所を譲りここは一旦引き下がろう。
回らない頭でそう判断し、彼の隣を通り過ぎる。
「待て」
「俺になんか用でも?」
「まさにお前に用があるんだが」
「俺に用があるなら先約を付けてくれないか」
すでに一旦引き返すのをやめて、向かい合って話し合う体制になっていた。多分、もう引き返す必要もないから。
「予約ならしてあるだろ?」
「この手紙のことか? もしかしてこの可愛い字、お前が書いたのか?」
顔を赤らめて頷かれても、俺としてはなんも嬉しくないし、なんで顔を赤くしたのかさっぱりわからなかった。
沈黙、両者の間をヒューと風が通りすぎていった。
あまりにも気まずいし、長く会話をしたくなかったのでこちらから話を切り出した。
「そう、じゃあ内藤くんは俺に告白しに来たっていうことですか? ですよね?」
「人の名前を間違えるな! 俺は内田だ! そして別にお前に告白するわけでもない!」
「ならこういう手紙を出して幼気な男子高校生の心を弄ぶのは良くないって俺は思うな」
「勝手に勘違いしたのはお前だろうが!!」
そう息を荒げる内田を見て、からかいやすい相手だなと俺は心の中で評していた。単純というか、なんというか。ノリがいい。
「まあ内田が鈴木のこと好きなのは知ってるけど」
「な、なんで知ってる……?」
その返答に驚かされたのはこちらだった、そんな答えは期待していない。適当に矢を射ったら雉を射抜いた感じである。ぽかんと口を開けていると自分から情報を勝手にバラしすぎたことに気づいたのか、彼は慌てて口を開いた。
「冗談だ、冗談」
「なーんだ冗談か」
HAHAHAと仲良く肩を叩き合う。なーんだ冗談か、驚かせやがって。肩を叩き合うのもそこそこに、俺は速やかにスマホを取り出した。
「すいません鈴木さんですか?」
「わーっ! 待て待て待て!!」
「さて茶番はさておき、本題に入ろうか」
「俺のカミングアウトを茶番扱いか……」
スマホを取り上げようと必死になる内田をいなす事数分、本題に入ることにした。
ジト目で睨まれようとも、こちらとしては男から睨まれたところでなんとも思わない。
「別にお前が男を好きだろうと俺としては関係ないからな、別に俺が好きなわけじゃないんだろ?」
「お前は全然好きじゃないし、俺が男好きって前提で話を進めるな」
TSした後とする前、どっちが好きか聞こうとして辞めた。別にどっちでもいい、どっちだろうと何も変わらない。
「ささ、早く話終わらせてさっさと帰ろうぜ」
何はともあれ話してくれなければ始まらない。
告白でもなければ、なんの話か。恐らく鈴木関連の話だろうとは予想がつく。一番簡単に思いつくのは別れてくれという話、これは突っぱねて終わる話。
もう一つは――。
「鈴木が陸上部をやめるって話は知ってるか?」
そう言って、彼は一人語り始めた。