俺もTSさせてくれ!   作:かりほのいおり

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あと5から8話ぐらい



21話 女二人男一人部屋は一つ

 妹はベッドに腰掛け妹の友達は座布団に座ってる中、俺は特に何も用意されずに仕方なく胡座を組んでいた。

 何か無いのという視線を無視して、俺を見下ろしながら妹は口を開いた。

 

「それじゃ、とりあえず自己紹介から始めましょうか」

「じ、自己紹介ですか?」

「そっ、初対面の相手でしょ? 時間も押してるんだしパパッとやっちゃいなさいよ」

「でもやっぱりちょっと……」

 

 そう言ってこちらに視線をチラチラと飛ばしたかと思えば、顔を赤らめてしゅんと小さくなった。

 あー、お兄ちゃんが虐めたという声を聞き流しながら、そんなに気難しそうに見えるような顔をしているのかと思う。

 

「あー修也だ、田中 修也。いつも妹がお世話になってます」

「頭を下げないでくださいよ、いつも私が助けてもらってばかりなんですから! こちらこそお世話になっておりまふ」

 

 そう慌てて噛みながらもそう言って、彼女も頭をぺこりと下げる。自分でも噛んだことに気づいてるのだろう、先程からずっと顔が赤いままだった。

 

「私の名前は鈴木 秋穂、友達からは大体ズッキーって呼ばれています」

 

 その名前を聞いて、予想が真実味を帯びてくる。それを裏付けるように追撃の言葉が降って来る。

 

「会うことは初めてだと思うんですけど、たまにお兄ちゃんから田中さんのお兄さんの話を聞いたことがあります」

 

 あいつから妹がいると直接聞いたことは無かったはずで、ならば別の鈴木かもしれない。そう思いながらも、そんなはずが無いことをちゃんと理解していた。

 性格は全然違えど、確かにツインテール以外も似ていると思える箇所は幾らでもあった。

 

「田中さんだなんて畏まらなくていいのに、お兄ちゃんにズッキーのこと話したことあったけ? 多分無いよね?」

「無いと思う、だけど誰の妹かは予想がついた」

 

 確認の言葉、できれば否定して欲しいと思いながら俺は言った。

 

「君の兄の名前は鈴木 春、陸上部に入ってるあの鈴木だろう?」

 

 彼女はその言葉を聞いて、コクリと一回頷いた。

 

 

 ● ● ●

 

 

 それからすぐ後、ひと段落ついたと思ったのか、妹はまたトイレへ行くと部屋を離れていた。

 多分意図的な行動だろう。トイレへ行くわけでもなく、二人っきりにして話をさせて緊張を解させようと。

 それが良かったのか、彼女も先程より落ち着いた様子だった。

 彼女だけでなく俺にとっても都合が良い、彼女がどこまで知ってここに来てるのか確認する時間が取れた。

 勝手に自爆したらまったく目も当てられない。

 

「君もお兄さん、お姉さん? どっちで呼んだらいいかわからないけど、あいつから俺についてどういう風に聞いてたりするの?」

「お兄さんで良いと思います、TSしても変わりなく私の誇れるお兄ちゃんだと思ってるので。その何というか……」

 

 そこまで堂々と言って、突然ごにょごにょと口籠った。

 ちらりちらりとこちらを伺いながら何か言うのを躊躇っている様子。もしかしてあいつ、俺が付き合ってる相手だと言ってるのか?

 もしそうならば至急この場から脱出しなければならない事になる。鬼役は当然妹だ、今回ばかりは逃げきれる気はしないがやるしか無い。

 

「怒らないから言っていいよ」

「でも……」

「ほらこんな優しい笑顔してるでしょ?」

「めちゃくちゃ引きつってるんですけど……」

 

 慌てて頰を揉みほぐす。それを見てぷっと彼女は吹き出した。

 

「ふふふ、やっぱりお兄さんは面白いですね」

「そうか?」

「ええ、お兄ちゃんから聞いたクラスに変わったやつがいるっていうのは正しいみたいです」

 

 拍子抜けの言葉だった。

 俺としてはいつもいたって真面目なのだけれども、鈴木から見れば変わってるように思われていたらしい。

 

「それだけ?」

「ええ、それぐらいですよ。たっちゃんから聞くお兄さんの話もありましたけど、お兄ちゃんから聞いた話はそんな面白い奴がいるってぐらいです」

 

 鈴木が言った俺の話がどんな内容だったのか気になるが、そこを追求することなく一息つく。

 流石にあいつも家族に彼氏ができたと言う気は無かったらしい。いずれ解消される縁だし、言ってなくてもおかしくないのは確かだ。

 一人俺が慌てすぎただけだろうか、そう思いつつ新しい話題を探す。目に入ってきたのは彼女のツインテール、兄とお揃いのものだった。

 そういえばあれは誰が結んでいるのだろうか?

 自分で結んだにしては綺麗すぎて、毎日同じ形に整っているように思えた。

 

「そういえばあのツインテールって君が結んであげてるの?」

「いえ、あれはお母さんがやってあげてるんです。私は自分で結べるんですけど、お兄ちゃんは自分でまだ上手く結べないんで」

 

 彼女の言葉は最後に近づくにつれ、次第に小さくなっていた。地雷、俺が話題を選ぶの間違ったのを悟り、慌てて他の話題を探す。

 鈴木妹以外で話題になりそうなもの。部屋をぐるりと見渡すと真っ先に、勉強机にパタリと倒されている写真立てが目に入ってきた、これならば大丈夫だろう。

 

「そういえば部屋に入ってきた時、君が見てたあの写真立て、なにが映ってたんだ?」

「えっ、えーっと……あっ、そう! 家族の写真です!」

「へぇ、家族写真か」

「多分なんか思い違いをしてると思うんですけど……」

 

 つい先ほど見たばかりなのに何を見たのか忘れていたのだろうか、少し悩んで彼女はそう言った。家族写真、多分家族三人で行った遊園地で撮った一枚だろうか?

 思い返すと俺が中学校、妹が小学校ぐらいの時ぐらいまで遡る気がする。そんな前のを大事に残していたのか。

 

 それを見られたぐらいであんなに怒るのだろうか? それも如何にも見ろと言わんばかりに勉強机に無造作に置かれている物を。

 そう思いながらも俺は勉強机に近づく。久しぶりに懐かしい写真を見たい気分になっていた。

 

「えっ? お兄さん、まさかそれを見ようとしてます?」

「ああ、久しぶりに見ようかなと」

「い、いやーやめたほうがいいですよ。こっちに座って待ちましょうよ」

「大丈夫だって」

 

 なぜそんな必死に止めようとしてるのか不思議に思う。もしかして俺が思うような写真ではないのだろうか?

 机に近づいて首を傾げる。

 家族写真ならば横向きに撮ったはずなのに、写真立ては縦向きに伏せられている。取り返して再び置いた時に置く向きを間違えたのか、けれどもそんなことをするような性格では無いことを、この部屋が悠然と物語っていた。

 本の向きは正しく整然と並べられ、不要なものは机の上に広げられてもいない。よく部屋の主人の性格が現れている部屋だ。

 まあ、そんなことはいいだろう。いよいよ写真立てに手を掛けたことに気づいたのか、後ろから息を呑む音が聞こえてきた。

 

 

 

 

「ねえお兄ちゃん、乙女の秘密を覗こうとする奴は最低だと思いませんか?」

 

 けれどもやっぱり写真を見ることは叶わず、慌てて後ろを振り返れば、眼前に迫ってくるのは手加減抜きの鉄拳だった。

 

 

 ● ● ●

 

 

「謝罪、ほら謝罪しなさいよ」

「勝手に乙女の秘密を覗こうとして、誠に申し訳ございませんでした」

 

 床に頭をこすりつけている最中であった。

 そんなに謝ることだろうかと思いつつ、謝罪の要求に屈する様。

 よろしいと言われ顔を上げると、鈴木妹は笑いをこらえているのかプルプルと震えていた。それを目敏く見つけたのか、妹の矛先がそちらに飛ぶ。

 

「どうしてお兄ちゃんが写真を見ようとしたのか気になるんだけど、もしかして何を見たのか言った?」

 

 さーっと顔が青くなるを見て、慌てて助け船をだす。

 

「いや止めるのを無視して俺が見ようとしただけだ、悪いことはしてないよ」

「何を見たのか、聞いた?」

「家族写真だろ? 中学校の頃遊園地に行った時の」

「は?」

 

 訝しげな顔を一瞬浮かぶもすぐに消える。妹が視線を戻すと、鈴木妹は凄い勢いで首をこくこくと振った。

 

「家族の写真としか言ってないです、神に誓って!」

「……嘘は言ってない、か。ならいいわ」

 

 そういうと先程の雰囲気とはがらっと変わり、グラスを並べて飲み物を注ぎ始めた。

 

「まあさきほどより打ち解けて何より、それじゃ本題に入ろっか」

「俺の目がおかしくなってないのであれば、俺のコップにだけ飲み物が入ってないように見えるんだけど?」

 

 一つだけ俺の前に出されたグラスだけ透明なまま。視線をこちらに寄こさずに飲み物を注ぎ終えて、自分の分のグラスを手にとってベッドへ戻っていった。

 

「馬鹿には見えないオレンジジュースだよ、お兄ちゃん」

「さいですか……」

「あ、あのお兄さん、私の分飲みますか?」

 

 そのありがたい申し出に被りを振る。自分より年下の子を差し置いて飲めるはずもない。

 飲み物のボトルはちゃんと妹が確保していた。

 空のグラスはやっぱり空のままで、口をつけても何の味もしない。

 それを横目に妹は喉を潤わせてから、火蓋を切った。

 

「でね、お兄ちゃん、そろそろ話に入ろうか」

「いつでもどうぞ」

「お兄ちゃんを待っていたのは、私よりお兄ちゃんの方が近いからなんだ、ズッキーの兄とね」

 

 近い、確かに近い。妹は知らないのだ、俺があいつの偽装恋人になっていることを。まだクラスメイトだと思ってるぐらいだろう、そうだとしても日頃接してる俺の方が近いということは確実だ。

 

「一応聞いとくけどどのぐらい仲が良い?」

 

 どこまで言うか。付き合ってることは論外として、距離が近づいたのは一週間前からだ。

 

「たまにご飯を一緒に食べるぐらいだ」

「よかった、完全に無縁だったら話が終わるところだったよ」

 

 多分それぐらいはあいつも妹にも言ってるかもしれない話だろう。一部の本当、ここでカマをかける必要はないだろうし、俺が嘘を言う必要もない。

 いまだどこに話が転がっていくのか、分からない。俺は黙って次の話を待っていた。

 

「じゃあ次の質問を、お兄ちゃんは鈴木兄の現状をどれぐらい知っている?」

「どう言う意味だ?」

 

 こちらを探るような目を真っ向から見返す。

 今日一度聞いたようなセリフ、それを別の人物がもう一度。

 

「お兄ちゃんは、鈴木兄が陸上部をやめようとしてる話は知ってた?」

 

 

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