俺もTSさせてくれ!   作:かりほのいおり

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あけましておめでとうございます
今年もよろしくお願いします

閑話一旦取り下げたんで、この前に24話が入ってます


25話 それでも僕は

 やることもなく、ベッドで寝そべっていた。

 結局言葉に甘えて学校をサボっているのは弱さか。

 それでも今の状態ではふとした拍子に、何かやらかしてしまう、そんな予感がした。

 それでもその時間を無駄にせずに頭を回す。

 

 俺が今やれることは何だろうか?

 鈴木妹に頼まれたのは兄との仲直り、俺はどうすればいい?

 使えるものは何かあるか、話を細かく整理していく。

 元々渡す予定だったプレゼントがあったはずだ、それをうまく話に組み込めれば。

 

「とりあえずそれを渡すきっかけを作ること、か」

 

 渡して、それからどうする。

 そもそも仲直りしたいという原因、そして仲直りができない原因はなんだったか?

 事の発端は鈴木兄の拒絶から、でもそれを招いたのは鈴木妹で。

 

 そうなると、この話で悪いのは誰だ。

 鈴木妹はどこまでも自分が悪いと思ってる、なら鈴木兄はどう思ってる?

 自分がやったことが正しいと思ってる、だから歩み寄ろうとしないのか。

 それとも――自分が悪いと気づいてるからこそ動けないのか。

 

「やっぱり俺らしくないよな」

 

 妹が言う自分らしさが俺にはやっぱりわからない。

 こんなの和泉にかかれば――そこまで考えて首を振る。

 無意識にあいつと比べる癖は、どうやっても離れてくれなそうだった。

 所詮俺が考えたところで机上の空論なのだ、動いてみなければわからない。

 そして多分今回も下手を打つ、そんな気がした。

 

 なんともなしにスマホを取り出せば妹と和泉からメッセージが届いていた。妹からは謝罪、和泉からは心配の言葉。それを見て俺は何の返事もすることなく、画面を閉じる。

 

「きっとすべてうまくいくさ」

 

 俺が言った言葉なのにひどく薄っぺらい言葉だとおもったのは、多分自分自身それを信じていなかったからだろう。

 ベッドに体を投げ出して次第に意識が遠くなるのに身を任せ、やがて視界が黒く染まった。

 

 

 ● ● ●

 

 

 俺の頭をゆっくりと撫でる感覚に、意識を揺り起こされる。もう少し寝させてくれと、俺はまだ目を開けることはない。

 

「ねぼすけさんだな、全く君は」

 

 そんな微睡みの中、呆れた声が頭上から降って来た。

 

「……和泉か」

「ご名答、ほら早く目を開けなよ」

「疲れてるんだ、もうちょっとだけ寝させてくれ」

「しょうがないな」

 

 言葉は途切れても頭が撫でられる感覚だけは途絶えなかった。起きるまで、延々と続くのだろうか?

 しょうがなく目を開けると俺の顔を覗き込む和泉の顔が見えた。

 

「やっと起きた、おはよう」

「……おはよう」

 

 冷静に状況を把握する。

 ここは俺の部屋だ、そして和泉が俺の頭を撫でている。

 俺の頭を膝に乗せながら。

 

「もしかして、これもまた夢か?」

「もしかしたらそうかもね」

「……なんで膝枕してんの」

「何というか、して欲しそうな顔をしてたから?」

 

 深く息を吸い込もうとして、すぐに止める。

 甘い、良い香りがする。それを吸い込むことが悪いことような気がした。

 それでも呼吸を止めることはできず、出来るだけ浅い呼吸を心掛ける。

 頭を撫でる手は止まることを知らない、このまま続けば髪がなくなりそうだった。

 

「今日は久しぶりに晴れたよ、夕焼けが映えそうな天気だ」

「俺が休んだ時に限って晴れるんだな」

「それで、どうして今日は休んだのか聞いてもいいかい?」

 

 そういう細かいところはよく気がきく。あくまで遠回しに、答えなくてもいいからと。

 

「息抜きに、1日だけサボった」

「それはそれは、悪いやつだね君は」

 

 言葉にはそれを咎める意思は見えず、何が面白いのかクスクスと笑うだけだった。

 

「あのさ、お前は自分が女の体になってるってちゃんと理解してるのか?」

「おや、僕のことを襲いたくなったのかい?」

「……いやそんなことはない」

「そこはちゃんと即答しなよ」

 

 鈴を転がすような声でコロコロと笑うのを、未だ膝枕されながらぼんやり眺めていた。

 

「取り敢えず男の部屋に一人で入り込むなよ」

「もしかしたらケダモノになってしまうから?」

「俺は別にならないさ」

「じゃあ別に入っても良いだろう? 大体君も先週、僕の家に上がり込んだじゃないか」

 

 そういえばそうだった。信頼関係がある、ね。

 俺のことを信頼してるから一人っきりの家に俺を入れた。

 

「君じゃなかったら家に入れてないさ、君なら大丈夫だと思ってるから。実際大丈夫だった訳だしね、だから僕も今ここにいる」

 

 その言葉を聞いて俺は黙って目を閉じる。

 タイミングが悪かった、昨日の今日でだからこそ休んでいたのに。和泉にとっては何気無い言葉でも、今の俺にとってはひどく胸に刺さる言葉だった。

 

「……何で、俺なんだ」

「それはどういう意味だい?」

 

 ピタリと和泉の手が止まる。

 それまで自分の黒い気持ちを抑え込んでいた蓋が開いてしまった。

 

「言葉通りだ、何で俺なんだよ。どうしてお前は俺から離れないんだ」

 

 嫌われても良いと思った、むしろ嫌われなければならない。俺は和泉に隣に居るのに相応しくないから。だから、ここで関係をリセットしなければならない。

 もしかして夢かもしれない、願わくばこれが夢であってくれと思う。夢であろうと現実であろうと、言わなければ前に進めない気がした。

 やけっぱちな行動なのに、そうする事が正しいと思っていた。

 

 ゆっくりと悪意を詰めた言葉、それを今にも言おうとしてるのに和泉はただただ次の言葉を待っていた。

 俺は黙って目を閉じた。和泉がどういう反応をするのか見たくなかった。きっと軽蔑される、それでも。

 

「俺はどこまで行っても不器用で多分、それはもう変わらない、そういう性だって自分でもわかってる。でも和泉、お前は俺とはちがうだろ。俺が何回やって成功するかもわからないことをお前は片手間でできる」

「……」

「お前は凄い、凄いよ。でもそれをなんで俺の前でやるんだよ。それをなんで自慢げに、誇らしげに俺に見せつけるんだ、俺じゃない相手はいくらでもいたはずなのに、なんで俺に」

 

 和泉は何も言わずに俺の言葉を黙って受け止めていた。それをいいことに俺は言葉を吐き出し続ける。

 もしかしたら俺は徹底的に反論されたいのだろうか、そんな考えが浮かんで、すぐに消えた。

 

「妹に言われたよ。だんだんお兄ちゃんはらしくなくなっていったって、前はもっとがむしゃらだったって。そりゃがむしゃらに頑張るさ、そうでもしなければ何も勝てないから、でもやっぱり勝てなくて。褒められるのはお前ばかりだった、比較対象にはいつも隣にいた俺が置かれて、そんなどうしようもない俺は、俺のことが一番嫌いだった」

 

 和泉は何も悪くないんだってのはとっくにわかってる。ただ俺が足りないだけだ。

 

「結局、今回の話でようやく自覚したよ、俺は嫉妬しながらも甘えていたんだって。何かあれば和泉に任せれば大丈夫だって、そして今回も動かなかった。だから最後に聞かせてくれ、どうして俺だったのか」

 

 そこまで言ってようやく目を開き、和泉の顔を仰ぎ見る。

 怒りでも、失望でも、笑い飛ばしでもしてくれと、そう思ってたのに。

 

 

 それらを全部裏切って、あいては今にも泣きそうな表情を浮かべていた。それはお前らしくないじゃないか、いつものように世迷い事と笑いながしてくれ。そう言おうにも口からは声にならない呻きが漏れるばかりで、ただ俺が取り換えのつかないことをした、それだけは分かった。

 初めからわかってたことだろう、その覚悟があって言ったんじゃないのか?

 

「なんで君がひどい顔してるんだい」

「……そっちこそ、そんなキャラじゃないだろ。なんで泣きそうな顔してるんだよ」

 

 その言葉を吐いて、でも和泉ならと思ってたことをようやく自覚した。

 そっと顔に手を被せられ視界を遮られる。

 なのに和泉の顔が脳裏から離れない。

 

「ちょっとだけほんのちょっとだけ悲しかった、かな」

「……ごめん」

「謝っても遅いよ、まったく」

 

 ズキリと酷く胸が痛む、どうしてこうなってしまったのだろう。ただ俺が悪いことだけはわかっていた。

 

「僕もさ、君がどう思ってるかなんて気づかなかったんだ、気づこうともしなかった」

 

 最近どこかで聞いたような言葉。

 

「君が僕を完璧だと思うようにさ、僕も君ならと思ってた。君が不器用だなんて知ってた、それでも自己を押し通せる強さがあると信じてた」

「じゃあ戯言を聞いて俺に失望したか?」

 

 いいや、そんなことはないさ。完璧な人間なんていないなんてわかってるから、僕も完璧じゃないって気づいたろ?

 そう和泉は笑いながら言った。

 

「君は勘違いしてるかもしれないけど僕だって、聖人じゃないから友達は選ぶさ。ただそれは学力でも、運動神経でもなく、顔でもなく、ましてや家が隣だからでもない」

「……じゃあなんだっていうんだよ」

「君には僕のことが必要だと思ったんだ。君の不器用さを僕が補ってあげる、それは僕さえいれば補える欠点だから、そのために僕がいるんだと思ってた」

 

 ようやく目を隠す手が退けられた。先程の表情はどこかへと消え、笑みを浮かべていた。それでも触れば崩れてしまいそうなほど儚く見える。

 すぐにまた目を覆われる、何かを思いついたのか明るく弾む声で彼女は言った。

 

「問題解決のお願い、僕は決まったよ」

「実現不可能じゃないやつにしてくれよ」

「うん、そんなことわかってるさ」

 

 覆われた視界の中でただ和泉の声だけが響いていた。

 

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 絶句、それはとても簡単なことだ。

 

「簡単だろう? 今日会ったことを誰にも話さず、お互いの記憶の奥底に封印するだけさ。夢の出来事だと思ってくれればいい」

「……でも、それはお前になんの得もないだろ」

「得はあるよ、君は誰に当てられたか知らないけれど、ちょっと自罰すぎるように僕からは見える、それも含めて今日の話は無しにしよう」

 

 昨日合ったことを一度も言ってないのによく見えている。思わずため息をついた。

 

「君が言った言葉を聞いて、それでも僕は君の傍に居たいんだ。これが僕のワガママだっていうのはわかってる。どれだけ君を傷つけてきたのを知ってしまったとしても」

 

 そろそろ帰る、そう言って和泉はベットから立ち上がった。膝枕のしすぎのせいか一、二度屈伸して振り返る。

 

「でも僕にはそのお願いも強要できないんだ。どうしても僕のことを許せなかったら否って言ってもらってもかまわない、君には当然その権利がある」

 

 まあでもそれがダメなら別のお願い事にするよと彼女は言った。

 

「返事は明日聞かせてもらうよ、それじゃあまた」

 

 扉に手をかけた和泉に、ふと思い浮かんだ質問を一つだけ投げかける。

 

「最後に一つだけ聞かせてくれ」

「……なんだい?」

「俺のこと嫌いか?」

 

 嫌いなわけないじゃないか、そんな言葉を残して和泉は部屋から出て行った。




息抜きにオカルトものを書いてました、よろしればそちらもどうぞ

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