東方水晶録   作:かいせいクリュウ

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さて、続けての更新です
古代編の伏線?みたいなのが出てくるのでもし良ければ読み返してみるのもいいかなと。
ちょこちょこ修正を加えるつもりです!

それでは!!いつも読んで下さりありがとうございます!


全てを置き去りにして

 

 

 

 

【胸を貫かれる】

 

海星「なんだ…と」

真っ赤な眼を見開きながら、目の前に天魔が立っていた。

 

手応えの無さと、違和感の正体はすぐに分かった。

膝蹴りを食らう瞬間、自分で後方に飛んだのだ。そして同じ速度で突きを繰り出しながら突っ込んできた…。

 

死角から水晶の攻撃の時もそうだ。

こいつ、躱す瞬間に1度後方を振り返りやがった。

 

 

 

 

天魔の素早さは最初のカウンターで見切ったはずなのに、それを超える速度で攻撃して来たのだ。

 

 

天魔のスピードについての認識を変える。

 

 

 

 

これ程強い妖怪が雷鬼の他にまだ居たとはな…!

いや、待てよ?

 

もしかして…いや、間違いない。

 

 

 

海星「あの時代の妖怪の生き残りだな?」

死んでいたと思っていた雷鬼が生きていたんだ。他の生き残りがいてもおかしくない。

 

 

 

天魔は嬉しそうに、コクリと頷いた。

 

 

なるほどな。なら本気で相手しないとな。

 

 

 

 

 

 

海星 「認めよう…お前は強い。」

 

 

貫かれた腕を抜き、近くの枝に飛び乗る。

 

 

ズズっ…ズ…ズッ…と海星の気質が再び変換していく。

ドス黒い紫色のオーラが海星を包む。

 

シューっと音を立てて、傷も治癒していく。

 

 

海星「さあ、死合…再開だ。」

 

海星の傍で青々と茂っていた木が

ククッ…ミシっと悲鳴を上げて枯れていく。

 

頭上に生えていた緑色の葉が見る見るうちに茶色く変色し…。

 

 

プチッ。

 

 

 

 

ドガン!!バキバキッ

木が耐えられるはずもなく、海星の初速で脆く崩れ落ちる。

紫色の軌跡を残しながら一直線に突貫する。

 

天魔「!」

 

天魔も腕を前で構えて戦闘態勢をとる。

 

瞬時に天魔と海星の拳と拳がぶつかり合う…!

 

 

ことは無かった。

 

ピキッピキッ

手の爪を水晶でスパイク状の鍵爪に変える。

 

最高速度で動きながらも急な方向転換を可能にする。

 

文と戦った時の応用だ。四肢を使うことでさらに予測不能な戦術が生まれる。

 

 

 

お互いが肉薄する寸前、地面と木に爪を食い込ませて右からの攻撃に方向に変えた。

 

 

天魔「ぐっあ!!」

ドカッ…ガラガラ!

 

 

奇襲とも言えるが、まともに直撃した天魔は吹き飛び、岩にぶつかる。

 

海星「ふぅ。今度こそ一撃か。」

 

 

大したダメージは入っていないのか、

ガラガラと音を立て、スっと天魔が起き上がる。

 

だが、悪いがもう攻撃も速度も見切っ

 

 

 

ズガン。

 

 

 

 

 

 

 

は??

 

軽い音と共に空中に投げ出される。

先程立っていた所には天魔が腕を振り抜いて立っている。

顎に掌底を食らったようだ。

 

 

バキッ。

 

天魔の回し蹴りが右の脇腹から左へと衝撃を伝える。

 

 

海星「がハッ!?」

わけも分からず遥か後方へと吹き飛ばされ、ドバっと血が口から噴き出す。

鉄の味が口いっぱいに広がる…嫌な匂いだ。

 

吹き飛ばされながらも思考を続ける。

 

 

 

天魔が2人居た?いや吹き飛ばしたのだから3人!?分身なのか?

 

そもそも目で追えなかったが、さっきよりもさらに速く動いている!?

 

 

 

出会った時からずっと感じていた殺気が追いかけてくる。

 

海星「とにかく。やばい!!!」

こうなったら更に妖力を解放をするしかない!!

完全に未知だ。理性を保てるか…?

 

 

ゾッとするような殺気。

次の瞬間には、左頬に爪を立てようとする天魔の姿が!

 

ピキッピキッピキッピキピ…キ!!

海星「水晶守護結界!」

 

水晶乱舞を触媒にして、自身を水晶で固めて防御する。

1度冷静にならなくては!!

 

ピタッ!反撃を恐れたのか天魔の動きが蹴りの姿勢で止まる。

 

海星「どーゆー動きしてるんだ。いつの間にその姿勢になってたんだ。見えないぞ…」

分身なんてちゃちなものじゃ無いな。

これは単純なスピードだ。

天魔の速度が俺の理解を超えているんだ。

 

 

天魔「…。」

 

じっとこちらを見た後…。

 

バコッ!ズガン!!ズガン!!!バキ!!

滅多矢鱈、手当り次第に殴りつける。

 

 

 

 

ピシッ! 眼前に一筋入るヒビ。

 

 

海星「おいおいおい!!こいつは文明を滅ぼした爆弾さえも防ぐ水晶だぞ!?」

 

そんな嘆きも虚しく。

 

ゴリッ!ピシッ!

 

 

爪で表面を抉り取られたり、さらにヒビが入る。

 

ニヤリと笑った天魔が聞き取れる限界の速度でゆっくりと口を開く。

天魔「コ ロ ス…。」

 

 

ガシっと2mほどある水晶を掴み。

 

ブン!っという音と共に上に投げられる。

 

30mほどで位置エネルギーと運動エネルギーが入れ替わり、地面に落下する。

 

 

予想落下地点で目に見えるほどの妖力を込めて待ち構える天魔が…。

 

 

ゾクッ…。

全身の細胞が恐怖するほどの殺気に包まれる。

 

やばい!!!

内部から更に水晶で固める。

 

 

 

天魔「し、祖な、」

天魔が口を開き地面を踏み込んだ瞬間、周囲に白と黒の羽根が舞う。

 

天魔が振りかぶった後、一呼吸もなく。

 

 

ドゴォオオオオオオン!!!

 

劈く程の轟音。

最高速度で打ち出された衝撃で水晶は吹き飛ばされる。

 

海星「クッ…馬鹿力め。」

 

 

バギバギパキパキ!!!

ヒビが全体に広がっていく。何とか割れなかったようだ。

 

しかし異音に気づく。

海星「なにっ!?」

それだけでは無かった。周囲に浮かんでいた白と黒の羽根が竜巻のように水晶を削り取っていく。

 

ギュギュギギギギギ!!!!

 

 

高速回転するカッターのように易々と表面を引き裂いていく。

 

一瞬で肉塊にされてしまうだろう。

身体に届くまであと3cmだろうか…!

 

末恐ろしい技だ。

 

海星「もう残された道は一つだけか。」水晶の中でボソリと呟く。

 

この絶体絶命の状況で目を閉じ、、、

 

【更に妖力を解放する】

 

 

 

ズッ…ズズっ…と這い寄るように…

太古の憎悪や憤怒の感情が身体をゆっくりと蝕む。

心の中に黒い水が入り込んでくるようだ。

 

 

 

 

 

 

目を開けると、水晶は真っ黒になっていた。

少し驚くも、力が漲る。

 

 

パァァン!

纏った水晶を内部から爆発させ、脱出する。

 

思考は至って澄み渡っている。

 

 

 

 

天魔が防ぎ切ったことが満足なのか、目の前に降りてくる。

天魔「やあ。聞き取れるかな?」

天魔が話しかけてくる。

 

先程まで途切れ途切れにしか聞えなかった天魔の声が聞き取れる。

 

海星「ああ。やっと聞き取れたよ。」

妖力を解放したことで、身体能力が格段に跳ね上がり聞き取れるのだろう。

 

天魔「お!鬼の長に加えて2人目だ。

この能力使用時の我と会話できるのはな。」

 

嬉しそうに話す天魔だが。

そんなことよりもだ。

 

 

海星「で?そんな無駄話をしたいなら、後でいいんじゃないか?」

久しぶりの好敵手で疼きが止まらない。

 

 

天魔「まあまあそう焦るな。我は逃げぬ。

口上も聞き取れてないと思ってな。」

けらけらと笑う天魔。

 

不意打ちから始まった戦闘だと思っていたが、口上を聞き取れていなかったのか。

 

 

海星「そうだな…では。」

 

2人はしっかりとお互いを見据え合い…。

壊し、崩し、抉りとった地形の中で。

 

 

 

 

 

 

『【始祖の天狗】アマツ!加速して参る!』

赤い目を妖しく煌めかせて…

 

 

『【太古の百鬼夜行】東方海星!厄災を引き連れて参る!』

紫色の太古の衣に身を包みながら…

 

 

 

 

 

 

 

 

バッ!!!ドン!!

拳と拳がぶつかり合う。

 

威力は俺の方が、速度は天魔の方が少し上と言ったところか。

 

勝敗はもうどちらに転んでもおかしくはない。

 

拳を交えながらお互いに読み合う。

海星は1度押し切れればそのまま連撃に繋げようと。

天魔は相手の速度に自分の速度を上乗せした

一撃必殺のカウンターを。

 

 

ここに来て闘いは再び単調なものに変わる。

もう能力などの小細工は互いに通用しない。

 

ズガン!バキバキ。

 

拳がぶつかり合う毎に木や草花が儚くその命を終え、地が割れる。

 

 

 

 

 

 

 

海星「なぁ。」

 

天魔「あぁ。」

 

みなまで言わずともお互いに理解する。

 

【次で決着をつける。】

 

 

 

天魔「加速する程度の能力」

開いていた翼がツバメのように鋭くなる。

 

 

 

海星「水晶を操る程度の能力」

パキ…パキパキ…と腕に黒い水晶が巻き付く。

 

 

 

 

ドン!という爆発音とともにお互いの姿が消える。

 

 

グシャっと聞き慣れない酷い音。

 

先に動いたのは天魔だった…?

 

いや、先に動いたのは海星だったのだが

腕を振り抜いたのは天魔だった。

 

 

海星は木を薙ぎ倒しながら吹き飛ばされる。

ズガガガガガ!!!

 

海星(くっ…更に早くなってやがる…。)

手元でさらに加速しやがった。

 

 

 

 

このままでは…。

 

 

 

 

 

 

 

…だ。

 

 

 

 

 

 

 

ドクン。初めての感情に包まれる。

 

 

 

 

 

 

 

いや…。いやだ。

 

 

 

《負けたくない!!!》

 

 

 

 

ドクン。

心臓が強く鼓動する。

 

 

 

 

 

 

海星「まだまだ…こんなもんじゃねぇえええ!!!」

森全体が震える。

はるか昔の友が帰ってきたことを喜ぶ様に。

 

 

 

 

吹き飛ばされていたが空中でピタリと止まる。

 

さらに黒紫のオーラが身体の奥底から止めどなく溢れ出る。

 

 

 

ドッドッドッドッドッドッ…。

 

 

 

海星「…さあ…。最終ラウンドだ!!」

最高に気分が良い。

 

 

 

 

天魔「そう来なくてはな!!行くぞ!!」

 

 

 

その瞬間、天魔の瞳の赤さが炎のように全身に広がる。

 

 

 

そして2人は地面を蹴る。

もしかしたら、はるか昔にこの森ですれ違っていた、

そんな過去があったかもしれない。

 

奇妙な巡り合わせだ。

 

 

悠久の時が流れた後、そんなことを思いながら、2人は一陣の風になり消える。

 

 

 

パッパッと…紫色のオーラを自身に纏って発光する。

 

パン!パン!と重力も、光も、時さえも置き去りにして…。

さらにお互い加速を続ける。

 

 

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

紫「くっ…。自動追尾が振り切られましたわ…。まさかここまでとは…。」

 

右側のスキマの景色が動かなくなった。

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

天魔『始祖鳥の終焉』

「はぁあぁぁあああああああ!!!」

紅の軌跡が空を統べ劈く様に

 

海星『百鬼夜行 宵闇の宴』

「うぉおぉおおおおおおおお!!!」

黒紫の軌跡が地を這い引き裂く様に

 

 

 

時を貫き加速した白黒の世界で。

黒紫と紅の拳がぶつかり合う。

 

 

2人の背後には、いつの日かの虹色の椿が優しく揺れていた。

 

 

…ドガァアァアァアアアアアン!!!!!

 

 

 

 

 

シューーーー…

巻上がる砂ぼこり。

 

 

 

…静寂の後。立っていたのは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

海星「俺の勝ちだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

海星だった

 

 

 

 

 

 

 

 

白黒の世界に色が戻る。

 

 

海星「大丈夫か?」

天魔に呼びかける。

 

 

天魔は黒い水晶に全方位から串刺しにされていた。

技名の如く、火を囲んで妖怪たちが宴をしているように見える。

 

 

天魔「…あぁ。なんとかな…。」

 

 

 

普通の妖怪ならば、死んでいるだろう。

 

お互いに死なないことを認識した上で本気でぶつかり合ったのだ。

 

 

 

パキン!!心地よい音と共に水晶が消え去る。

と同時に、妖力も解除する。

 

 

 

スタっと受身を取り、着地する天魔。

 

 

 

 

 

 

天魔「あー、やられたのー。」

 

突然、出会った時のようにだらけた喋り方になる。

 

海星「やはりそれが素か?」

先程の雰囲気とは似ても似つかないので思わず聞いてしまう。

 

 

天魔「あー、そうだなー。我の能力は【加速する程度の能力】使用すると〜思考能力も動きも加速するから〜…。」

めんどくさいのかここで言葉を止める。

 

海星「なるほどな。加速する程度の能力…恐ろしい能力だ。」

 

こちらが防御したり、時間稼ぎするとどんどん不利に陥る。

今回の戦闘はほんとに紙一重だった。

あと少し判断が遅れていたら…なんて考えたくもない。

 

 

 

〜にゅん。

 

突如目の前にスキマが現れる。

紫が用意してくれたのだろう、広場にこれで戻れそうだ。

 

 

海星「さあ、戻ろうか。」

 

天魔「おー、便利じゃのー…。」

ゆったりと話す天魔にすごく違和感を覚えつつもスキマに向かって歩いていく。

 

 




さて、決着です
ギリギリの戦いでしたね。
次回は天魔について言及します

今後はついに妹紅とかかぐや姫とかの話にしようかと…!
それでは!ご感想などお待ちしております
ほんとにありがとうございます

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