よろしくお願いします
「オラァッ!!」
こちらへ向けて放たれたワイヤーブレードをかわし、銃口を後ろへ向けパイルバンカーのような形状になった《ツインブレイカー》をラウラへと叩きつける。眼帯を外しその金色の瞳でグリスを睨みつけながら、ラウラは口元に笑みを浮かべた。
迫る杭の一撃を手刀で受け流し───その瞬間一海の全身が凍りついたかのように硬直する。
「くっそ……!また……」
「一海!このっ!!」
隙をつくように一夏が斬り掛かる。ラウラはすぐに意識をそちらへ向けると手刀で一夏の斬撃を受け止めながらレールカノンを白式へ向けた。同時に一海の体が正体不明の拘束から解放される。
「その程度か?……やはり教官にとって、貴様らの存在は不要!」
ガガガガガガ!と凄まじい音を立てて白式の装甲を弾丸の嵐が叩く。それと並行してラウラのIS《
「ちっ……この野郎……!!いつまでも舐めてんじゃねえぞ!」
『シングル!ツイン!』
飛んでくるワイヤーブレードを弾き、躱しながら一海は腰のドライバーから引き抜いた「ロボットゼリー」と取り出した「ヘリコプターボトル」を銃口を戻した《ツインブレイカー》へ装填する。
『ツインフィニッシュ!』
力強い音声と共にプロペラのような形状のエネルギー弾が次々と放たれた。
一夏へ攻撃していたラウラの表情が驚愕に変わる。一海の攻撃を正面から受けた漆黒のISは巻き上げられた土煙に飲み込まれた。視界が塞がれる中、ラウラはすぐさまセンサーで周囲を確認する。
「まだ終わってねぇぞコラァァァァァァァッ!!!」
そこへ再び《ツインブレイカー》を変形させた一海が跳躍し、土煙を突き破って殴りかかる。同時に体勢を建て直した一夏も刀を構え直した。瞬時に判断し、先に一海の動きを停止させようとするラウラ。
だがラウラの金色の左目が能力を発動するより早く、一夏の攻撃はISを展開したシャルルのシールドで、一海の攻撃は仮面ライダー「ローグ」へ変身した幻徳が作り出した宝石のような盾で受け止められていた。
「おいヒゲ……何してんだコラ……」
「シャルルも……コイツは鈴とセシリアを……!!」
「落ち着け、オルコットも凰も無事だ。理由は分からんが、二人共怪我はない」
「そうだよ!だから一旦落ち着いて……っ!二人がかりで1人を攻撃するなんて一夏らしくないよ!」
幻徳とシャルルの言葉に、一海と一夏は少しクールダウンして武器を降ろす。その2組に挟まれながら、ラウラはフンと鼻を鳴らした。そして飽きたかのようにISを解除し、アリーナのゲートへ向かって歩いていく。
「おい、テメェ」
その背中に、一海が声を掛けた。ラウラは振り返らず、足だけを止める。
「何様だか知らねぇがな………俺のダチを傷つけた報いだけは受けてもらうぜ」
一海からの宣戦布告に、ラウラは背中を向けたまま答えた。
「……この島国でぬくぬくと育った貴様らに、負ける道理はない。貴様らのような雑魚のために教官がこの国で腐っていく姿など、見るに耐えん」
それだけ言うとそのままアリーナから出ていってしまう。一夏は去っていく背中を睨みつけていた。
「……くそっ、悔しいけどアイツの強さは本物だ。……あのクラス対抗戦の時のISよりも強いと思う」
「関係ねぇよ。相手が強いから諦める、そういう賢い生き方出来るほど頭よくねぇだろ。俺も、お前も」
一海は悔しそうに言う一夏の肩をポンと叩く。そこへセシリアを抱えた幻徳と鈴を背負った箒がやってきた。いつの間にか二人とも気を失っていたようだ。
「取り敢えず俺と篠ノ之は2人を医務室に連れていく」
「放っておくわけにもいかないからな」
あ、それなら俺が行く───と身を乗り出した一夏を箒はギロりと睨んだ。
「いや、いい。……その、男が年頃の女を抱えるのは……不埒な行為だからな」
箒の言葉に一夏は横の幻徳はいいのかよ、と首を傾げる。そんな彼の襟を一海がグイッと掴んだ。
「そこまで言うならしゃあねえな。一夏、シャルル。俺たちはあのドイツ野郎とどう決着つけるか考えようぜ」
「ぐえええっ、一海!くび、首締まる!」
「あっ、一夏!一海!待ってよ!」
一夏をズルズルと引きずって行ってしまう一海と、それについて行くシャルル。幻徳と箒はそれ見送ってから2人を抱えて医務室へ向かった。
「んー……どうしたもんかな」
「セシリア式でいいんじゃないか?」
「アレは多分凰さんだから通用しただけでボーデヴィッヒさんには無理じゃないかな……」
寮の食堂、まだ夕食には早い時間で人も余りいないその場所で一海達は本日2度目の作戦会議をしていた。
今度の議題は「どうやって、誰がラウラと決着をつけるか」である。
だがその会議は思っていたよりも早く終了することになった。
「あれ?そう言えば今月末に学年別トーナメントがあるって言ってたよね?そこで決着をつければいいんじゃないかな」
シャルルのその言葉に、一夏も一海も動きを止めた。そして素早くとシャルルの方へ首を曲げる。
「なんだって?」
「それは本当かい?」
「う、うん。確か今朝僕とボーデヴィッヒさんの挨拶の前に織斑先生が話してなかったかな?僕は廊下で待機しながら聞いてたけど……」
「あー……今朝か」
そう言えば朝は鈴のことで頭がいっぱいで殆ど千冬や山田先生の話を聞いていなかった。一海は頭をかく。
「まあ、そういうイベントじゃ俺とヒゲは多分今回も不出場か。しゃーねえ、あのドイツ野郎は一夏とシャルルに譲ってやるよ」
「いや、僕は別にボーデヴィッヒさんとそんな因縁は無いんだけど……ってあれ?一海は出ないの?」
「あー、一海のISは特殊でさ、先月のクラス対抗戦もそれが理由で出られなくて結局俺が出ることになったんだ」
「そういう事だ。ま、特訓ならいつでも付き合うからよ」
シャルルと一夏の肩を軽く叩く一海。そこへ、聞きなれない声が掛けられた。
「あら?貴方は出れないの?猿渡一海くん」
3人の視線が、いつの間にか一海の横に立っているその声の主に注がれた。口元に閉じた扇子をあて、いたずらっぽい笑みを浮かべている。胸元のリボンの色からして2年生───つまり先輩らしい。
「……えっと、どちら様すか?」
一海は困惑しながら尋ねた。一夏も、今日転校してきたシャルルも不思議そうな表情を浮かべているあたり、少なくともこの場の誰かの知り合いではないらしい。
謎の先輩は一海の質問には答えず、手にしていた扇子をパッと開いた。
『ノーコメント』、と文字が描かれた扇子を見て一海は目眩を覚える。
───────誰だか知らないけどこの人は間違いなくボケてる時の
暇さえあればTシャツに文字を仕込もうとする相方の髭面を思い出しながらげんなりする一海、とっととお引き取り願おうと先輩へ声をかけた。
「あの、何か用すか」
「ふふん、私が君たちを出場出来るようにしてあげるよ。んん?それだけじゃあつまらないかなぁ……よし!今年の学年別トーナメントは2対2のタッグマッチにしましょう!」
「やべぇ……この人全然こっちの話聞いてねぇよ……」
1人でしゃべり続ける謎の上級生に一夏は怯えた表情を見せる。その背中に隠れながらシャルルも恐る恐るといった感じで様子を伺っていた。
結局、一海の疑問に1度も答えず先輩は食堂の出入口まで歩いていってしまう。そこで足を止め、開いた扇子で口元を隠しながら呆然としている3人へ顔を向けた。
「そういえば挨拶がまだだったね。私の名前は
言いながら『ノーコメント』と書かれていた扇子をくるりと裏返す。そこには『再見』と書かれていた。やる事まで幻徳にそっくりである。
スタスタと食堂を出て行く謎の先輩───いや、更識楯無の姿に一海達は力なく「それぐらい口で言えよ……」とツッコミを入れることしか出来なかった。
「学年別トーナメント、オルコットと凰の出場は難しそうだな」
夜、寮の自室にてシャワーを浴びてパンツ一丁で出てきた幻徳が呟いた。ベッドに寝そべり漫画を読んでいた一海はそちらへ顔を向ける。
「ISの損傷が激しいのと……あとは凰に関しては体調面でもドクターストップがかかっている。本人達は出る気まんまんだったようだが……」
「まぁ、アイツには丁度いい薬になっただろ」
言いながら、幻徳の履くトランクスに視線を向ける一海。その尻にデカデカと描かれた『ヒゲタン』の文字と髭の生えたウサギの絵に心の中で「うわダサッ」とツッコミを入れながら、数刻前に遭遇した先輩の顔を思い出していた。
「そう言えば、そのトーナメント……なんかペアを組んでのチーム戦になるらしいぜ」
「何?そんなの聞いてないぞ。どこ情報だ、それ」
紫色のド派手なバスローブを羽織る幻徳に再び心の中で「ダサッ」とツッコミを入れながら一海は漫画へ視線を戻した。おそらくこのまま幻徳の姿を見てると延々とツッコミ続けることになりそうだ。
「生徒会長。多分明日辺りに発表されるんじゃねえか?」
「ペアか……組む相手がいないな……ていうかそれ俺達出れるのか?」
「そこら辺も出場出来るようにしてくれるとか言ってたぜ」
「ほう……なら、オルコットと凰の仇討ちと行くか」
パンッと、拳と掌を打ち合わせる幻徳。冷静そうに振舞っていたが、怒っていない訳では無かったらしい。そりゃそうか。自分を慕っている少女が目の前で殺されかけているのだ、怒らない方がおかしな話だ。とはいえ格好が恰好なので全く迫力が無い。
そんな幻徳へ、一海がビシッと指を突きつけた。
「お前とも決着付けてえからな。ヒゲ、今回もお前とは組まねぇからな」
「決着だと?代表決定戦は俺の勝ちだろ」
「あ?あんなのパートナーの戦力差があったんだからノーカンだノーカン」
「ふっ……負け惜しみか。情けねぇな」
「アァン?そんな余裕ぶっといて、試合で俺に負けた時泣くんじゃねえぞ?」
「言ったなポテト……覚悟しておけ……」
睨み合う二人。しばらくの間そうしていたがやがて二人同時にそっぽを向くとそれぞれのベッドへ潜り込んだ。
─────そして数日後、2人はこのやり取りを撤回することになる。
「氷室くん!私と組んでーー!!!」
「いいえ私と!!」
「あぁ氷室様!今日もヒゲが素敵!!!」
「一海くーーん!!」
「私と組みましょう猿渡くん!!」
「カシラーーーーー!!!」
バタン。
朝、教室へ行くためにドアを開けた先に広がっていた光景から逃げるようにドアを閉める。なんだあれは。寮の自室前の廊下が人で埋め尽くされていた。幻徳と一海は顔を見合わせ、もう一度ドアを開く。
「げんと「かず『バタン』。
すぐ閉める。状況が飲み込めない一海に、幻徳が「あ!」と声を上げた。
「なんだヒゲ」
「いや、たぶんこれ……トーナメントのペアの件じゃないのか」
その言葉に気がついたのか一海も「あ!」と声を上げる。だがそれが分かった所でどうしようもない。この寮の廊下の人の海を越えないことには、ペア探しどころか登校すら出来ないのだ。
悩む一海の前で、幻徳が自分の携帯端末を取り出した。そしてどこかへ連絡を入れる。
「織斑か?そっちは大丈夫か?あぁ、こっちも部屋から出れなくなっている。お前ペアは決めたのか?……そうか。…………まぁ、正常な判断だな」
通話を終え、携帯端末を降ろす幻徳。その顔には絶望のようなものが広がっていた。
「ど、どうしたヒゲ」
「織斑は───デュノアと組むようだ」
「それがどうしたんだよ」
「分からないのか、学年で4人の男子───残っているのは俺達2人だけ。織斑の方へ向かって来た女子達は、アイツらのペア結成を知ってこちらへ向かってきているそうだ」
「こ、ここからまた増えるのかよ!?」
「あぁ、不味いことになった……この状況を打破するには──────あ。」
考え込む幻徳が、一海の顔を見て再び間抜けな声を上げた。一海も幻徳の顔を見て同じような声を上げる。
バーン!と勢いよくドアが開き、詰めかけた女子達の前に二人の男が姿を現した。無数の視線を浴びながら、まるで記者会見のような状態だと幻徳は感想を抱く。いや多くの女子が2人を取り囲み、舌なめずりをしている様子はどちらかと言うとサバンナで肉食獣の群れに襲われている草食動物だろうか。
やがて、固唾を飲んで待つ女子達の前で2人は肩を組んでみせた。
「「俺はヒゲ(ポテト)と組むことにした!」」
その言葉に、2人を包囲していた女子達は互いに顔を見合わせる。先程まで喧騒に包まれていた廊下が、一瞬で静かになった。
「……ま、まあ、男同士も……ねぇ?」「そうよね、ほかの女の子に取られるよりは……」「嫌いじゃないわ……嫌いじゃないわ…………」
かいさんー、と誰かが言うと同時に女子達はぞろぞろと去っていく。この状況を切り抜けることに成功し、一海と幻徳は思わず安堵の息を漏らした。
やがて一海は女子達が去っていった後に、1人だけ立っている人物がいることに気がつき、その顔を見て「うげ!」と呻く。
「おはよう、猿渡一海くん。それに氷室幻徳くん」
生徒会長、更識楯無である。露骨に嫌そうな顔をする一海を楽しげに眺めてから、楯無は幻徳へ視線を向けた。
「氷室くんは初めましてね。私は2年の更識楯無。よろしく」
「よろしくお願いします」
差し出された白い手を握り返す幻徳。腐っても元政治家。目上への礼儀はバッチリである。笑顔で握手をしながら、楯無はもう片方の手に持っていた扇子をパッと開いた。そこには『I am 生徒会長』の文字。
……だからそれぐらい口で言えよ。と一海は心の中でツッコミを入れる。幻徳は暫くそれを見つめていたが、おもむろに制服のジャケットの前を開け放った。中に着ていたシャツには『親しみやすさ』の文字が。それを楯無へ見せつけながら、幻徳は得意気な笑みを浮かべた。
「……いや話噛み合ってねえし。なんでドヤ顔してんだよ」
思わず幻徳の頭を叩く。幻徳は動じることなくジャケットを着なおした。楯無もパタンと扇子を閉じる。
そのまま無言で見つめ合う2人。一海だけがその2人だけの世界に入り込めず困惑している。やがて、楯無はクスッと笑った。
「氷室くん、貴方とはまた違う機会にじっくり話をしましょう」
「その時は、近くのホテルで朝まで語り明かし──ウヴァ!?」
とんでもないことを言いかけた幻徳へ一海のドロップキックが炸裂する。壁に叩きつけられた幻徳の足を掴み、引き摺りながら一海は走り出した。
「それじゃ!俺達授業に遅れちゃうんで!失礼します!!」
「がっ……ポテトお前……んだぐばっ!?」
引きずられながら何かをほざく幻徳の頭を近くの壁にぶつけて意識を飛ばしながら一海は逃げる。その様子を見ていた楯無は口元を扇子で隠しながらクスクスと笑う。
「期待しているわよ氷室くん、猿渡くん。違う世界からのお客様♪︎」
もう人の気配も全くない寮の廊下、そこに更識楯無の楽しそうな声だけが響いた。
次辺りからラウラ戦入れると思います
ぶっちゃけこれがやりたくてこの小説描き始めた感ある