ドルヲタと悪党とインフィニット・ストラトス   作:ミュラー

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忙しさのせいで駄文パワーが上がっていく




よろしくお願いします


天使にレクイエムを

「……くそっ!」

 

一海は苛立った様子で旅館の外壁を殴った。傍で腕を組みながら海を眺める幻徳も険しい表情をしている。

意識を失った一夏と泣きじゃくる箒が密漁船に乗せられ救助されて戻ってきたのが3時間前。一夏は全く目を覚ます様子もなく、箒は塞ぎ込んだままだ。

千冬は残っていた一海達に待機を告げたあと他の職員たちと共に会議用の部屋に篭ってしまっている。

 

「…………………………」

 

幻徳は無言のまま空を見上げた。少し傾き始めた位置にある太陽が彼らの気分などお構い無しに光り輝いている。

その眩しさに目を細めながら、幻徳は呟いた。

 

「…………仇討ちだな 」

「……なに?」

 

上を向いている幻徳へ、一海が怪訝そうな顔を向ける。ゆっくりと視線を目の前の男へ向けながら幻徳は再び口を開く。

 

「仇討ちだ、それに暴走した軍用兵器なんてモノを放っておく訳にもいかない」

「そうは言ったって、あのISが今どこにいるかもわからねえし、そもそも俺らじゃ空を飛べないだろ」

「私が運ぼう」

 

割り込むような声に、一海と幻徳はそちらを見る。タブレット端末を手にしたラウラがいつの間にかそこに立っていた。

 

「ラウラ……」

「2人だけで行くなんて水臭い、私はカシラの妹分なんだぞ」

「そうですわ」

 

ラウラの後方から、セシリア達が姿を現す。皆、真剣な眼差しで一海と幻徳を見つめていた。

 

「お二人だけで背負おうとしないでください、わたくし達も皆思いは同じですわ」

 

鈴も、シャルロットも、ラウラも、セシリアの言葉に同調するように頷く。一海はため息をついて頭をかく。そして、ニッと笑ってみせた。

 

「……そうだな、よしラウラ!あのISの位置の特定を頼む!あとの奴は全員作戦会議だ!」

「任せろカシラ!」

 

ラウラがタブレットを操作し始める。その横で輪になるように座った一海達はあれこれと意見を出し合い始めた。

 

 

 

 

 

 

 

ピッ……ピッ……と、布団に横たわり眠り続ける一夏の体から伸びるケーブルに繋がれた機械が規則正しくリズムを刻み続ける。

箒は部屋の隅で膝を抱えながらその光景を眺め続けていた。

 

(私の……)

 

一夏は目を覚ます気配がない。ISに搭載されている操縦者の保護機能により意識を強制的にカットされている状態で命に別状は無いようだが……。

先程の山田先生の解説を断片的に思い出しながら、箒は顔を膝に埋めた。

 

(私のせいだ……)

 

戦闘中に抱いていた姉への反抗心、怒り、焦りといった激しい感情はどこかへ消え、ただ後悔だけが押し寄せてくる。

赤椿を受け取った時、ただ姉への怒りがあった。望まぬ形で与えられた力に、抵抗を持った。自分自身の実力を証明してみせる、姉の力なんて借りないと、驕りと焦りに囚われた。

結果、これだ。誰よりも大切な人間は、自分のために傷つきこうして意識を失っている。

 

(私には、もうISに乗る資格なんて──────)

 

その時、箒の思考を遮るように勢い良く音を立てて部屋の襖が開かれた。

ムスッとした顔の鈴が部屋に入ってくる。鈴は眠る一夏を一瞥した後、膝を抱える箒へと詰め寄った。

 

「立ちなさいよ」

 

目の前に人が立つ気配を感じ、そして声を掛けられても箒は顔を上げない。いや、上げられない。

鈴はため息をつくと、箒の襟を掴んで無理やり体を引き起こした。

 

「……聞いたわよ、一夏はアンタを庇ってこうなったって」

「……そうだ……私は……お前達のように戦えなかった……もう、ISに乗る資格もない………」

 

弱々しい声。鈴は舌打ちをすると思い切り箒の頬を平手で叩いた。箒の体はその勢いのまま床へ倒れ込む。

鈴は倒れる箒を見下ろしながら、怒りに任せて叫んだ。

 

「甘ったれてんじゃないわよ!アタシ達みたいにできなかった!?ISに乗る資格がない!?一回目の戦闘で失敗した位でメソメソ泣いてさぁ!この状況招いておいて、責任は他に押し付けて自分だけははいサヨナラって訳!?」

 

倒れる箒の襟をつかみ、再び力任せに引き起こす。箒は抵抗もせず、ただされるがままだ。

 

「……ここで退いたらアンタ本当に『篠ノ之束の妹』ってだけになるじゃない。それでいい訳?」

 

その言葉に、虚ろだった箒の目が大きく見開かれた。そしてキッと鈴を睨み返す。

 

「いいわけ……ないだろう…………だが、どうすればいいんだ……もうあのISも見失ってしまった、一夏も私のせいで戦えなくなってしまった…………どうしていいか、わからないんだ」

「………………戦う意思はあるのね。なら安心だわ」

 

鈴は、その箒の目を見つめ返し小さく笑った。そして襟から手を離す。箒は不思議そうな顔で鈴を見る。

 

「凰、ラウラが位置の特定を終わらせた。……篠ノ之」

 

その時、幻徳が部屋に入ってきた。そして髪が乱れている箒を見て足を止める。箒は幻徳の言葉にハッとしたような顔を鈴へ向け、鈴はその視線に頷き返した。

 

「………大丈夫なのか?」

 

幻徳の言葉に、箒は小さく頷いてみせる。そして彼へ向かって頭を下げた。

 

「心配かけてすまなかった、氷室。……私にも、もう一度戦わせてくれないか」

「……俺よりも凰に謝るべきだ。皆の中で誰よりもお前を心配していたからな」

「ちょっ……幻徳!!」

 

鈴は顔を赤くしながらそれを隠すようにそっぽを向いた。箒はクスリと笑いながら鈴へ頭を下げる。

 

「ありがとう、そしてすまない。鈴」

「ふ、ふん!同じアイツの幼馴染のよしみってヤツよ。それ以外の理由はないから!……ほら行くわよ!向こうの部屋で皆が作戦を練ってる、アンタも一緒に考えなさいよね!」

「……ああ!」

 

照れを隠すように足早で部屋を出ていく鈴と、少し元気を取り戻してそれを追っていく箒。2人を見送り、幻徳は眠る一夏の元へと歩み寄った。

 

「…………いい仲間を持ったな。織斑」

 

幻徳は一夏の傍で膝をつき、眠る彼の手に再生の力を持つ『フェニックスボトル』を握らせる。

一夏の体が薄い光に包まれるのを見ながら幻徳は立ち上がった。そして小さく呟く。

 

「まあ、ゆっくり休んでおけ。俺達が終わらせておいてやる」

 

意識が戻らない友へ背を向け、部屋を出る幻徳。そして皆が集まっている部屋へ向かおうとしたその時、背後から声がかけられた。

 

「……氷室。何をするつもりだ」

「織斑先生…………」

 

いつの間にか、幻徳の後方に千冬が腕を組んで立っていた。見えなくてもハッキリと感じる程冷たい視線に幻徳は身動きが取れなくなる。

 

「……まあ、何をしようとしているかなんて簡単に想像がつくがな」

「止めますか?」

「当然だ。私は教師で、お前らは生徒。立場上、力づくでも止めなくてはならない。独断での出撃なんて認めるわけにはいかないからな。…………あと2時間もすれば増援部隊が到着する。それまで大人しくしていろ」

 

それを聞いた幻徳は勢い良く振り返った。千冬は腕を組んだまま静かに幻徳の目を見据える。

 

「ですが、あんな機体をそんな長時間放っておいたら被害が広がる恐れがあります!戦える戦力はまだここに残っている、ならば戦うべきだ!」

「なら、作戦はあるのか?」

「それは……」

「操縦の腕はともかく、織斑の白式の能力は対IS戦闘においては最強クラスと言っていい程の力だ。それに加えて初陣とはいえ現行機の中で最高スペックを誇る篠ノ之の赤椿。この2機を殆どダメージを受けずに返り討ちにした程の機体に、お前達は何か対抗策があるのか?」

「………………」

 

千冬の指摘に、幻徳の顔が悔しげに歪んだ。一夏の零落白夜が無い以上、現状のメンバーでは決定打に欠けるのは事実だ。

だが、それでも。

 

「それでも……俺達は行きます。行かせてください。篠ノ之の為にも、それに織斑の為にも」

「……どういう意味だ」

「篠ノ之は……アイツは織斑の負傷に責任を感じている。このまま放っておけば、アイツはISに乗れなくなります。そうなった場合、誰が1番傷つくのか…………織斑だ」

「…………………」

 

幻徳を見つめていた千冬の表情が少し変化する。唯一の家族だからこそ、あの弟がその状況になった時どういう思考をするのか容易に想像出来るのだろう。

 

「俺はアイツらを友人だと……仲間だと思っています。本来ならここに居ない筈の俺達を受け入れてくれたアイツらも、織斑先生たちも皆大切に思っている」

「………………」

「だから俺は、皆が傷つかない選択をしたい」

 

幻徳は意を決したように息を吐き、頭を下げた。

 

「だから、お願いします!出撃の許可を!!」

「……ダメだ。教師として許可する訳にはいかない」

 

幻徳の懇願を、千冬はあっさりと切り捨てる。

だが千冬が次に口にした言葉は幻徳の予想を大きく外れたものだった。

 

「…………だが、そうだな。ここに来てからトラブル続きで私もロクに休めていない。ここで少し眠ってしまったとしてもバチは当たらんだろうな」

 

幻徳はハッと顔を上げる。千冬は腕を組んで立ったまま目を閉じていた。

その意図を理解し、一礼してから幻徳は千冬へ背を向けて走り出す。

 

「……氷室。これは、教師としてではない。織斑千冬という、私個人の言葉だ」

 

幻徳の背へ、千冬の声が掛けられる。足を止めた幻徳はしかし振り返らずに、無言でその言葉へ耳を傾けた。

 

「…全員、生きて帰ってこい。これは命令でもなんでもない、私からの頼みだ」

「……必ず!」

 

幻徳は力強く頷くと、そのまま走り去っていく。遠ざかっていく足音を聞きながら、千冬はため息をつき呟いた。

 

「……私もまだまだだな。教師失格だ」

「うふふふ、織斑先生ったら素直じゃないですね〜」

 

様子を伺っていたのか、どこからか現れた山田先生が千冬をからかうように笑う。千冬は再びため息をつくとジロリと睨んだ。

 

「……山田先生、後で組手をしようか。丁度いい、浜辺で3時間ほどじっくりと」

「あっ、いえ、その〜、すいません!仕事に戻ります!」

 

慌てた様子で職員用の部屋へと走っていく山田先生を見送り、千冬は廊下の窓から空を見る。

空は日が沈み始め、暗くなりつつあった。

 

 

 

 

 

 

「……なんだよ、これ」

 

一夏は、目の前に広がる光景を見て思わず呟いた。そびえ立つまるで神話に出てくるバベルの塔のような建造物。赤い光を纏うその塔を中心にして巻き起こった嵐があらゆる物を飲み込んでいく。

人ではない、異形が嵐に飲み込まれて消えた。

近代のものとは思えない、不思議な材質の建物が砕かれて消えた。

地球とは違う、緑一色の星が黒い嵐の中へと塵になって消えていった。

先程までいたらしい星が消える光景を目の当たりにしながら、宇宙空間を漂う一夏は星を飲み込んだ黒い嵐の中で笑う「何か」を目にした。

赤い、血のような色の体を持つ化け物。それは一夏の方を見るとゆっくりと掌を向ける。

その「何か」の顔が、笑うように歪むのが確かに見えた。

 

「うぉっ!?」

 

次の瞬間、景色が切り替わり一夏は見覚えのない砂浜の上に立っていた。先程目にした破壊の光景と化け物の姿を思い出して鳥肌が立つ。

 

(………………?)

 

ふと、波の音に混じって歌声のようなものが聞こえた。恐怖を振り払うように、その声がする方へ向かってふらふらと歩いていく。

白い少女は、そこにいた。

白い砂浜で、白い髪を風に揺らめかせ、白いワンピースを纏い、踊りながら歌っている。

一夏は先程まで抱いていた恐怖心も忘れその光景に見とれてしまう。

波の音と、少女の歌声。心地よい音に包まれながら、一夏はただただぼんやりと少女の姿を眺め続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

海上200メートル、一夏と箒を撃墜した時と同じ場所で『銀の福音』は胎児のように蹲っていた。その体を背部から伸びた翼が優しく包み込んでいる。

 

「───────────」

 

不意に、何かを感じ取ったかのように福音が顔を上げる。

次の瞬間、超音速で飛来した砲弾がその頭部を直撃し爆発を起こした。

 

「初弾命中。続けて砲撃を行う」

 

福音の位置から5キロほど離れた場所に浮かんでいるIS『シュヴァルツェア・レーゲン』とそれを纏うラウラは、間髪入れずに次の砲弾を撃ち出す。

その姿は、通常装備と大きく異なっていた。かつて装備していたレールカノンよりもさらに一回り大きな八十口径レールカノン《ブリッツ》を左右の肩に二門ずつ、さらに遠距離からの砲撃や狙撃に対する備えとして4枚もの物理シールドが機体の四方を囲っている。

これが砲戦パッケージ『パンツァー・カノーニア』を装備したシュヴァルツェア・レーゲンの姿だ。最早ISというよりは動く要塞といった様相である。

 

「───ちっ!かわされたか」

 

ラウラのハイパーセンサーが砲弾をまるで踊るように回避しながらこちらへ向かってくる福音を捉える。

5キロも離れていたというのに、すでに両者の距離は2000メートルほどにまで縮められていた。遮るものの無い海上、お互いの姿が肉眼でも捉えられる。

 

「残り2000……!1000……!くっ……速い!」

 

間を開けずに放たれる砲弾の嵐を、福音は翼から放ったエネルギー弾によって撃ち落としていく。目の前でさらに加速した福音はラウラへ向かって腕を伸ばした。

砲戦仕様によって重装備になっているシュヴァルツェア・レーゲンではその速度に対応するのは不可能だ。だがラウラは自身を仕留めようと伸ばされる掌を見て口元に笑みを浮かべる。

 

「カシラ!」

「任せろ!」

 

ラウラを囲う物理シールドの陰から黄金の鎧を纏う戦士『仮面ライダーグリス』に変身した一海が跳び出す。

一海はラウラへと伸ばされた腕を蹴り上げ、そのまま振り上げた踵を福音の頭部へと叩きつけた。

銀色の天使は衝撃で体をぐらつかせる。一度物理シールドの上に着地した一海は再び跳躍し、飛び蹴りを福音へと撃ち込んだ。

防御もできず、福音は大きく吹っ飛ばされる。

 

「行ったぞシャルロット!」

「任せて!」

 

吹っ飛んだ先に待ち構えていたシャルロットは両手にショットガンを2丁呼び出し、福音へ向ける。だがその引き金が引かれるよりも早く空中で体を一回転させ体勢を建て直した福音は翼から放ったエネルギー弾の雨をシャルロットへ浴びせた。

 

「おっと、悪いけどこの『ガーデン・カーテン』はその位じゃ落ちないよ」

 

シャルロットは慌てる様子もなく、IS『ラファール・リヴァイヴ』の専用防御パッケージ『ガーデン・カーテン』によって増設された2枚の大型物理シールドと、展開したエネルギーシールドで福音の攻撃を防ぎ切る。

シャルロットの撃破をあきらめ後方へと飛び退き、全方位への砲撃を行おうと一度翼をたたむ福音。次の瞬間、その体をレーザーが貫いた。

 

「こちらですわ!」

 

強襲用高機動パッケージ『ストライク・ガンナー』を装備したセシリアの『ブルー・ティアーズ』が2メートル以上ある大型BTレーザーライフル《スターダスト・シューター》の銃口を福音へと向ける。狙いを変えた福音は翼を広げると凄まじい速度でセシリアへと迫った。対するセシリアも腰部分にスカート状に接続されているビットのスラスターの出力を全開にし、福音の超スピードに対応して距離を保ちながらレーザーを撃ち続ける。

 

「──────────!」

 

痺れを切らしたかのように、福音はレーザーを回避するのを辞めて真正面からセシリアへと突っ込んだ。予想外の行動にセシリアの動きが一瞬止まる。翼の砲門が開き、エネルギー弾の嵐が迫った。

 

『ディスチャージクラッシュ!』

 

だがセシリアの目の前に出現した巨大な宝石の盾が無数のエネルギー弾と福音の特攻を阻む。

背中に隠れていた『仮面ライダーローグ』に変身した幻徳がセシリアの肩アーマーの上に着地し、腰に装着されたドライバーのレンチを捻っていた。

動きが止まった福音へ、ラウラの砲撃と一海とシャルロットの射撃が再開される。

福音は降り注ぐ弾丸の雨を踊るようにかわし、エネルギー弾で撃ち落として回避して行く。だが絶えることなく放たれ続ける攻撃にやがてその装甲が少しずつ攻撃で削られ始めた。

 

「La─────────♪︎」

 

歌声のような音を周囲一帯に響かせながら、福音は体を捻り一瞬で頭を下方へ向けるとそのまま翼のスラスターを噴出させて攻撃から逃れるように海面へ向けて突進する。

 

「逃がすかっての!」

「ここで仕留める!」

 

直後、海面が膨れ上がり2つの影が水飛沫と共に福音へと斬りかかった。

鈴の纏うマゼンダのIS『甲龍』と箒の纏う真紅のIS『赤椿』、それぞれ両手に構えた得物を振るって突っ込んでくる福音を打ち返すように上空へと斬り上げる。

幻徳はドライバーのダイヤモンドボトルを引き抜きクロコダイルクラックボトルを再装填しながらセシリアへ叫んだ。

 

「ここだ!オルコット、俺を投げろ!」

「はい!」

 

セシリアは肩の上に立つ幻徳の体を掴むと、体を一回転させ遠心力を利用して放り投げる。

風を切り裂いて福音へと迫りながら、幻徳はドライバーのレンチを捻った。

 

『クラックアップフィニッシュ!』

「おおおおおおおおおっ!!」

 

両脚に纏った獣の大顎のようなエネルギーが、空中でのけぞる福音の翼の片方に喰らいつく。

福音は振り払うように体をよじるも翼へ食い込む牙は剥がれない。

翼を足で挟み込む幻徳はまるでワニが仕留めた獲物の肉を噛みちぎるように体を捻った。

 

「─────────」

 

銀の天使は、片方の翼をもぎ取られて悲鳴のような高い音を全身から響かせる。

直後、残るもう片方の翼の砲門が全て開き目の前の幻徳へ向けてエネルギー弾が撃ち込まれた。

 

「ぐっ──────────」

 

空中で身動きも取れず、至近距離で爆撃を受けた幻徳は大きく吹っ飛ばされ海面へ落ちていく。

すかさずセシリアが猛スピードで回り込みその体を受け止めた。

 

「一気に畳み掛けるぞ!」

「ああ!」

「うん!」

 

一海が叫び、全員が頷く。ラウラとシャルロットが撃つ砲弾と弾丸の雨の中を縫うように加速する鈴と箒が接近戦を仕掛ける。

先程までとは違い機動力も火力も半減している福音にそれを捌ききることは不可能だった。

砲撃を浴びた福音がよろめき、そこへ斬撃を受けて大きくのけぞる。

さらに鈴の『甲龍』機能増幅パッケージ『崩山』によって増設された衝撃砲計4門から放たれる熱殻拡散衝撃砲が、ダメ押しと言わんばかりに福音の機体を吹き飛ばした。

 

「決めなさいよ箒!」

「任せろ!」

 

吹っ飛んだ先に待ち構えていた箒は右腰の刀《雨月》を抜き、それを両手で持つと吹き飛んでくる福音の残る翼へと突き刺した。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

「───────────────────」

 

突き立てられた刃からエネルギー刃が放出され、福音の翼を削っていく。福音はもがきながら体を暴れさせて箒を振り回した。だが、箒はしっかりと刀の柄を握りしめて離れない。

 

「これで……!!最後だ!!!」

 

左手を離し、左腰の刀《空裂》を逆手で引き抜いてそのまま翼目掛けて振り下ろす。

2本目の刃が翼へ食い込み、発生したエネルギー刃がさらにその翼を削る。

その一撃によって、福音はとうとう両方の翼を失った。

ぐらりと空中にあったその体が傾き、ゆっくりと海面へと堕ちていく。

箒は翼から引き抜いた刀を鞘に収め、その姿を見ながら息を吐いた。

 

「やったじゃない、箒!」

「ああ、皆のお陰だ……」

 

近くに来た鈴が箒の肩を軽く叩く。箒はそれに微笑み返した。

 

「それじゃ、帰るとするか」

「ああ」

「福音の操縦者を回収しないとね。えっと、座標は……」

 

上空にいた一海たちも、幻徳とセシリアも皆、安心して気を抜いていた。

だが次の瞬間、ラウラが鈴たちへ向かって叫ぶ。

 

「鈴!箒!そこから離れろ!!」

「なに?──────くっ!」

 

ラウラの方へ顔を向いた箒の体が、鈴の蹴りによって吹き飛ばされる。体勢を建て直し、鈴へ抗議の視線を向けようとした箒の目の前には光の柱がそびえ立っていた。

上空で光に飲み込まれたらしい鈴の体が、木っ端のように吹き飛ばされるのが見える。

 

「な………………」

 

箒は唖然としながら柱の根元へ目を向ける。そこには海面を蒸発させながら、赤い雷を全身から迸らせる福音が佇んでいた。

その頭上でエネルギーが渦を巻き、再び先程の光の奔流を今度は上空の一海たちへ向けて放出する。

 

「一海!ラウラ!僕の後ろに!!」

 

シールドを展開したシャルロットが前に立ち、その奔流を受け止める。直後、その顔が苦しげに歪んだ。

 

「まずい……っ!!威力が高すぎる…………っ!!」

 

目の前の大型シールドに亀裂が走り、次の瞬間には突き破られる。すぐに割り込んだ2枚目の物理シールドも同じ結末を辿った。

 

「ぐっ……………………うわぁぁぁぁっ!?」

「シャルロットッ!!」

 

たった一撃で全てのシールドを打ち砕かれたシャルロットは、光の奔流を受けそのまま海へと落下していく。

 

「どうなってやがる……!?」

「これは…まさか、第二形態移行(セカンド・シフト)か」

 

一海とラウラが呻くように呟く。その声に反応したかのようにに海面の福音がゆっくりとそちらへと顔を向けた。その無機質な装甲に覆われた頭部からは何の感情も感じられない。

ゆっくりと、福音の背中から血のように赤いエネルギーで出来た翼が生えた。

 

『キアアアアアアアアアァァァァァァッ……!!!』

 

先程までの歌声のような音や悲鳴のような音とは違う、まるで獣の咆哮のような音を響かせながら福音は一海たち目掛けて飛び出した。

 

「速ぇ!!」

 

ラウラが迎撃の為に砲身を向けるよりも速く、福音が接近する。

一瞬でラウラの機体を囲むシールドの内側に到達し、砲身の上に立った福音の背の翼が震え、まるで鳥の羽根のような光が周囲を舞う。

 

「てめぇ!この……うおっ!?」

 

肩アーマーから福音と同じ砲身へと跳ぼうとした一海を、ラウラは掴んで放り投げる。

仮面の下で驚愕する一海へ、ラウラは小さく笑った。

直後、光の羽根と福音の翼が輝き爆炎が黒と銀の2体のISを飲み込む。

 

「ラウラァーーーーーッ!!!」

 

落下しながら一海は叫ぶ。纏っていたISをズタズタにされたラウラが煙の中から海面へと落ちていくのが見えた。

 

「手前……!!俺の妹分と仲間に……何してくれてんだァァァァ!!!」

 

レンチを捻りドライバーに装填されたロボットゼリーを押し潰す。全身を循環するエネルギーがゼリー状に実体化して両肩のアーマーから噴出した。

落下していた一海の体はその勢いで押し戻され、重力に逆らって福音へと向かっていく。

 

『スクラップフィニッシュ!!』

「キィァァァァァアアアアアアアアッ!!!」

 

一海のライダーキックを迎え撃つように福音の頭上で赤いエネルギーが渦を巻き、奔流が放たれる。

福音が再び獣の咆哮のような音を響かせた。

 

「うおおおおおおおおおおおおおっ!!ぐっ…オラァァァァァァッ!!!」

 

一瞬、押されかけたものの、雄叫びを上げた一海の両肩からエネルギーが更に勢い良く噴出する。

奔流を真っ二つに裂きながら放たれたライダーキックが福音へ炸裂した。

しかし直後、一海は舌打ちする。

 

「ちっ…………マジかよコイツ……」

 

胸の前で両手を交差させ、キックを受け止めた福音を見て一海は顔を思い切り顰めた。

あの光の攻撃で威力を殺されたか、一海は分析しながら福音が攻撃行動に移るのを視界に捉えてもう一度舌打ちする。

福音が広げた光の翼がゆっくりと黄金の鎧を包み込もうとした。

 

「ポテトォ!!!」

「一海さん!!」

 

幻徳と、その体を支えるセシリアが叫ぶ。

その時、上空から急降下した赤い影が福音へ体当たりをした。

 

「猿渡!掴まれ!!」

「!箒っ!!」

 

衝撃で解放された一海は箒が伸ばした手を握り返す。

福音は少しバランスを崩すがすぐに体の各所から光の翼を生やして姿勢を建て直した。

 

「このままじゃジリ貧だ───────ん?」

 

箒の腕アーマーを掴んでぶら下がりながら、一海は眉を顰める。

前方で浮遊する福音が奇妙な行動を取った。

全身から生えていた赤い光の翼が全て巨大化し、まるで繭のようにその銀色の機体を包み込む。

これまで培ってきた戦闘の経験からか、一海の本能がその瞬間、全力で警鐘を鳴らす。

 

「やべぇ!!箒……くそっ!!」

 

一海は再びエネルギーを両肩から噴出し、赤い光の繭と箒の間へと割り込む。

直後、福音は全ての翼を勢い良く開き全方位へ向けてあの光の奔流を乱射した。

 

「ぐ……………………がぁぁあぁぁぁっ!!」

「猿渡!!」

 

両手を広げ、胸部の装甲で光を受け止めながら一海は苦悶の声をあげる。

 

「ぐ…………箒ィ!行け!!」

「猿渡……!!うおおおおっ!!!」

 

箒は叫び、奔流を受け止める一海の横を抜けて福音へと突進する。

一海はそのまま弾き飛ばされ海へと落ちていく。

放たれた複数の奔流の間をすり抜けるように飛行しながら、赤椿がさらに加速した。

 

「キュァアァァァアァァアァァ─────ギャッ!!」

 

迎撃のため新たな翼を生み出そうとする福音へ、幻徳の放った紫色のエネルギー弾とセシリアが撃ったレーザーが直撃する。

衝撃でのけ反り、形成されかけた翼は光の粒子になって霧散した。

福音は迫る刃へ対して腕を突き出す。

 

「これで…………!!トドメだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」

 

赤と銀の機体が激突する。横薙ぎに振るわれた刀が福音の頭部に当たる──────────その瞬間、箒の握る刀が光と共に消失した。

 

「エネルギー切れ…!?また…………」

 

箒の表情が歪む。

福音の伸ばした手がその頭部を掴んだ。

 

「すまない─────皆、一夏…………!!」

「諦めるな!!!」

 

観念するかのように目を閉じた箒の体が、衝撃と共に解放される。

見れば幻徳が福音へと組み付いていた。恐らく再びセシリアに投げられたのだろう。腕を振り抜いた姿勢のセシリアが心配そうな目を向けている。

 

「まだ終わってないだろう!最後まで目を閉じるな!」

 

福音が身体を勢い良く回転させ、叫ぶ幻徳を振り落とす。

幻徳は空中でドライバーのボトルを差し替えて、レンチを捻った。

 

『チャージクラッシュ!』

 

青いエネルギーが幻徳の拳にまとわりつく。空中で振るわれたその腕から青いサメ型のエネルギーが複数体、福音へ向けて放たれた。

まるで自我を持つかのように空を泳ぐサメ達は福音が放った攻撃を回避してその体に食らいつき、爆発を起こした。

 

「幻徳さん!」

 

落下する幻徳の体を再びセシリアが受け止める。だが、そこへ福音が放った光の奔流が降り注いだ。

 

「きゃぁぁぁぁぁっ!?」

「ぐぁぁぁぁっ!!」

 

回避しきれず、二人とも光に飲み込まれて海中へと引きずり込まれる。

 

「セシリア!!氷室!!」

 

武装を失った箒は叫ぶ。だが最早、その声に答える者は誰一人居なかった。

 

「…………皆……」

 

鈴も、ラウラも、シャルロットも、セシリアも、一海も、幻徳も。皆、堕とされた。

絶望が全身を襲う。後悔で心が切り刻まれる。

だが箒はそれでも目の前で翼を広げる福音を睨みつけた。

諦めるな、と言われたから。

 

「きっと……お前も私を見たら同じことを言っただろうな。一夏」

 

ゆっくりと伸ばされた福音の手首を掴み、柔術の要領で投げ飛ばす。だが床も重力も関係ないこの場においてその攻撃は通用しなかった。

身体を回転させ空中で姿勢を制御した福音の掌が今度こそ箒の首を掴む。

 

「ぐっ………………うっ…………!!」

 

締め上げられ、圧迫された喉から苦しげな声が漏れる。

箒の喉を掴む福音の背中から広がった翼が、ゆっくりと赤椿を包み込んだ。

 

(まだ……終わってない…………!!)

 

声にならない声をあげながら、しかしその両目は福音を睨み続ける。

武装を失った両手を固め、福音の装甲をがむしゃらに殴りつけた。だがダメージを負う様子も無く、首を絞める力がさらに強くなるだけだ。

 

(一夏…………!せめて……お前に……………………)

 

機体を包む翼の輝きが増していく。それでも尚諦めない箒の心中に、1つの感情が浮かび上がった。

 

(会いたい………………)

 

会いたい、会いたい、会いたい。一夏に。

溢れ出した感情は抑えきれずに、口からも溢れ出た。

 

「会い…………たい……………………」

 

翼がさらに輝きを増す。箒は、思わず想い人の名を叫んでいた。

 

「いち……か…………!一夏!!」

 

 

 

 

 

「呼んだか?箒」

 

直後、箒の喉が圧迫から解放される。目の前に居たはずの福音の姿はなく、代わりに白い、雪のような純白のISが佇んでいた。そのISを纏う男の姿を見て、箒の目から涙が溢れ出す。

 

「いち…………かぁ………………」

「おう。悪かったな、遅くなって…………下がってろ」

 

泣きじゃくる箒の頭を撫で、福音へと向き直る一夏。そのISの形状は以前とは少し変化していた。

スラスターは巨大化し、左手には大型の篭手のような武装が装備されている。さらにその左脚にはスプリングのような形の意匠が追加されていた。

 

「散々やってくれたみたいだな、ここからは俺が相手だ!!」

 

進化した白式・第二形態を纏う一夏は《雪片弐型》の切っ先を福音へと向け、勢い良くスラスターを噴かせた。

 




取り敢えずストーリーは考え終わりました(投稿ペースが上がるとは言ってない)

7巻辺りまで原作ストーリーに沿ってそこからエボルト倒す話に入っていけたらいいなあと思ってます。あくまで理想。

次で一応3巻分終わります…………
4巻は強盗巻き込まれイベントを消化しておいたのでカットです

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