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「──であるからして、ISの基本的な運用は現時点で国家の認証がひつようであり、枠内を逸脱したIS運用をした場合は、刑法で罰せられ──」
すらすらと教科書を読んでいく山田先生。たまに常識知らずな所があるとはいえ、元政治家である幻徳にとってこの程度の教科書の内容を把握するのはそれほど 苦ではなかった。目の前の席に座る一海も先生の指導の賜物か、黒板の方へ顔を向けノートを取っている。戸惑っている様子は無い。
さらに前方へ視線を向けると、織斑一夏が不安そうな表情で周囲の生徒を確認していた。あの様子を見ると恐らく授業についていけてないのだろう。
(……仕方ない。後で教えてやるか。)
幻徳はノートを取りながら考える。学園で3人だけの男子だ。仲良くするべきだろう。
「織斑くん、何かわからないことはありますか?」
一夏の様子を見かねたのか、山田先生が声を掛けた。
「分からないことがあったら聞いてくださいね。私は先生ですから」
山田先生がえっへんと胸を張る。揺れた。幻徳は思わずカッと目を見開く。
「あっ氷室くんも何か分からないことがありましたか?」
「いえ大丈夫です。なんでもありません」
その表情を見て山田先生は一瞬ビクッとしてから幻徳にも声を掛けた。ブルブルと頭を横に振って心を落ち着かせる。集中、集中。幻徳は煩悩を打ち払い再びノートを取り始めた。
ここで対応を間違えれば恐らく教室の端に控えている織斑千冬の制裁が待っているはずだ。その証拠に彼女は先程から幻徳をロックオンしている。
「えっと…それじゃあ織斑くん。わからない所を教えてくださいね」
「先生!……ほとんど全部わかりません。」
一夏の返答に山田先生は顔を引き攣らせた。千冬は呆れたようにため息をつく。
「織斑、入学前に配布された参考書はどうした。」
「……古い電話帳と間違えて捨てました。」
パァン!!
幻徳は炸裂音がなる瞬間、一夏の方から顔をそむけていた。織斑千冬のあの出席簿アタックは見ているだけで痛い。
……そういえば目の前の一海がやけに静かだ。自分と同じくらいあの制裁を受けているはずだが、目を背ける様子もなく黒板の方へ顔を向けている。頭を抑え呻き声を上げる一夏と彼に参考書の再発行を告げる千冬を視界の端に捉えながら幻徳は一海の背中を小突いた。
(おいポテト……おい!)
(…………zzz)
器用なことに一海は背筋を伸ばし、顔を黒板の方に向け、手にはしっかりとペンを握った状態で寝ていた。寝息も幻徳が耳を澄ませてようやく聞こえるほど小さい。なるほど、これは並大抵の教師では騙されるだろう。だが彼らの前に立っているのは残念ながら並大抵の教師ではなかった。
(起きろ!ポテト……あっ)
「……………………」
気がついた時には千冬が一海の席の前に立っていた。幻徳は同情しながら顔を背ける。
「…………うへへ、みーた」
パァン!!!
気持ち悪い笑顔を浮かべながら寝言をつぶやき出した一海へ容赦なく出席簿が振り下ろされた。
「えっと、氷室に猿渡だよな。俺、織斑一夏。よろしくな」
「氷室幻徳だ。」
「猿渡一海……あぁ、一海でいいぜ。」
先程の授業の後、一夏と一海と幻徳は教卓の前にある一夏の席に集まり改めて自己紹介をしていた。
「しっかし大変だな。この量を1週間で覚えなきゃなんねぇのか」
一海は再発行されたらしい参考書を手に取る。一夏は苦笑いを浮かべた。
「まあ、自業自得だしな。頑張るさ」
「……良かったら放課後に俺が教えてやろうか。中身は大体理解出来ている。」
幻徳の言葉に一夏は目を輝かせた。女子には頼み辛いし、先生の手を煩わせるのも気が引ける。唯一顔見知りだった幼なじみは何故か態度が冷たい。そんな所に幻徳の申し出は渡りに船だった。
「本当か!?よろしく頼───」
「いや、大丈夫だ。その役目は私がやろう。」
一夏と幻徳の間に体を割り込ませたポニーテールの女子が一夏のセリフを遮る。確か──篠ノ之 箒。幻徳は頭の中で目の前の女子の顔 と先日の自己紹介の時に覚えた顔を照合した。
「知り合いなのか?織斑」
「あ、あぁ。幼なじみってやつだ」
幻徳の問いに一夏は困惑しながら返答した。先程、6年ぶりに顔を合わせた時はずっと不機嫌そうな顔をしていてとてもじゃないが参考書について質問できるような雰囲気ではなかったのだ。それがいきなりどうしたのだろうか。
一夏の言葉を聞いた一海は箒と一夏の顔を見比べ「ほほぅ」と楽しそうな笑みを浮かべる。そして幻徳の腕を引っ張った。
「そういう事なら俺達は邪魔みてーだな。おら行くぞヒゲ!じゃーな一夏!また後でな」
「なんだポテト急にどうした?うおっ引っ張るな!おい!」
幻徳を引きずるように自分たちの机へと戻って行ってしまう一海。すれ違う時に箒に「頑張れよ」と小さく声をかける。「いきなりどうしたんだ?」と首を傾げる一夏の肩を顔を真っ赤にした箒の手が掴んだ。
「しっ、心配するな一夏!私がしっかりと教えてやる!1から!!10まで!!」
「わかっ、わかったから落ち着け!揺らすな!」
照れを隠すように一夏の肩を揺さぶる箒とガックンガックン頭が揺れる一夏の姿を教室の後方の自分の席から眺めながら、一海は「青春だな」と笑みを浮かべた。
「再来週に行われるクラス対抗戦に出る代表者をこの時間で決めようと思う。」
次の授業の時間、山田先生ではなく千冬が教卓に立っていた。
山田先生は何かの記録をとっている。
「代表者とはその名の通り、クラスを代表する人間だ。対抗戦だけでなく、生徒会の会議や各委員会への出席もしてもらう……わかりやすく言えばクラスの委員長だな。」
ざわざわと教室が色めきたつ。幻徳と一海は特に興味もなさそうだ。無論居眠りなどをすれば千冬の制裁が待っているため話だけは真面目に聞いている。
「はいっ!織斑くんがいいと思います!」
そうこうしている内に女子の1人が一夏の名前を挙げた。千冬は黒板に一夏の名前を書き込む。
「候補者は織斑一夏……他にはいないのか。自薦他薦は問わんぞ。」
「はいっ!猿渡一海くんがいいと思います!」
「氷室くんも良いと思います!」
千冬の言葉に他にも何人かの生徒が名前を挙げる。一海は面倒くさそうな表情を見せた。幻徳はまんざらでもなさそうだ。
「ちょっと待ってください!俺は──」
「自薦他薦は問わないと言った。拒否権などない。選ばれた以上は覚悟しろ。」
思わず立ちあがった一夏の抗議は一瞬で切り捨てられた。言い返せなくなり一夏は仕方なく席に座る。
「他にはいないか?ならこの3人の中から───」
「お待ちください!!」
意見の時間を切り上げようとした千冬を甲高い声が遮った。1人の女子生徒がバンッと机を叩いて立ち上がる。わずかにロールがかかった綺麗な金髪を靡かせるその姿は「お嬢様」というイメージがしっくりくる。セシリア・オルコット。イギリスの代表候補生で正真正銘本物の「エリート」である。
「そのような選出は認められません!大体、男がクラス代表なんていい恥さらしですわ!わたくしに、このセシリア・オルコットにそのような屈辱を1年間味わえとおっしゃるのですか!?」
「あ?」
セシリアの発した台詞に一海が反応する。しかし気圧される様子もなくセシリアは言葉を続けた。
「実力から行けばわたくしがクラス代表になるのは必然。それを、物珍しいからという理由で極東の猿にされては困ります!わたくしはこのような島国までIS技術の修練に来ているのであって、サーカスする気は毛頭ございませんわ!」
「誰が猿だコラ」
「大体イギリスだって島国だろ!」
セシリアの演説に耐えきれなくなったのか一海と一夏が抗議の声をあげる。
「大体こんな文化としても後進的な国で暮らさなくてはならないこと自体私にとっては苦痛で──」
「イギリスだって食文化最悪だろうが!なんだよ「うなぎのゼリー」って!うなぎに謝れ!」
「あっ、あなたねぇ!私の祖国を侮辱しますの!?」
「そうだ!イギリス料理は不味いものだけじゃない!偏見で物を語るなポテトォ!!」
「氷室!?どこに反応してるんだお前!?」
言い争いはヒートアップしていく。気付けば一夏&一海VS幻徳&セシリアの2チームに別れていた。
千冬はため息をつくと手にしていた出席簿で教卓を叩く。パァンという炸裂音と共に教室は静かになった。
「……候補者は織斑、猿渡、氷室、オルコットの4人か。……ちょうど2人ずつで別れているようだ。よろしい、では一週間後の放課後、第3アリーナで代表決定戦を行う。2チームに分かれ、勝利したチームの2人にはその2日後に一対一での勝負をしてもらう。4人はそれぞれ準備をしておくように。」
千冬が話をまとめる。言い争いをしていた4人は納得したようで大人しく自分の席についた。
(来週か。……一週間あれば基礎くらいはマスターできるだろうし、そんなに難しいもんでもないだろ)
一夏はかすかな不安を覚えながらセシリアの方を向く。セシリアも一夏を一瞥するとフン、とバカにするように鼻で笑い黒板の方へと顔を向けた。
「ったく、参っちまうな。」
一海は夕日でオレンジ色に染め上げられる校庭を眺めながら横に立っている幻徳を足で小突いた。
「イギリス料理を馬鹿にしたお前が悪い。いいか、イギリス料理はな──」
「いやイギリス料理はもういいっつうの。……そういやお前と戦うのは随分久しぶりだなヒゲ。俺とタイマンして以来じゃねえか?」
「フッ……久々の戦いで腕が訛ってないか見てやる。」
幻徳は手に持っていた炭酸の缶ジュースを飲み干すと近くのゴミ箱へ投げ込んだ。一海もジュースを飲み干す。
「あっ!氷室くん!猿渡くん!」
「ん?山田先生」
2人が声をした方へ顔を向けると、副担任の山田先生がこちらへ走り寄ってきた。
(揺れてる)
(揺れてる)
2人は走ってくる山田先生の体の1部分を食い入るように見つめ、気付かれる前にさっと目を逸らした。
「はぁ、はぁ、まだ学校にいたんですね。よかったです」
「はあ、まあ今から帰るところですけど」
山田先生の言葉に一海は頭をかいた。何か面倒事だろうか。男性である2人は女子しかいないIS学園の寮に入ることは出来ないため、学園側で用意してくれた学校外にあるアパートから通学していた。アパートと学校の間には割と距離があるのでなるべく早く帰りたい。
「えっとですね、寮の部屋が決まりました!」
山田先生が笑顔で部屋番号と間取りが書かれた紙と2つの鍵を差し出した。一海と幻徳はそれを受け取りながら首を傾げる。
「あれ?俺ら男なんで寮には入れないんじゃないんすか?」
「俺もそう聞いてますが」
「そのはずだったんですけど、やはり男性適合者の保護という面から考えても学校外から通学させるのは不味いらしくて……急いで部屋割りを調整したんです」
なるほど、と山田先生の説明を聞いて一海は納得した。織斑千冬の話では男性のIS適合者というだけで誘拐や暗殺の危険性があるらしい。正直なところただの人間がネビュラガスによって強化された人間である一海と幻徳に勝てる筈がないのだが──好意は素直に受け取っておくべきだろう。
「アパートの荷物の方はもう寮に運び込んであるので今日から使用できますよ!あ、でもしばらく大浴場は使えないので部屋のシャワーで我慢してください!」
「なんだと……!?」
山田先生の言葉に幻徳がショックを受けていた。
「当たり前だろ」とツッコミを入れ、一海は鍵を受け取りながら山田先生へ疑問を投げかける。
「あれ?っていうことは俺らは男3人部屋っすか?」
ここにはいない男子、一夏の顔を思い浮かべる一海。だが渡された部屋の間取り図はどう見ても二人部屋だった。
山田先生は首を横に振って一海の言葉を否定する。
「いえ、織斑くんはまだ部屋の用意が出来てないので一時的に女子と相部屋になってもらいます。個室が用意でき次第そちらに移ってもらう形ですね。」
「女子と相部屋!?いいんですか!?そんなの!!」
一海は思わず大きな声を出してしまった。なんて男だ織斑一夏。俺がこのヒゲと相部屋なのにお前は女子と一緒に生活だと!?許されるだろうか、否!ぜってぇ許さねぇ!!
突然大きな声を出した一海にビクッと体を震わせながら山田先生は説明を続ける。
「いえっ、そのとにかく寮に入れるのが最優先ということでですねっ、でも織斑くんの相部屋の相手は篠ノ之さんで、幼なじみだから大丈夫だろうって織斑先生が──」
その言葉で一海はクールダウンした。今日の一夏との会話に割り込んできたポニーテールの少女の顔を思い浮かべる。そういうことかよ。なら、邪魔する訳にはいかねぇな。
突然大人しくなった一海の様子を少し怯えつつ伺いながら山田先生は説明を再開した。
「とっ、取り敢えずそういうわけなので、お二人には今日から入寮してもらいます。夕食は6時から7時、1年生用食堂で取ってください!─────あっ!すいません!私これから会議があるので、氷室くん!猿渡くん!ちゃんと寮に帰るんですよ。道草くっちゃダメですよ!」
説明を終え、慌てた様子で校舎へ戻っていく山田先生を見送る一海と幻徳。
その2人を、近くの校舎の屋上から観察する者がいた。
「あれが猿渡一海に、氷室幻徳か。お前達が何者かは知らないが……」
赤い宇宙服を象ったスーツで全身を覆うコブラ男、ブラッドスターク。
「精々強くなってくれよォ?俺が力を取り戻す為になァ」
フルボトルを手の中で弄びながら、スタークはどうやって彼らの「ハザードレベル」を上昇させるか思考を巡らせるのであった。
幻徳とカシラのハザードレベルは最期の瞬間に比べると1度死亡した事で下がってしまっている状態です
大体5.0〜5.2くらいですかね