ローグの変身音ミスってたの恥ずかしい……
よろしくお願いします
サァァァァァ……。
シャワーノズルから熱めのお湯が吹き出す。それを全身に浴びながら、イギリスの代表候補生セシリア・オルコットは物思いに耽っていた。
(今日の試合、わたくしが勝ったのに……)
決着の瞬間、自分を庇うように立ち一夏の刀を受け止めたあの紫色の装甲に包まれた背中を思い出す。
あの結果で自分の勝利を喜べる程、セシリアは愚鈍な人間ではなかった。
(氷室……幻徳さん)
あの、髭面のクラスメイトの顔を思い浮かべる。そして、試合中に投げかけられた叱責の声。仮面に覆われていても分かるほどの強い眼。本国でもこの学園でも、エリートとして振る舞い続けていたセシリアにとって誰かに叱られるのはとても久しぶりの経験であった。
3年前、鉄道の横転事故で両親がこの世を去ってからすっかり余裕を失っていた。両親の遺産を金の亡者から守るために、あらゆる勉強をした。その一環で受けたISの適正テストで高い評価を受け、第三世代装備ブルー・ティアーズの第一次運用試験者に抜擢され、稼働データと戦闘経験値の為に政府の指示で日本にやってきた。そして
出会ってしまったのだ。氷室 幻徳と。強い瞳と、意思を持った男。
知ってしまったのだ。凡人だと、男だからと、見下し、嘲笑し続けた自分をなんの躊躇いもなく庇ってみせたあの紫色の英雄の姿を。
「氷室、幻徳……」
その名を口にした瞬間、セシリアは自分の体温が上がるのをはっきりと感じた。
────なんだろう、この気持ちは。
意識すると途端に胸をいっぱいにする、この感情は。
────知りたい。
その正体を。その先にあるものを。
─────知りたい。幻徳のことを。あの不思議なクラスメイトのことを。
「……………………」
浴室には、シャワーの音だけが響き続けていた。
「いてててて…まだアバラが痛てぇ」
「俺もだ……」
「くっそぉ……あいつに何言われるかわかんねぇぞ……」
よろよろと足をふらつかせながら、学園で3人だけの男子生徒が並んで教室へと向かっていた。
猿渡一海、氷室幻徳、織斑一夏だ。3人とも足取りは重く、時折痛みを感じるのか肩や脇腹を押さえながら呻き声をあげている。特に一海と一夏は表情も暗く沈んでいた。まるで墓場から這い出てきたゾンビのような有様の3人に、周りの女子達はいつものようにはしゃぎながら取り囲んで声を掛けることもせず異様なものを見るような目で遠巻きに眺めているだけだ。
昨日の試合の後、気絶していた3人はそのまま医務室に運び込まれ朝になるまで眠り続けていた。そして目を覚ましたところ容態を見に来ていた織斑千冬に「その様子なら今日の授業には出れるな。遅刻をしないように」と有難いお言葉を頂き、痛む体を引き摺りながら教室へと向かっていたのだ。
「……気が乗らねぇ……」
「待てよ一海…逃げるのは無しだぜ…」
教室の前まで来て、来た道を引き返そうとした一海の肩を一夏が掴む。一蓮托生、死なば諸共。一海は仕方なく逃亡を諦めた。大人しくあのエリート様からの罵倒を受け入れるとしよう。
何やら覚悟を決める2人を尻目に、幻徳は教室の扉を開けた。
「「「一夏くん! クラス代表おめでとーー!!」」」
飛んできたのは一海達が予測していたセシリアの嘲笑うような声ではなく、クラスメイト達からの祝福の声。状況が呑み込めず幻徳と一海、それに祝福された張本人である一夏も揃って首を傾げた。そこへ、席から立ち上がったセシリアが歩み寄る。
思わず身構える一海と一夏だが───2人の不安はまたもや裏切られる事になった。
「申し訳ありませんでした!」
深々と頭を下げるセシリア。一海と一夏は呆気に取られたようで周囲とセシリアを見回す。
「わたくしは大きな勘違いをしていました。お二人を男だからというだけで見下し、侮り──結果幻徳さんに何度も助けて頂くことになってしまいました」
「幻徳さん?」
2人の横で話を聞いていた幻徳が眉を顰めた。記憶が正しければ、彼女は自分のことを「氷室さん」と呼んでいた筈だ。どういう心境の変化か。
セシリアは幻徳のそんな反応を見て慌てた。
「あっ、あのっ……お気に障りましたか?」
「いや、急に呼び方が変わったから少し驚いただけだ…別に気にしない」
幻徳の言葉にセシリアはホッとした表情で胸を撫で下ろす。その頬は赤く染っていた。一海は幻徳へと熱っぽい視線を送るセシリアとそれに全く気がつく様子がない幻徳の顔を何度か見比べ、驚愕した表情で固まる。絶句している一海の代わりに一夏がセシリアの謝罪に応じた。
「あぁ、それについては俺達も売り言葉に買い言葉とはいえ……ええっと…」
どう呼べばいいのか分からず困惑する一夏に「セシリアで構いませんわ」と声を掛ける。
「セシリアの祖国をバカにしちまったんだ。その……悪かった!」
そう言って頭を下げる一夏。慌ててセシリアも再び「申し訳ありませんでした」と頭を下げる。
頭を下げ合う2人と、口を大きく開けたまま凍りついている1人。その様子を眺めながら幻徳は「一件落着だな。」と頷き笑みを浮かべるのであった。
「というわけで、一年一組の代表は織斑一夏くんに決定です。あ、一繋がりでいいですね!」
山田先生は嬉々として喋っている。クラスの女子も皆盛り上がっている。後方を見るとまだ口を大きく開けて驚愕の表情のまま固まっている一海と真顔で拍手をしている幻徳の姿が。さっきはセシリアの謝罪で有耶無耶になってしまったが冷静に考えたら全然一件落着じゃない。
この状況を受け入れることができていないのは自分だけ、それを理解した一夏は手を挙げた。
「どうしましたか、織斑くん。」
「俺は昨日の試合に負けた筈なんですが、なんでクラス代表になっているんでしょうか?」
「それは───」
「それは私が辞退したからですわ」
山田先生の言葉を遮るように、セシリアが立ち上がった。以前のような高圧的な口調ではない、柔らかな口調だ。
「結果こそわたくしの勝利でしたが──内容をみればわたくしが代表に相応しくないのは一目瞭然ですわ。なので自主的に辞退させて頂きました。」
悔しいですけど、と自分の言葉の後に付け加えるセシリア。だが一夏は納得出来ない。
「それならセシリアとタッグを組んでいた氷室が代表になるべきじゃないんですか!?」
「あー、えーっとですね……」
「氷室と猿渡のISはお前達のものとは構造が違う特殊な物だ。なので今回はわざわざ闘ってもらっておいて申し訳ないが私の判断で代表候補から外させてもらった。」
答えに詰まる山田先生の代わりに、教室に入ってきた千冬が一夏の疑問に答えた。確かに、あの2人の専用機は一夏が知っているISの形とはかけ離れていた。そういうことなら──そういうことなのだろう。一夏は自分を無理やり納得させた。
正直まだ完全には納得出来なかったが千冬が来た以上、これ以上駄々を捏ねても意味がないのは明らかだ。
一夏は諦めたように溜息を吐いた。
「クラス代表は織斑一夏。依存はないな。…………ところで、そこで固まっている猿渡はどうした。」
まとめながら、千冬は鋭い目を一海へ向ける。凄まじい殺気を向けられて尚、一海は固まったまま動く様子は無かった。千冬が出席簿を手に一海の席へ向かって歩き出す。
クラスの生徒全員が一海から目を背けるのと出席簿が一海の脳天へ振り下ろされるのは殆ど同時であった。
「くっそ……未だに痛てぇ……」
只でさえ全身が痛むのに、朝っぱらからまたひとつ痛みの原因を増やしてしまった一海は1人ぼやきながら罰として千冬に課された放課後の教室の清掃をしていた。幻徳にも手伝わせようとしたが彼は授業が終わると同時にセシリアに引っ張られてどこかへ行ってしまったのだ。
……別に?悔しくないけど?俺はみーたん一筋だし。自分に言い聞かせながら、同時にあの世界で最期に見た少女の泣き顔を思い出して気分が沈む。
「……………………」
掃除を終え夕焼けに染まる校庭を窓から眺めながら、一海はあの世界での思い出に浸っていた。北都で共に生きてきた可愛い子分たち、初めは敵対し───そしていつの間にか最高の仲間になっていたあいつら、ずっと応援してきたみーたんに、そのマネージャーとしてしょっちゅう自分から金を巻き上げた紗羽さん。自分を人ならざる存在に変えたブラッドスターク……その正体である地球外生命体エボルトに、内海に、鷲尾兄弟に………………
「………………帰るか。」
思い出してるとキリがない。頭を振って、痛みに顔を顰めながら一海は教室を出た。
階段を降り、1度校庭へ出て寮へ向かおうとしたところでキョロキョロと周囲を見回しながら歩く大きなボストンバッグをもった小柄な少女を見つけた。何かあったのか、いらついたような表情で歩いていた少女は一海の姿を見つけるとそちらへ向かって歩いてくる。
「ちょっと!そこのアンタ!」
「迷子か?嬢ちゃん、校門はあっちだぜ。」
遠方を指さす一海に、少女のただでさえ不機嫌そうな表情が怒りに染まった。
「あたしは15歳だーーーーーッ!!」
思わず怒鳴ってしまう。少女はISを展開してぶん殴ってやろうかとも考えたが、自分の立場と政府高官に問題だけは起こさないでくれと何度も頭を下げられたことを思い出しそこはぐっとこらえた。
「そいつは悪かった。で、俺になんか用か?」
怒鳴り声に少し顔を顰めながら、一海は軽い調子で謝罪すると少女へ聞き返す。
そこで少女はあることに気が付き、逆に疑問を投げかけた。
「あれ?そういえばなんでIS学園にアイツ以外の男がいるのよ」
「なんでって……俺もここの生徒だからだよ」
一海の言葉にあぁ!と少女は思い出す。本国で日本に2人目と3人目の男性IS適合者が現れたと聞かされた時に見せられたデータ。そこで見た写真に映っていた男の顔と目の前の男の顔が少女の頭の中で一致した。
「ならちょうど良かった!総合受付事務所ってどこ?」
「総合受付事務所?……ああ、この校舎の1階だろ」
一海はすぐ横に建っている大きな校舎を指し示す。少女は一海に礼を言うとその校舎の入口へ向かって歩き出した。
一海も自分の寮へと向かおうとするが、すぐに先程の少女の声で呼び止められる。
「そういえばアンタ、織斑一夏って知ってる? 」
「あ?なんだ、一夏の知り合いか?」
一海の返答に少女は笑みを浮かべる。そして息を大きく吸うと
「一夏に伝えといて!!
叫んで、「それじゃ!」と手を挙げながら校舎へと向かっていく少女。一海はしばらく去っていく少女の背中を眺めていたが、やがて面倒くさそうに溜息をつくと今度こそ自分の寮へ向かって歩き出した。
カシラも誰かしら女キャラと絡ませたいけどやっぱりカシラにはみーたん一筋でいて欲しい(支離滅裂な発言)
これなかなか、難しいねんな