どうやら、先日の話は無駄に終わったようです。流石の円ちゃんもキレそう。キレた。
「ーーいい加減にしてください二人とも」
「あっ、いや、これは、その」
つい先ほど、再び激突があった。
司令官の乱入が無ければ立花さんは怪我をして居ただろう。
「言い訳は無用です。私の話は無駄に終わったようですし、もはや実力行使以外あり得ません。表に出なさい二人とも。今日は気分が良いのでロンゴミニアドかエクスカリバーか、どちらか選ばせて差し上げます」
立花さんの顔色が真っ白に変わっていく。
対し、風鳴先輩の顔色は憮然としたままだ。
「……はぁ……風鳴先輩」
「ーー覚悟もない人間が戦さ場に立つなど……」
「なら、さっさと司令官にでも上申して後方支援なりなんなりに回して貰えばいいではないですか。なんなんですか。言ってる言葉はそれらしく聞こえますが、結局私怨ですよね。どんだけ引きずってるんですか」
「あなたに、何が分かるとーー」
「前も言いましたよね。何も分かりません。分かる気もありません。ーーそんな過去の存在にずっと引きずられているなら、ずっと眠って居なさい。いいですか。はっきり言います。迷惑です」
口が回る回る。
思った以上に頭にきていたらしい。
しかし、それは当然だと思う。
別に個人的には過去を引きずろうがなんだろうが構わないと思っている。
でも、それを盾に戦場に出たり、他人との不理解を埋める努力をしないなら迷惑でしかない。
その結果『誰かが失われる可能性がある』なら尚更だ。
それだけは避けなければならない。
絶句する二人に私はギアを纏って剣を抜く。
「ーーだから、二人とも病院に叩き込んでおきます。ご心配なく。あとは私が頑張ればいいだけなので」
荒ぶる感情を表現するように白地に映える金が明滅する。
それによって本気度が伝わったらしく、風鳴先輩は呆然としてこちらに背を向けた。
「……どこに向かうのですか」
「頭を冷やすわ」
「わ、私もッ」
立花さんまでダッシュで消えた。
ギアを解除して、ため息を吐く。
うまくいかない苛立ちを壁を殴ることでぶつける。
「……なんでこんなお互いに対して不理解が罷り通るんですか……!」
「ーー円ちゃん」
振り向けば白衣。
入れ替わりに入ってきたらしい櫻井女史だ。
「櫻井女史ですか……」
「バラルの呪詛ーー。かつて世界は一つの言語で統治され、お互いの間に不理解はなかった」
「……バベルの話ですか。神に並ぼうとした人間を不快に思い、神はその思い上がりを正すため、塔をへし折り、言葉までも打ち砕いた」
「そう伝承には記されているわね」
「ーー何が、言いたいんですか」
そうね、と櫻井女史はメガネを外す。
その瞳は柔和なそれではなく、鋭く、強い目だ。
「ーーその不理解を、その呪詛を打ち砕く術があるとするなら、貴様はどうする。鏡崎円」
「それはーー」
《円くん! 翼が絶唱を使って重体だ!》
「なっ」
《これより対策会議を行うので会議室に来るようにッ!》
「すいません! 話はまた!」
返事は聞かず、櫻井女史を置いて会議室に走り出した。
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「ーー容態はどうなんですか!?」
「安定はしている。が、しばらくは戦えないだろう」
会議室に飛び込むと、そこには二課の主要なメンバーが大体揃っていた。
立花さんの姿もある。
「円ちゃん……」
「立花さん……! 貴方は大丈夫ですか!? 怪我は!?」
「私のせいだ……」
「は?」
どういうことかと短く聞き返せば、追い詰められたような憔悴の顔で立花さんは吐き出すように答える。
「わたしが、覚悟もなく戦場に立ったりしたから、翼さんは……」
聞けば、白いシンフォギアを纏った少女ーーネフェシュタンの鎧と呼ばれていたーーと交戦。
その高い戦闘能力に対抗するため、風鳴先輩は『覚悟を見せる』と手本を示すかのように絶唱を口にしたようだ。
「……立花さんのせいではありません。大丈夫ですよ。二課の医療班は優秀です」
「円ちゃん……」
えぇ、と湧き上がる焦燥感を抑えて笑みを形作る。
うまく笑えているだろうか。
「では立花さん。風鳴先輩が不在の間は私たちで平和を守りましょう」
大丈夫。大丈夫。あの剣が簡単に折れるはずもない。
今にも駆け出したくなる胸の内を隠し、私はとある場所へと足を向けた。