戦姫絶唱シンフォギアEX   作:冬月雪乃

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十一話 目覚めると

目覚めると、馴染みのある天井が視界にあった。

どうやら寝ていたらしい。

らしい、というのはあの黄金の一撃の最中に意識を失ったからだ。

揉んだ少女はどうなっただろうか。

というか、あの本性出しました的な櫻井女史は大丈夫だろうか。

 

「おや、目覚めたようだな」

「……櫻井女史ですか。もしかして、そっちが素ですか?」

 

ちょうどいいタイミングで扉が開き、栗色の髪をアップにまとめたメガネのーーつまりいつも通りの櫻井女史が怜悧なまでに研ぎ澄まされた表情で入ってくる。

 

「ーー何も失わない、得られた何かを取り零さない。守る為の力が私のエクスカリバーなのに……すいません」

「いや、大丈夫だ。ーーそれに、収穫もあった」

 

カツン、とベッド脇に立った女史は座ることなく、顔をこちらに向けて笑みを作る。

 

「私の目的は達成する。しかし、それはそれとしてお前の願いにも私は思うところがある」

 

その表情は失い、寂しさと辛さを得たことがある共感。

なんだろうかという戸惑いも一つ。

 

「ーーお前はきっと、私の目的に反目するだろう。最初はいい駒にでもしよう、二人いる装者なのだからと臨床実験の為のサンプルとしか思っていなかったが……」

 

自嘲気味に顔を歪め、

 

「どうやら私にはまだ、このような感情が残っていたらしい」

 

それだけを告げてカードキーを置いた。

 

「お前の状態だが、一週間は最速でかかる見込みだ。弦十郎からの伝言は『治るまで動くな』だ。それまでは病室の入退室は管理され、お前の退室は許可されない」

 

櫻井女史は私の目を隠すようにして優しく手を添えた。

 

「出来れば、私としてはもう少しだけこの助手と戯れていたかったがーー」

 

最優先にしている目標も、目処がついた。

そう続け、繊細な手付きで私の頭を撫でる。

 

「私の知らぬところで発展した異端技術など目にすることになるとは思わなかったが、悪くない刺激だったよ。助手」

「何を言ってるのですか女史? 分かりませんよ?」

「分からなくていい。どうせ記憶はいじるのだ。『お前はいつもの櫻井了子にお見舞いされ、何事もなく眠った』そうだろう?」

 

唐突に暗闇から急速に掴まれ、引きずり込まれるような恐ろしい眠気に負け、意識が断絶する。

 

#

 

ーー入院生活とは暇なものだ。

ベッドからリディアンを眺めながら思う。

どうやらリディアンから響く歌声は装者の回復を早めるらしく、だからリディアンには校内病院とでもいうべき建屋がある。

二課職員と教員が共存する中央棟、病院が併設された校内病院、寮と、表向きの本体である校舎。

あとは聖遺物の織り込まれたノイズを阻むシェルター。

グラウンドもあるが、毎回思うのはなぜあんなカクカクしたコーナーどりをしているのだろうか。しかも途中で三十度くらいの謎のコーナーもある。

目覚めてすぐ、というかベッド脇にいた櫻井女史には大量の課題を出された。

どうせ暇でしょとの事だが、明らかに高校生にやらせるレベルの問題ではない。櫻井了子二世にでもさせる気か。あんな頭良くないぞ私。

 

「とはいえ、暇つぶしにはちょうどいいのは確かですね……」

 

あの忙しいであろう女史がわざわざ作ってくれた課題なのだ。罰であれ、助手として動いている以上は役に立たなければならない。

ベッドから動けない間は勉強に当てれば、より難しい実験の助手も勤められるーーなどと考えて課題に取り掛かる。

 

問1 左記のアウフヴァッフェン波形はなんの聖遺物か答えよ

 

波形が割れてる聖遺物何個あると思ってるんだ櫻井女史ィ!!!

解析する器具もPCもなく答えるのは無理だ。

ちなみに櫻井女史は全部覚えているらしい。おかしい。

 

「……よくよく考えたら、この課題機密の塊なのでは? これ持って帰ったらやばいのでは?」

 

うっわ厄ネタだと頭を抱えるが、わざわざ手ずから作ってくれた課題だ。返すのは感情が拒む。

 

「……大きなリング式のファイルで四つとか、明らかに終わりませんよ櫻井女史」

 

なお、実は私の性格を考慮して課題で足止めというか病院に釘付けにするためだけにこれらを作ったらしいことは全てが終わった後に知ることになるわけだが、この時の私は馬鹿正直に全て熟そうとわざわざ訪れてくれた司令官にPCを強請ったり(遠隔監視付き)していた。

 

そしてある日、立花さんが病室に現れた。

 

「ああ、いらっしゃい……で良いのでしょうか。すいません、櫻井女史の課題で散らかっていまして」

「ーー円ちゃん。ごめんなさい」

 

深刻な顔をしていた立花さんだが、私は別に気にしてない。

デュランダルを持った立花さんはその内包するエネルギーに耐え切れず暴走。

その思考は『破壊』に集約され、そのように行動する。

というのが課題をやりながら深まった知見による推論だ。

そう説明すると、今度了子さんにお礼言わなきゃだね、とへらりと笑って戯けた様に立花さんは笑う。重症だ。

 

「そんな気に病まないでください。聞いていますよ。私と風鳴先輩の穴を立花さん一人で、それこそ八面六臂の活躍を見せていると」

「うー、えへへ、私にはあれくらいしか出来ないというか……」

 

暗くなりそうなので話題を変える。

 

「今、司令官が私のエクスカリバーについて英国側と交渉、説明をしているそうです」

「ほぇ?」

「つまり、この結果次第では私も本格的にギアを纏い、戦えるというわけです」

 

そもそも個人の持ち物なのだが、しかしそれはそれとしてエクスカリバーとは英国屈指の、それこそ象徴と呼べる様な知名度がある聖遺物。

そんなものを日本人が自在に扱うなど、英国側の介入、下手をすれば私の命も危なくなる。

それを避けるための交渉だという話だ。政治ってめんどくさい。

 

「やった! 良かったね円ちゃん!」

 

自分のことの様に立花さんは喜んでくれる。

その様に、やはり立花さんは善意の人なのだろうと思うし、尊いとも思う。

こんな人がリディアン話題のレズップルなのだからやっぱイケメンは男女関係ないのか。

いや彼女が欲しいわけではないが。彼氏も同じく。

 

「えぇ、ようやく装者なのに戦えないなんて不名誉な状態から脱却出来そうです。とはいえ、櫻井女史の助手も続けますけど」

 

最近助手というかモルモットだがまぁそれは置いておく。私だって自分の考えた実験をサンプルが自分で被験してくれたら嬉しいし楽だ。実験がしたいのではなくて結果が知りたいのだから。

 

「円ちゃんは将来了子さんの様になるの?」

「それも良いかもしれませんね。最初はそうでもなかったですが、こういうのは楽しいですし」

 

円ちゃん白衣似合ってるからねぇ、などと

にへらと笑う表情によく笑う女の子だなぁなどと考えてとりあえず感謝を告げる。

白衣は個人的にフェチなので似合ってると言われるのは嬉しい。

 

「見てくださいよ立花さん。櫻井女史ってこんな課題出してくるんですよ?」

 

話題の一環として、少し躊躇ったが課題を渡してみる。

開くと三秒で閉じて机の上に。

 

「円ちゃん頭良いのよく分かった」

「何故カタコトなんですか」

 

立花さんは勉強が嫌いなようだ。

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