戦姫絶唱シンフォギアEX   作:冬月雪乃

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十四話 月を穿つ塔砲

雪音さんとカ・ディンギルの砲撃。

拮抗しているようにも見えるが、よく見ればカ・ディンギルが優勢だ。

誰よりも雪音さんがそれを理解しているだろう。

手伝いたい。だが、ここからでは間に合わない。

ならばと操作権を持つフィーネに斬りかかるが、防がれた上に鞭での強撃が横腹に直撃。

無様にも転がるだけとなる。

同時、十三拘束の自動安全装置が起動。エクスカリバーに纏われていた淡い光は明滅ののちに消滅する。

 

「、ぐ……」

「月が……!」

 

焦りの声に頭上、月を見る。

そこには変わらず月はあるが、やや欠けている。

視界の端、落ちていく人影を見るが、動くより早く墜落したのを確認。

受け切れず、しかし確実に直撃を避けるために強引に軌道を逸らしたのだと理解するに時間はかからなかった。

 

「寝ていた私になにがどうなっているとかは分かりませんがーー」

 

剣を杖に立ち上がる。

そのまま支えにし、まだ力の入らない下半身の代わりとする。

 

「どう考えても! 今は貴女の敵になります!」

 

口に出すのは吹っ切るため。

今だけでいい。後で後悔してもいい。

死んでしまうより、誰かを喪失するよりずっとーー

……なぜこんな発想に至ったんだ?

 

「いえ、それは些事です」

「ち、しつこい……!」

 

がむしゃらに攻撃。

叩きつけるように聖剣を当てていくが、展開されたシールドを割ることは出来ない。

 

「私がフィーネを止めている間に! 立花さん! 風鳴先輩!」

「分かった!」

 

立花さんが風鳴先輩をぶん投げる。

しかし、ここでさらに

 

「充填開始……!」

 

カ・ディンギルに光が灯る。

それは破滅の輝きだ。

 

「一発だけだとでも思ったのか? 兵器が一撃如きで終わってたまるものか」

「ど正論……!」

 

考えなくても分かるほどの正論だ。

可能な限り幾らでも撃てるということであり、兵器として及第というならばさらに量産も可能なのだろう。

恐ろしい話だ。

 

「しかし、ここにあるのは一機だけです! 風鳴先輩!」

「させんさ」

「いいえ! させるのです!」

 

指を合わせ、

 

「《ガンド》!」

「なっ!?」

 

魔術。一瞬動きを止めるだけの魔弾でしかない。

燃費も悪く、撃った後はキツい貧血状態に陥る程だ。

だが、ここに置いて必要なのはその刹那より短い時間。

聖剣の輝きでフィーネの防御を封じ、指差しの魔弾で動きを封じる。

それらは全て、

 

「風鳴先輩の一撃を確実に通すため……!」

「やめろォォ!!」

 

やがて火の鳥の様になった風鳴先輩は光纏う塔砲を半ばからへし折った。

 

#

 

戦場は静寂に満ちていた。

折られた先の塔は木っ端微塵であり、風鳴先輩は降りてこない。

諸共か、とバイザーには弱々しくも生体反応を確認して安堵する。

雪音さんの落ちていった森も同様。

フィーネは呆然と塔を眺めており、立花さんもまた、あっという間に二人もの仲間が命を捨てるかの様な特攻を見せたことで心に余裕がない様だ。

 

「ーー、かつて、先史文明時代。カストディアンと呼ばれる全能がいた。彼は神として君臨し、カストディアンに仕える巫女を以って世界を運営していた」

「フィーネ……」

「私はな。彼に仕える内に、恋をしてしまった。そうして、思いを伝えようと塔を建て、しかしそれによって私は彼らの怒りを買い、文明どころか言語や、彼らとの会話すら奪われてしまった」

 

唐突に零すのは、動機であり、おそらくはフィーネの行動理念。

 

「私だって最初は相互理解をしようと様々なものを提供したさ。異端技術もその一つだ」

 

しかし、とフィーネは区切り、

 

「彼らは相互理解をするより、互いを殺し合うことを選んだ。その世代だけならまだいい。だが、人類はいつまでも争い続け、相互理解など深めようともしない」

 

それは明確な怒りだ。

どこかで共感する自分がいることに気付く。

 

「しかしフィーネ。それは、」

「あぁ。私の罪というならばそうなのだろう。だが、何度言っても聞かないのは人類だ。もはや私も疲れてきていてな。強硬手段に出ざるを得ないというわけだ」

「月を壊し、統一言語を取り戻した後、思いを伝えてどうするのですか」

 

私の問いに、フィーネは答えを言わなかった。

ただ明確に、疲れた視線を向けるだけだ。

 

「聞きますフィーネ。貴女の愛したカストディアンは、彼らの息子ともいうべき我々人類を滅ぼし得るような事をやらかした貴女を愛すると本気で思っているのですか?」

「……恋も知らぬ小娘が、私に恋を語るか」

 

憤怒を湛えたフィーネの言葉に、私は左右に首を振る。

 

「問うているのは私です。恋を説くのは貴女だ」

「……口が上手いな。円。ーーフン、ならば説いてやろう」

 

私はホッと胸を撫で下ろした。

このままいけば、平和に解決できる、と。

日本政府だってフィーネ程の技術者を殺したりはしないだろう。

死ななければどうにでも出来る。

 

「きっと、カストディアンは怒るだろう。当然だ。だが、私の知るカストディアンは平等だ。きっと許してくださるさ」

 

それは切ない響きを持っていた。

言葉とは真逆の思いを秘めた言葉だ。

 

「ーーヴォァアアアアアアア!!!!」

「ッ!?」

「なにっ!?」

 

恐ろしい咆哮が聞こえ、フィーネは背中を反らせるようにくの字になって瓦礫にふきとばされる。

拳を振り抜いた姿勢でそこに立つ下手人は、

 

「立花……さん……?」

 

真っ黒に染まり、目は赤く燐光を放つ羅刹と化した立花さんの姿だった。

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