ーー走る。駆ける。
逃げるように。急ぐ様に。
否。正しく私は逃げている。
通う高校たるリディアン音楽院の制服を乱し、鞄につながる緋色の宝石を揺らして一心不乱に前に前に。
追う者は一見するとコミカルな、どこかでゆるキャラかなにかやっていそうな存在。
ここ最近出現率が上がった人類の天敵だ。
曰く、彼らに触れられようものなれば直ちに炭へと諸共に変わり、死を迎える。
それは如何なる場合においても絶対不変の理であり、しかも悪質なことに、出現する場所を選ばない。
かつては小学校に不意に現れ、地獄を作ったことさえある。ニュースにもなった。
時間経過で自壊する事が救いだろう。
そんな彼らに対する対応は人を盾にして自壊が始まるまで逃げるか、躱して自壊が始まるまで逃げるか、だ。
「ーー、ぁっ……」
廻る景色。
すなわち、転倒。
膝をしたたかに打ったらしくジクジクと痛む。
走り続けた弊害と、不意の痛みに体が動くことを拒否する様に言うことを聞かない。
迫る追っ手。
即ち、死。
視線先に鞄が転がり、そこに繋がる宝石がーーつい先ほどまで生きていた両親が遺したお守りが目に入る。
「おか、さ……おとう……さん……」
手を伸ばし、宝石を握る。
暖かい。
同時に胸に広がる暖かな旋律。
その衝動は胸から溢れていく様に口から溢れーー
「ーー
瞬間。
私は全裸になった。
「なっ、えっ、えぇっ!?」
羞恥と訳の分からなさに困惑を隠せない。
だが、状況も現実も決して私を待ってはくれない。
追っ手は自らを槍のように変化させ、飛来。
その死の飛来を拒否するように目を閉じればしかし、いつまでも死は私の身を襲わない。
恐る恐るに瞼を開けていくと、
「……炭……?」
そこに舞うのは確かに炭。
誰かが身代わりになったのかと辺りを見渡すが、誰もいない。
一体なんだという問いには直ぐに解答が来た。ーーこれ以上なく分かりやすい形で。
追い討ちをかけるように飛来する天敵達は私を囲むように展開されているバリアのようなものに触れた瞬間、炭と還っていく。
「これって一体……?」
全裸で天敵ーーノイズに打ち勝てるようになりました、だなんてなんて嬉しくないんだろう。
せめて服は着させてほしい。
思わずボヤくが、女の子的に全く間違ってないと思う。
「わわっ!?」
その声に応えるように、服が来た。
バリアが狭まり、肉体が触れる。
触れたところからぴったりとしたボディスーツが構成され、さらに長袖長スカートのワンピースドレスが。
それにかぶせるかの様に身体と手足を包むのは白金の装甲。
あっという間に白と金の戦闘用ドレスに身を包む事になり、羞恥は消えたがさらに困惑が増す。
長い黒髪は一房だけある白髪を残して後ろで纏められ、ヘッドホンの様なものが頭部に装着。
耳当て部分からはバイザーが飛び出して鼻から上を隠す。
無意識の動きで腕を鋭く垂直に振り抜けば、そこに当然のように剣の柄がある。
握り、袈裟懸けに振り抜く。
現れたのは身に纏うと同じ白金の両刃剣。
「へ、変身ですか……!」
さながら魔法少女の様に。
ならば、と胸に逸る様に広がる
「ーーもう二度と なにかを取りこぼすものか」
右、左、上段下段。袈裟懸け。時折回転。
自分の身体ではないように体が動く。
「ーーそのためになら私は何も厭わない」
大きく後ろに後退。
剣を突き付けるように鋭く前に。
ーー《
暴風が突如として吹き荒れ、その暴威はノイズを炭へと還していく。
「ーー小さな手の平から溢れ Missing.」
まだ多い。
こんな数に追われていたのかと思えば絶望するしかないが、しかし今はならば怖くはない。
「ーー激情すら
荒々しい旋律と共に剣を振り上げる。
輝けるそれは剣全てを覆い尽くし、輝ける十字を作り出す。
「ーーァァァアァアアッ!!」
もはや歌ですらない。
かろうじて旋律だけ保った猛りを衝動のままに叫び、一瞬で天衝く塔がごとく成長した輝きを振り下ろす。
ーー《
雲を割り、ノイズを炭へとしていく一撃。
光の奔流が世界を染める。
ノイズがいなくなったと本能的な確信を得、しかし油断はしないと《逆巻く王風》をブースターに使い飛び上がる。
再び使って地面と平行に飛び、降り立ったその場で変身が解ける。
あとは重い身体を引きずって自宅に戻れば完璧だ。
ーーそれをとある組織に捕捉されていることを除けば、だが。
その後
若干ラップ調の歌を口ずさみながら戦っていたこと。
そしてその歌は自分から溢れ出たことを直感で理解し、思い出しては悶絶する少女の姿があったという。
わりと自分で歌詞書いててだけど恥ずかしい。