本日二話目
9/15 抜けてた場所があるので改訂。
二課は大混乱に陥っていた。
先の悲劇にて戦える存在ーー装者を一人失い、デスマーチが如くノイズと戦い続けていた矢先に唐突に現れたシンフォギアの反応ーーすなわち装者のもの。
反応解析自体はすぐに終わり、かつて英国にて存在したエクスカリバーであることが判明。
すぐさま二課所属装者たる風鳴翼を急行させるも、急激に膨れ上がるフォニックゲインと天を貫く様な光の柱。そして倒壊。恐らく攻撃なのだろう。
同時にノイズの反応は根絶される。
「生体反応の確認急げ!」
「はいっ!」
下手をすればあのエネルギーは絶唱級。
命を焼べて得られる絶唱は何の処置もしなければ死に至るのは自明だ。
であれば、と自他共に甘いことを自覚する二課の司令官たる風鳴弦十郎は指示を出す。
しかし、発見した反応は高速で移動。大まかな位置しか分からない。おそらくこの反応があの柱を作り出したのだろう。と当たりをつける。
次いで指示を飛ばし、特定を急がせるが、その最中に反応は消失。
しかし程なくして監視カメラなどの記録から身元は割り出せ、リディアン音楽院所属であることと自宅は住宅密集地にあり、ここで拘束連行などすれば彼女の今後にも関わり、さらには機密の漏洩などもあり得る話となることを鑑みて聴取を後日の放課後とする決定を下す。
しかし、目下の問題は彼女が所有していたコンバータユニットらしき緋色の宝石だった。
いわく、このコンバータユニットは粗悪品。模造品でしかない、とシンフォギア関係の第一人者櫻井了子が言い切ったのだ。
そして、そうであるならば機密扱いになっている櫻井理論が盗み見られていることになる。
でなければシンフォギアの模造品など作れるはずもないのだから。
連れさらわれた少女の名前を『鏡崎 円』であることを突き止めるが、両親はノイズによって死に、親族はそもそも袂を分かっていた事を判明する。
ーーそして、鏡崎家はとある異端技術を自分の元としていたこと、円自身がその最高傑作であることを家から発見された手記から特定する。
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海に沈む様な。
ゆっくりと底に向かって沈んでいく。
瞬時に様々な記憶が頭をよぎる。
知らない記憶。知ってる記憶。
ーー封じられた、忌まわしい記憶。
そもそも、鏡崎家とはかつてに栄え、もはや数える程しか現存しない魔術師の家系だ。
この異端技術は記憶でも歌でもなく、生命力を使うことで発現する。
魔術師の目的とは世界との同一。
それをしてどうするのかという辺りは分からないし、興味もない。
確実なのは、鏡崎 円という少女は鏡崎家の最高傑作として調整されて産まれ、しかしその扱いに苦いものを得ていた両親によって連れ出され、絶縁したということ。
両親はまず、その記憶を封じた。
これには感謝するべきだろう。なにせ、そのおかげで学生生活を満喫出来たのだから。
しかし、封印も綻びを得ていたのか。それとも両親の死をトリガーに封印を解除されたのか。
ここに至って忌まわしき魔術の記憶が噴出して刻まれていく。
どれもこれも、即興で行うのは無理。さらに言えば多くが土地などを使う大規模なもの。役には立たない。
一部神秘文字を刻むことで効果を発揮する文字魔術や、指を指すことで呪うガンドなどはあるが、ノイズとの戦いで役に立つかと言われると首を傾げざるを得ない。
瞬きをして、
刹那。
光に溢れて目がさめる。
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朝日が差す。
しかし、己の心境は爽やかな心地とは正反対であった。
生を受け、十五年も育ててくれた両親の、永久的な不在。
どこか現実味のないそれを、しじまに落ちた家の気配から感じ取ってしまう。
死する寸前まで身を案じ、愛し、何かを託す様に笑って背中を押して走れと叫んだあの姿。
未だ鮮烈な輝きをもつその光景は一生忘れはしないだろう。
しかし不思議と実感が湧かないのは私が薄情なのか、それとも遺体が残らない故のものなのか。
すこし端末で調べれば、同じ様な経験をしたノイズ被害者はわりといるようではあった。
慰みにもならないが。
「……とりあえず、学校には行きましょう」
多分身も入らない。
しかし、この家に居るよりは多分マシだ。
あの女教師の怒鳴り声ーーその矛先は大体決まっているーーを聞けばそれなりに日常に帰った気分を得られるのではないかな、という思惑もあった。
ままならないものだ。
その場で服を脱ぎ、その時昨日そのまま寝てしまったことを思い出す。
ならばとそのまま下着姿で脱衣所に向かう。
咎める人は居ない。
その事実が堪らなく苦しくて、しかし眼から零れ落ちるまでには至らない。
それすら自責となってしまうが、黙って受け入れる他ない。他者がどうであれ、自分がそうであるのはこの一時間もしない内に理解した。
あの変身が、両親が生きて居る間に起きて居たならば。
その思いを胸に宿し、重苦しい気分でシャワーを頭から浴びる。
ーー浴びたシャワーは温かく、目元も感応したように熱くなっていく。
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シャワーを浴び、さっぱりとしたところで髪を乾かす。
長く、艶やかな黒髪だ。一房だけ白髪の密集地があり、天然のメッシュのようになっている。手入れは大変だが、母譲りの自慢でもある。
温風で乾かし、次いで冷風で髪を冷やして開いたキューティクルを閉じる。
こうしなければ髪は傷む一方だ。
そして制服を着用。
鞄は昨日と変わりないが、ペンダントのチェーンが切れていたので適当なネックレスに通してトップにする。
形見だ。肌身離さず持っておきたいから、首にかけて制服の下に隠す。
良くも悪くも緩い校風だが、だからといって何をしてもいいわけではない。
学校に苦情や苦言が届けば対処せざる得なくなるし、そうなればこの形見は肌身離さずとはいかない。
要はTPOをわきまえましょうという話だ。
そのまま冷凍ピザを出してレンジへ。
昼用に弁当箱を出すが、何か思い付かないし適当にブロック状の携帯食を詰めていく。
見た目がなんだかすごくディストピア飯といった具合だが、味は保証されている。
冷凍ピザの温めが終わった。
出してサクサクと食べていく。
ーーピザはやはり人類が生み出した至高の財……!
無言で食べ進み、終わる。
台所で食べていても誰も咎めない。
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「ーー立花サンッ!!」
甲高い怒鳴り声に思わず自然をそちらに向ける。
明るい髪色に、明るい表情。
同級生の困ったような、苦笑いするような不思議な表情にああなんだ、と思う。
立花響。アイドルユニット『ツヴァイウイング』の片翼が失われた凄惨な事件。その唯一の生還者。
その全貌は明らかになっていないが、特に根拠もないバッシングは日本全体に波及し、流行病のように終息していった。
両親は立花響擁護派だったが。
ともあれ、サバイバーズキルトもかくやというほどに人助けに奔走する彼女は今日も今日とて人助けの先に自分が損を被ったようだ。
隣、いつも一緒にいる少女も呆れた顔をしている。
実は恒例の行事なので誰も気にしない……というか、実は立花響へのバッシングはリディアンにもあり、それを見て聞いて実感した自分としてはあの怒鳴りがあるからそこまで表層化しなくて済んでいるのかなとも思う。
誰だって自分の手は汚したくない。が、こうして誰かが彼女を責め立てているのを眺めている分にはいい……とか。
卑劣な思考だ。
「はぁ……」
陰鬱な思考を打ち切る。
ノートは取り終わってないし、散々だ。
やっぱ集中出来ていない。
胸に当たるペンダントを握り、暖かで、しかし激しい旋律を耳に入れる。
暖かなのは父親。激しいのは母親を思い出す。
いきなり激しい音が強くなった。
びっくりして手を離す。
まるで集中しなさいと怒られた気分だ。
苦笑し、ノートに取り掛かる。
不思議と、穏やかな気分で一日を過ごせた。