あれから数日。
放課後は二課に顔を出し、シュミレーターでの仮想訓練を繰り返す。
ノイズの発生は幸いにして無く、スクランブルになることは無かった。
『次。ノイズとの乱戦時、要救護者をその中心から救い出す想定だ』
いや無理だろう。
思わず口にしかけたが、しかしどのような状態であれ助ける事を諦めるのは悪だ。
そもそも、二度と喪わない、喪わせないと二課に所属する時に決めた。
手段は問わなくていい。目的は変えてもいい。けれど、その信条だけは曲げてはならない。
「了解しました」
纏う白金は灯を照らし、反射して怜悧な鋭さを持って存在感とする。
その存在感が以前より重く、しかし心地の良い強さを感じさせるのは櫻井女史が行ったシンフォギア改修によるものか。
形見の品とは別だ。
こちらは中のエクスカリバーを抜いてダミーを入れ、真実ただのアクセサリーとなった。
そして女史の解析によればエクスカリバー自体の特性は収束と放出。私の絶唱特性が超追跡とのこと。
収束と放出がどう私と混ざったら超追跡に変わるかは分からないが、シンフォギアの第一人者が言うのであれば間違いはないのだろう。
さて。
ノイズは目測三十から五十。
その中心に要救護者がいるのだとバイザーに表示されている。
ノイズはほぼ同時に要救護者に攻撃を仕掛けるという前提条件で、こちらの勝利条件はノイズの殲滅ではなく、要救護者の救出だ。
で、あるなら。
剣を握る拳に力が宿る。
胸に宿る旋律が口を経て力と変わり、エクスカリバーは力を収束してその身に溜め込んでいく。
ーーMusic『失喪エクスカリバー』
「ーーもう二度と なにかを取りこぼすものか
そのためになら私は何も厭わないーー」
思い返すのは目の前で失われた大切。
知らぬ事といえ、しかし、タイミングが悪く、合わず、だから取りこぼしたもの。
「小さな手の平からすべて Missing.
激情すら喪失(そこ)に届かずに Lost my heat.
疼くような残滓ですら 取り零し許さぬと
誓ったんだ
全ての始まりに」
エクスカリバーの輝きは目を覆わんばかりとなり、その両刃が左右に割れた。
現れるのは砲身。
光の柱とかビームとかいう力技ではなく、正統派な遠距離も行けちゃう出来る聖剣だとは女史の評価だが、使う自分としては『がんばって出来る様にしたよ! 褒めて!』と言ってる様な気がしてならず、なんだか愛しさすら溢れてくる。
『ではスタートだ!』
瞬間。
全てのノイズが攻撃態勢に入り、
ーー《
エクスカリバーから放たれた幾千ものか細い光条がノイズごと要救護者を焼き払った。
「……」
『作戦失敗。力み過ぎだお前は』
ヘッドホンに響く声にがくりと肩を落とす。
ーー通算二十六回目の同作戦失敗。
いつも焼き払われたり炭になったりする要救護者のプログラムさんには申し訳なさでいっぱいだ。
今回の反省点はそもそも、必要最低限以上のエネルギーをぶっぱしてしまったところだろうか。
一旦端に寄り、ノートに書き込んでいく。
そうしてうんうん唸っていると、横合いから冷たさが頰に来た。
「ひゃぁうっ!?」
「円。あまり根を詰め過ぎては良くないわ」
「……風鳴先輩……」
凛とした少女。
トップアイドルにして人類守護の剣がそこにある。
風鳴先輩は呆れた様に肩をすくめると、やぁあって思いついた様に口を開いた。
「ふむ……そうね。私と模擬戦……どう?」
「どうと言われましても」
では決まりだな。と少女から剣へと意識を切り替えた風鳴先輩はシュミレートオペレーターに連絡を取って瞬く間にフィールドを展開していく。
「そこまで力まず、単なる息抜きだと思うといい。円。あなたはあなたのやり方があるのだ」
「……私のやり方、ですか」
聖剣ぶっぱして終わり。しか思いつかないのは技術局長以外の二課スタッフが大体脳筋だからか。影響受けてるな私。自虐がこぼれる。
「分かりました。胸を借ります」
#
戦闘が始まってすぐ。
翼は円の猛攻を紙一重で防いでいた。
考え無しではない、考え尽くされた幾千もの剣戟乱舞。
聖剣から陽炎の様にエネルギーが熱を持つ。
「頭でっかちだな貴様はッ!」
「考えなければ失うのです! 永遠に! 愛した世界も! 仲間も! 家族も全てッ!」
打てば響く様に円の思いが伝わってくる。
模擬戦はいい。剣を交え、互いを伝えられる。
それは言語が不要なだけの会話と同じだ。
お互いに歌わなければならない今、その会話は心地よさを両者に与えるだろう。
ーー円の歌は優しいな。
アップテンポで激しい曲調に反し、その歌詞はどうあっても『失いたくない、失わせない』というテーマからは逸脱しない。
ノイズ憎し、相棒の死を今も引き摺る自分としてはクるものがある。
「先輩こそ! 人を一人背負ってずっと戦い続ける気ですか……!?」
問いが来た。
瞬間、脳が沸騰した。
「貴様に何がわかる!? 奏のことなど微塵も知らぬくせに!」
「ーーッ」
飛び上がり、離した剣は瞬く間に巨大化。
その持ち手を蹴る様にして切っ先を円に叩きつける。
天ノ逆鱗。
「分かりません……ッ!」
対し、円は聖剣を合わせる様にして迎え撃つ。
ーー面白い。
自分の逆鱗に手垢を付けたのだ。
触れてはならぬ場所があると教えねば。
「ならば知れッ!」
着弾。
円は力より技巧の戦士だ。
互いの剣の先を合わせることなど造作も無いのだろう。
逃げず、受ける覚悟を翼は激情の中であっても評価した。
「っていうかこれ模擬戦じゃないんですかーーッ!」
円の叫びは無視。
ぐりぐりと持ち手を踏んで捻って押し込んでいく。
「ああもう!」
ーー《
不意に巻き起こった嵐が逆鱗ごと翼を吹き上げた。
「ーーお前は何のために戦う?」
「私は、喪わないために。喪わせないために。誰かが失われてしまえば、誰かの世界はその分死んで寂しくなっていくんです……!」
理解は出来る。
しかし、
「だがそれは、後手に回らざるを得ない我々にとっては自分を殺す願い……」
「分かってはいます」
逆鱗をしまい、構えて対面。
「でも、それでも願わずには居られないんですよ! ーー貴女だって知っているでしょう!?」
血を吐く様な声に頭が一瞬で冷めた。
そうだ。
だから、熱くなったのだ。
飛んだ醜態だ。
「『わたし』はあの日に死にました。今は『私』として生きています。願いを叶えるために!!」
円は泣きながらも構えた。
#
ーーどうしてこうなった?
円の冷静な思考は疑問を提起した。
そもそも、これは模擬戦だったはずだ。
それをなぜいつの間にかこんなガチバトルになっているのか。
決まっている。お互いがお互いの痛いところを煽ったからだ。
「ーー失いたくないから、手を伸ばさない。近寄らない」
歌詞は二番。
喪失を恐れる故に手を伸ばせなくなった少女の話だ。
「ーーそうすればほら、失わない。けれどどうして? なぜこんなに寂しいの」
一番で喪わない決意を固め、しかし失った故の二番。
何もない故の寂しさだ。
分かってはいる。
「ーー苦しくて、切なくて、助けなどどこにもなくて」
「はぁぁぁあっ!!」
切り込み一閃。
翼が突貫してくる。
それをいなして、
「ーーほんとはずっと、気付いていたんだ」
袈裟、横薙ぎ、刺突。
舞い散る火花は舞踏の様に。
「これで終いです」
「なに!?」
エクスカリバーには十分にエネルギーは収束した。
歌をやめ、上段に振り上げ、下ろす。
《
聖剣の輝きが視界を真っ白に染め上げた。