戦姫絶唱シンフォギアEX   作:冬月雪乃

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五話 櫻井了子の突発円の晩御飯

司令官からやらかしの説教を受けた。

めちゃくちゃこってりがっつりバッチリ絞られたし、罰として櫻井女史の研究助手としてしばらく活動するハメになった。

まぁ、やる事は基本的に女史の手伝いだし。

ーーセクハラが大問題だが。

とはいえ、まぁ、それは仕方ない話。自業自得だ。

今回は訓練所が一週間使えなくなっただけだが、一歩間違えたら殺しかねなかったのだから。

ちなみに先輩はビームを避けた。次の機会があれば是非ともぶち当てたい。悔しいし。

とはいえ先輩も無理な動きで肉離れだ。

完全にやらかした。

お互い謝って、とりあえず仲直り。

 

「ーーで、なんでここにいるんですか? 櫻井女史」

「やぁねぇ女史な・ん・て。了子って呼んでいいのよ?」

 

そうして重い足を引きずって家に帰ったら櫻井女史がソファに座ってテレビ見てた。

あれか。天才は頭おかしいとはマジな話なのか。鍵とかどうしたんだと一瞬考えたが、どうにかこうにか入ったのだろう。考えても無駄か。

思わず通報しかけた私は悪くない。

 

「考えておきます。で? なんでここに?」

「円ちゃん寂しいかなぁって」

「……そうですか」

 

なにも言えなくなってしまった。

あとお腹空いたぁおゆはんつくってぇと強請る二課の技術局長に毒気を抜かれてそのまま台所へ。

 

「今日は適当にお米を炒めるつもりでしたが。それでもいいですか?」

「ギョーザも付けてねぇ」

 

ほんと自由だこの局長。

ため息を一つ。

ふといたずら心が湧いて、醤油と米だけの炒め物を出してやろうかと思ったがほにゃぁと顔を緩めてテレビを見てる姿にやる気が萎える。

卵と米を炒め、炒飯の素を混ぜて炒飯を。

それと同時進行で冷凍餃子を出して作っていく。

やがて漂う良い匂いにつられたのか櫻井女史が台所に現れた。

 

「炒飯って匂いね」

「炒飯ですからね」

 

あぁんにべもなぁいとくねる美女を居間に叩き戻して調理に戻る。

といっても、あとは盛り付けだけだが。

器に盛って、皿を被せてひっくり返す。

ドーム状になったのでグリンピースを乗せて終わり。蓮華を合わせて櫻井女史に出す。

 

「普段食べてる様な味ではないかもですが」

「あら、一番大事なのは相手を思う心よ」

「クサくないですか言ってて」

「そうかしら? でも、真実じゃないかしら」

 

屈託のない笑顔に何も言えなくなる。

それが事実だったらいいと、そう思うからだ。

 

「早く食べちゃってください」

 

苦し紛れに台所に引っ込んで、自分の分を持ってきて黙々と食べる。

久しぶりに誰かと食べる夕飯は心に沁みていく感覚がした。

 

「ほんとは貴方の保有する異端技術を見に来たんだけど、なーんかどうでも良くなって来ちゃったわ。ど? オネーサンとこのあとお風呂でも」

「色んな自信が砕けそうなのでやめときます」

 

可愛い、と笑って櫻井女史はテレビに視線を向ける。

静寂。しかしそれは気まずいものではなく、心地の良いものだ。

 

「私の異端技術は、魔術と呼ばれています」

「あら、どしたの」

「知りたいのでしょう? 別に、味方に隠す意味もありませんし、そもそもこの異端技術は欠陥もいいとこです」

 

へぇ、とテレビを消し餃子を摘みながら録音機を取り出してスイッチを入れる。

 

「シンフォギアが歌をエネルギーにするなら、魔術は命。自分の生命力を焼べて現象を起こす奇跡の再現です。時間もかかりますし」

「命を……」

 

炒飯を一口。水を飲んでさっぱりさせて、

 

「ですので使い過ぎれば当然死にます。ですから、私はほぼこの魔術を使う気は無いです」

「そうよね。だって訓練でも一回も使ってないし」

 

なるほど、だから来たのか。納得を得て、頷きを返す。

 

「そういう意味では、櫻井女史には感謝しているんですよ」

 

戦う力を、喪失に抗う力をこうして魔術に頼らず得られるのだから。

 

「照れるわねぇ。で、魔術って何が出来るの?」

「時間と生命力が許す限りは何でも」

 

凄まじいわね、と櫻井女史は呟いてまた炒飯を一口。

 

「私の魔術師としての切り札は『心象結界』ーー。その特性は鏡に写した様に他人の心象を写し、顕現させるというものですが、使う気は無いです」

「流石にわかるわ。他人の心象を写すということは、自分の意味喪失を起こしかねない。この事は私と貴方の秘密にしておきましょ」

「ありがとうございます」

「あー可愛い。食べちゃいたいわぁ」

 

ーーこの時、私は気付けなかった。

櫻井女史の目が一瞬だけ。猛禽の様な獲物を見る目に変わった事を。

 

この寂しくなった冷たい(世界)に唐突に現れ、暖かな日常を再現してくれた優しい女史に油断していたのかもしれないし、もしかしたらすごく気を緩めていられるほどに心を許してしまったからかもしれない。

けれども、この時から、櫻井女史に対して心を許すようになったのは間違いがない事実だった。

 

#

 

あの後、お風呂乱入などの女同士だから出来るーー出来るからと言ってやっていいかは別ーーのイベントをこなし、就寝の時間。

女史はなぜか私の部屋でテレビを見ているが、勝手に帰るだろう、さぁ寝るぞとベッドに入ると、それはもう予期せぬ速度で櫻井女史が乱入してきた。

 

「若い子と一緒に寝て若さ補充よぉー」

「それ私の若さ吸い取ってますよねやめてください!?」

 

押し出そうとするがまるで風の様に抑え込まれ、女史に背中を向ける形にさせられる。

そして背後から抱きすくめられる。

一瞬遅れて状況を理解し、顔が真っ赤になっていくのを感じる。

 

「ななななっ、なにをっ!? ちょ、どこ触って!?」

「若さの補充よぉ」

「わわわわわわっ」

「なーんて、ただの触診でしたぁ」

「び、びっくりさせないでくださいよ!?」

 

足とか際どいところまで触られた。

本当に観察する様な手つきだったからかドキドキはしたが嫌悪はない。

やがて大人しく抱くだけになった女史に何も言えず、なんだか馬鹿馬鹿しくなって身体の緊張を解いていく。

そうしてしばらくの時間静かに過ごしていると、

 

「聞いたわよー。今日、頑張ったみたいね」

「あぁ、いえ、その、恥ずかしいことに中々うまくいかなくて」

 

やりたいことはうまくいかない。そんなものよね。と櫻井女史は女史らしからぬ声色で抱きすくめたままにつぶやく。

その声色は、慈愛……? いや、怒り、もどかしさも感じる?

しかしそろそろ感じる暖かみが眠気を誘い、うまく思考がまとまらない。

 

「一日よく頑張りました。おやすみなさい。円ちゃん」

 

頭に本当に軽い衝撃。そして重み。

重みはゆっくりと左右に揺れる。

撫でられている。

とてつもない安心感が心を満たし、眠気が私を覆い尽くした。

 

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