戦姫絶唱シンフォギアEX   作:冬月雪乃

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七話 やらかしの罰と理不尽

今日も今日とて櫻井女史の研究助手だ。

本日の実験は『フォニックゲインの過重供給によるシンフォギアへの影響調査』である。

 

つまり、装者を使う。

そして、装者とは私だ。

 

「なんて顔してるのよ? 安全性は確認済みだから大丈夫よ」

「いえ、なんというか、真っ当に実験してる女史を見てると違和感がすごくて」

「あーら。私だって月に二、三は論文出さないとならないのよー」

 

それでも学会にはせっつかれるけど。と愚痴をこぼす女史に苦笑いで返し、ふと思いつきを口にする。

 

「暗にそれ、説得力を持たせる為だけにやる実験では」

「あら正解。ちなみに仮説では、いくつかのギアのロックが外れて限定条件下での運用が可能になる。というのが有力ね」

「ほぇ」

 

流石に国家機密の装者を使って実験しただなんて口が裂けても言えないけどねと笑いながら続ける女史だが、受ける側としてはたまったものではない。

 

「ま、弦十郎君にも『やりすぎるな』と釘刺されてるし、安心すると良いわ」

「櫻井女史って割とマッドですよね」

「あら。お熱いのが所望?」

「櫻井女史って優しくて素敵だなぁ!」

 

よろしい。と女史は言いながらも慣れた手付きで私に枷を嵌めてくる。

ちなみに私は既にシンフォギアを纏っている。

 

「……なんでこんなに小慣れてるんですか」

「女は秘密が多い方が綺麗になるのよ」

 

質問の答えになってない。

あっという間に吊り上げられた我が身で、自由はない。

 

「そういえば、知ってるかしら。翼ちゃんと響ちゃんの確執」

「そらもう。側で見てますからね」

 

立花さんは二課に協力ーーというか所属ーーする意思を示した。

それはまぁいい。

体内で聖遺物が融合しているなら、その方が対処しやすいからだ。

しかし、問題は立花さんが風鳴先輩に言った言葉だった。

 

ーー奏さんの代わりになれるように頑張ります。

 

確かこんな感じの言葉だったはずだ。

彼女としては善意だけで作った言葉だったようだが、受け取る風鳴先輩としてはそうではない。

未だ彼女にとっての相棒は天羽奏であり、彼女だけが相棒になり得るのだと思っているからだ。

 

「立花さんの病み加減も凄いし、風鳴先輩に至っては完全に意固地になってます。毎日毎日愚痴や相談を聞くこっちは板挟みですよ」

「こればかりはどうしようもないわよねぇ」

「です。戦場でもケンカーーというか風鳴先輩が立花さんを一方的に役立たずだと見做してるからか、あわや大惨事、なんてこともありましてね……」

「あぁ……あのバイクに轢かれかけた時ね」

 

ノイズに放ったバイクが立花さんを乗せてそのままガスタンクに突っ込み、爆発した事がある。

風鳴先輩としては鎧があるから大丈夫だという認識だったようだが、酸欠は別。

そこに思い至らない風鳴先輩を怒鳴って助けさせた事がある。

あの時は流石に風鳴先輩も青ざめてはいたし、最終的にぶっきらぼうに謝ったのでスネを蹴って頭を下げさせた。

流石に拗らせすぎだ。

 

「あれは肝が冷えました。無傷だったから良かったものの……流石にそろそろ私も限界です。二人まとめてカリバっていいですか。ミニアドでもいいですけど」

「貴女実は二課壊す為に派遣された工作員じゃないでしょうね」

「私の技は基本的に大火力なんです」

「そんなんだから出撃出来ないのよ。ーーまぁ、英国政府への説明もしてないからそもそもあまり出れないのだけど」

「バレなきゃ大丈夫では」

「……その派手な火力で?」

 

そりゃそうだ。

 

「さて、では始めましょ。鼻歌でいいから適当にフォニックゲインを貯めて、増幅してみなさい」

「えーと……Laーー」

 

エクスカリバーが発光。

振動を開始。

それを確認した女史は逐一計器を見ながらタブレットに数値を打ち込んでいく。

しばらく歌っていると、女史が制止の合図をしたので鼻歌ストップ。

エクスカリバーが黄金に輝いていき、その黄金は粒子になって鎧に浸透していく。

 

「綺麗ね」

「ですね。あっ、あつい! 櫻井女史! あつい! あついですこれ! 櫻井女史! 女史! あつ、ちょ、了子さんこれ熱いです!!!」

「あら初めて名前呼ばれたわね。まぁ振動していたし、熱を持つだけの質量があるエネルギーと解釈しておこうかしら。さてAmplitudeはっと……」

「いやそれより枷! 枷!!」

「必死な声が愛いな」

 

研究モードにはいると鬼か畜生になることがよーく分かった一日だった。

ちなみに、火傷はしなかったものの、後日枷を嵌める意味などどこにもないことを知った私はいつか櫻井女史をエクスカリバることを誓った。

 

#

 

さて。

この重たい空気をどうしてくれようか。

 

対面するは立花さんと風鳴先輩。

その間に私。

めげない諦めないへこたれないの体現者であるところの立花響に対し、遂に風鳴先輩がキレてしまった、というのが現状だ。

 

「立花さん。立花さんは色々勘違いしてます。あぁ風鳴先輩は待ってください鞘走らないでくださいステイステイ」

「勘違い……」

「はい。まず、立花さんは立花さんでしかありません。最近口癖のように奏先輩の代わりになると言っていましたが、そもそもだれもそんなことは望んでません」

 

左手側。

風鳴先輩が今にも剣を抜いて突進しそうなのを手で制し、まずお互いの行き違いや勘違いを修正していく。

 

「風鳴先輩も少し意固地になりすぎです。少しは先導者としてアドバイスとか、奏の代わりなどいない、望んでない事を伝えるべきでした」

「しかしだな……」

「しかしもなにもありません。会話すら拒んでいては、何も変わりませんよ」

 

うぐ、と風鳴先輩はたじろぐ。

少しは自覚があったのだろう。

そもそも、風鳴先輩は優しい人だ。どこかで慕ってくれる後輩に罪悪感を感じているのは分かっていた。

それ以上に怒りを抱えているのも。

 

「あと、立花さんは自己評価を改めてください」

「うっ、いや、でも」

 

おそらくだが、彼女の自己評価の低さは環境があったと思う。

最初は普通であったのだろうが、『悲劇のライブ』後厳しい環境に置かれた彼女はその要因を『ほかに生きるべき人がいたにも関わらずその人たちを押しのけて生きてしまった自分』に求めた。

その結果の人助けであり、基本的に自分に対して全く価値を感じていないのだろう。

しかも、だ。

タチが悪いことにそれを自覚していない。

なので自己評価は他人からの評価に比べて圧倒的に低く、もし他者に褒められたり評価されていることを伝えてもお世辞や社交辞令として受け取って信じることはない。

 

ーーだからこの言葉が効く。

 

「小日向さんはあなたのこと大好きですよね」

「ふぇっ、た、多分……」

「あなたが誰かの代わりになるということは、小日向さんがあなたに対して感じている感情を嘲笑う事になることは理解してますか?」

「え?」

 

よし。釣れた。

 

「では逆の立場から考えてみましょう。あなたは小日向さんが大好きですよね。で、小日向さんはしかし。そんな言葉には目もくれず、誰かも知らない人の代わりになるのだ、それでみんな幸せなんだと『あなたが好きな小日向未来』を簡単に否定せしめる」

「……それは……」

 

実は自分にもグッサグサ刺さる言葉で、ついつい視線を泳がせる。

 

ーー……なんで司令官に櫻井女史に……オペレーター組まで居ますねあれ。なんで。

 

「わかりましたか」

「うん……」

「そして風鳴先輩にとって天羽奏という存在は唯一無二。絶対神並の存在感を示してます。もはや帰依してるレベルです。宗教です。なので、そんな存在に代替すると宣言するのはつまり神に並ぶということ。風鳴先輩はいきなりそそり立ったバベルの塔を粉砕せしめんとするでしょう」

「待ちさない円」

 

纏めようとしたら風鳴先輩と模擬戦するハメになった……なんで……!?

櫻井女史に助けを求めると睨まれた。なんで……。どうして……。

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