ハイスクール・フリート 灰色の狼娘たち⚓   作:黒助さん

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第十二話:艦長の答え、私の答え。ハイスクール・フリート

 あれから4日が経ち、二十一日目、遭難十八日目にして、私達は学園へ帰還を果たした。船から降りた私達は初めに、謝罪を受けた。まぁでも、まさかあの場に海賊船?なんかが居るとは誰も思わないだろう。だから、とりあえず学園側は学級費を少し出すことで手打ちとし、ローゼマリーさんの機嫌は良くなった。

 それと、学園側は不審船の報告後、パタリと通信が途絶えたことについて訊いてきたが、学園側はその後の応援要請を受けてはいなかったと言っていた。あの後の出来事についての報告で私達艦橋要員の仕事は増えるかと思われたが、ラッヘルさんの記録係としての仕事がそれをカバーしてくれた。ラッヘルさん様様である。

だが、その要請を受けてないという事実には謎が残った。通信は、その前にはできていたはずだったし、通信機類が壊れたのも要請後のはずであった。通信がうまくできなかったのだろうか。そして、そもそも、あの不審船は何だったのだろうか。謎が謎を呼ぶ事件であったが、その難題を乗り越えた今はもう、学園やブルーマーメイドの管轄のお仕事であった。だから、気にせず私達はその報告を提出したのだった。

 そしてもう一つ。U-ボートはもうボロボロとなっていたため、ドックに入れられ修理をすることとなった。約一ヶ月間以上かかると言われ、ダートマス校との合同訓練には遅れての参加となると言われた。もちろんその間は休みというわけでなく、座学である。その時の皆の落ち込み具合と言ったら……。

 それらをさておいてひとまず、皆が最初に向かったのはお風呂だった。まとまってまずは清潔にしてから報告とか、色んな事後処理をするということだ。

 しかし、ビアンカ艦長だけはその場に姿が見えなかった。一体どこに行ったのか。私は心配しつつも、レオニーさんが口説いてくるのでエルヴィーラ副長を呼んで、その場を回避しながらお風呂へと向かったのだった。

 

 

☆☆☆

 

 

 重厚な扉のその先に、見晴らしの良いガラスをバックに、一つの立派な机と椅子を中央に配置させた部屋があった。そして、ロッテンベルク学長がその席に座っていた。その傍にはマイヤー教官が立っており、ここに来る子達の事の行く末を見守っていた。

 そこへ現れたのは、ビアンカ・フォーグラー。学園始まって以来の初のU-ボートの艦長だった。

「まずは、よく無事に戻ってきてくれた。そう言おうか」

 少し離れた位置に立つビアンカに、学長はそう労いの言葉をかける。ビアンカは、ただそれを清聴していた。

「そして、おめでとう。君たちは他の艦より長く航海できていた」

「他の艦より……?」

「そうだ。大体の船は早々にリタイアしたよ。ただし、君とは違った理由でね」

「……」

 それは、ビアンカもリタイアしたような物言いであった。しかし、ビアンカはそれを聞き返すこともせず、受け止めていた。そして学長はふぅ、とため息をつくと続けた。

「そもそも、君のことだ。あの時こう考えていただろう? 早々にリタイアしよう、と。わざわざそんな危ない目に、船員を巻き込みたくないとね」

 その言葉に、ビアンカはそっと目を閉じる。

「……否定はしません。結果的に長い遭難となりましたが、あの件がなければそうしていたと思います」

「その行動はよろしくない。が、その行動原理は大事にすべきだ。だが、一方で優しさが甘さを生むこともある。気をつけたまえ」

「……」

 説教臭くなったなと、学長は笑う。そしてそれを黙って受け取るビアンカに学長は続けた。

「それにな、もともと我々は君たちの遭難が十日ももつとは思っていなかった。その上で、実際の戦闘に巻き込まれ、かつ結束を固めて帰還を果たした君たちは優秀にも思える」

「……ありがと―――」

「だが。それだけではこの課題をクリアしたことにはならない」

 しかし、感謝の言葉を遮って、学長はそう切り出した。先程のにこやかな微笑みはと打って変わって、ニヤリと、鋭い笑みを浮かべる学長。雰囲気の切り替えが、空気の切り替えが表情一つで行われた。そして、肝心要の本題へと話は動いた。

 

「さて、聞こう―――――――本当の怖さは何だと思う?」

 

 

☆☆☆

 

 

 少しの沈黙が部屋に訪れる。少しして、ビアンカは学長と目を合わせると、自身の得た怖さを答えた。

「私は、自身の決断で船員を失う恐怖が何よりも怖い……そう思います」

「ほう」

「父から毎日のように言い聞かされていた海の恐怖でしたが、実際に航海に出て、その怖さを実感しました」

「その上では、在り来りな答えかもしれません。でも、覚悟を持って行わなければ、多くの人が死んでしまう。その上で、私達は乗り越えました。色んな恐怖に襲われましたけど、それが一番堪えた三週間でした」

 そして、静寂が訪れる。自身の得た怖さは、自身を変えるためのもの。これが正解でなくても、私はこの怖さを克服するために努力する。ビアンカはそう考えて、面と向かってそう答えたのだった。

 それを見た学長はフッと微笑むと、目を閉じた。

 

「……それでいい」

 

 優しいその言葉が、あたりのピリピリした緊張感を和らげた。ビアンカは、それに安堵する。答えは、ちゃんと出せたのだ。

「この課題の真意は実際の窮地で何が自身の真に怖いものかを知ることだ。それだけで長く海を生きていける」

 そういう学長は、経験談があるのだろう。言葉には確かに重みがあった。そして、つづけてビアンカ自身の得た怖さについて助言をした。

「君のその決断の恐さというのは、命取りになりかねない。常在戦場の覚悟を持って一層奮起し、決断力を養っていきたまえ」

「……はい」

「行ってよろしい。今後も励みたまえ、U-ボートの狼娘」

「失礼しました」

 部屋を出たビアンカを、学長はただただ見つめていた。これからが、楽しみだ。そう呟いた言葉は、隣りにいたマイヤーには聞こえていた。

 そうして、ビアンカは学長との問答を終えたのだった。

 

 

☆☆☆

 

 

 それから少しして、ビアンカさんと私は学園を歩いて回った。ずっと歩けない様な環境下にいたものだから、こうして踏みしめて歩くことが少し気持ちよかった。ただ、エーリカさんに目をつけられたエリヴィエラさんが少しだけ可愛そうではあったけれど……流石に、十周は勘弁してあげてくださいねと釘は指したが……どうなることやら。

「それでさ」

「?」

 すると、ビアンカ艦長が私に声をかけてきた。少し黙って隣を歩いていたのだが、急にどうしたのだろう。なんですかと表情で聞き返す私に、ビアンカ艦長は続けて質問をした。

「貴女は何故ブルーマーメイドになろうと思ったの?」

「え?」

 その質問は、いつかしたものだった。その唐突な質問に私は少し驚いてしまう。急だったし、そのときは確か答えたはずのものだったからだ。

 でも、ビアンカさんはそれを見破っていた。

「……あのときの言葉は、嘘ではないかもしれないけれど、本心ではなかった気がしたから」

「……流石、艦長ですね」

 観念したような、少し情けない声をだす私。本当に、船員皆を見ている人だなぁとつくづく思った。そして、その流れで私は白状する。その時のことを。

「本当は流れでやっただけだったんですよ。理由なんて、全くありませんでした」

 そう答える私に、しかしビアンカ艦長は微笑んでこう聞いた。まるですべてが分かっているかのように。

「……ねぇハンナ、答えは見つかった?」

「……はい!」

 だから、私は元気よく返答した。そう、もう流れや言われたからという理由では無い。私はわたしの意志で、この航海長という立場に立ったのだ。私の意志で、ブルーマーメイドを目指そうと思ったのだ。その理由は……!

「海の仲間は、家族だから。助けたいし、守りたい。皆といたいし、皆と乗り越えていきたい。だから、家族のために、わたしはブルーマーメイドになりたいです」

「……ふふ、貴女らしいわ」

 そう微笑むビアンカさんに、私は満面の笑みを返した。答えは得た。私は、私らしく、私の想いで、なってみせる。そう誓ったのだった。

 

 

☆☆☆

 

 

 あれから二日後。学内にある中庭の、とあるベンチにて。

 昼食にサンドイッチを食べていると、中庭に隣接する渡り廊下で、ある人物とであった。

「あら、テア艦長」

「……ビアンカか」

 そう、海の妖精……グラーフ・シュペー艦長のテアだった。彼女は私達の状態を聞いていたのか、フッと微笑むとこう言った。

「いろいろとあったようだが、無事の帰還、おめでとう」

「そちらこそ。最後だったんだってね。素晴らしいわ」

私は残っているサンドイッチを一つ差し出しながら、その帰艦を祝った。それを受け取るテア艦長はしかし、いつもの可愛らしい真顔に戻るとその賛美を否定した。

「……いや、私一人ではここまでの結果を出すことはできなかっただろう」

 そして、フッと笑って、少し自慢げにこう言った。

「私の副長は最高の副長で、な」

 あまり表情の変わらないこの子が、微笑んでそう言うなんてね。しかしそれを聞いた私も、思い当たる節をふと思い出して、笑った。

「なるほど。ふふ、貴女もなのね」

「何がだ?」

 キョトンとするテア艦長に、私は続ける。それも同じように自信を持って、自慢げに。

「最高の仲間を得たって、自信を持って私も言えるわ」

 そして、少しだけ静寂が訪れた。風が頬をなで、潮の香りを届けてくれる。揺れる髪とは対照的に私達の心は同じくして平静であった。

 私達はお互いに、お互いが素晴らしいものを得たと再認識しあえていたのだ。

 私は、ふっと微笑むとテア艦長に提案した。きっと、楽しい話ができるだろうとそう思って。

「……今度、ゆっくりお話しないかしら。皆も連れて」

「良いだろう。今度はそう―――」

 

 

 

「―――最高の仲間を連れて、な」

 

 

 

 

 

 

 

 




この小説は私一人では完成しなかった。
私の身近な友人達の支援と、海の仲間であるある男により完成を成し得た。
この小説は、私の友人達と私との結晶である。
故に、好評価は彼らへのものとし、不評は私の至らぬところと受け止める。
そして、一章の最後に1言

この小説を、海の仲間に捧ぐ

今後絡んでほしいキャラ

  • テア・クロイツェル
  • ヴィルヘルミーナ
  • その他(名前を挙げていただければ)
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