「それではこれより、適性試験を開始します。……始め!」
担当官の言葉を受け、私達の試験は始まった。ここは艦橋を模した作りのシミュレータ室で、班内でどの役割になるかを話し合い、決めた配置についている。私は海図から水流等を判断し、波、天候の影響から最適な海路を提案する……だけでなく……操舵を任されていた。
つまり、航海長そのものの仕事であった。舵輪に手が触れた瞬間、高揚していた気分がシーンと静まり、心臓がやけに煩くなる。
怖い。
大丈夫だろうか……私が、この船を操舵して。
だが、そんなガタガタと緊張に震える私に、レオニーさんとジークリンデさんが声をかけてくれた。
「はい、マイハニー、少し肩の力を抜こうぜ」
「大丈夫……行ける」
そう、この二人がいる。彼女らも機関部と砲雷をそれぞれ担当し、いずれなると誓った配置をしていた。だからこそ、私が折れてはいけない……。私も、あの二人とともに頑張ると、航海長になると決めたのだから……!
すると、艦長を引き受けたビアンカさんと、副長を担当するエルヴィーラ・クレッチマーさんが、私の手を優しく包んでくれた。
「大丈夫よ。どうとでもなるわ」
「私も尽力する。大丈夫だ」
その両名の励ましも合わさって、私は少しだけ緊張を克服する。どうやら、私は皆の中で一番まずい顔をしていたようだ。
いけない、いけない。しっかりするんだ、私……!
自身の頬を叩いて、シミュレート画面を私は睨んだ。
「ありがとうございます……!大丈夫です!」
「よし、それじゃあ航海を始めるわ。取舵50、中速前進」
「取舵五十!中速前進!」
こうして、航海シミュレーションの試験がスタートした。海路は波の高さ、海流を考え最適かつ迅速なルートを見つけ、艦長が指示を出す。航行は順調で、安全な航海をしていた。制限時間内には到達予定であるし……。
私も指示どおりかつ、色々提案して移動方向の修正を行うことで貢献をしていた。でも、艦長は……どこか、つまらなさそうというか……身が入っていない感じがしてならなかった。
結果はある程度良いものではあった。しかし、私達の次の班であるクローナ・ゼバスティアン・ベロナさん達……つまりはあの片目を前髪で隠したポニーテールの女生徒が率いる班に10秒の差で負け、更にはあの妖精さんに多大な差をつけられて敗れている。
そのテア班の航路は、魚雷によって岩礁を破壊し、無理矢理押し通るものであったが最短距離だった。その際の彼女の言う言葉は要約すると、制限時間があるのは救助対象がいるということ。そして、迅速な救助をすることがブルーマーメイドには必要であること。それらは正しく、そのための行動としては非常に最適だったと言える。
正直、ちょっと悔しかった。なにせ、私たちは全員がほとんど最初から知り合っていて、同じチームとして揃っていたのに、彼女たちに負けたのだ。考え方でも。
「はぁ……だめだったね」
「でも、クリアはしたさ。あとは神もとい、先生たちのみぞ知る、だな」
「……でも悔しい」
「そりゃ僕だって悔しいよ。あんなド派手なルートがあったなんてさ!」
「ド派手って……でも、確かにそんな考えは持てなかったなぁ。私達は戦闘艦に乗ることになるんだから、救助のために装備をフルに使うよう考えていかなきゃ、って反省点はできたかも」
「学べる点は多々あったわ……」
帰り道の廊下を三人で並んで歩きながら、先程の反省会をする。私達は行うべきことをしっかりとしていた。それについてはちゃんと評価はされているだろう。途中のエンジン関係の小さなトラブルについてもすぐにレオニーさんは対応し、そのずば抜けた知識と行動は頼りになる機関長そのものだった。また、ジークリンデさんも波についての進言をしていて、砲雷撃戦時の影響などを考えて色んな意見を出していた。
とまぁ、私達の適性試験はそれぞれが十分に頑張ったけれど、反省点も増えたと言える結果だった。
「ま、とりあえず私達は一山乗り越えたんだし、何か食べに行こう!」
「何かって何よ」
「パフェとか?」
「いいじゃない。どこ行く?」
「私は最近できたヤーパンのTakoyakiが食べられる店がいい……」
「ジークリンデさん、日本(ヤーパン)が好きだもんね」
「そんなところが可愛らしいんだ―――ってそんな睨まないでくれよ」
「あ、今のは睨んでたんだ」
ジークリンデさんの睨んだ表情に苦笑して、私達はパフェを食べに足先を向ける。でも、少し進んだ校舎の曲がり角で私は彼女を見つけた。そう、先程のビアンカさんとエルヴィーラさんである。
「あ、ビアンカさん」
「お? あの時の艦長?」
「副長もいるわね……何を話してるのかしら」
私達はそっとその角に隠れて2人の会話を眺めた。私達は何もやましいことはないのに、そして恐らく彼女らも普通の会話をしているはずなのに、何だかいけないことをしている気分になる。
並んで歩く2人はとても真剣な表情をしていた。一体何の話なのだろうか。
「気になる?」
「気にならない、って言ったら嘘かも」
「でしょうね」
じっと観察をしていると、私はあることに気づいた。
「……ビアンカさんが持ってるの、ノート……?」
「おっと、聞き込み調査みたいなのをしてたのかな?」
「クレッチマーさんに? でも、それにしては和やかな雰囲気じゃないわね」
「確かに」
レオニーさんはそううなずくと、目を細めて手帳を観察する。私も一緒に目を細めて見てみるけれど、何かをひらめいたような表情を浮かべたり、副長とあーでもないこーでもないと話し合ったりしている様子しかわからなかった。うん、私はそこまで目は良くないからね。
だが、それでも分かることはあった。彼女らは何かの問題があって、今それの解決策が浮かんだんだろうということは。
「ん?」
「何? ……誰だ!」
しかし、解決したからか、その手帳から目を離した副艦長に見つかってしまった。傍から見ると、隠れて見ていた私達である。めちゃくちゃ怪しまれても仕方がなかった。
まぁ、怪しまれるのは仕方ないとして、大声で誰だと問われれば頭を引っ込めてしまう、自身の反射神経を何とかしたいと思ってしまうわ。更に怪しく見えちゃうじゃん。や、やましいことはしていません。決して、たぶん。
恐る恐る出てくる私達を見て、ビアンカさんははぁ、とため息を付いた。
「何だ、あなた達ね」
「さっきのシミュレーションで同じ班になった……」
そう言って、エルヴィーラさんはクスッと笑った。クリーム色の髪に、細い目で、しかし整った顔立ちから王子様の様な印象を受ける人の微笑みに、少しドキリとした。レオニーさんとはまた違ったタイプのイケメンフェイスだなぁ……。
「艦橋の三人だね。でも、盗み聞きは悪いなぁ」
「す、すいません……」
「反省してます……」
「いやだって、何か気になるしね、かわい子ちゃんたち?」
まぁたレオニーさんはお得意のウィンクを決め、今度はお二人を攻略……もとい、落としにかかり始めた。しかし、私はそこで予想よりも凄いものを見てしまった。
副艦長のエルヴィーラさんがかわい子ちゃんたちと言ったレオニーさんに跪き、手を取るとその手の甲に口づけをしたのだ。見上げて彼女は続ける。
「すまない。だが、君たちに教えることはできないんだ、お嬢さん」
「……へ?」
変な声を出したのは当事者であるレオニーさんだ。
そしてその反応は、レオニーさんは自分がしてきたようなことを、まさか自身が体感するとは思わなかったのだろう。私自
身、鮮やかで流れるようなその動作に対して口をぽかーんと開くことしかできなかったし、反応できなかった。ジークリンデさんも同じように衝撃を受けていた。その一連の流れは、レオニーさんと違って全く隙がない。
スクッと彼女は立ち上がると、綺麗な微笑みでレオニーさんの手を握った。
「私達はこれで失礼するわ。ハンナ、またね」
「え、あ、はい。また……」
「それじゃあ、またね、お嬢さん」
「え、あ、うん。副長……」
歯切れの悪いレオニーさん。私は眼の前の光景にあっけにとられ、艦長の言葉に即座に反応できなかった。レオニーさんに至ってはどことなく上の空だ。ジークリンデさんも私とともにポカーンと口を開いていた。うん、女の子を落とそうとする女の子が女の子に落とされかけて……??一体私は何を見たんだ? 混乱するのも仕方ないだろう?
で、レオニーさんだが……
「レオニーさん?」
「え、やだ、な、なんだい?」
「やだって……」
両手で口元をおおうと、口づけされた手の甲を見つめる。そして、呼びかけると両手で顔を隠した。ちょっと赤みがかった頬がちらりと指の隙間から見える。おいおい、まいだーりん。あなたが落ちるのですか。
「……ま、全く、副長はすごい人だ。この僕にそういうことをす、するなんて」
「……本当に凄い人ね。レオニーをこんなふうにするなんて……」
「確かにそうね」
「ちょいちょい、マイハニー? こんなふうって、僕は少し動揺しただけだよ?」
「やだ……って」
「ジーク! な、何のマネだい!?」
「乙女心が表に出てたよね」
「そうね」
「でてない! 僕は僕だ! 皆の恋人さ!」
「うーん、それはそれで最低な人になるんだけれど……」
「や、ちょっと、動揺して……」
「やべーやつ」
「ジーク!」
少しの間、乙女レオニーさんのものまねをしていじくりまわす。きっとこの話題は10日間くらいネタになるだろう。
そうして散々いじると、気が済んだ私達は一息をついた。ふぅ、鬱憤ははらした。
そして、レオニーさんは少し考えてこう言い、私達は歩き始めた。
「んー……まぁ、後で聞いてみるか」
「アレ以上は聞けそうにないけれど……」
「……なら、Takoyaki……私も、早く食べたいし……」
「ヤー! じゃ、いこっか」
「ちょちょ、ジークリンデさん、レオニーさん、置いてかないでよ……!」
こいつ……じゃなかった、レオニーさん……私をいつもマイハニーマイハニー言っている割には、たまに私を放って置きざりにするんだから。置いていかれないように二人に追いつく私。お店についたら端から端まで要求してやるんだから。Takoyakiを!
しかし、ふと振り返ってポツリと呟く。
「……にしても」
にしても。
艦長らは一体、何を話していたのだろう……。
☆☆☆
要求通り端から端まで頼んだ後、余ったTakoyakiは各自分けて持って帰ることとなった。びっくりしたのは生クリームたこ焼きというものもあり、生地からなにから甘いメニューなどもあったことだった。でも思うのだけれど、タコや生姜はいらなかったんじゃないかな……。
生クリームと絶妙に合わないあの感じは、端から端まで頼んだ天罰でも堕ちたのだろうと思わざるを得なかった。
さて、お財布を逆さにして涙目になっていたレオニーさんとすっごく満足気な表情をしていたジークリンデさんとお別れし、はや夕刻。西日が強くなってきたところで私も寮へと帰ることとなった。とりあえず言えるのは、今日の夕飯は入らないし困らないだろうことだった。
「……流石に可愛そうだったなぁ……」
ふと思い出したのは涙目のレオニーさん。捨て台詞で「覚えてろよ、マイハニー」と叫んではいたが、やり過ぎた感は否めない。今度何かをごちそうしてあげようか。しかし、テンションが上ってちょっとうざくなる想像が直ぐに浮かび上がり、それがやけに現実味があって……わかりやすい人だよなぁ。レオニーさんって。
「……ふふ」
でも、良い友達ができたものだ。だって、こうして三人で学校へ行って、帰りにお疲れ様って言い合って、何か食べに出かけて……それって、私の夢だったもの。こんな頭の良い学校だとそれはできない、ありえないと思っていた。
けれど、それが叶った。初めての友達の艦長はあまり会えなかったけれど……でも、あと五年くらい経てば……高校生になったなら話は変わる。
船に乗る皆と一緒に、仲良くなるんだ。今度の私の夢は、それにしよう。
「……艦長……」
五年後―――
この五年はあっという間に過ぎ去った……と、よく言う人がいる。実際、月日の流れというのは人それぞれの感じ方であるが、私としてはこれが一番長いように感じていた。何しろ、座学や実習によって海洋航海の基本を叩き込まれたのだ。遊んでいる時間のほうが少なく、そちらの方があっという間だったように思える。
アインシュタインの特殊相対性理論を呪いつつ、過ぎ去る日々。そして、いよいよ数日後に海洋航海実習、つまり初航海を迎える。私の居るクラスも……いや、既に同学年全生徒はその期待と不安を胸にうずうずと体現していた。
もちろん、そこには例外なく私も含まれていた。何しろ私も船に乗り、海を往くブルーマーメイドになる為に頑張って、そしてその第一歩がついに来たんだから。
新しい一歩を踏むために、まずはその教室に向かうこととなっていた。私は、他二人とともにその教室へと足を進める。
「ついに、配属先の決定ね……!」
「マイハニー、今日は随分と張り切ってるじゃないか」
「仕方ないんじゃない?……今日発表で、少ししたら初航海なのよ」
「そう、だから浮かれてしまうのも無理はないということ!」
「ははは、元気だと可愛さもアップといった感じだ。アホ毛も主張が激しいや」
「アホ毛とは何よ!」
咄嗟に髪を抑えつつ、レオニーさんを睨む。だが、このやり取りから私は、何だか彼女は様子がおかしく思えた。一番テンションが上がっている筈のレオニーさんが私よりはテンションが下がっているのだ。
「……で、レオニーさん。今日はどうしたのよ。普通に登校して」
「私も気になるわ」
「……や、別に。噂を聞いただけだよ」
「噂……?」
そういう私はジークリンデさんと顔を合わせて頭上に疑問符を浮かべる。どうやらジークリンデさんも聞いたことがないようだった。ジークリンデさんが続けてレオニーさんに聞く。
「噂って何よ……」
「いや、本当かどうかは怪しいんだけど、旧駆逐艦が何隻かは忘れたけど盗難にあったって……」
「いや流石にないわ」
「うーん、まぁ、信じられないわ」
「まぁ、そうだよね。ただ、その上他に聞いたのが、男子校から一隻送られたんだってさ。盗まれたそれらに変わって」
「へぇー? 流石に騙されないわよ」
「ありえないわ」
「……まぁ、噂だからね。そんなことよりハニーたちと共に、優雅な船旅に出られることを神に感謝しないと」
「……とんだ迷惑でしょうね」
「ひどいなぁジーク!」
とまぁツッコミを入れているレオニーさんだが、どことなく元気は少なめで、調子が狂うな。人並みに緊張している、という理由もあるのだろうが、どうもその噂の信憑性が彼女の調子を狂わせているようであった。
教室へ足早に向かう私とジークリンデさんも、どことなくその噂が付きまとい、頭から離れなかった。
「……そういえば、もし乗るとしたら皆どんな船が良いの?」
だから、少しだけ話をそらそうと、ふと思った疑問を二人にぶつけてみた。私個人としては小さくて可愛い駆逐艦とかがいいなぁって思ったりして……でも、少し欲を言うならシャルンホルスト級戦艦みたいな大きくて格好良くて、でも綺麗な戦艦に乗ってみたかったり……。
「私は、Z1型駆逐艦とか……かしら」
「お、渋いねぇ。私ならやっぱりシャルンホルストかな。もしくはビスマルク。でかい! つよい! 何が悪い!」
「って言っても、あなたが就くのって機関室よね?」
「そうさジーク。戦闘においては皆いかに敵を倒すかとか、どうやって海域を突破するかとか考えるだろうけれど……僕はずっと、船の機関部にだけ集中していたいや」
「私に向ける視線や姿勢よりずっとまっすぐね」
「そんな事無いさマイハニー! 僕は君も真っ直ぐに愛して―――」
「で、ハンナさんは?」
「無視しないでっ!」
「私はそうだね……」
「……ふ、ふふ、僕のこのイケメンオーラが君たちを恥じらわしてしまったのかな。話しかけることに恥じらいを持ってしまうくらい僕は」
「ナルシスト」
「ある意味話しかけるのが恥ずかしい」
「ごめんなさい……今のは無視してください勘弁してください……」
どうやら今の反応が心に刺さったのか、ヤーパン式シノギジツであるドゲザを彼女はしていた。これにこりたらもう少し抑えてほしいものだと私はため息を吐く。そして、隣で容赦なく連射機能を使ってドゲザ姿を撮影するジークリンデさんは、とんでもなく鬼だった。絶対怒らせないようにしよう。
「じゃ、知人にまでこの写真送るから……」
「 」
「や、そこまでは止めてあげて……」
真っ青になっているレオニーさんは、何だか新鮮で面白かったがそれ以上は勘弁してあげて欲しい。うん。私も変質者の友だちになっちゃうし……。
なんて、日課のレオニーさんいじりをしていると、私達はいつの間にか教室付近へと近づいていた。さて、私達はどの船に配属されるのだろうか。
さっきまで遊んでいた私達だったが、教室に近づいていくにつれて口数が減り、無言のまま扉をくぐった。やっぱり、二人も私も緊張はしているのだ。
そこには、およそ30名未満程度の女の子たちが集まっていた。
「人数から察するに、駆逐艦かな……?」
「だいたいそんな感じね」
「……」
私はちょっとだけ期待が外れた感じと、それを上回る期待通りの結果に自然と笑みが漏れた。シャルンホルストではないけれど、駆逐艦も可愛いから良いね……!
「……これから、だね」
「……そうね……」
「ここに居る皆が、仲間……」
レオニーさんの呟きに、それぞれが思いを馳せる。見つめる先の未来は、どうなっているのか……。そのスタートは、すぐそこだった。ただ、私達のスタートラインは、何処か歪だと気づくのはこの後すぐのお話からだった。
それから十数分後。チャイムと同時に皆が一様に席へとつく。自身の席はすでに割り振られており、私も例外なく自身の席へと座った。これから私達三人は、部門は違えど同じ船に乗る。親友と乗れることに更に期待が高まっていた。
そして、そのうえ嬉しい光景が目の前を横切った。
「っと……遅れたわ。ごめんなさい、皆席にいる?」
「ビアンカさん!?」
そう、その光景とは、入学から初めてできた友達。そして、適性検査では艦長を務めた少女、ビアンカさんが一緒の配属先の教室に現れた、というものである。私は驚きと、嬉しさで少し困惑する。
「あ、ハンナ。今日からあなたとは同じ仲間よ」
「……!」
そう、嬉しさはあった。久方ぶりにあったことも、同じ船で頑張れることも、この人はあの時支え、友だちになり、適性検査の時支えてくれたんだから。
だけれど……ビアンカさんをよくよぉく見た私は、まず、こう言葉にしてしまった。いや、気になったし、仕方ないよね?
「服、ちゃんと着ましょうよ!?」
「あれ、感動的な再開を喜ぶ場面じゃ」
「いや、それ以前に服装の乱れが目立ってます! ネクタイ緩めすぎてませんか!?」
「ネクタイじゃなくて良くない? これ」
「そういう問題じゃないです! 制服はちゃんと着ましょうよ!」
「わかったわ。善処します」
「それヤーパン(日本)だと『しない』と同義だと聞きました」
「……詳しいじゃない」
「感心しないでください!」
まったく、この人は!だらしがなさすぎてびっくりしてしまった。これから正式な発表……配属だと言うのに、制服すらまともに着ないなんて!などと内心自身のビアンカさんの評価を下げながら、貸してくださいと私がネクタイを整える。
「え、えと、これから配属先を……」
「皆さん、少し待っててください」
「え、ちょ、ハンナ、ぐぇ」
私は一度クラス全員に向けて一礼をすると、ボタンとネクタイをキュッと締めた。これならば、ひとまず見てくれだけは大丈夫だろうと納得すると、ハンナさんが困ったようにコチラに聞いてきた。
「も、もういいかしら……クラス中の視線が痛いのだけれど」
「自業自得です……って、そういえばそのファイルは……」
「あぁ、配属先と、艦も書いてあるわ」
その言葉に皆がおぉぉとうなり、そのファイルに視線が集中した。
「さて、では改めて……まずは私から挨拶をするわ」
教室前方中央の教卓の位置に、彼女は立つと全員の顔を眺めてからそう切り出した。私ももちろん自席について彼女の動向を観察し、彼女の言葉に傾聴する。後ろから突いて笑うレオニーさんは放って置いて、だ。おおかた先程の光景を爆笑していたのだろう。ネタにしたいのだろうな。ヴァカメ、お見通しだよ。
「私が今日からあなたたちの乗る船の艦長を務める、ビアンカ・フォーグラーよ。よろしく」
その短い挨拶に教室は静かにざわついた。先ほどのだらしない光景と、今のキリッとしててちょっと凛々しい彼女が、私達を率いる役目、艦長になるのだから。私はと言うと、しかしやっぱりと納得していた。彼女と共にシミュレーションを行った時の的確な指示は、やはり艦長としての素質をちゃんと見せてくれていたのだから。だが、ここまでなら単純に面白い艦長、ちょっと頼りなさそうな艦長が現れた。それだけの笑い話で済むのだが……。
「では、続いて私達の乗艦する艦を紹介する」
先程のざわつきは収まり、皆が固唾をのんで艦長を見つめた。といっても、何人かは駆逐艦だと予想を立てて、つまらなさそうにしていたり、ニヤリと笑ってみせたりしていた。
だが、彼女はそこから一言も発さない。
「……?」
「……どうしたのかんちょー」
「早く言ってくださらない?」
「焦らさないでよ」
流石に一言も発さず、それを眺める艦長に、皆は困惑した。口々に言う不満を受け、艦長は歯切れの悪い返事とともに1つ咳払いをする。事前に見ていなかったのかな……?そう疑問に思う私はその黒いファイルをじっと眺めた。そして、先程のようにキリッとした表情を見せると彼女は言った。
「……私達が乗る艦はUnterseeboot……U-Boot、IX型、U-101だ」
ありえない、だがありえた歪なスタートライン。
私達はこの日より、家族よりも深く、特別な絆を得ることとなるのだった―――
今後絡んでほしいキャラ
-
テア・クロイツェル
-
ヴィルヘルミーナ
-
その他(名前を挙げていただければ)