ハイスクール・フリート 灰色の狼娘たち⚓   作:黒助さん

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第五話:邂逅でピンチ!

 初航海初日から最短距離をとって、5日くらいが経った。途中、何故かビスマルクとグラーフ・シュペーが並走し、叫んでいたけど……喧嘩するほど仲がいいのか、悪いのか。

ビスマルクの艦長ことクローナ艦長のことと、グラーフ・シュペーの艦長であるテア艦長のことはどちらも聞いたことがあった。前者は貴族の方で、とても高飛車で感じはちょっと悪い人だって聞いたし、後者に至っては海の妖精で、面白い挨拶を皆の前で披露したぶっ飛んだ人だし。

天才と、傲岸不遜。そりゃ喧嘩もするわ。

何はともあれ、私達は海上基地へ着港し、無事初航海を済ませた。あれから語ることは殆ど無いと言っても差し支えない。だって、ずっと暇だったからゲームして、雑談して、洗濯物や色々な家事をしてって感じで、特に問題もなかったからね。暇すぎて皆、疲れていたのが印象的だったなぁ。暇は逆に疲れになるんだ。

「しかし、何というか、綺麗なところだね」

「うん……さすがはドイツ最高峰って感じ」

「イングランドの隣……ドイツ最高峰……?」

「それ以上いけない」

 私はレオニーさんとジークリンデさんのいつもの三人で並んで歩いていた。巨大なブンカーに停泊した私達は中から伝って校内へと向かう。ビアンカ艦長は先頭で、エルヴィーラ副長と話しながらある場所へと向かっていた。私達船員はそれについていく形となる。多分、その場所でそれぞれの専科とかに分かれるんじゃないかな。

 雑談を交わしながらビアンカ艦長に続いていくと、開けた場所に教員の制服に身を包んだ女性が立っていた。そして、他の艦の乗員たちも。

「どうやら、私達は最後辺りだったようだ」

 エルヴィーラ副長がそう言うと、ビアンカ艦長もそのようねと頷いた。大体の人達が揃っているようで、私達も早々に並び始めた。そして、女性は咳払いを一つすると私達に話し始める。

「全教育艦、初航海お疲れ様でした」

 淡々と話を続ける教官は、最新タブレットを手に私達全員の状況と、今日の予定と今後の日程を読み進めていた。

「それでは早速ですが、これから一ヶ月、この基地で基礎を培ってもらいます。各専科に別れて指定の教室に向かってください」

 それじゃあ、艦橋要員とその他専科ごとに分かれるのだろう。ソリナさんとかとはまた後で会うということになるなぁ。そう考えていると、更に彼女は続けた。

「ただし、艦長とそれ以外の艦橋要員は別行動になります」

「え? なんで艦長だけ別ですの?」

 後ろに居たエリヴィエラさんが、そう疑問をつぶやいた。確かに、艦長だけ何故だろう? 私も疑問に思うところはあるけれど、艦長は艦の総責任者である。別で何か教えることとかあるのだろう。海はすごいぞー、とか?

「まぁ、なにかあるのでしょ……」

「ジーク、何かって……まぁ、そうだよね」

 レオニーさんもジークリンデさんも、私と同じように考えていたようだった。艦長だから、という理由が一番わかり易いのだ。

「……以上よ。各自移動を始めなさい」

 そして、私達は別々に行動を取るのだった。私を含む艦橋要員は艦橋要員で固まって、別の教室へ。それ以外の船員はそれぞれの専科のクラスへ。そして、ビアンカ艦長は艦長たちが集まる……ちょっと気になるくらい位の高そうなクラスへ向かうのだった。

「じゃあ、またあとでね、ハンナ」

「はい。またあとで!」

 少し元気を振り絞って、そう答えてビアンカ艦長を見送った。その時のビアンカ艦長の表情は少し不安が滲んていた気がする。そうぼうっとビアンカ艦長の行く背を眺めていると、レオニーさんに呼ばれた。

「いくよー」

「はーい」

 そして、このあと……最初の難関と呼ばれるミッションに直面することになるのだった。それも……過去に類を見ないほどの……。

 

 

 

 扉をくぐると教卓と黒板を中心に、半円状に広がった教室が目の前に広がった。そこには他に、私と同様の格好をした人たちがたくさんいた。そう、艦長にのみ許された外套を身にまとう少女たちだ。それを見てふと自身の格好を見直す。そして、ふっと笑みが漏れるのに気づいた。

今朝、ハンナが緩んだネクタイのまま食事に現れた私を咎め、昨日も一昨日も緩めて、もう!とか文句をたれつつ直してくれたっけ。なんて思い出す。

自身の身だしなみは気をつけなくなってきたのは何時からだっけ。それを気にせずに居たからか、ヴィルヘルムスハーフェンでは不良と言われていた気もする。だが、私は自由に過ごしていただけに過ぎない。だというのに、あの子は、口酸っぱく……。

などと考えていると、視界にとある艦長が入ってきた。その背は小さく、しかしどことなくオーラのある少女だ。私の第一印象はその程度だった。だが、確か最初の挨拶が短くて助かった子だったのは覚えている。

「こんにちは。貴女がテア・クロイツェルかしら?」

「あぁ、そうだ。何か?」

「いえ。こうして話すのは初めてだと思ってね。よろしく」

「よろしく」

 握手こそ交わさないが、お互いに目を合わせればだいたいそれと同義である。私は先生方がまだ来ないのを確認すると、そのまま話を続けた。

「私は―――」

「知っている。貴女の名前はビアンカ・フォーグラーだろう?」

「あら。なんで知れ渡っているのかしら」

「U-ボートの艦長はこの学校始まって以来貴女が初めてだ。あとミーナからも聞いた」

「へぇ? 案外私は有名人なのかしら」

「良い方でも、悪い方でもな」

「……でしょうね」

 周りを見ると、私を見てほくそ笑む上流階級共と、珍しそうに見てくる子達が居た。そういえば、自由に席へと座るのだが、テアの周りは少し空いているように感じる。

ごめんなさいねと続ける私に、テアは気にしていないと答えてくれた。優しい上にこの子、可愛いわね。まるで人形のようだわ。あまり表情を変えないが、その愛くるしいほっぺたとか、どことなくハンナに似ていた。

「クロイツェル家、といえば……私の父が貴女の母に世話になったこともあったようね」

「何? 母が?」

「おぉっと、何この食付きよう……そ、そうよ。と言っても、学生時代らしいけれど」

「どんな感じだったと聞いている?」

 グイグイくる彼女に若干気圧されながらも、私は話を続ける。

「んー……破天荒、だったって聞いたような……男子校と女子校の決闘になって、ボッコボコにされたとか……またやらかしたとか……? 他は、覚えてないわね」

「……そ、そうか……」

 何というか、彼女はしゅんとしてしまった。その姿がまた愛らしいのだけれど。あぁ、ハンナ、これが撫でたい衝動というものなの?

「まぁ……そのよしみと言っては何だけれど、仲良くしたいものね」

「……そうだな。母のことを少しでも教えてくれてありがとう」

「いや、こちらこそ。助けがいるときは、私を呼んでね。海面から飛び出て救いに行くわ」

「キールを折らないように気をつけてな」

「そんな勢いよく飛び出ないわよ」

 ふふっと二人は笑い合うと、会話をそれまでにした。そして私は適当な場所へと移動する。きっと言い渡されるのは教訓やその他の実技テストの概要というような生ぬるいものではないだろう。なにせ一ヶ月だ。きっと何かあるに違いないと私は考えていた。

 だから、これは個人的な考えではあるけれど、一人でそのミッションを噛み砕いて実行したいのだ。艦の上で指示を出すのは他の艦長ではなく、私なのだから。

「あら、油と汗臭い艦長さんね」

 と思ったら、通りがかりに言いがかりを食らう。と言っても、その嫌味は的確かもしれない。自身の体の匂いを嗅ぐのをぐっとこらえ、ニヤリと笑って何かしら?と私は答えた。どうせ無視したってしつこい輩だろうし。

「ちっこい船の船長が艦長気取っちゃって……まずはシャワー浴びてきなさいな。私達艦長の品位を下げないでね?」

「は、大きな玩具を頂いて、王様気分かしら?」

「なっ……!」

 そう言われて、少し驚いた顔をする彼女は、片目を前髪で隠したポニーテールの艦長、クローナ・ゼバスティアン・ベロナ。私の認識では何かと特別扱いを受ける輩を嫌う、いじめっ子だ。と言っても、彼女の対象はだいたい彼女よりも大物であることが多いため、何故私に突っかかるのか……まぁ、理由は大体私がU-ボート艦長というハズレくじの艦長であることと、おそらくテア艦長とのいざこざの八つ当たりなのだろう。

 彼女はフッと余裕を出して微笑む。流石は貴族様だ。余裕を持って、優雅たれ?

「あの『豆』にも劣る量産品が、何を言ったところで負け犬の遠吠えにしか聞こえないわ」

「そう。灰色オオカミは大きな獲物の首を噛み切るのよ? せいぜい気をつけなさい」

 どうやら、私は彼女の中でテアよりランクが下の艦長と考えているらしい。きっと、ある程度テア艦長を認めての発言だろうな……と甘めの採点をしながらそう返して私は離れた席へとついた。教師が扉をくぐってきたのが彼女にも見えたのか、舌打ちをしながらテア艦長の隣の席へと移動した。わざわざ嫌味を言うためにいったのだろうか。律儀な人ね。

 そして、女教師の「皆、注目!」の言葉にその場は静かになった。私も同じように静かに、そしてこれからの話しに傾注したのだった。

 

 

☆☆☆

 

 

「話はこれでおしまいだ。行きたまえ」

 それから、少しして。教室内は嫌な空気が流れていた。まず、この学校の学長が現れたことに驚き、そして学長が言い渡したミッションにも驚かされた。それがこの場にいる艦長全員を不安にさせるのに十分なものだったのだ。

私としても、少し予想より離れていたミッションだったと言える。一ヶ月の間、何かしら厳しい航海ミッションをするのだろうと思っていたが……。

 暗号通信用紙を頂いて教室を去る私。やけに心臓の音がうるさいのが気になった。きっと、これからを考えて無意識に不安に思っているのだろう。なんとなく、船員のエーリカ・フリーデ・アーリンゲの顔を浮かべると自然と治まってくる。彼女の元気さは玉に瑕だが、こういうときは何故か笑ってしまえるものだった。いつかした、彼女とランニングの約束はまた今度になりそうである。

 そして、少し歩いたさきにある休憩所で、少しの間座る。他の乗組員たちのお話はもう少しかかるとのことであり、それが終わるのをこの場で待つこととしたのだ。一人のほうが良いときってあるじゃない?

すると、後ろから声をかけられた。

「ビアンカ・フォーグラー」

「はい……なんでしょ―――学長……!?」

 振り返ると、美しく老いた女性、ケルシュティン・ロッテンベルク学長が其処に居た。彼女は先程のようにまだ青い果実を眺めるような挑戦的な視線や笑みではなく、少し優しげなほほ笑みを浮かべていた。疑問に思いながら、彼女に問う私。え、何……あの場で話していらっしゃるとき、ちょっと船を漕いだことがバレてた……?

「君がヨアヒム・フォーグラーの娘なのか。確かに少し面影があるが……ふ、母親似のようだな」

「……父を、知っているのですか?」

 しかし、返ってきた言葉が予想外だった。ヨアヒム・フォーグラーとは私の父であり、知っているとはまさか思うまい。だって、私の父は男子校の生徒であったし、その後は確かにホワイトドルフィンとなって世界中の海を守る騎士となった。そんな父と、接点があったのだろうか。

「もちろん。私の受け持った生徒が一人、男子校と色々あってね」

「あぁ……」

 なるほど、テア艦長の母君関わりだ。何となく一瞬でわかるのは、クロイツェル家の人がどれだけ凄いものなのかを表していると言える。テア艦長もきっと、素晴らしい艦長であるに違いないだろうな。

「それで、君にはこれを渡すよう、君のお祖母様から預かっている」

「お祖母様から……?」

 学長が差し出したのは少し汚れた、白い、白い艦長帽だった。その艦長帽には見覚えがあった。とても昔に、まだ、幼い頃の……。

「……」

「君が、U-ボートという絶対にありえないだろう船に乗ることとなったとき、私は……運命を感じたよ」

「……仕組んだわけじゃ、ないのですね」

「えぇ、そうだとも。それは君が持つべきものだろう? では、健闘を祈る」

 学長はそう言って、その艦長帽を私に渡して去っていった。その背を見送ることもせず、私はただただその帽子を眺めて、立ち尽くしていたのだった。

 

 

 

今後絡んでほしいキャラ

  • テア・クロイツェル
  • ヴィルヘルミーナ
  • その他(名前を挙げていただければ)
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