東方指輪物語   作:サボテン男爵

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「初めまして、巫女さん。早速だけど、今時間はあるかな?」


1話 楽園の巫女のお茶会

 

 幻と実体、日常と非日常によって外の世界から隔離された地続きの異界・幻想郷。

 外界との境界線上に存在する博麗神社に、4人の少女の姿があった。

 

 博麗神社の巫女にして幻想郷の調停者・博麗霊夢。

 極めて普通の魔法使い・霧雨魔理沙。

 現人神にして守谷神社の風祝・東風谷早苗。

 夢を渡って外から訪れる超能力少女・宇佐見董子。

 

 特に申し合わせたわけではないが、少女たちはこの場所に集まっていた。

 

「あらいらっしゃい。・・・・・・そうね、珍しいお菓子が手に入ったんだけど、お茶でも飲んでいく?」

「おいおい、どうしたんだよ霊夢? お前からそんなこと言い出すなんて、明日は雨でも降るのか?」

 

 博麗神社の住人である霊夢の提案に、訪ねてきた3人の中で最後の来訪者である魔理沙が軽い驚きと共に冗談交じりで返す。

 欲深い訳ではないが、ケチな部分がある霊夢にしては珍しい提案だったからだ。

 

「天子の奴がまた、あなたの気質でも発現させたらそうなるんじゃないかしら」

「それって例の神社が潰れた時の話ですよね? 前に天狗の新聞で読んだけど、わたしだったらどんな天気になったのかなぁ?」

 

 董子が口にしたのは、以前とある不良天人が引き起こした異変。

 彼女が幻想郷に訪れるようになったのは比較的最近であるが、非日常に恋する少女は以前に起こった異変についても興味を持っていた。

 半面、霊夢は若干苦い顔になる。

 

「あんまりおもしろくないことを思い出したわね・・・・・・。まあ神社も新しくなったしいいんだけど。じゃあ魔理沙はいらないのね?」

「おいおい、そんなことは一言も言っていないぜ。わたしは貰えるものは何でも貰う主義なんだ」

「貰えないものでも勝手に盗っていくみたいですけどね。文さんが言っていましたよ。 魔理沙さんの紅魔館からの泥棒も日常的になり過ぎて、もう記事にもならないって。少しは自重なさったらどうですか?」

「泥棒じゃない。死ぬまで借りているだけだぜ」

 

 早苗の窘めに対してもニヤッと笑ってどこ吹く風。

 我を貫き通せばある種の理屈になると言わんばかりのふてぶてしさだった。

 

「まあいいわ。今に始まった事じゃないし。――準備してくるから、ちょっと待っていなさい」

 

 霊夢は腰を上げると、スタスタと神社の奥に向かっていく。

 そんな彼女を見送り、魔理沙はポツリと零す。

 

「ほんとどうしたんだ? 今日は妙に優しいような・・・・・・変なキノコでも食ったか?」

「それは魔理沙さんの方が危ないでしょうに」

「バカ言うな。わたしがその道何年のプロだと思ってるんだ。初見のキノコ相手でも大体勘でわかるんだぜ。どっちかっつーと外から来たお前と董子の方が危ないだろ? ほら、こっちに来たばっかりのころテキトーにキノコ採って・・・・・・」

「うっ・・・・・・し、仕方ないじゃないですか。わたしもキノコ狩りなんて初めてだったんですし、見た目が完全になめこだったんですから・・・・・・」

 

 早苗の過去の失敗譚を肴に会話が盛り上がっていると、お盆にお茶とケーキを乗せた霊夢が戻ってきた。

 

「はいどうぞ、好きなのを選んでちょうだい」

「おっ、サンキュー・・・・・・へぇ、なかなかうまそうじゃないか」

 

 魔理沙が真っ先に選び、続いて早苗と董子。霊夢は最後に残ったものをとる。

 魔理沙はケーキフィルムを剥すと、それについたクリームをぺろりと舐め上げる。

 

「・・・・・・魔理沙さん、ちょっとはしたないですよ?」

「別にいいだろ。残す方がもったいないんだぜ。なあ霊夢?」

「そうね。私は魔理沙がどう食べようと、よほどでない限り気にしないけど」

「それでもほら、こうやってフォークで取るとか」

「でも最近は、クリームが付きにくいフィルムなんかもあるって聞きますけど・・・・・・ってあれ?」

 

 董子がフィルムを眺めて、不思議そうな顔をする。

 

「フィルムがついてるってことは、これひょっとして“外の世界”から?」

「ええ、そうよ。外じゃこうやって、お菓子一つ一つを包んだりしてるんだから贅沢なものよねぇ」

 

 霊夢はケーキを一切れ口に運ぶと、続いて茶をすする。

 この巫女は、宴会の時でもない限りは存外、食べ方は丁寧なのだった。

 

「その様子じゃ董子じゃないみたいだし、紫の奴か?」

「違うわよ」

 

 幻想郷と外の世界を出入りする者は限られる。

 魔理沙が真っ先に思いつくのは目の前にいる董子や、スキマ妖怪の八雲紫なのだが、

その考えは即座に否定された。

 

「・・・・・・まさか拾い物とかじゃないですよね? 幻想郷じゃ常識に囚われちゃいけないとはいえ、さすがにそれはあんまりですけど」

 

 ススッとケーキからフォークを話し疑わし気な視線を向ける早苗だが、霊夢は余裕をもってふふんと返す。

 

「それも違うわ。私の人徳の賜物よ」

「おいおい、勿体ぶってないで教えてくれよ」

「別に隠してるわけじゃないけど・・・・・・外来人から貰ったのよ」

「外来人? ああ、また誰か神隠しにあったのか。それで外の世界に帰した時に、持っていたケーキも貰ったか奪ったかしたと」

 

 魔理沙が納得したかのように、己の推理を披露する。

 幻想郷は二つの結界によってそとの世界と区切られているが、それでも時折外の世界の人間――外来人が迷い込む。

 

 その主犯は八雲紫と言われているが、迷い込んだ人間の末路は主に3つ。

 一つは運悪く妖怪の餌になる。

 二つ目はそのまま幻想郷に住み着く。

 三つめは博麗神社までたどり着き、外の世界に返されるといったパターンだ。

 

 だが――

 

「残念、それも外れね」

 

 霊夢は魔理沙の推理をあっさりと否定する。

 

「今朝の話だけど、外来人がここに来たのよ。偶然迷い込んだんじゃなくて、自分の意思で」

「あっ、ひょっとして移住希望者ですか!?」

 

 董子はそう言って、早苗を見る。

 早苗は外の世界から失われた信仰を求めて、二柱の神と共に神社ごとダイナミック移住を果たした前例があるからだ。

 だがそれにも、霊夢は首を横に振る。

 

「そうじゃなくて・・・・・・ちょっと前の話だけど、神隠しにあった外来人を外に送り返したのよ。今日来たのは、その身内。お礼だって言って、お菓子とかお酒とかお米とか、いろいろ持ってきてくれたのよ」

 

 霊夢が頬を緩めて言うと、魔理沙は目を丸くする。

 

「はぁ? マジか? 狐か狸に化かされたんじゃないのか?」

「私も驚いたから確かめてみたけど、そんな様子はなかったわね。たまに魔理沙に化けてる狐なら見かけるけど」

「なぬっ!? ふてぶてしい狐もいたもんだぜ・・・・・・見かけたら肖像権を請求しないと」

「どんな狐でもあんたほどはふてぶてしくないと思うわよ」

「でも、そんなことあるんですねぇ・・・・・・ひょっとしてわたしが知らないだけで、こういうことって偶にあるんですか?」

 

 脱線しかけた話を、早苗が元に戻す。

 

「いいえ、少なくとも私が巫女になってからは初めてね・・・・・・。そもそも外とこっちを自由に出入りできる奴は限られるから。渡れないからって、境界そのものを壊そうとした子もいたけど」

「あ、あはは・・・・・・それは若気の至りというヤツで・・・・・・」

「まあ、あなたは利用された部分もあるようだけどね」

「それにしても、奇特な奴もいたもんだぜ。面くらい見てみたかったが」

「だったら探してみれば? まだ幻想郷にいるはずよ」

 

 霊夢の発言に、魔理沙は「なぬっ?」と唸る。

 

「どういうこった? 観光でもしてんのか?」

「落とし物探しだって話よ。最初に迷い込んだ外来人が、指輪を落としていったらしいの」

「指輪?」

「そう。外出身の二人の方が詳しいと思うけど、外では結婚の時に男が女に指輪を送るらしいの。で、幻想郷に迷い込んだ時に、それを落としちゃったらしいの」

「一大事じゃないですか!!」

 

 早苗はそう叫ぶと、がばっと立ち上がる。

 

「落ち着きなさいよ」

「これが落ち着いていられるものですか! うら若い男女が破局の危機・・・・・・守矢の風祝として、黙ってみていることはできません!」

「別に破局とまでは言ってなかったけど。それよりあんたのところって、縁結びの神様だっけ?」

「・・・・・・それはそれ! これはこれです!」

 

 そもそも早苗自身にそういう話がない当たり、お察しであった。

 

「でも、話を聞く限り幻想郷を一人で回っているってことですよね? 結界を抜けてきたってことは何かの“力”はあるんでしょうけど、大丈夫なんですか?」

 

 幻想郷は神魔入り乱れる異界。

 近年においては人里の人間が妖怪による人食いにあうことは珍しいが、外来人ともなると話は別であった。

 董子自身幻想郷に関わることになった一件で怖い目にあった経験もあるし、それを懸念しての発言だったが霊夢はちょっとバツが悪そうな顔になる。

 

「うっ、一応、私も手伝おうかって言ったんだけど・・・・・・」

「霊夢からそんなこと言うなんて珍しいな」

「うっさい。いろいろ貰ったし、私だってやる気だすことくらいあるわよ。でも、巫女の仕事も忙しいだろうからって断られちゃって。一応、幻想郷の地理とか危ない場所なんかは教えたけど」

「・・・・・・仕事、忙しいんですか?」

「・・・・・・忙しいわよ? 掃除したり、お茶飲んだり、有事に備えたり」

 

 つまり、取り立てて急ぐ要件はないということだった。

 心なし冷たくなった3人の視線に、霊夢は慌てて弁解する。

 

「い、一応一人でも大丈夫だって思ったのは本当なのよ!? だって――」

 

 霊夢は特に意識せず、爆弾を放り込んだ。

 

「あなたたちよりは、強そうだったし――!!」

 

 一瞬音が止み、それを破ったのは魔理沙の、「へぇ」という好戦的な響きの声。

 

「面白いじゃないか・・・・・・数々の異変を解決してきたこの魔理沙さんより、強いだって?」

「解決したのは私なんだけど」

「・・・・・・ごっそさん! このケーキの礼代わりに、一勝負ふっかけてくるぜ!」

 

 魔理沙が手をかざすと、立てかけてあった魔女の箒が飛んできてその手に収まる。

 その箒をくるっと回して跨ると、彼女は勢いよく飛んでいった。

 

「う~ん、わたしとしても幻想郷の異変の中で腕を磨いてきた身。未だ外に身を置く人に、異能で劣るとは思いたくないですねぇ」

「あなたさっき、指輪のこと放っておけないとか言ってなかった?」

「そうなんですよねぇ・・・・・・あっ、そうだ!」

 

 早苗は名案を思い付いたと言わんばかりに、手をポンと叩く。

 

「わたしの方が先に指輪を見つけて、それを賭けて勝負すればいいんです!」

「・・・・・・完全に悪役の発想なんだけど」

「大丈夫! 賭けてっていうのは建前で、勝っても負けてもちゃんと指輪はお渡しますから。それに、障害があった方が恋愛沙汰は燃えますからね! それでは早苗、行っきま~す!」

 

 ケーキとお茶はしっかり流し込み、魔理沙の後を追うように飛んでいく風祝。

 残されたのは博麗の巫女と、女子高生一人だった。

 

「嵐みたいでしたね」

「早苗の方は、実際風神だからねぇ。董子はいかなくてよかったの?」

「ちょっと興味はありますけど、今は力比べとかの気分じゃないんで。あっ、でもわたしがなんで幻想郷に来れてるのか結局分かってないし、こっちに体ごと渡る方法は聞きたいような」

「あなたもつくづく怖いもの知らずねぇ」

 

 霊夢はのんびりとお茶を口元に運ぶ。

 

「でも結局、どんな人だったんですか? というより、お二人とも何も聞かずに行っちゃったけど、どうやって見つけるつもりなんでしょう?」

「伝手はあるんだし、適当にやるんじゃない? あとどんな人かっていうと、若い男だったわ。多分わたしとあんまり変わらないくらいの年じゃないかしら。あっ、そう言えば夏休みとか言ってたし、董子と同じ学生ってやつだと思うわ」

「へぇ、また女性かと思ったのでちょっと意外ですね。――そう言えば、霊夢さんの機嫌がよかったのって、お礼の品を貰ったからだったんですね」

「え? ――ああ、うん。まあそれもあるんだけど・・・・・・」

 

 霊夢は一旦言葉を区切ると、少し照れたような顔になった。

 

「巫女の仕事やってて、お礼言われることなんてめったにないから――」

「・・・・・・霊夢さん。今度美味しいお酒――は無理なんで、何か美味しいものでも買ってきますね」

 

 董子は、もう少し霊夢に優しくしようと思った。

 

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