東方指輪物語   作:サボテン男爵

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「ところで話は変わるけど――神綺って知ってる?」


2話 魔法少女の捜索

 魔法使い然とした格好をして、実際に魔法使いである金髪の少女――魔理沙は愛用の箒に跨り、幻想郷の空を駆ける。

 

「――外見くらい、聞いておくんだったぜ」

 

 博麗神社のお茶会から勢いのまま飛び出してきた彼女だったが、肝心の探し人のことは何も知らない。

 精々が外来人である、ということくらいだ。

 

「でも戻って聞くのも格好悪いしなぁ」

 

 魔理沙は幻想郷に蔓延る人外魔境たちの間では、決して地力が高いとはいえない。

 弱小妖怪相手なら縦横無尽の活躍を見せることができるが、所謂上位の妖怪が相手ともなるとそうはいかないし、魔理沙自身そこまで己惚れていない。

 これまでの異変において格上相手にも立ちまわることができているのは、“弾幕ごっこ”という幻想郷ならではのルールがあるが故だ。

 

 だからこそ逆に、ポーズを大事にする。

 妖怪たち相手には、弱みを見せてしまえばお終いなのだ。

 

「まっ、どうとでもなるか」

 

 これが霊夢当たりだったら適当に棒を倒してその方角に進めば目標に辿り着きかねないが、魔理沙ではそうはいかない。

 彼女の方針は足で稼ぐというものであり、一見猪突猛進に見えても下準備と日ごろの努力は決して欠かさない。

 魔理沙は、そんな頑張り屋な少女であった。

 

 そんな彼女が先ほど大して話も聞かずに飛び出してきたのは、ひとえに霊夢に対するライバル心の表れだった。――決して霊夢本人に対しては口にしないだろうが。

 

『あなたたちより強い』

 

 霊夢はそう深く考えずにこの言葉を使ったのだが、それは思いのほか、魔理沙の琴線を大きく刺激した。

 魔理沙にとって霊夢という少女は、友達であり、グータラであり、その癖滅法に強い――そんな少女である。

 客観的に見て彼女の力は自分を上回っており、ライバルであると同時にいつか隣で遜色なく戦えるようになりたい。それが現時点で無数にある、魔理沙の目標の一つだった。

 

 そんな彼女が『強い』と評した外来人。

 これが外からやって来た大妖なら『そんなものか』と納得したかもしれないが、相手は人間であるらしい。

 

 『おもしろくない』――恥ずかしいので口にはしないが、そんな思いはあった。

 同時にそんな、どちらかと言えばマイナスの感情をプラスの方向に持って行けるのも、彼女の力だ。

 『その外来人に、正面から打ち勝つ』。

 そうすれば、自分も目標にまた一つ近づける。その為には、肝心の目標を見つけなければならない。

 魔理沙は視界に入った目的地に向け、箒の角度を下に向けた。

 

◇半妖店主の証言

 

「こーりん!!」

「・・・・・・そんな大声を出さずとも聞こえているよ、魔理沙」

 

 いつも通りカウンターに座り、いつも通り読書をしていたメガネの青年は、ため息を吐きつつ開いたページを下に本をカウンターに伏せる。

 

 魔理沙が訪れたのは、幻想郷でも数少ない『外の世界の物品』を取り扱う道具屋だ。

 もっともその大半は拾い物であり、名前と用途は分かれど使い方は分からない。

 挙句の果てには、使い方がわかるものは店主である森近霖之助が独占するという、趣味のついでに商売をしているとしか思えない店だった。

 ――それでも、一定の需要はあるのだが。

 

「それで、今日はどんな要件かな? いよいよ積みあがったツケを払う気になったのかい?」

「賽の河原の積み石はどうなるんだっけ?」

「・・・・・・君の意思はよくわかったよ。この店には鬼除けの仕掛けをしておくとしよう」

「地蔵上がりの閻魔でも雇ったらどうだ?」

「確かに効果はピカイチだろうが、他の客がこなくなる」

「客なんて来てたか? わたしと霊夢以外に」

「お金を払わない子らを、客とは呼びたくないんだが」

「そんな奴らがいるのか。ひどい奴らだな」

「君は鏡を見る習慣をつけた方がいい」

「毎朝見てるぜ。乙女だからな」

 

 魔理沙は二カッと笑い、霖之助はため息を吐いた。

 一見店主が被害者にも見えるが、霖之助は魔理沙が持ちながらも、価値が分からない貴重品を捨て値で引き取ったりしているので、実際のところお互い様だった。

 

「話を戻すが、ここに外来人が訪ねてこなかったか? なんでも指輪を探しているらしいんだが」

 

 挨拶代わりの軽口を終え、早速要件を切り出す。

 適当な商品の上に腰を下ろすと霖之助は顔を顰めたが、魔理沙は当然のように無視した。

 

「“彼”を探しているのか」

「“彼”ってことは、男なのか」

「そんなことも知らず、探していたのかい?」

「ここで分かったから無問題だ。――で、来たんだな?」

「ああ、もう数時間前の話になるけどね。少し話をしたらすぐに行ってしまったが」

 

 その返事に、魔理沙は「チッ」と舌打ちを漏らす。

 

「いつもの無駄話で足止めしてくれればよかったのに」

「僕だって外の世界や品々について話を聞きたかったが、急いでいたようだからね。仕方がないさ」

 

 霖之助はそう言って肩をすくめる。

 魔理沙も彼が“外”について興味を持っているのは知っている。

 少女がまだ小さいころには、いずれ外で修行してみたいと漏らしていたこともあった。

 董子から話を聞く限り、戸籍やら何やらで非常に大変そうだが。

 

「確認するがその“指輪”、持ってたりはしないよな?」

 

 魔理沙とて、目の前の青年に意外とちゃっかりしている部分があるのは承知の上だ。

 気に入ったものだったら、誰にも言わずこっそり隠し持っている可能性も十分ある。

 

「持ってないよ。最近は“仕入れ”にも行っていなかったからね」

 

 “仕入れ”などと言う言葉を使ってはいるが、ぶっちゃけ単なるもの拾いだ。

 幻想郷には外の世界の物品が流れ着きやすいエリアがあるので、そこで彼は眼鏡を光らせながら物品を収拾している。

 

「それに、単なる指輪のようだしね。彼――というか彼の従兄だったか。その人物にとっては大事なものらしいが、僕にとっては興味の対象ではない」

「でももし手に入れてたら、高く吹っ掛けるんだろ?」

「正当な値段で取引するだけだよ。需要に見合ったね」

 

 残念ながらこの店主には、落し物をそのまま本人に返すなんて気概はサラサラなかった。

 一度彼の手に渡った時点で商品。

 拾得物の1/10どころか、10倍の値段で吹っ掛けてもおかしくはない。

 何だかんだで、魔理沙という少女の人格形成には、彼の存在が大きく関わっているのかもしれなかった。

 

「それで、どんな奴だったんだ?」

「若い男だよ。多分齢は、君や霊夢とあんまり変わらないくらいじゃないのかな? 外来人らしく、洋服だったが」

「どんなことを話したんだ?」

「『ちょっと前に外来人が来なかったか』とか、『指輪を拾わなかったか』とか、そんなところだよ。生憎と、どちらにも心当たりはなかったけど。どうも、霊夢の紹介でここに来たらしいね。『ひょっとしたらその外来人が立ち寄ったかもしれない』ってことで」

「・・・・・・ふーん、ほったらかしって訳でもなかったんだな」

 

 かく言う魔理沙がここを尋ねたのも、同じ理由だった。

 外来人が立ち寄っても安全な場所で、かつ神社からも比較的近いこの立地。

 危機感の薄い外来人は妖怪の餌食になることも珍しくないが、この近辺に流れ着いていれば比較的安全なので、神社までたどり着ける可能性は十分ある。

 

「――僕から話せるのはこんなところだが、魔理沙はどうして彼を探しているんだい?」

「うん? ちょっと一勝負挑もうと思ってな」

「・・・・・・さすがに外来人相手の強盗は感心しないが」

「そんなんじゃねーって! あ、そうだ。近いうち宴会するつもりだから、香霖もこいよ?」

「気が向いたらね。ところで何の宴会だい?」

「勿論、わたしの戦勝祝いだぜ!」

 

◇人形師の証言

 

 霧雨魔理沙には、博麗霊夢のような“勘の鋭さ”はない。

 だが人間相手にも妖怪相手にも顔は広く、行動範囲も広い。

 “伝手”という面では、幻想郷でもなかなかのものだ。

 それ故に、彼女の捜査はそれを最大限に活かして行われる。

 

「・・・・・・という訳でアリス。その外来人がここに来なかったか?」

「唐突に訪ねてきて何かと思えば外来人探しなんて、またおかしなことをやっているわね」

 

 魔理沙より少し背の高い少女は、自身の操る人形に入れさせた紅茶に口をつける。

 アリス・マーガトロイド――魔法の森に居を構える、人形みたいな人形使いの魔法使いだ。

 

「魔法使いが力を高めるのなら、人と向き合うよりも自分自身の研究と向き合うべきでしょうに」

「そっちはそっちでやっているし、本格的に家にこもるのは齢とってバーさんになってからでも十分なんだぜ」

「あら、“捨虫の術”は使わないのかしら?」

 

 “捨虫の術”とは、簡単に言えば成長を止める不老の魔法である。

 魔法使いの研究・研鑽にはどうしても長い期間が必要になるので、魔法使いという種族には需要が高い魔法だ。

 食事や睡眠が不要にある“捨食の術”という魔法もあるが、魔理沙はどちらも修得していない。

 

「んー、今のところは保留中。どっちにしても、もうちょっと体が成長してからの話だな」

「未だにお子様体形だものねぇ・・・・・・。宴会ばかりの不養生が祟っているんじゃないのかしら?」

「酒は万薬の長、宴会は心の洗濯だぜ。体に良くないわけがない。――それよりも、どうなんだ?」

「はいはい、外来人だったわね。来たわよ」

 

 魔理沙の言動に肩をすくめながらも、アリスは素直に答える。

 

「最初は迷い込んだ外来人だと思って、博麗神社に連れていこうと思ったんだけど」

「アリスって何だかんだで面倒見いいよな」

「都会派だから。客に応対するくらいのマナーはあるし、礼儀を持っている相手なら、私が危なくない程度になら力を貸すのも吝かではないわ」

 

 アリス・マーガトロイドは妖怪の中でも、相当に寛容な部類である。

 森で迷った人間がやってくれば保護するし、凡百の妖精相手にお茶を振舞ったりもする。

 人里で人形劇をやっている姿も度々目撃し、子供に人形をせがまれればプレゼントしたりもする。

 その癖割りと不愛想で、ちぐはぐな印象を受ける少女だった。

 

「もっとも、彼の探し物に関しては何の心当たりもなかったけど」

「むう、アリスもか・・・・・・」

「何かの力がある指輪だったら、ひょっとしたら気づくかもしれないけど、ただの指輪らしいから。手がかりとして持っていた葉っぱも、この魔法の森ではありふれたものだったのよ。幻想郷は広い土地ではないけど、それでも小さな指輪一つとなると、探すのは難しいでしょうね」

「妖精なんかに拾われたら、なおのことお手上げだもんなぁ」

「どちらかと言えば、そっちの方がまだ見つかる可能性は高いかもしれないわね。単純に考えて、地面の上に落ちたままなら今頃落ち葉に埋まっているでしょうし」

 

 魔法の森は、独自の生態系と瘴気の為か植生の移り変わりが早い。

 魔理沙が趣味と実益の為に集めているキノコなどは特に、1日ごとに新種が生まれ、古く弱い種が絶滅することも珍しくはない。

 小物程度、あっという間に自然の中に飲み込まれてしまうのだ。

 

「もの探しも魔法も、森に溢れる瘴気と魔力のせいでなかなかうまくいかないのよね」

「そーなのかー」

「・・・・・・これだから特化型の魔法使いは。魔法は生活を便利にするためのものでもあるんだから、弾幕ごっこ用の魔法ばかりじゃなくて他の魔法も研究しなさいよ」

「アリスみたく、人形使えたら便利そうではあるな。1個くれよ」

 

 アリスは多くの人形を同時に操って、家事や研究の助けにしている。

 傍から見れば楽そうではあるが、実際にはアリス自身が操っているので大変さのベクトルが違う。

 もっともある程度半自動化されたり、動きをパターン化しているものもあるようだが。

 

「さりげなく強請らないでちょうだい。第一人形遣いには緻密な技術がいるから、繊細じゃないと向いていないわ」

「わたしほど繊細な乙女も珍しいと思うが」

「・・・・・・あなたは紅魔館に通う内に、鏡に映らない吸血鬼にされてしまったのかしら?」

「鏡ネタは二番煎じだぜ」

 

 「何よそれ」とアリスが問うと、「香霖のとこでな」と魔理沙が返す。

 

「相変わらず、あの店主はあなたを甘やかしているようね」

「むっ。むしろわたしのほうが、引きこもりがちな香霖の様子を見にいってやってるんだぜ」

「甘やかされていることが分からないうちは、まだまだ子供ってことよ」

「知ったようなセリフだな。経験でもあるのか?」

「・・・・・・余計な墓穴を掘ったようね。まったく、懐かしい名前を聞いたから昔のことを思い出しちゃったわ」

 

 ため息を吐いてどこか遠いところを見るような目をするアリスに、魔理沙は少し驚く。

 目の前の人形狂いの魔女は過去を語らない。

 魔理沙が知る限りずっとこの森に住み、時折人里に訪れては人形劇や買い物をするような生活をずっと続けている。

 力ある魔女なのは確かだが、その経歴は一切と言っていいほどに不明なのだ。

 もっとも、幻想郷ではそんな人物は珍しくないが。

 

「まあ、わたしのことは別にいいわ」

「そうやってはぐらかさると、余計に気になるんだけど」

「別に、どうってこともないささやかな話よ。遠い世界かもしれないし、遠い時代かもしれない。現実みたいに張り付いて、幻想よりもあやふやなお話。――それよりも、外来人の話だったわね」

 

 強引な話題の変更だったが、もともとその件で会いに来たため魔理沙には文句を言うこともできなかった。

 気になる話なのは間違いないが、アリスは幻想郷に住んでいて、外来人は目的さえ果たしてしまえばいつ外の世界に帰るとも知れない。

 優先順位は、明らかだった。

 

「ハッキリ言って、指輪の方を捜査で探すのは難しいわね。それこそ、霊夢みたいに神様の力を借りるとかしないと・・・・・・。だから外来人に会うのが目的なら、探すのは指輪ではなくその外来人の方にするべきよ。彼だったらいまだに森の中を探しているかもしれないし、人里近くのお寺に失せ物探しが得意なネズミ妖怪がいるって教えたから、そっちを訪ねているかもしれないわ」

「ナズーリンの奴か・・・・・・。そうだな、森を一通り回ってみて見つからないようなら、そっちを当たってみるとするか」

 

 魔理沙は苦労人気質があるネズミ妖怪の顔を思い出しつつ、椅子から立ち上がる。

 

「サンキュー、世話になったな。今度うまいキノコでも持ってくるぜ!」

「・・・・・・毒キノコは止めてね? ある程度は大丈夫にしても、気持ちのいいものではないから」

「害が無い程度なら、スパイス代わりになると思うけどなー」

「お寺に行くんなら、説教も一緒に受けてくるべきだわ」

 

◇華人小娘の証言

 

「む、来ましたね、白黒! 今日は通しませんよ!」

 

 霧の湖の畔に建つ、目が痛くなるような真っ赤な色合いの洋式の館。

 その門番である紅美鈴は、接近してくる魔理沙の姿を確認するとビシッと戦いの姿勢をとる。

 が、魔理沙はどこ吹く風でふわふわと、彼女に近づいていく。

 

「ご機嫌よう、今日は寝てないんだな?」

「はい、こんにちは。・・・・・・断っておきますけど、そんなしょっちゅう寝ているわけじゃないですからね? たまにです、たまに」

 

 霧雨魔理沙は紅魔館に存在する大図書館からの泥棒の常習犯であり、美鈴はその撃退に何度も失敗している。

 これは一重に相性的なものがあるのだが、美鈴自身にこの厄介な客人相手に対しては、そこまで真剣に侵入を阻む気がないというのも大きい。

 何だかんだで閉塞気味なところがある紅魔館に、外の空気を運んでくれる存在だからだ。

 門番という立ち位置上、素通しという訳にはいかないが。

 

「いや、それはまあ知ってるんだけどな・・・・・・」

 

 魔理沙は地面に足をつけながら苦笑する。

 実際目の前の門番が居眠りをしているのを見たのは魔理沙としても2~3度ほどだが、器用に立ったまま居眠りをしている姿はなかなかに印象的なので、どうしてもそういうイメージが付きまとってしまうのだ。

 

「ま、いいや。今日はお前に用事があったんだ」

「私に、ですか?」

 

 美鈴は訝し気な顔をしつつも、あっさりと構えを解く。

 相変わらず妖怪のくせに、妙に気のいい奴だった。

 

 魔理沙がこれまでの経緯を説明して美鈴に何か知らないかと問うと、彼女は「ああ」と言って手をポンと打った。

 

「その方でしたら見えましたよ」

「本当か? こんないかにも怪しげな館に近づくなんて、頭が悪い奴だぜ」

「――怪しげな場所を見つけたら、真っ先に突っ込んでいく貴女に言われたくはないと思いますが・・・・・・」

 

 美鈴は苦笑すると、説明を始める。

 

「何日か前の話ですけど、チルノさんが遊びに来て、こんな話をしていったんですよ」

 

 美鈴がその時のことを語り、魔理沙はふんふんと相槌を打ち、最後には驚いた顔になる。

 

「そっか、あいつが指輪を拾ってたんだな・・・・・・ってことは今あっちの方に?」

「だと思います。力持つ者とは言え人間が住む環境ではないので、止めたんですけどね~」

「外来人は危機感がない奴が多いからな。もしくは――」

 

 幻想郷に住む人間ならば、そのほとんどは近づいてはいけない場所に近づかないということをわきまえている。

 ただし外来人はそうでもない。いつだったか董子が言っていたことを、魔理沙は思い出した。

 

『禁足地とか、ホラースポットとか、そういう曰く付きの場所に遊び半分で行く人が多いんですよね。その結果、本当に“何かあって”理不尽だと喚く人とかも。テレビの自称専門家とかが、今の人間は昔の人間に比べて危険を察知する力が薄れているって言ってましたけど、それは本当かなって思います。え? お前はどうなのかって? わたしはご存知の通り、危険のボーダーが人より高いですから』

 

「腕によっぽど自信があるか、か」

「そうですねー、格闘技とかはかじってるみたいでしたけど」

「へぇ、そうなのか?」

「外の世界の武芸者なんて珍しいですからね。誘いをかけてみたんですけど、フラレちゃいました」

 

 そう言って美鈴は、片手を頭の後ろにやりぺろっと舌を出して見せた。

 妙に様になっていたので、魔理沙は少しイラっとした。

 

「でも人間が使う格闘技なんざ、妖怪に対してはあんまり効果的じゃないだろう」

「よほど極まっている人じゃない限りは、そうですね。正体を明らかにしたうえで、弱点を突くのが一番ですから」

 

 そういう美鈴には、弱点らしい弱点はないのだが。

 そもそもこの紅美鈴という妖怪は、あんまり妖怪らしくないと魔理沙は思っている。

 人を喰わないし、襲わない。妙に気は良いし、子供相手には優しい。

 単純に、人間の力を底上げしたような妖怪だった。

 

 そういう意味では、紅魔館の主である吸血鬼レミリア・スカーレットは妖怪らしい妖怪といえるだろう。

 理不尽ともとれる強大な力を無邪気に振るうが、反面弱点も多いという点において。

 

「本人も、格闘技は本分じゃないって言ってましたね」

「だったら何が本分なんだ?」

「さあ? ただ魔法っぽいのは使ってましたね。といっても魔力は感じなかったので、わたしが知る魔法とはだいぶ違うんでしょうけど」

「へぇ、それは興味深いな」

 

 魔理沙自身魔法使いであるし、競う相手が同じ土台の上に立っているのなら優劣がはっきりとしやすい。そういう意味で、彼女は笑みを浮かべた。

 

「どんなのを使ってたんだ?」

「わたしが見たのは、魔法陣みたいなのを浮かべて何もない空中を踏んでいるのでしたね。あれ、ちょっといいなーって思いました。わたしも空は飛べるんですけど、やっぱり格闘技を使う以上、空中でも踏み込みができるのはメリットが大きいですから」

 

 そう言って美鈴は、ドン!! と震脚をして見せると、地面を伝わり魔理沙にまで振動が伝わってくる。

 魔理沙自身そこまで格闘技に詳しい訳ではないが、見事なものだとは思っている。

 もっとも、それが弾幕ごっこに活かされることはあまりないのだが。

 

「よし! じゃあわたしもそろそろ行くとするか。情報提供、感謝するぜ!」

「そう思うんでしたら、もう侵入するのは止めてほしいんですけど。お嬢様もパチュリー様も、客としてくるのなら拒みはしないと思いますよ?」

「代り映えのしない日常に、一時のスリルを提供する――それが手土産代わりになるとは思わないか?」

「体はあんまり成長しないのに、口ばかりは達者になっていきますねぇ・・・・・・。今から行けば追い付けるかもしれませんが、まあお気をつけて。あの場所は人間にとっては有害で、曲がりなりにもあなたは人間なんですから」

「大丈夫だって。足しげくって訳じゃないが、あそこには何度か通ってる。それに、キノコの毒で体を慣らしてるからな」

「そこはせめて、得意の魔法で大丈夫って言って欲しかったですねぇ」

 

 魔理沙は箒に乗って、再び空を駆ける。

 定まった目的地に向けて、流星のように一直線に――

 

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