東方指輪物語   作:サボテン男爵

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「羅生門の鬼は美しい女性の姿だった、なんて話があったけど――なるほど、納得だ」


3話 風祝の捜索

◇唐傘お化けの慟哭

 

 博麗神社から飛び立った早苗が、緑色の髪をなびかせながら空を飛んでいると、神社へと続く長い石階段に見知った相手が腰を下ろしているのが目に入った。

 

 傍らに折りたたんだ趣味の悪い色合いの傘をおいた、少女の姿を持った妖怪だ。

 こころなし、ボロボロになっているように見える。

 早苗はそっと彼女に近づいていって、優しく声をかける。

 

「小傘さん。こんなところで待ち伏せしていても、あなたが驚かすような人は誰も来ませんよ?」

「この姿を見ての第一声がそれなの!?」

 

 唐傘お化けもとい、多々良小傘は吼えた。

 ちなみに早苗が博麗神社に対し、さりげなくひどい評価を下しているが、事実ではある。

 妖怪神社とも揶揄されるあの場所には、ただの人間は滅多に訪れない。

 下手をすれば――否。下手をしなくとも、外の世界にあった頃の守谷神社よりも。

 

 その事実を知った当初は、『幻想郷ってひょっとして思ったよりも信仰が集まらないんじゃないか?』と疑問と不安を持ったものだが、たゆまぬ営業努力により守谷神社は一定の信仰を獲得することに成功している。

 

「もっとこう、心配するとかないの!?」

「妖怪退治をやっている人間にそれを言われても・・・・・・」

「うぅ、そりゃそうだけど・・・・・・。って、早苗さんのところ、妖怪の信者も少なからずいましたよね?」

 

 少し落ち着いて来たのか、小傘の口調が丁寧語になる。

 ちなみに小傘の言っていることは事実で、守谷神社には人間以外にも天狗をはじめとする妖怪の一部からも信仰が集まっている。

 これは守谷神社が引っ越した先が“妖怪の山”であったことや、守矢の神たちが破天荒ながらも大きな力を示していることが大きい。

 妖怪は、力あるモノには一定の敬意を払うものなのである。

 

「それはそれ、これはこれです。第一お寺に居座っているような妖怪は別物。いい妖怪は、守矢に与する妖怪だけなんです」

「取りつく島もないわねー」

 

 ちなみに早苗の言葉は某作品の台詞をオマージュしたものであって、心底そのようなことを考えている訳ではないが、当然幻想郷育ちの唐傘お化けに理解しろという方が無理のある話なのであった。

 

「それで、見たところ弾幕ごっこで負けたようですけど・・・・・・里の退治屋さんにでもやられましたか?」

 

 多々良小傘は、妖怪としては危険度が低い部類である。

 基本的に、人を驚かすことを自らの活力とするため、故意に誰かを傷つけるということはしない(驚かせられるとは言っていないが)。

 しかし何を思ったのかベビーシッターの真似事を始め、子供からの評判はともかく親からの評判はすこぶる悪く、手配書まで作られる始末だ。

 もっとも里の退治屋たちからしても優先度は低く、半ば放置されている状態だが。

 

「そんなんじゃないですよぉ、ぐすん。わちきの聞くも涙、語るも涙のお話聞いてくれます?」

「今忙しいのでちょっと」

「うぅ、ひどい・・・・・・じゃあ命連寺に行って誰かに聞いてもらうしかないかなぁ」

「ウチじゃ駄目だからお寺っていうのも、あまり面白くないですね。仕方ありません。30秒でお願いします」

 

 目下、宗教家という意味では守谷神社最大のライバルは命連寺である。

 仙人たちも個々の力は劣らないが、勢力としてはあまり大きくないし、大きくするつもりもない。

 博麗神社は・・・・・・まあ言わずもがな。

 ともかく、信仰という名のパイは限られており、その大部分を獲得――可能ならば独占するのが守谷神社の経営目標であった。

 

「宗教同士のにらみ合いって、相変わらず人間は怖いですねぇ。戦争とか始めないで下さいよ?」

「賢者は歴史に学ぶもの。お互い、そこまでするつもりはありませんよ。この間のはお祭りみたいなものですし。それに、幻想郷じゃこれがルールですからね」

 

 早苗が指先に小さな霊弾を生み出し、軽く放ると小傘の額に当たり「ひゃん!」と悲鳴が漏れる。

 ちなみに早苗の言う歴史の7割は二次元の創作作品なのだが、言わぬが華だろう。

 

「で、何があったんですか?」

「うう・・・・・・それが博麗神社から男の人が降りてきたから驚かそうとしたんですけど、失敗して。それで弾幕ごっこを挑んだらこてんぱんにされたんです」

「・・・・・・本当に30秒で終わりましたね。ちょっとだけ見直しました」

「ホント!? へへ・・・・・・」

「でもいつも通り過ぎて、どこにもお涙頂戴の要素がなかったんですけど」

「そんなぁ」

 

 小傘は自称、『人間を驚かす程度の能力』の持ち主であるが、その成功率は極めて低い。

 なんせやり方が、急に飛び出して驚かすだけである。

 それだけでも場の雰囲気やシチュエーションにこだわれば何とかかるかもしれないが、

彼女はその辺り、かなりずぼらなのである。

 

「いいですか? 董子さんの話によると、あの貞子さんですら近年は萌え文化の波に飲み込まれて、年々恐怖を失いつつあるそうです。人間だろうが妖怪だろうが、努力を怠った者に未来はないんですよ」

「貞子さんって誰ですか?」

「数年前までは、外では恐怖の代名詞であった存在ですよ。少女の幽霊で、念じるだけで人を殺す力を持っています」

「えっと、冥界のお姫様?」

「・・・・・・言われてみれば、割と被っていますね。まあビデオどころかテレビすら普及していない幻想郷では、縁のない存在でしょうけど」

 

 もっとも外の世界では、肝心要のビデオ自身が役割を失いつつあるため、テレビよりもビデオやビデオデッキの方が多く、幻想郷に流れ着いているという事実もある。

 守谷の発電所事業がうまくいけば、遠くない将来“貞子”という概念が幻想郷に認知されるという未来もあるかもしれない。

 

「でも博麗神社から男の人、ですか。霊夢さんに限って色恋沙汰はないでしょうし、ひょっとして外来人じゃなかったですか?」

「言われてみればそうだったかも。里じゃ見ない顔と服装でしたし。怖かったんですよ? こう、目玉をいっぱい出して、ビーム撃ってきて」

「小傘さんよりよほど妖怪らしいですね。百目鬼ですか?」

「早苗さんよりは人間に見えましたけど」

「ほほう、どういう意味でしょうか?」

 

 早苗はにっこりと笑みを浮かべると、お祓い棒を構えた。

 

「よくよく考えてみれば、他所様とはいえ神社への参道に妖怪がいるのはいただけませんね。ウォーミングアップついでに、退治しちゃいましょうか」

「え。えー!?」

 

 ピチューンと、青空の下、軽やかな音が鳴り響いた。

 

◇有翼記者の取材

 

「う~ん、大した情報は持っていませんでしたねぇ」

 

 魔法の森の上空を飛びながら、早苗は呟く。

 先ほど邪悪な唐傘お化けを退治した際拷問・・・・・・ではなく更なる情報提供を迫ったのだが、分かったのは外来人が魔法の森の方角に向かったということだけ。

 

「霊夢さんはああ言っていましたけど、やはり心配ではありますからね」

 

 昨今、外の世界で妖怪による人身被害があるなんてことは滅多にない。

 ひょっとしたらどこかで起こっているかもしれないが、少なくとも早苗は知らなかった。

 対して幻想郷では、妖怪による事件は相変わらず発生している。

 弾幕ごっこの普及以降最悪のケースは減っているらしいが、今回のケースは幻想郷のルールによる保護がない外来人が当事者だ。

 

 言わば先進国の街中でしか生きたことのない人間が、野生動物溢れるサバンナにやって来たようなもの。小傘のような妖怪ばかりなら問題ないが、普通に危険な妖怪もいるのだ。

 霊夢曰く実力者らしいが、早苗はその一言で放っておけるような人格ではなかった。

 

「とりあえず接触、できれば保護。後は指輪を見つけて・・・・・・最後に弾幕ごっこをして帰ってもらう。うん、一先ずこのプランでいくとしましょう」

 

 なお、弾幕ごっこをすることもしっかり勘定に入っているあたり、やはりどこかずれているのであった。

 

「うまく解決できれば、守矢の名声もさらにアップ。ふふ・・・・・・ぽっと出のお寺なんかに遅れはとりませんとも!」

「ほほう、何やら事件の予感が」

「ひゃあっ!?」

 

 いきなり後ろから声をかけられ、早苗は驚いて振り返る。

 するとパシャリと音がして、そこに居たのはカメラを構えた黒髪の少女――妖怪の山の天狗記者・射命丸文だった。

 

「はい! なかなかいい表情をいただきました。どうも、清く正しい射命丸です」

「あ、あなたでしたか・・・・・・驚かさないで下さいよ。――って、さっきの変な表情撮れてないですよねっ!?」

「いえいえ、変な表情なんて滅相もない。わたしの新聞に載せれば、里の若い男衆からの支持率アップ間違いなし! のかわいいお顔でしたよ」

「へ? ああ、それならよかっ・・・・・・じゃないです! 勝手に載せたりしないで下さいよ! 検閲はさせてもらいますからね!」

「あやややや・・・・・・勢いで押せると思ったのですが残念。早苗さんも逞しくなりましたねぇ」

 

 文はカメラを下ろし、にっこりと笑う。

 

「それで何やら気になることをおっしゃっていましたけど・・・・・・またお寺の方々と諍いでも? 出来れば詳しくお願いしたいところですが」

「いえ、別に今のところお寺の方は直接は関わっていませんけど・・・・・・それに、先を急いでいるので」

 

 早苗はめんどくさそうな色合いを声ににじませながら断ろうとするが、文は笑顔で一言。

 

「写真」

「うっ・・・・・・仕方ありません。その代わり、話を聞いた以上は手伝ってもらいますからね?」

「確約は保証しかねますが、前向きに検討しましょう」

「はぁ、それでは・・・・・・」

 

 早苗は最速を誇る天狗が捜査網に加わってくれるのなら――と前向きに考えることにし、ぽつぽつと事情を話し始める。

 逆に事態を余計にややこしくされる可能性もあるが何、その時は心置きなく正当な妖怪退治としてカメラごと堕としてしまえばいいだけだ。

 文はというとふんふんと話を聞きながら、手元のメモ帳に何やら書き込んでいく。

 

「・・・・・・なるほどなるほど。話そのものは日常のちょっと変わった1ページといった所ですが、色恋沙汰が絡んでいるのはグッドですね。アレは部数が稼げますから・・・・・・でもそれ以上に肝となるのは――」

 

 文がペンの切っ先を、ビシッと早苗に対して向ける。

 

「外の世界から、人間の術者がやって来た。その事実そのものですね」

「・・・・・・やっぱり珍しいんですか? そういうことは」

「ええ、博麗大結界が出来たころ辺りはまだ、当時の巫女の知り合いが訪ねてきたりもしましたけど、年々減っていって・・・・・・。最近じゃあ、実例といえるのは董子さんくらいじゃないですかね? もっとも、あちらはまた特殊なパターンですが」

 

 宇佐見董子は、夢の中でのみ幻想郷に訪れる奇病・夢幻病を発症している。

 もっとも現状においては、いろいろと謎が多い症状であるが。

 

「結界が揺らいでいるのか、何者かによる後押しがあったのか・・・・・・う~ん、想像が広がる話題ですね」

「適当なデマを広めるのは止めて下さいよ? 里の人たちが不安がりますから」

「わたしとてベテランの記者です。確証もない憶測を、事実のように語る趣味はありませんよ」

「ほんとですか・・・・・・?」

 

 早苗がジト目を向けているあたりこれまでの所業が窺えるが、烏天狗はどこ吹く風といった様子だった。

 

「ともあれ外来人と指輪探しでしたね。白狼を動かすのは流石に無理ですが、ウチのカラスたちにも探させましょう。興味深い取材対象になりそうですから」

「ああ、カラスは光るものが好きって言いますしね」

「妖怪化でもしない限り、本当に光るものが好きなカラスなんて滅多にいないのですが・・・・・・まあその辺りは別にいいですか。ああ、光るものと言えば――」

 

 文が何かを思い出したように、ポンと手をうった。

 

「先ほどルーミアさんと会ったんですよ」

「? ああ、あの闇妖怪ですか。それがどうしたんですか?」

「それが光の十字架みたいなのに磔になっていて・・・・・・日の光にじりじりと焼かれていました。もっとも本人はよだれを垂らして寝てましたけど」

「闇妖怪のくせにのんきな。生態が反転したんですかね」

「そんなわけないでしょう。闇そのものが具現化した妖怪なんですから」

 

 早苗は“心を読む”という現象が具現化し、それを自ら封じた妖怪を思い出したが、空気を読んで口にはしなかった。

 

「気になったので話を聞いてみたんですけど、どうやら外来人らしき人物を襲って返り討ちにあったそうで」

「えっ、それってひょっとして――」

「ええ、先ほどお話にあった外来人の可能性が高いでしょう。なかなかにできる人物のようですね。しかし・・・・・・」

 

 文は若干悩まし気な表情になり、ペン先を唇に当てる。

 

「妖怪とはいえあのようにして放置するとは、もしかするとサドッ気がある人物なのかもしれません」

「えっと、それはどうでしょう?」

「まったく未知の人物なのです。危険性がある人物の可能性も考えておかないと。妖怪でも人間でも、男は心に狼を飼っているものですからね。・・・・・・となると、早苗さんと違ってか弱い女記者であるわたしとしては、少々注意する必要がありそうですね」

「そうですね・・・・・・万一そうだとすれば、文さんと違って可憐な風祝であるわたしは気を付けなくてはいけませんね」

「えっ」

「えっ」

「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」

 

 その後、幻想郷の空に弾幕の嵐が舞った。

 

◇桃色仙人のため息

 

「まったく・・・・・・余計な時間をくいました」

 

 ぶつぶつと呟きながら、風祝は空を飛ぶ。

 その隣には、一羽のカラスが並走するように飛んでいる。

 文から連絡用ということで預けられたカラスだ。

 

『魔法の森方面はわたしとカラスたちで探すので、早苗さんは他の場所を勘頼りに探してみてください。有力な情報が見つかったら、お互いのカラスを使って連絡をするということで。・・・・・・え? 嫌ですねぇ、情報を独占したりなんかしませんよ』

 

 ボロボロになった服装で笑顔を浮かべながら去っていった文だったが、話半分程度に信じておくとして早苗も捜索を再開していた。

 現人神である身としては、実際に勘頼りというのも悪くはなかったからである。

 

「一発でババーンと見つけられないあたり、まだまだ未熟さを感じますけどね・・・・・・」

 

 神は一日にして成らず。日ごろからの信仰集めによって成り立つものだ。

 多少泥臭くとも、今は地道に探すのみである。

 

「あら、あれは・・・・・・」

 

 ふと視線を下げると、見知ったピンク色がいた。

 幻想郷の地底――旧地獄へと続く縦穴の傍らに立ち、何やら俯いている様子だ。

 

「仙人様ー!」

「――っ!? っと、あなたでしたか。こんにちは」

「はい、こんにちは。・・・・・・どうしたんですか? 何やら難しい顔をしていますけど」

「・・・・・・いえ、少々物思いに耽っていただけよ」

 

 少女――山の仙人・茨華仙は硬い表情を崩し、柔らかな笑みを浮かべなおした。

 すっと鉄輪が付いた片腕を上げると、早苗の傍らを飛んでいたカラスがすうっととまり、

「カァ」と鳴き声を上げた。

 

「天狗のところのカラスね」

「さすがは動物を導く仙人様ですね。一声で見抜くなんて。それはそうとカラスさん、文さんに浮気してたって伝えてもいいですか?」

 

 カラスは「カァッ!?」と抗議の鳴き声を上げるが、早苗は無視した。

 その様子に、華仙は苦笑する。

 

「あまり動物を虐めないであげて。度が過ぎれば見てみぬふりはできないから」

「むう、仙人様の説教癖が発揮されたら困りますからね。今回は見逃してあげましょう」

「・・・・・・わたし、そんなに説教くさいかしら?」

「閻魔様の次点候補に入るくらいには」

 

 この時、小柄な閻魔様が可愛らしいくしゃみをしたかどうかは定かではない。

 華仙はちょっとだけ落ち込んだ。

 

「それで、あなたはこんなところでどうしたのかしら? まさか旧地獄にでも用があるの? だったらあまり感心しないけど」

「いえ、地底に用がある時は間欠泉センターの方を使うので・・・・・・。それに今はですね――」

 

 早苗が事情を説明しようとしたところで、その声は聞こえてきた。

 

「おーい!!」

 

 そんな掛け声とともに颯爽と現れたのは、箒に乗った白黒の魔法使い――霧雨魔理沙だった。

 彼女は早苗を見て矢のように問いかける。

 

「ひょっとしてお前も外来人を探してるのか!?」

「ええ、まあそうですけど・・・・・・」

「クソッ、先を越されたか!」

 

 悔し気に唸る魔理沙に早苗は不思議そうに首を傾げるが、何かに気づいたかのようにハッとした表情になる。

 

「え・・・・・・まさか、いるんですか!? 旧地獄に!?」

「あん? 知らなかったのか? ・・・・・・だったら余計なこと言っちまったぜ」

 

 魔理沙はミスったという顔をするが、反面早苗は慌てた表情だ。

 

「いえいえ、そんなこと言っている場合じゃないでしょう! 流石に危ないですって!」

 

 地底は鬼を始め地上を見限った妖怪や、逆に危険さや嫌悪感から地上を追い払われた妖怪たちの住まう地だ。

 その事実に比例するように、危険性という意味では地上よりも高い。

 そんな場所に外来人が一人向かったのだ。心配するなと言う方が難しいだろう。

 

「落ち着けって。地底の連中だっていきなり取って食ったりは・・・・・・まあなくはないだろうが」

「ですよねっ!」

「だが明らかに危険な場所に自分から突っ込んでいったんだ。外の世界じゃどうか知らんが、幻想郷じゃそれは自己責任の範疇だぜ」

「それは! そうですけど・・・・・・」

 

 この辺りは、外から来た早苗と生粋の幻想郷っ娘である魔理沙との意識の違いだろう。

 早苗もだいぶ幻想郷に染まってきた感はあるが、それでもその人生の大部分を外の世界で過ごしてきた身。その考え方は、簡単には抜けない。

 

「なるほど、あの少年を追っていた訳なのね」

 

 二人の話を静かに聞いていた華仙が、割り込むように呟く。

 

「うん? 会ったのか?」

「ええ、ちょうど地底に降りようとしていたところに出くわしたのよ」

「へぇ・・・・・・。人間の味方な仙人様は、止めなかったのかい?」

「止めたわよ。ただ、結局すぐに行ってしまったけど」

 

 皮肉気な魔理沙に、華仙は涼し気に返す。

 

「そんなに時間は経っていないから、今ならまだ追い付けるかもしれないわよ?」

「――ありがとうございます! それではお先にっ!」

「あっ、おい! ったく、行っちまった・・・・・・。わたしも行くけど、アンタはどうするんだ?」

「わたしは遠慮しておくわ」

「ふ~ん。何というか、らしくないな。わたしが旧地獄にいた時は説教したくせに」

 

 魔理沙は地獄の桜を見に行った時のことを思い出しつつ、そう呟いた。

 

「相応の力は持っていそうだったから、そこまで心配はしていないわ。――それに、顔を合わせたくない相手もいることだし」

「ひょっとしてさとりの奴か?」

「・・・・・・ええ、まあそんなところかしら」

「仙人のアンタでも読まれたくない心があるんだな・・・・・・っと、あんまり話し込んだら置いてかれちまう。じゃあなっ!」

「ええ、気を付けて」

 

 華仙は魔理沙の姿が旧地獄への縦穴に飲み込まれ、完全に消えたのを見計らってから口を開く。

 

「あの子たちの前で会ったりしたら、余計なボロが出かねないものね・・・・・・」

 

 本の少し前、この場所で出会った少年と交わした短い会話。

 それを反芻しながら、思いに耽る。

 

「事が終わったら、二人きりで話の場を作りたいところね。わたしの“探し物”についても、何か知っているかもしれないし」

 

 少女はそう呟いて、包帯にくるまれた右腕を一瞥し、地の底を見据えた。

 

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