東方指輪物語   作:サボテン男爵

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目には目を、歯には歯を、悪戯には悪戯を――


後日談2・祟り神への宅急便その壱

 一瞬のホワイトアウトが終わった後に待っていたのは、先ほどまでいた寂れた神社とは違う、人影こそ見当たらないもののどこか生活感がある神社。

 ――幻想郷側の、博麗神社だった。

 

「彼女はいない、か」

 

 来訪者・八雲木弥は辺りを見渡し、この神社の巫女にして住人である博麗霊夢の姿がない事を認める。

 今回は彼女に用があった訳ではないので、特に問題はないのだが。

 

 賽銭箱の前にまで移動し、こちらのお金は持たないので代わりに奉納品を賽銭箱の上においてから二礼二拍一礼。

 この神社の祭神は知らないし願い事も特にないため、『こんにちは、さようなら』とだけ念じておく。

 

 そのまま身を翻し“目的地”に向け歩を進めようとするが、違和感を覚えて立ち止まる。

 ぐるりと辺りを見回すが、誰も居ない。誰も居ないが――

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 木弥はたった今収めた奉納品に指をあて、ぼそりと何かを呟く。

 それが終わると一つ頷いた後鳥居の方角へ向かい、長く続く石階段を下り始めた。

 そしてそれを見計らったかのように、神社にある茂みがガサガサと音を立てた。

 

「行った?」

「行ったわね。気配は遠ざかっていくわ」

「あー、一瞬気づかれたかと思ったわ。サニー、ちゃんと姿消してたの?」

「ルナこそ音消してた?」

 

 がやがやと言い合いながら姿を見せたのは、3人の少女。

 日の光の妖精――サニーミルク。

 月の光の妖精――ルナチャイルド。

 星の光の妖精――スターサファイア。

 通称、光の三妖精とも呼ばれる3人組だった。

 

「そんな事より、早くアレ、貰っちゃいましょう? のんびりしていると霊夢さんが帰ってきちゃうわよ?」

「怒らせたら怖いものねー」

「何が入っているのかしら?」

 

 和気あいあいと、ワクワクと賽銭箱の前にまで移動する三妖精。

 霊夢とて余計なことをされなければ妖精相手に腹を立てることなどないのだが、悪戯こそが妖精種としてのアイデンティティ。

 反省や後悔こそすれど、次の日にはけろっと忘れる妖精頭。

 なので彼女たちは、今日も元気に人様に迷惑をかけるのであった。

 

「さーて御開・・・・・・ちょう?」

 

 奉納品に触れたサニーの楽し気な台詞は、唐突に途切れた。

 包んだのし紙の表面に、突如として“光る瞳”が浮かびあがったからだ。

 

「きゃっ!?」

 

 慌てて飛びのく三妖精。

 何事かと目を見開く彼女たちの前で、瞳から黒い液体が溢れだす。

 そしてその“黒”は瞬く間にずんぐりむっくりとした人型をとり、奉納品を守るように立ちあがった。

 

「えっと・・・・・・何コレ? 泥の妖怪?」

「泥ターボだったっけ?」

「でも生き物の気配じゃないし――それにこの“匂い”って、なんだか・・・・・・甘い?」

 

 3者3様にそのナニカに対する感想を口にする中、黒い人型はずんぐりとした腕を振り上げ、その拳を一番近くにいたルナの顔に叩きこんだ。

 

「きゃん!?」

「ルナー!? 大丈夫!?」

「うう・・・・・・痛――くはあんまりないけど、っぺっぺ。う~、口の中に入っちゃった・・・・・・ってアレ? これ、甘い?」

 

 ルナが自分の唇の周りに付いた“黒”を改めて舌で舐める。

 

「やっぱり甘い」

「ふ~ん? どれどれ」

 

 それを聞きつけたスターがルナの傍によると、小さな舌を出してルナのほっぺをぺろりと舐めた。

 

「ひゃんっ!? くすぐったいわよ!」

「う~ん、これって“チョコレート”ね」

「えっ、ほんと? じゃあ私も・・・・・・」

「ちょっと、サニーまで!?」

 

 スターとサニーから舌責めにあう羽目になったルナは、うがーと顔を赤くして二人を払いのけた。

 

「初心ねぇ」

「あなたたちの常識がないのよ! でもチョコレートってアレよね? 里でもめったに手に入らない珍しいお菓子。確か・・・・・・そう、アーモンドってのからできる!」

「ドリアンじゃなかったっけ?」

「やれやれ、常識がないのはどっちやら。ココアに近い味わいでしょう? だからきっとココヤシの実からとれるのよ」

「なるほど!」

 

 勿論違うのだが、生憎とそれを指摘できるものはここには一人もいなかった。

 

「ということは、アレはチョコレートの妖怪? 全然しゃべらないけど」

「さっきも言ったけど生き物の気配は感じないし、どっちかというと人形って感じね」

「アリスさんが使うみたいな? あんまり可愛くないけど」

 

 ずんぐりとした体形に能面のような顔立ち。はっきり言って、異様な雰囲気を醸し出していた。

 

「今大事なのはそんな事じゃないわ。あいつがチョコレートの人形ってことは・・・・・・やっつけちゃえばしばらく、珍しいお菓子が食べ放題ってことよ!」

「「!!」」

 

 スターの言葉に残る二人はハッとし、その視線が黒改めチョコゴーレムを射抜く。

 その視線はまさに獲物に狙いをつけたハンターの如く・・・・・・というにはいささか頼りないものがあったが、それでもやる気を漲らせる。

 

「ふふふ・・・・・・あの妖精大戦争を生き延びた私たちの力があれば――」

「――ええ、百万の妖精に比べればアイツ一匹くらい何とでもなるわね」

 

 サラッと数字を盛りまくっていたが、妖精はいちいちそんなことは気にしない。

 

「私の力は相性が悪そうだし、フォローに徹するわ。頑張ってね」

 

 スターは一人、当然のように安全圏を確保するが、まあご愛嬌。

 かくして別に幻想郷の平和をかける訳でもない、ささやかな一大決戦が開催された。

 

 

 

 ・・・・・・なお、最終的には泥仕合になっていたところを帰ってきた霊夢に見つかり、神社を汚したとして問答無用にまとめて吹き飛ばされた。

 WINNER!! ――博麗霊夢!!

 

 

 本居小鈴は人里の貸本屋――鈴奈庵の娘である。

 うら若い乙女の身ながらその業務もこなしており、本日はその一環として博麗霊夢から返却期間が延長している本を回収するため、長い石階段を上っていた。

 行事の時や年末年始を除けば参拝客が極端に減る寂しい神社であることから、普段は誰ともすれ違ったりしないのだが、この日は珍しく人とすれ違うことになった。

 

「こんにちは」

「あっ、こんにちは」

 

 小鈴とは逆に階段を下りてくる“彼”と目があうと、彼は軽く目を伏せ挨拶してきたので反射的にそう返す。

 その全容を視界に収めるが、珍しい服装だ――というのが小鈴の第一印象だった。

 少なくとも、里の男衆が一般的に見につける服装ではない。

 どちらかというと、外来本にある“ファッション誌”というのに乗っているものが近いという印象を受けた。

 

 このような服装をしているのは多くの場合、妖怪か――外来人だ。

 

(だとしたら、面倒だなぁ・・・・・・)

 

 同時に、少しばかり身構える。

 外の人間は、当然ながら幻想郷の常識がない。

 加えて外では、妖怪の存在はそれこそ幻想のものであると聞く。

 

 なので迷い込んだ外来人は最初は混乱し、場合によっては騒ぎ立てることもある。

 多くの本を扱う上で同年代の女の子よりは多少力をあると自負する小鈴でも、変に詰め寄られればどうなるかわからない。

 そういう意味で警戒したのだったが・・・・・・

 

「もしかして、巫女さんに用事?」

「え? あ、はい。貸しているものの回収に」

「それはご苦労様。でも生憎と、今は出かけているようだよ」

「本当ですか? まいったなぁ・・・・・・すれ違っちゃったかな」

 

 あの空飛ぶ巫女と、ささやかな能力を持ちながらもあくまで一般市民の域を出ない小鈴とでは、機動力が違い過ぎる。

 霊夢が今人里に訪れているのなら戻って言付けをしてしまえばいいが、戻る間に今度は神社に帰ってしまう可能性がある。

 基本、自由過ぎるきらいがある巫女なのだ。

 一番確実なのは、このまま神社に行って霊夢が帰ってくるまで待つということだが――

 

「更に悪いニュースだけど、今神社にはいかない方がいい」

「え?」

「少しばかり妖精が暴れているからね。ささやかな喧騒だけど、身を守る手段がないなら万一はあるから。――半分くらいは、オレのせいだけど」

「なんて命知らずな」

 

 最後に小さく言った言葉はよく聞き取れなかったが、確かに態々首を突っ込む気にもなれない内容だ。

 

 妖精の力なんて妖怪に比べれば大したことはないし、やることも悪戯程度だが、例え子供の悪戯であっても人は死ぬときには死ぬのだ。

 なのでわざわざ、危ない事に関わることはない。

 ――なお、妖魔本が関わっている場合には遠慮なく首を突っ込むので、悪しからず。

 

「仕方ない・・・・・・今日のところは諦めることにします」

「それがいい。“君子危うきに近寄らず”とも言うしね」

「“虎穴に入らずんば虎子を得ず”とも言いますけどね」

「この場合、虎子は何かな?」

「妖精なんて捕まえても、手がかかるだけですもんねぇ。阿求――友達が言うには、大して役にも立たないメイドの真似事をすることもあるそうですけど」

 

 小鈴は回れ右をして、来た道を取って返す。

 必然、人里に向かう道を歩く男性と同じ道筋になる。

 

 チラリと、男性の顔を見る――やはり、覚えのない顔だ。

 人里は決して広くはない――らしい。

 幻想郷生まれ幻想郷育ちの小鈴にとっては、人里以上に人がいるところなど知らないのだが、そうらしい。

 

 里の人間ならばおぼろげながら顔を見た覚えがあるというか、何となく同じコミュニティの人間だなーと感じるものはあるのだ。

 しかしながら目の前の男性には、まったくそういうものを感じなかった。

 

(やっぱり妖怪?)

 

 最初に危惧した、訳も分からず暴れられる――と言うことがなさそうなのは安心だが、妖怪だとしたらそれはそれで怖い。

 なんせ頼れる巫女も魔法使いもおらず、人里でもないこの場では何が起こるかわからないからだ。

 

「えっと・・・・・・」

「オレが珍しい?」

「はい――じゃなくて、ええっと!」

 

 言い渋り、思っていたことをズバリと言われたので反射的に頷いてしまったが、今のはちょっとあからさま過ぎただろうと咄嗟に言いつくろう。

 しかしながら男性はそんな小鈴に様子を見て「ククク」と笑いをかみ殺し、それが小鈴の羞恥心を刺激した。

 

「いや、悪い悪い。別にバカにする気はないんだ。ただ、今ので踏み込んでくる辺り、やっぱり踏み外すだけの素養はあるんだなぁって思ってね――オレはまあ、こっち風には言うなら外来人ってやつだよ。何となく、察しはついていたかもしれないけど」

 

 ――何やら前半、不穏なことを言われた気もしたが、スルーして後半に対して答える。

 

「あっ、やっぱりそうなんですね。でも、その割には霊夢さんのこととか知っているんですね?」

「幻想郷とは多少の縁があってね」

 

 その言葉に小鈴はふと思いついて、尋ねる。

 

「もしかして、ですけど・・・・・・ひょっとして、行き来、できるんですか?」

「うん? まあね」

「うわー、羨ましいなぁ」

「外に行きたいの?」

「と言うより、いろんな本を読みたいです。ウチのはもう、全部読んじゃいましたから――」

 

 唐突にできた道づれと連れそいながら、小鈴は人里への道を進むのだった。

 

 




少し前からちょくちょく書き溜めていた分を、久しぶりに投稿です。
全3話予定。
毎日投稿している人とかすごいなぁと、改めて思います。
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